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陸上の日本選手権(6月7〜9日、東京・味の素スタジアム)男子1万メートルが今年も面白くなりそうだ。有力選手が多数出場するが、過去2年、このレースを制している佐藤悠基(日清食品グループ)と、昨年、佐藤に0.38秒差で敗れた大迫傑(早大)の2人を中心に、今年も優勝争いが繰り広げられるとみていいだろう。
リベンジ狙う大迫「逃げ切りたい」
世界選手権(8月、モスクワ)の代表選考会を兼ねた今大会は、参加標準記録A(27分28秒36)を満たした選手が優勝すると、代表内定となる。2人は、現地時間4月28日、米国・カリフォルニア州で行われたカーディナル招待1万メートルで世界選手権のこの記録を突破しており(大迫:27分38秒31、佐藤:27分39秒50)、優勝すればモスクワ行きの切符を手にすることができる。
佐藤は、2月の東京マラソンでフルマラソンに初挑戦して2時間16分31秒。結果は芳しくなかったが、初マラソンは経験の場と割り切っての出場で、レース後は「トラックでは例年通り、世界選手権を狙っていくことになると思う」とすぐに照準を切り替えていた。しかし以後、体調が思うように上がらず、練習はあまり積めていなかったという。
ただスピードの戻りは早く、4月6日の金栗記念1500メートルでシーズンインしてからは徐々に調子も上昇。4月19日にはマウントサックリレー(米国)5000メートルで13分30秒57と今季日本ランク1位のタイムを出している。カーディナル招待では大迫に先着を許すも、確実にA標準を突破した。マラソンの経験、というよりマラソンに向けて積んだ練習が確実にトラックにつながっているようだ。
5月には東日本実業団で1500メートル、そして6月に入ってからは3000メートルの記録会を走り、スピードを意識した調整を行っている。この流れはほぼ例年通りで、日本選手権に向けた調整も自分のパターンを確立している。
対する大迫は、今年1月の箱根駅伝後は2月の福岡国際クロスカントリー10キロに出場して2位。トラックは佐藤同様1500メートルでシーズンに入っている。昨年の日本選手権での敗戦を「レース自体というより、レースに至るまでのトレーニングにミスがあった」と振り返っているが、カーディナル招待もあまり練習が積めていなかった中での結果だという。むしろそこから現在に至るまでの方が順調にトレーニングしていて、5月26日の関東インカレ5000メートルでは日本人トップ(13分34秒30)。日本選手権に見据え、「練習ができている今、どのくらいのタイムが出るか自分でも分からない」と自信をにじませる。
その日本選手権、いったいどんなレースが予想されるだろうか。過去2年、佐藤はラスト300メートルからのスパートで勝利を決めている。そこまでに飛び出す選手がいても冷静に背後につき、相手の消耗を待つ戦法だ。もともとスパート力に関しては飛び抜けたものはない。しかし、その分、最後まで前に出ることなく、集団内でひたすら力を温存し、ラストで爆発力を発揮するようになった。昨年はラスト300メートル、そしてホームストレートに入ってからの100メートルと2段階での切り替えに成功し、大迫を振り切っている。
大迫は前回のフィニッシュ後、崩れるように倒れ込みトラックをたたいて悔しがったが、今年は佐藤の策を事前に封じ、「今回は先に抜け出して逃げ切りたい。その方が勝てる確率が高いと思う」と早めに勝負にでるつもりだ。
宮脇、宇賀地、上野らも出場 主導権を握るのは?
もちろん他の有力選手にも目を向けなければならない。昨年3位の宮脇千博(トヨタ自動車)、同4位の宇賀地強(コニカミノルタ)はともにラスト1周で勝負するタイプではなく、ロングスパート気味に早めに仕掛けてくるはず。彼らが先にスパートした場合、大迫がどう対応するかが最初の注目ポイントだ。
また残り1周の時点で上野裕一郎(DeNA RC)がトップに近い位置にいれば、すべての選手にとっての脅威となる。往時ほどではないがラストスパートのキレは今も国内随一で、他の選手にすれば早めに振り切っておきたい。しかし、まだ世界選手権の標準記録を切っていない上野は、ハイペースなレースになることを逆に歓迎するに違いない。となると、ふるい落としのために途中で揺さぶりをかける選手が出てくる可能性がある。その中でレースの主導権を握るのは果たして誰か。
佐藤、大迫、そして上野は長野県の駅伝強豪校・佐久長聖高出身。3人を高校時代に指導した両角速(はやし)東海大駅伝監督は「レースを支配する力ではまだ佐藤の方が上ではないでしょうか。カーディナル招待も大迫が最後に前に出ましたが、主導権を握っていたのは佐藤でした。大迫は佐藤を意識し過ぎて動きが硬くなる場面があります。今回カーディナル招待で先着したことで、気持ちに余裕が出てくれば面白いでしょう。上野は先頭にどこまでついていけるかがカギだと思います」と教え子たちの戦いを予測する。
2年前のユニバーシアード1万メートルで優勝した大迫だが、今はさらに高いレベルでのレースを渇望している。しかし、そこへの切符は佐藤や他の有力選手を打ち破り、日本一の称号と同時につかみ取るつもりだ。2位でも世界選手権の代表に選出される可能性はあるが「自分は去年よりレベルアップしているはず。勝って決めたい」と貪欲に勝利を目指す。
男子1万メートル決勝は大会2日目。6月8日16時50分にスタートする。今年も熱い戦いになりそうだ。
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