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【星の瞬き】近いうちに必ず☆

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「ねえ理江。さっき使った十円玉も取り替えたほうがいいんじゃないの」

 新田尚美は顔をしかめてそう言った。

 少女の右隣りにすとんと腰掛けた宮本理江はやけに使い古した十円玉を取り上げ、憂えるように新田尚

美を見上げる。

「そうだよね。この紙も一回限りで処分するように書いてあるし、きっと替えたほうがいいよね」

 無意識なのか宮本理江は下唇を尖らせてふっと息を吐き、ポニーテールの前髪が揺れた。

 少女には何のことかさっぱり分からず、不安げに図表に目を落としていると、田尻ゆかりが少女の左隣

にある椅子を引いて座ってきた。別に驚かすつもりはなかったのだろうが、あまりにそっと気配もなくや

って来たせいで、その瞬間みんなの顔色が変わったような気がした。

「菜月さん、これは究極の神頼みなんだ。つまり菜月さんの本名をコックリさんに占ってもらうの。名前

さえ分かればあなたの家族や素性を知る重要な手掛かりになるでしょう?」

 宮本理江はいかにもコックリさんを信じているような口ぶりでそう言った。

 この図表は小学六年生になった彼女の弟が、去年の臨海学校のときに同級生から譲り受けたものだっ

た。恐がりな同級生はコックリさんの意味も分からず悪戯好きな兄から占いゲームと言われて、一〇枚つ

まり一〇回分をプレゼントされたらしい。捨てるに捨てられずこの機会にやっかいな図表を処分しようと

したのだろう。実際に弟たちは臨海学校の最後の夜に一度だけ試したそうだが、うまくいかなかったよう

だ。 

「学校でやるのはさっきがはじめてだったんだけど、これまで塾の先輩の家で二回やったの。信じられな

いけど、占いがことごとく当たったんだよ。お告げ通りに忘れ物を探してみたら次々と見つかるし、先輩

の彼氏の名前ばれちゃうし、まさか分かるはずないと思って訊いたんだけど、塾の模擬テストでワースト

だった子の名前と点数まで当たったのには驚いた」

「理江何それ?テストの点だなんて、しかもビリの子が誰かなんてどうやって確認したのよ」
 
 田尻ゆかりは白い頬をまっ赤にして大笑いした。暫時緊張の糸が緩んだような気がした。

「わたしも超びっくりっていうか、まじあり得ないよーって感じ。だって十円玉がすーと動き出してひら

がなの上を何度も移動するんだもん。ところで理江?最後の占いは何て出たんだっけ」

 新田尚美はそう言いながらずるずると椅子を引っぱり少女と向き合うように座った。

「学級委員長がそんな無関心じゃだめだじゃん。ではもうひとりの委員長、占い結果をどうぞ」

「ここで言っちゃっていいものかどうか……柳田聖弥が好きな子なんだけど……あの、進藤由真でした!

