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マツダの環境戦略とその核になる環境技術の全貌が明らかになった。
トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車がハイブリッド車や電気自動車といった次世代車の開発に力を振り向ける中、体力的に劣るマツダがどのような環境戦略をとるかは、同社の今後の位置づけや生き残りに大きく影響する。
同社が開発した環境技術とは、排気量1.3Lのガソリンエンジン単体で、燃料1Lあたりの走行距離が30kmというハイブリッド車並の燃費を実現するというものだ。来年春にも搭載車の第一弾を発売する。
「SKYACTIV-G(スカイアクティブ・ジー)」と呼ばれるこの先進的なガソリンエンジンの登場は、もしマツダが将来、このエンジンを使ってハイブリッド車を作ったとすれば、トヨタやホンダのハイブリッド車の燃費を楽に抜いてしまうことを意味している。
さらにマツダは「SKYACTIV-D(スカイアクティブ・ディー)」と呼ばれるクリーンで燃費のいい次世代ディーゼルエンジンも開発中で、2012年頃に日米欧で市販するクルマで実用化予定だという。高い燃費性能を誇りながら、尿素SCR(選択還元触媒)やNOx(窒素酸化物)吸着触媒などの高価なNOx後処理装置を装着することなく、厳しい排ガス規制をクリアするという優れモノだ。
つまり、私がこれまで予言してきた通り、エンジンの逆襲が始まったのである。
ガソリンとディーゼルの両SKYACTIVエンジンの技術は、今後のマツダのエンジンの基盤となるものだ。
マツダの新エンジンの意味を理解するために、環境問題とエンジン開発の流れをおさらいしておこう。
ガソリンエンジンの技術開発は排ガス規制への対応の歴史と言える。始まりは、1970年代に米カリフォルニア州で大問題になった大気汚染であった。急速に増加した自動車の排ガスが問題視され、米国は世界初の排ガス規制「マスキー法」を制定した。日本でも「昭和53年規制」が布かれ、都市部の大気汚染問題に自動車メーカーは真剣に取り組んだ。その後、ガソリンエンジンは三元触媒の開発と電子制御の進展により一気にクリーン化が進んだのである。
欧州が選択したエンジンの改善
それでも先進国の排ガス規制は、年を追うごとに厳しくなっていった。1990年代に入って議論されるようになった地球温暖化問題への対応に、すぐに着手する余裕は多くの自動車メーカーになかったのが本当のところだろう。それくらいクリーン化の厳しい要求が続き、それに応えるのに自動車は必死だったのである。
ここで私たちが知っておくべきことは、人体に有害なNOxなどの排ガス低減と、人体には無害だが温室効果があるCO2排出低減は、一般にトレードオフの関係にあるということだ。燃費をよくしようとしたらNOxなどが出やすくなる。
ガソリンエンジンは低負荷(エンジン回転が低い領域)でも高負荷(回転が高い領域)でも燃費は悪くなる。つまり、ガソリンエンジンが効率よく仕事をできる範囲はごく狭いのである。こうした基本的な制約の中で、クリーン化と燃費向上のトレードオフをどう克服するかは、自動車メーカーを悩ませた。
状況を一変させたのはトヨタだった。京都議定書が採択された1997年、世界初のハイブリッド車、初代「プリウス」を発売した。ホンダも2000年には初代「インサイト」を開発し、ガソリンエンジンは電気モーターとハイブリッド化することで、クリーン化と燃費向上を同時に目指せることを証明した。ガソリンエンジンが苦手な低負荷をモーターが補うことで、低負荷での燃費悪化を克服したのだ。
欧州では、1990年代の中頃から後半にかけて、地球温暖化問題に対する意識が高まった。これに合わせて、乗用車でも排ガスのクリーン化以上に燃費性能を優先する傾向が強くなり、ガソリン車より燃費に優れるディーゼル車が普及し始めた。ディーゼル車は排ガスが弱点とされてきたが、コモンレールなどディーゼルエンジンの排ガス抑制技術が開発され、ディーゼルでも排ガス規制に対応できるようになったのが大きかった。
とはいえ、欧州でも排ガス規制強化の動きがなくなったわけでない。最近は、欧州メーカーもディーゼルエンジンのクリーン化の追求にかかる負担を無視できなくなってきた。
小型車がメインのフォルクスワーゲン(VW)は、クリーン化しやすいガソリンエンジンに軸足を置いて燃費対策に取り組んだ。そこで生まれたのが「ダウンサイジング+過給器」という新しいガソリンエンジンの方向性である。
ディーゼルの比率が高い高級車メーカー、BMWやダイムラーも、排ガス浄化と燃費向上の両方を追求するガソリンエンジンの改善に取り組んだ。自然吸気のリーンバーン(希薄燃焼)エンジンの開発である。両社は環境対策の柱の1つにハイブリッド化の推進を掲げているが、その場合もガソリンエンジンの基本性能をしっかりと進化させることを忘れていない。これがドイツ流だ。
では、ハイブリッド車で先行したトヨタとホンダはどのような開発方針をとってきたのか。残念ながら、ドイツメーカーがとったようなガソリンエンジンの環境性能向上には力を入れてこなかった。ガソリンエンジンの進化では後れをとってしまったのだ。皮肉というほかない。
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