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陸上競技トピックス

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 「瀬古、お前もか」

 やむを得なかっただろう、ことは十分に理解できる――。しかし、マラソン・長距離ファンにとっては、何だか複雑な気分でもある。

 3月末で廃部が決定しているヱスビー食品陸上部。かつての日本男子マラソンのスーパースターで、“長距離界の顔”とも言える瀬古利彦氏が率いるチームが、DeNAへ移籍することが決まった。DeNAは1月10日、陸上チームを新たに設け、瀬古氏を総監督に起用、ヱスビー陸上部の選手を受け入れると発表した。

■ 企業スポーツは縮小の一途

 「本当に、本当に、本当に感謝している」

 10日、東京・渋谷の渋谷ヒカリエで会見した瀬古氏は、みずからのチームを受け入れてくれたDeNAに、惜しみない感謝を示した。それも当然だろう。長引く経済低迷で、企業スポーツは縮小の一途。本業の支えにならない競技から、順番に撤退していく流れは止まっていない。

 「過酷だが地味」な陸上競技は、切り捨ての対象になりやすい。奇しくも同日、四国電力が3月末で陸上部を廃止すると発表したほどだ。
 瀬古氏のチームは、「箱根駅伝」で活躍した大学長距離界のスーパースターだった上野裕一郎選手(中央大学卒)や竹澤健介選手(早稲田大学卒)などを擁する有力チームながら、このご時世に受け入れ先を探すのは大変だったに違いない。

 そして、瀬古氏は受け入れ先を確保するために、重大な方針転換をしたように見える。みずからのチームであるヱスビー食品陸上部としては、控えてきた駅伝への参入である。

■ ニューイヤー駅伝で優勝を目指す

 「春田(真・DeNA)会長からは『駅伝は3年以内に優勝できますか? 』と聞かれました。『はい』と答えるしかない」。瀬古氏は今回の舞台裏をこう明かした。DeNAが瀬古氏に望んでいるのは、箱根駅伝と並ぶ正月恒例の「ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)での優勝」「五輪(オリンピック)でのメダル獲得」などだという。

 このうち、駅伝はDeNAが企業イメージを向上させるために特に有効だ。抜きつ抜かれつの混戦、ごぼう抜きの大逆転、区間新の快走――。元旦の朝から5時間あまりにわたって全国のテレビを通じて生中継されるニューイヤー駅伝は、実況で企業名が連呼され、絶好のPR機会となる。

 「私自身、駅伝は大好きなスポーツです。企業運営にも数多く通じるところがある」。DeNAの守安功社長も、会見でそう語った。DeNAがどこまでPR効果を狙っているかは分からないが、企業が従業員として選手を雇う実業団は近年、駅伝を最も重視している。


 一方、駅伝の解説に必ず登場する瀬古氏だが、ヱスビー食品陸上部の指揮官としては駅伝から距離を置いていた。「五輪(オリンピック)や世界選手権のトラックレースやマラソン(42.195km)で世界と戦う選手を育成することに集中するためだった」と、瀬古氏をよく知る陸上競技関係者は明かす。

 かつて日本のお家芸と呼ばれた男子マラソンだが、近年の世界大会では、海外勢に歯が立たないでいた。この遠因が、複数区間をたすきでつなぐレースである、駅伝にあると批判されることがある。

■ “非”実業団ランナーがマラソンで台頭

 たとえば、駅伝への強い取り組みはマラソン選手を強くするという観点からみると有効ではない。

 駅伝は最も長い区間でも1人20km前後。スピードを重視するなど、42.195kmを走るマラソンとは練習の質が違う。マラソンの体をつくるのには一流選手でも3カ月かかるとも言われ、駅伝を重視すればするほど、マラソンに集中した練習をするのが難しくなる。

 全国大会だけでなく、地区予選会も気が抜けない。強豪チームになると1人年間2000万円かかるともいわれる強化費を捻出している関係から、「サポーターである自社従業員の支持を得るためにも、駅伝で好成績を残さなければならないというプレッシャーが強い」とある選手は打ち明ける。

 ロンドン五輪の男子マラソン代表に選ばれた藤原新選手や、代表候補に上った市民ランナーの星、川内優輝選手が、駅伝を重視する実業団には属さないスタイルで、マラソンで頭角を表したのは、こうした流れを象徴している。
 DeNAの受け入れ条件として、駅伝への参入が必須だったかどうかはわからない。しかし、このご時世で新たに陸上チームを新設しようとする企業は、かなり少数派だろう。春田会長や守安社長の駅伝への強い関心を、瀬古氏がはねのけてまで交渉が成立できたか、といえば微妙だ。つまり、瀬古氏としては、背に腹は代えられなかったということかもしれない。

 それでも、名門・ヱスビー陸上部の行き先があってよかった。駅伝ファンとして、これはこれで面白くはなる。

 ただ、大学長距離界が傾注する箱根駅伝も含めて、そもそも駅伝は日本独自の競技だ。世界の強豪は恵まれた体格を持つうえ、マラソン専用の練習を積んでいる。一方で、駅伝にこだわり、制約を受ける日本のスタイルは世界トップアスリートと対極にある。

■ 日本の産業界とどこか似た構図

 日本国内の争いに没頭に国際展開で立ち後れる。頂点の実業団が駅伝に偏重することで招いたと指摘される男子マラソンの弱体化は、日本の産業界でしばしば目につく“ガラパゴス現象”と重なる。世界と戦うことを常に意識してきた瀬古氏でさえ、それにはあらがえなかった――。そう見えて仕方ならない。

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