マジであり得ないと思ったけど、それがコックリさんのお告げなんだよね」

 みんなの様子を遠巻きに見ていた桑井俊治が怖気を振るうようにぼそりと言った。霊的な雰囲気がどう

も苦手らしく、彼は参加せず廊下で見張りをすると言い出した。 

「進藤さんがどう思うか別にして、あたしはお似合いだと思うよ。菜月さんはどう思う?」

 少女ははっとして田尻ゆかりを見つめた。あのさくらんぼ狩りからずっと心に引っ掛かっていた、あた

しの秘密はあとひとつだから―という進藤由真の言葉。最近やけによそよそしくなり、放課後も速攻で帰

ってしまう彼女の行動と何か関係があるような気がした。

 よく分からないけど、そうなのかな―とだけ言い少女は図表に目を落とした。

「菜月さんはそうやっていつもとぼけるけるんだから。ぜったい何か隠してるでしょ」

 田尻ゆかりは声を荒げた。

「ゆかり、諍いはあとにして。コックリさんが怒り出すよ」

 新田尚美はそうぴしゃりと言って宮本理江に目配せした。

「そうそう、尚美の言う通りだよ。じゃあもう一度確認するよ。コックリさんのこと少しでも疑ったり、

馬鹿にするような真似は絶対しないでね。たたられたって知らないから」

 おそらく畏怖に満ちた宮本理江の眼差しを見た全員が固唾を呑んだ。もちろん誰ひとり異議を唱えるこ

とはしなかった。少女に至ってはこれから自分のことを占うというのに、意見を言う機会さえ与えられな

かった。仮に意見を求められても困惑するだけだったであう。そもそもすでに段取りができている状況で

はまさか怖いから止めようとも言い出せるはずがなかった。

「菜月さんはじめてだろうだから、占いの段取りを説明するね。まずこの十円玉にあたしが人差し指を置

きます。次に菜月さんも同じように置いてください。分かるよね?」

 宮本理江はそう言ってポケットから取り出した十円玉を慎重に赤い鳥居の上に置いた。

「うん。わたしも人差し指でいいんだよね」

 少女は顔の前に立てた自分の人差し指を見つめながら訊いた。

「そう。少し窮屈だけど、尚美とゆかりも同じようにするから。簡単でしょ?」

 少女は顎を引くように頷いた。こんなにも神経質そうな宮本理江を見たことはなかった。それだけこの

占いの儀式には畏怖の念を覚えさせる力があるのだと思った。 

「準備ができたら、いよいよあたしがコックリさんを呼びます。もし来てくれたら、そのしるしに十円玉

が “ はい ”のところに移動します。次にあたしが質問させてくださいって言うから、そうしたら菜月

さんは、わたしの本名を教えて下さいってお願いするのよ」

 え、わたしが?―少女はひどく困惑した。そのコックリさんという霊のような存在に自分が直接話しか

けるとは思ってもみなかった。うまく訊けるだろうか。口籠もって声が出せなかったらどうしようと不安

でいっぱいになった。                

「それじゃあ悪いけど、おれ廊下にいるから」

 桑井俊治はそう言い残し、まず前方の扉を閉めに行き、すぐさま逃げるように後方の出入り口に向かい

廊下に出て後ろ手にそっと扉を閉めた。

 心なしか教室が薄暗くなったような気がした。さすがに室内の蛍光灯が消してあったとはいえ、陽はま

だ高く、いつもなら眩しい斜光が校舎を照りつけている時間帯だった。少女は不思議そうに窓に目をやっ

た。するとさっきまでの澄んだ空色は手が届きそうなくらい低く立ちこめた鉛灰色の乱層雲に覆い隠され

ていた。体育館が見える後方の窓ガラスだけが開いていた。少女が不安げに見ていると、そこがコックリ

さんの通り道になるのだと宮本理江が説明してくれた。

「コックリさん、コックリさん。いらっしゃいましたらどうぞこちらへおいで下さい」

 宮本理江は同じリズムで繰り返し三度ほどそう言った。

 彼女の言葉には厳かで畏敬に満ちた響きがあった。ちょうど夏休みの夜の公園や、小六の修学旅行先の

宿で話した怖い話の語り口のような、まさにそんな感じだった。

 鳥居の上に置いた十円玉には四人の人差し指が乗っている。田尻ゆかりの指先が小刻みに震えていた。

少女はただ懸命に何が起こってもぜったい指を離さないことだけに意識を集中していた。途中で指を離し

たものは呪い死ぬと聞かされていたからだ。宮本理江は霊の気配を窺っていた。きっとコックリさんは来

てくれるだろうと信じ、その瞬間だけに神経を研ぎ澄ませていたのだ。だが新田尚美だけは別の思いがあ

った。少女の名前が分かった後にもう一つの質問を用意してしたのだ。少年、つまり野澤純一は誰が好き

なのか―である。

 校舎全体が静謐な空気に呑み込まれたように静まり返っていた。いつもなら野球部員たちの呼号や金属

バットの甲高い音などが校舎の中にまで反響してくるはずなのに、この日に限って野球部は練習試合のた

めに留守だった。

 誰もが息を殺してコックリさんの降霊を待っているところに、カタカタ、カタカタと堅いものが当たる

ような音が外で鳴り、しまいに突風に煽られたのか、何か大きな物が倒れる音とともにカランカランカラ

