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「進藤、さっきの話なんだが……」
柳田聖弥はそう言いかけてから進藤由真と同じように窓ガラスに凭れた。
それでも進藤由真のことを見ようとはしなかった。大きな身体を持てあますように身体
を左右にひねっては宙を見据えた。
「結局うちらが残ったんだな……。ところで聖弥、校長のやつどうやって懲らしめるつも
りなんだ?もちろんぼこぼこにするんだろ?」
今となってはふたりの身長差は二〇センチ以上にもなっていた。進藤由真は柳田聖弥を
横目で見上げながらそう訊いた。
柳田聖弥が聞きたがっていることは分かっているつもりだった。
新生C組の自己紹介で自分の真実を隠そうとしたのはなぜだろう。菜月にはあんなに素
直に話すことができたのに、今さら隠すことでもないはずなのに、聖弥にだけはうまく言
えそうにない。いや話したくない。なぜだ……進藤由真はあきらかに動揺していた。
「すまん、言いたくないなら別にいいんだ。それより校長の処分だな。まず野澤菜月の件
はきちんと謝罪してもらう。もちろん全校生徒の前でだ。そのあとは……」
「そのあとは?」
進藤由真は心の中で反芻した。
「なぁ進藤。校長が一番困る事ってなんだと思う?」
さあ?―進藤由真はまるで上の空のように言った。
「おれが思うに、やっぱりいまの職を失う事じゃないのか。何か問題が起こっても、やつ
は最後まで校長という職にしがみつこうとするだろ。だからこそ三年生の自殺はいじめじ
ゃなくて野澤菜月のせいだとか言ったんだよ。つまりやつを校長の座から失墜させること
こそ、暴力よりもはるかに意味があるんだ」
「でもどうやって?どうやってあのずる賢い校長をはめるんだ」
柳田聖弥は宙に放り投げていた目線をはじめて進藤由真に向けて言う。
「べつに立ち入ったことを訊くつもりはない。ただお前の父親の力が必要になる」
「親父だって?」
栗色の瞳を細めて進藤由真は口を固く結んだ。
「ああ、都議会の副議長なんだろ?それも中野区では相当な影響力を持ってるらしい
な」
「まあね。でも親父はある意味校長より始末に負えない悪党だからね。ただじゃ動かない
と思うよ。金もうけになるとか、自分の票集めにつながるとかじゃないと無理だね。い
や、だけど親父をその気にさせる方法がひとつだけある……」
進藤由真はくるりと身体を反転させて窓の桟に両手をつくなり、身体を仰け反らせて伸
びをした。
彼女の胸中はおだやかではなかった。大きなうねりが次々に巻き起こり、心音がバスド
ラムを連打したように全身を激しく打ち付けた。気がどうにかなりそうだった。 うっか
り喋ろうとした自分が信じられなかった。進藤由真の現在、そして未来までを縛り付けて
いる諸悪の根源ともいうべきおぞましい秘密。それはいかなる相手であっても軽々しく話
せることではなかったはずなのに。
「悪いけどいまは言えない。とにかくうちに任せてくれないか」
進藤由真はやっとのことでそう言った。呼吸が乱れているのが自分でも分かった。
小五のあの日以来、柳田聖弥の日常はいじめや心の病を暴くこと、取り除くことに割か
れてきた。そんな彼が進藤由真のもつ心の闇に気づかないはずはなかった。いやむしろ、
進藤由真の苦悩こそ、彼が見てきたどれよりも深奥な闇の中に隠されているような気がし
ていたのだろう。
「分かった。だけど、自分ひとりで抱えるなよ。お前自身がぺしゃんこになってからじゃ
遅いんだ。おれじゃ頼りないだろうけど、気が向いたときに何でも話してくれ」
そう言って進藤由真の横顔を覗き込んだ柳田聖弥は愕然とした。
栗色の髪越しに見えた頬はきれいな曲線をしていた。
校庭の風景を映し込んだ栗色の瞳は巧緻なガラス細工のように透明に輝いていた。
あの日の、いや、あの頃の淡い思いが甦ってくるのを感じて胸がざわついた。たまらず
柳田聖弥は邪念を振り払うように何度もかぶりを振り、意味もなく閑散とした校庭に目を
落とした。誰もいないはずの校庭にふたつの人影が見えた。
どうやら向こうも教室にいるふたりのことに気づいている様子だった。
「進藤、ほら、グラウンドの真ん中にひとがいる。誰だろ?」
はっとしてその方向に目を凝らした進藤由真は、あれ?菜月と純一じゃん―と呟い
た。
ーつづくー
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次の展開が気になります!!!!
菜月と純一は何を・・?
2007/12/28(金) 午後 1:15 [ .\渚/. ]
渚さん、さっそく読んでくれてありがとう☆
2007/12/28(金) 午後 2:37
読んだよ!!ドキドキ〜〜
2007/12/28(金) 午後 5:53
ありがとー☆
これまでの展開覚えててくれたんだねっ
2007/12/28(金) 午後 9:16
覚えてる範囲で読んだけど。。。
良かったよ!!次も気になるょぉ♡
2007/12/31(月) 午前 8:49
ぅちぃありがとうー☆
ストーリー思い出した??
2007/12/31(月) 午後 5:22