ン!と巨大な金属製の筒が転がるような音が響いた。

 とっさに新田尚美が窓の方を振り返り、ほかの三人も続いた。しかしその場所からでは校庭の様子を見

ることはできなかった。

「来た!」

 そう唐突に声を上げた宮本理江は目に見えない大きな掌で机に押さえつけられているような圧力を感

じ、ほかの三人は氷柱の杭を打ち込まれたように全身が凍り付いた。

 ついいましがたコックリさんをやったばかりの新田尚美はある異変に気づいていた。それは十円玉に置

いた指先に感じる得体の知れないエネルギーだった。指先の接点は火を噴くくらいに熱を帯び、すぐにで

も異次元の彼方まで連れて行かれるのではないかとさえ思った。全身が総毛立ち、焦点が定まらずに目が

宙を泳いだ新田尚美を気遣うように宮本理江は言う。

「尚美大丈夫?尚美は気づいたみたいだけど、今回の霊はヤバイかも。もの凄い霊気を感じるんだ」

 どこか嬉しそうにそう話す宮本理江を見た少女はショックで心臓が飛び出しそうになった。彼女の顔は

まさしく狐の形相をしていたのだ。まるで狐の霊が憑依したかのように。

「コックリさん、コックリさん、いらっしゃいましたら “ はい ”へお進み下さい」

 すると四人の指を乗せた十円玉は目にも留まらぬ速さでまるで宙を飛ぶように動いた。それ自体が意思

を持った、あるいは恐ろしく強靱な力に操られたかのように、十円玉は “ はい ”の文字上にとどまっ

てはいるが、すぐにでも動き出したいとうずうずしているようだ。

「コックリさん、コックリさん、教えてください。お願いします、教えてください」

 少女は自分が質問をするという約束事を忘れ、すっかり狐顔になった宮本理江の呪文を唱えるような口

許を見入っていた。相変わらず新田尚美の視線は落ちつきなく方々をさまよい続け、田尻ゆかりは想像を

絶する恐怖に心臓を鷲づかみされたようで生気を失いつつあった。

                                       最終話へつづく
 指先でくるくる鉛筆を回しては小さく溜息をつき、今度は開け放たれた窓外に浮かんだ初夏の入道雲に

目をやる。その繰り返し。それでも少女の憂鬱な気分は解消されなかった。
 
 六時間目の授業は国語だった。坂井教諭は来週に迫った学力テストに備え、漢字の書き取りにほとんど

の時間を割いていた。もとから少女は暗記が得意だった。一度覚えたものはすべて、たとえば漢字や英単

語、あるいは歴史上の出来事や年号、そして数学や理科に出てくる数式などを記憶の引き出しから自由自

在に出し入れすることができたのだ。ところがこの二週間というもの少女は勉強に集中できなくなってい

た。あれほどむさぼるように吸収し記憶していた知識や経験という情報を大脳が受け付けなくなっていた

のだ。それは読み書きしたばかりの言葉の羅列が頭の中で勝手に文字化けしてしまうようなある種の気持

ち悪さをともない、少女は何度も吐き気を覚えた。いまにして思えばこれらの異変はあのさくらんぼ狩り

のすぐ後ぐらいから始まっていたのだ。記憶のないまっさらの状態から少しずつ構築してきた自我という

形が足下から音をたてて崩れていくような恐怖を感じ、少女はもっとも自分を理解してくれている進藤由

真に相談したことがあった。

「菜月それはヤバイよ。お前があまりに気にしていたから、霊が憑いたんじゃないのか」

 進藤由真の表情に冗談を言っているような雰囲気は微塵もなかった。

「霊って、まさかあの父娘のことを言ってるの?」  

「そうさ、だってほかに説明がつかないじゃないか」

 でも……と言ったきり少女は口籠もった。

 たしかに帰りの新幹線で通路に立つ霊のような人影を見たと言ったのは少女だった。のざわ農園近くで

道に迷ったとき、あの不思議な老人の背後に強い気配を感じたのも、おそらく少女だけだった。それでも

少女は霊を信じてはいなかった。少女にとって霊とは夢や妄想の中でじっと息をひそめている陰のような

存在であり、ふと何かのきっかけで、ちょうど既視感を覚えるような感覚で想起される幻覚の一種だと思

っていたからだ。

 終了を告げるチャイムの音が鳴り、少女は救われたような気がした。坂井教諭が退室するやいなや少女

は机に伏して目を固く閉じた。悶々とした仄白い空間にうごめく人影が見えていた。正確に言うなら人か

どうかも分からない曖昧な輪郭をした生き物のようだった。

「菜月ちゃん。どうかしたの?」
 
 ゆっくり頭をもたげると田尻ゆかりが立っていた。少女は夢のような気分でふわっとした笑みを浮かべ

て彼女を見つめ返した。

 あの教室籠城騒動からすぐ、週に一度朝のホームルームを使って記憶の想起をテーマにした討論会をし

ようと提案したのは田尻ゆかりだった。すでに彼女は学級委員長の新田尚美と話し合い内容を詰めてい

た。もちろん桑井俊治も乗り気になり、担任の伊藤を説き伏せた。討論会は全部で三度ほど行われたが、

時間も限られていたこともあり健忘の種類や記憶を取り戻した事例を二件報告しただけで終わった。少女

の記憶想起という突っこんだ内容までは至らなかったのだ。討論の最中、進藤由真はいっさい意見を出し

てこなかった。C組の影のリーダーである柳田聖弥でさえも。

「ううん。大丈夫、ちょっと眠くなっただけだから」

 応える代わりに口許をほころばせて田尻ゆかりは振り向いた。

 少女もつられたようにその方向に目をやると宮本理江と新田尚美が仲良く並んで何やら紙を広げてい

る。その肩越しに桑井俊治が腕を組み覗き込んでいた。

「菜月。うち、用事あるから先に帰るぞ」

 進藤由真は少女の肩をぽんと叩きそそくさと教室を出て行く。 

 ここ数日はこんな調子だった。遊びに行くふうでもなく、たとえば塾とか習い事などに行きだしたわけ

でもなさそうだ。少女が尋ねても家の用事と言ってかわされてしまうのだ。

「進藤さん変わったね。入学した当時の不良ぽい突っ張ったところがすっかり無くなったばかりか、あれ

ほど菜月ちゃんにべったりだったのに、今じゃまるで感心がないように見えるよもんね」

 田尻ゆかりは後部扉に目をやったがすでに進藤由真の姿はなく、まるで寝起きのようにぼんやりしてい

る少女を見下ろして、菜月さんもそうよ―と素っ気なく言った。

 すぐに自分がそう言われたことに気づかず、僅かな沈黙のあと、少女は田尻ゆかりを見上げてかすかに

首を傾げた。

「菜月さん前から取っつきにくいっていうか、おとなしいキャラだったけど、授業中なんか頭脳明晰です

ごく聡明な印象があったじゃない。だからクラスの誰もが記憶喪失だなんて思ってもみなかった。それが

みんなに知れた途端、本当に記憶が無くなっちゃったみたいに、いつもどこか物思いに耽ってるでしょ。

授業中、先生にあてられてもすぐに答えられなかったりするものだから、記憶喪失が進行したんじゃない

かってみんなが噂してる」

 少女は何と言っていいのか分からなかった。自分のことなのにうまく説明することができないもどかし

さのせいで唇を噛んだ。

「あたしね、結構マジで調べたんだ。どの専門書を読んでも全生活史健忘って不治の病じゃないって書い

てあった。たとえばそう、何か一つの事柄さえ思い出せれば大脳に眠っていた記憶が徐々に想起されるん

だって。つまり記憶は削除されたわけじゃなくて、閉じたままの引き出しに仕舞ってあるだけなんだよ。

ただね、どうしても思い出したくない記憶があったりすると、そこの回路が断線して記憶が連鎖されずに

滞ってしまうみたい」

 田尻ゆかりの話はカウンセラーから聞かされた内容に等しいものだった。その場合、自我が無意識のう

ちにひた隠しする記憶を呼び起こす催眠療法という方法があるとも聞いていた。ただ少女のように人生経

験も浅く、まだ幼い患者の場合は、想起された記憶の重さに堪えきれずに代償として精神障害を引き起こ

す危険があるとも言われていた。それゆえ多賀子も躊躇し、もう少し普段通りの生活をさせて様子を見よ

うということになった。

「わたしも先生から聞いたことがある。でも田尻さん、本当によく知ってるんだね」

 田尻ゆかりははにかむような少女の笑顔に思わず引き込まれそうになり息を呑んだ。

「どうかしたの?」

「ううん、ごめんね。菜月さんさえよければ、うちらちょっと試してみたいことがあるんだけど、協力し

てもらえるかな?うまくいけば失った記憶を取り戻せるかも知れないし」

 そう言いながらも田尻ゆかりは少女を見ていなかった。新田尚美たちが気になるらしく、落ち尽きなく

背後に目をやり何かを待っている様子だ。

「理江まだ?本当にうまくいくんだよね。菜月さんに話しちゃうからね」
 
 焦れたように田尻ゆかりが声を掛けたとき三人がいっせいに喚声を上げた。

 桑井俊治がすんげえーと大袈裟な声を上げ、新田尚美が信じられなーい!と続き、宮本理江はあたしや

っぽり霊感強いかも―と自画自賛してはしゃいでみせた。

 少女はわけが分からず不安げに田尻ゆかりの口許を見つめた。

「ねえ菜月さん、コックリさんっていう占い知ってる?」

 少女は刹那目線を宙に泳がせたあと、訝るようにかぶりを振った。その言葉にはどことなく霊的な意味

が含まれているような気がした。背中に悪寒がしたが精一杯の微笑をつくって我慢した。

 最後列のちょうど真ん中あたり、宮本理江が使っている机の前に少女は座らされた。

 机上にはB四判くらいの印刷された紙が置かれ、少女は一目見るなり今しがた田尻ゆかりから聞いた占

いに使うものだと分かった。まず目を引くのが中央上部に鎮座する赤い鳥居の絵だった。その右側には

男、はい、と書かれ、左側にはその対語である女、いいえと書いてある。その下には中学生にもなり滅多

に見ることもなくなったひらがなの五十音図がびっしり書かれ、その下には〇から九までの漢数字が並ん

でいた。
                                        第二話へつづく

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       「ジュンちゃん!面倒だからみんなまとめて連れて来たよ!」
 
        ヤマンバ綾美は何度も飛び跳ねながら満面に笑みを浮かべていた。

       「全然分からなかったよ!しかし見事なメイクだね、綾美ちゃん」
 
        イェーイ!綾美はど派手なネイルチップでダブルピースを連発した。

       「いったい何人いるの?まさかみんな綾美ちゃんの友だち?」 
 
        女の子をひとりずつ指差して数えはじめた俺は早々にあきらめる。

       「うーん。だいたいそうだよ。でもあんまし知らない子もいる。正確な人数はよく分かん

       ないけど、40人以上はいるんじゃない。ねえ?これでジュンちゃんとの約束はたせた、で

       しょ?」
 
        綾美はさっと俺に寄り添い、真っ黒に縁取りされた目を大きく見開いて俺を見つめた。

        ヤマンバ軍団の白い眼差しが俺たちに集中しているのがわかっていたが、俺はヘビに睨

       まれた蛙のようにどうすることもできなかった。相変わらず綾美の瞳からは恋するお姫さ

       まのように際限なく星の結晶が飛び散っていた。

       「綾美ラブラブ!イェーイ!ヒューヒュー!」
 
        一斉に同じフレーズをハモりながら女子高生たちは大歓声を上げた。

        俺は恥ずかしさのあまり心臓が破裂しそうなくらい暴れだし、思わず倒れそうになる。

        まるでJR渋谷駅南口構内が男子禁制区域に指定されてしまったかのように、ここは渋谷

       女子学院の花咲く青春のキャンパスだった。すべてが桃色一色に染まって見えた。

        一路インタープロへと向かう俺たちは、どの角度から見ても滑稽な集団として映ったこ

       とだろう。俺と綾美を先頭に、制服組から渋谷系、そしてヤマンバまで総勢40数名にも及

       ぶ女子高生の群れがつづいていた。目の色変えてナンパを仕掛けてくる渋谷系の男どもの

       姿もちらほら。この分だと何人が無事インタープロまでたどり着くことができるのかと俺

       は不安でしょうがなかった。そんな俺の横顔を見て察したのか、列が少しでも乱れると、

       綾美の罵声が飛んだ。

       「すいません専務。突然なんですが、今から45人近くの女子高生を連れていきますので、

       面接の準備をお願いします」

        俺の興奮した様子がケイタイを通じて石井専務にもはっきり伝わったことだろう。

       「なに!45人だって?よし!分かった」

        残暑の斜陽が樹木の光合成を促して空気の浄化作用が急速に進む時間帯。夕暮れ直前の

       木洩れ日は目に痛いほど刺激的だった。郵便局を曲がるとほどなくして12階建の雑居ビル

       が見えてきた。俺たち一行は30分もの時間を費やしてようやく事務所に到着した。
 
        するとどうだろう。さっそく40数名の女子高生たちはまるで窓ガラスに張り付いたヤモ

       リの大群のように事務所の様子を興味深く覗き見しながら、口々に勝手なお喋りをはじめ

       た。

       「なんか蒸し暑いしー超疲れたしー綾美!芸能事務所だったらもっと駅の近くに作るよう

       に交渉するー」

       「そもそも南口なんてダサくない?」

       「へえー。ガラス張りのオフィスなんて結構お洒落じゃん!さすがプロダクションってと

       こかな。ヤバっ!それって褒めすぎ」

       「なーんだ。もっと大きなビルだと思っていたのにマンションのワンフロアーだけ?」

       「あんまし大したことないじゃん」

       「あたしさーこないだ友だちとモリプロの事務所に行ったけどー、たしか30階建ビルの最

       上階だったよー!超差つくー」

       「まあこんなもんじゃん!綾美、どうでもいいから早くはいろっ!」

       「綾美ちゃん、少しだけみんなを待たせておいてくれる?一度に全員じゃとても入りきれ

       ないから、うちの専務と面接の段取りを打ち合わせてくるよ」
 
        そうは言ったものの、少女たちをこれ以上待たせては女子高生大ブーイング大会がはじ

       まりそうだ。大急ぎで登録手続を済ませないと面倒なことになるぞ。もし元チーマーコン

       ビが女子大生軍団を連れて来ていたとしたら?俺は事務所が天手古舞いになってないか心

       配だった。

       「本当だったのかジュン!しかしよくこれだけの女の子を連れて来たな」
 
        いつものようにデジカメで女の子の顔写真を撮影していた石井専務が、俺を見るなり驚

       きの声を上げた。
 
        どうやらパニックだけはまぬがれそうだ。高橋たちが連れて来た女子大生は5人だっ

       た。目を点にしてゴムでぶら下げたような顔で高橋がだらしなく口を開けていた。

       「ジュンさん、いったいどこの学校をスカウトしたんすか」
 
        すっかり高慢な鼻をへし折られた山田が恐れ入った様子で訊いてくる。

        多勢に無勢ではないが、高橋と山田がいくら本気でスカウトをしたところで、この45名

       近くの女子高生にはぜったい敵うまいと思ったものだ。
 
        口が達者な割にはみんな素直な?少女だったお陰で、登録手続きはじつにスムーズに進

       んだ。俺は持田みどりと組んで4名を同時に面接した。それにしても石井専務はすっかり

       デジタルカメラマンぶりが板についたようで、両腕でホールドしたデジカメの脇からやさ

       しい目線を送りながら、俺が舌を巻くほどの話術を駆使して彼女たちの表情を引きだして

       いた。

        最大の懸念であった登録料は、綾美の顔を立てるために一律で5千円に設定した。これ

       にはシビアな黒い眼鏡、大谷社長も目を瞑ってくれたそうだ。

        事務所からまたみんなを連れて駅に戻る道すがら、俺は大きな仕事を達成したという満

       足感に浸っていた。しかしよくよく考えてみれば、これはすべて綾美のおかげなのだっ

       た。俺があらためて礼を言おうとして、大人しそうに隣を歩いている綾美に微笑みかけた

       ときケイタイが鳴り出した。慌ててフリップを開くなりワン切りされてしまった。

       「そうそう。ジュンちゃん、さっき新しいケイタイに替えたんだ。今の着信が新しい番号

       だから。いつでもいいよ。アヤミを遊びに誘ってね。ねえ、わかってる?」
 
        俺が呆然とケイタイ画面を見つめていると、綾美は父親におねだりする甘えん坊の子供

       みたいに俺の身体を揺すぶった。

        俺は何度も頷きながら苦笑いを浮かべるしかなかった。どうやら俺はこの可愛いフェイ

       スにますます懐かれてしまったらしい。

                                          ーつづくー

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        JR恵比寿駅周辺はもともとアダルトな街という印象があったが、さすがに渋谷のよう

       なティーンの女の子たちは皆無だった。しかも街中を行き交う人の流れはどこか優雅で、

       トレンド系のファッションを着こなした大人の女性たちが、9月のぬるい風を切って気持

       ちよさそうに歩いている。

        めずらしく俺は恵比寿に来ていた。石井専務から劇団映優の研究生をスカウトするよう

       に指示されたのだ。いつもは渋谷を拠点に展開する俺にとってこの場所はまったく未知の

       ゾーンに等しい。研究生を探せと言われても、まさか全員が劇団のロゴを身につけている

       はずもなく……。

        俺は駅前ロータリーから劇団映優までの区間を何度も歩き廻りながら、理想の美人研究

       生らしき女の子を物色していた。

        するとかれこれ1時間は過ぎただろうか。ふいに美白系でショートボブのよく似合う女

       の子がひとりで劇団映優のある方向へ歩いていくのが見えた。

        俺は間髪入れずにダッシュで追いかけた。とにかく彼女の顔を見てみたいと思ったから

       だ。ところが先回りした俺が彼女の正面に廻り込もうとしたとき、偶然急発進したタクシ

       ーが俺の身体をかすめていった。

       「危ないじゃないか!」

        俺はよろめきながら、超かっこ悪い形でターゲットの前に登場するはめになった。

       「だいじょうぶですか?」

        思いもよらずターゲットの女の子に声を掛けられてたじろいだ。

        「あっどうも、ありがとう」

        よく見ると素直な顔立ちに切れ長の二重瞼が魅力的な女の子だった。俺の中で疑問符が

       確信へと変わった。

       「あのー、ところできみは劇団映優の研究生ですか?」

       「え?……は、はい。そうですけど、何か」
 
        予想だにしなかったことを訊かれたせいだろうか。やさしそうだった女の子の表情が急

       変した。恐々俺を見上げる切れ長の眼差しには警戒の色が強く表れている。
 
        言葉がうまくつづかなかった。確かに俺がスカウトした子のほとんどが渋谷系少女で、

       こんなに清楚な美人系は初めてに等しかった。どうしよう、焦点が合わない―すぐに俺の

       中の臆病虫が顔を出してしまう。かんばれ自分!と心の中で叫んだ。

       「つまり、そのう、よかったら今度うちの事務所へ遊びにきませんか?きっと女優になる

       近道だと思いますよ」

       「それはどういう意味ですか?」

       「いきなりですいません。おれは芸能プロでスカウトをしています」
 
        俺は慎重に名刺を差し出した。こんなに緊張したのは久しぶりだった。

       「インタープロ?ですか……」

       「はい、そうです。たぶん知らない社名だと思います。まだ新しい会社ですから」

       「そうですか……」
 
        美白系の女の子は微苦笑を浮かべながら、俺の名刺を注意深く眺めた。
  
        それにしても短く切り揃えられたピンク色の爪と白魚のような指先には驚かされたが。
 
        そのあとは我慢くらべのようなものだった。彼女は過去に風俗誌専門のスカウトマンに

       騙されて相当嫌な思いをしたらしいのだ。どんなに誠意を持って口説いてみても、彼女の

       堅いガードは容易に崩せそうになかった。もっともインタープロに入ったとして、映画や

       テレビドラマの仕事が確実にできるという保証はないのだ。やはりアイドル五人姫の話を

       するのが手っ取り早いだろう。しかしリョウさんの描くアイドルのイメージとは少しキャ

       ラが違うような気もするが……。

        俺が逡巡しているうちに交渉はタイムリミットになってしまった。劇団の稽古に間に合

       わなくなるというのが理由だった。名前と携帯番号を聞き出せただけでも収穫か。

        俺はほかの研究生を捜すために駅前のターミナルまで戻った。ふとケイタイに目をやる

       と待受け画面が夕方5時15分を表示していた。
 
 

        扉が開くやいなや、山手線車両から飛び出した俺は南口に出る階段を跳ぶように下りて

       いった。下り階段の3段跳びだったらオリンピック候補?にもなれそうな気がした。

        人混みも何のその、そのままの勢いで最終コーナーを曲がり終えた俺は、JR渋谷駅南

       口の自動改札機も難なく飛び越えた。おっと切符を入れなくちゃ!そのとき疑いの眼差し

       をよこした駅員と視線が合い、俺は涼しい顔で切符を通し、その駅員に向かって何気なく

       会釈を返す。

        綾美と待ち合わせた時間からはすでに20分以上が過ぎていた。とにかく俺は綾美を捜し

       て構内を見渡した。

        ん?何か変だぞ―すぐに俺はいつもと違う空気に気づいた。

        南口改札周辺には修学旅行生らしき、お揃いの制服を着た女子高生が大集合していた。

       しかもよく見ると女子高生たちの群れの中心には、渋谷系カリスマファッションにヤマン

       バメイクできめた厚底サンダル集団が控えているのだ。その様子に俺はすっかり気圧され

       てしまい、綾美との約束もそっちのけで彼女たちを興味深く観察していた。

        するとどうだろう。ヤマンバ娘たちの中のひとりがこっちに向かってしきりに手を振っ

       ているではないか。しまいにその子は俺に向けて派手なピースサインを送りはじめた。

        まさかあの子は……綾美……?

                                          ―つづく―

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       「菜月ちゃん。進藤さんたちも気づいてくれたみたいだよ」
 
        少年がそう言うと、少女はあらためて校舎の二階にある、本来ならば自分がいるべき辺

       りを見上げて目を凝らした。
 
        すると梅雨空の継ぎ目がほつれたように微かな薄日が校庭に差した。
 
        少女は額に手をあてがい眩しそうに黒い瞳を細めながら頷いた。

       「ほんとだね。進藤さん、こっちを見てる。まだ校長先生は来てないのかな」    
 
        おーい!そこにいる野澤家のふたり!純一くーん!菜月さーん!
 
        校庭の真ん中にいるふたりには一瞬何が起きたのか分からなかった。
 
        少年は慌てて声のする方に振り向いた。
   
       「え!どうしてみんないるのー!」

        少年の素っ頓狂な声に少女も振り返った。

        弥生中学は校庭から校舎を見るとちょうど左後方に体育館がある。その陰に隠れていた

       生徒たちが一斉に体育館の脇から飛び出してきた。みな1年C組の生徒だった。

        先頭を走ってくるのはとっくに母親と帰宅したはずの桑井俊治だった。彼は何度も転び

       そうになりながら、息を切らし、懸命に走っていた。すぐ後ろには抜きつ抜かれつ新田尚

       美と田尻ゆかりが競争するように続いた。宮本理江は進藤由真の取り巻きだった女子生徒

       の手を引いてふたりを追いかけていた。ちょうど末広がりのようにC組の生徒全員が連な

       っていた。列の中央には仲良く手を繋いだ村野智也と長山遥香の姿もあった。あのファミ

       レス会議のあとぐらいから、ふたりは付き合うようになっていたのだ。

       「菜月さん。さっきのことみんなに話したけど、いいよね?」
 
        よほどかけっこが堪えたのか、身体をかがめて背中で息をしている桑井俊治の後ろから

       新田尚美が快闊に言った。
 
        少女は頷くかわりに黒い瞳を輝かせて微笑んだ。
 
        何気に不満そうな少年を見るなり、田尻ゆかりはそっと近づいていった。

       「何よー文句あるの?うちら仲間じゃない」

        田尻ゆかりはそう言って嬉々と笑った。さっきの涙のあとは微塵もなかった。
 
        ようやく頭をもたげた桑井俊治が両手で少年の手を力強く握って言う。

       「野澤くん。新生C組と、生まれ変わった桑井俊治をよろしく」
 
        いつの間にか少年と少女を囲んでみんなの輪ができていた。
 
        少年はその言葉の意味が呑み込めずにみんなの顔を見回した。
 
        純一くん、今さら何とぼけてんの?うちらみんな生まれ変わったんじゃなかったっけ?

        そうだよ、菜月さんをひとりじめにするなんてずるいよー。そうそう、菜月さんはみん

        なのものだよ。ひとりだけ乗り遅れたひとがいまーす。あはははは―あはははは―

        みんなの大きな笑い声とともに少年の身体は輪の外に追いやられてしまった。
 
        少女は息をつくこともできないほどみんなに囲まれ、ひとり恥ずかしそうに俯いた。
 
        両手を腰に手をあてがえた新田尚美が少女の前に一歩近づいた。

       「うちら全員が秘密を知っちゃったんだから、いまさら手をこまねいて純一くんや進藤さ

       んだけに任せておくわけにはいかないよ。菜月さんの記憶探しは新生一年C組のテーマな

       んだからね。約束するよ。みんなで協力するって」
 
        少女は新田尚美の顔を眩しそうに見つめた。

       「うん、ありがとう新田さん」

        少女は頬を赤らめてかすかに微笑んだ。
 
        頼りない少女の笑顔を見ただけでみんなの心は和んでいった。ひとりひとりの心に自然

       とひとを思いやる気持ちが芽生えてくるような気がした。少女の微笑にはそんな不思議な

       力があった。
 
        菜月の笑顔に胸キュン!うしろの方で男子が声を上げた。
 
        おれも!ぼくも!俺だって負けないぞ!

        菜月さんに手を出したら許さないわよー!

        こぞって我こそは少女のファンだと言い出した男子たちに向かって、女子生徒たちが喚

       声を上げた。

       「っていうことで、菜月さんよろしくね」
 
        そう言ったあとで新田尚美は、でも純一くんは渡さないから―と少女だけに聞こえるよ

       うに囁いた。



       「外は何かすごいことになってるね。あいつらみんな帰らなかったんだ」
 
        進藤由真は窓の桟に肘をついて、校庭の真ん中で大騒ぎする同級生たちの輪を嬉しそう

       に見下ろしていた。

       「ああ。でも桑井のやつ、どうやってママを説得したんだろうな。おれには想像つかねぇ

       よ。なぁ進藤、クラス中の気持ちがひとつになっただけでも今回の籠城は成功だったんじ

       ゃないのか」
 
        成功だって?まだこれからじゃないのか―その言葉を呑み込んだ進藤由真は横目で柳田

       聖弥を見やった。
 
        窓辺にもたれた柳田聖弥は両手をポケットに突っ込んで微苦笑を浮かべていた。
 
        進藤由真はこれまで何があっても強気に振る舞っていた柳田聖弥が急に漏らした、ひと

       に諂うような言葉がひどく心に引っ掛かった。
 
        柳田聖弥は何かを攻撃することで心の平衡を取っていたのだ。それはもちろん彼自身に

       とって無意識のことだった。幼児期に母親から虐待をうけたトラウマなのかもしれない。

       彼にとって心の平衡とは常に不安定な状態を意味していた。つまりはじめから安定してい

       る状態がもっとも不安になるのだ。
 
        それがいつからか、バランスを崩し始めていた。心が静まり気持ちが落ち着くことをよ

       しと感じるようになっていた。いつからだろうか。それは彼自身にも分かっていた。あの

       ファミレス会議のとき、進藤由真と対峙した日からだった。
 
        そう、柳田聖弥は進藤由真というひとりの同級生に惹かれていたのだ。
 
       「たしかにそうかもしれないね……」

        校庭を見下ろしたまま進藤由真は左頬に笑窪をこしらえた。
 
        梅雨雲が風に流される度に薄日が差したり消えたり、まるで校庭全体がゆっくり明滅し

       ているようだった。お揃いのブレザーを着た人だかりが、まるで巨大な生き物の黒目のよ

       うに気まぐれに表情を変えていた。その黒目の中心にもっとも強い力を感じて進藤由真は

       はっとした。何ものかが自分に語りかけているような気がした。ふと彼女の脳裏に病室

       で聞いた少女の言葉がよぎった。

        わたしは飛べるような気がしたの。おかあさんのいるところまで飛んでいけるような気

       がしたの― 。
 
        あの時、記憶をなくしていた少女がとった行動の真意までは分かりようがなかった。そ

       れでもあの時、進藤由真は直感的に少女と自分がどこかで繋がっているような気がしたの

       だ。消えてしまった両親の記憶。そしてけっしてひとりでは抗うことのできない運命のう

       ねり。少女と一緒ならきっと立ち向かって行けるような気がした。あきらめていた自分の

       未来、定められていたはずの将来を変えられるような気がした。あたしは後悔なんかした

       くないから―進藤由真はそう信じて少女に近づいた。その気持ちは何よりも代えがたい友

       情になった。
 
        進藤さーん!柳田くーん!頼んだよー!うちらの分まで頑張ってよー!
 
        窓ガラスを通して届いたみんなの声に、ふたりははっとして刹那目線を交わした。
 
        目を凝らした眼下には大きく手を振る同級生たちの笑顔があった。校舎の二階と校庭と

       いう距離こそあったが、みんなの表情が手に取るように分かるような気がした。

       「柳田。待たせてすまなかったな」
 
        唐突に井田先生の声が背後から聞こえた。

                                          ―つづく―

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