弁護士 戸舘圭之のぶろぐ

袴田事件に取り組む弁護士戸舘圭之のぶろぐ

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検察官の即時抗告に対する弁護団意見書(検察官上訴は違憲!!)

 大崎事件第三次再審請求で鹿児島地裁は6月28日に再審開始決定を出しましたが、昨日、検察官は不当にも高等裁判所に即時抗告を申し立てました。今回、2度目の再審開始決定が出たにも関わらず、なお再審開始を争い冤罪救済を妨害する検察官の行為は著しく正義に反し不当であり、かつ、違憲であると考えます。袴田事件でも検察官は不当にも即時抗告を行い3年以上経過した現在においても未だ再審開始決定は確定せず再審公判の目処すら立っていません。以下には袴田事件弁護団が提出した検察官の即時抗告の不当性、違憲性を論じた意見書をご紹介します。


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原審:静岡地方裁判所平成20年(た)第1号
有罪の言渡を受けた者 袴田 巌
請求人        袴田巌保佐人 袴田 ひで子
 
意見書
2014年4月10日
東京高等裁判所第8刑事部 御中
主任弁護人 西嶋勝彦 他
第1 はじめに
 静岡地方裁判所刑事部は、本年3月27日、本件再審を開始し、死刑確定者袴田巖に対する死刑の執行及び拘置の停止を決定し、袴田巖は同日釈放された。
 袴田巖は今から48年前、30歳の時に静岡県警清水警察署に逮捕されて以来、48年間、社会とは隔離された刑事施設において収容され続けてきた。昭和55年に死刑判決が確定した以降は、確定死刑囚(死刑確定者)として33年以上も死刑執行の恐怖に怯えながら生きながらえてきた。アムネスティ・インターナショナルを始め全世界はこの残虐な長期間の措置に対し抗議の意を示し注目している。
 袴田氏は釈放され現在は医療施設に入院中であるが、「自分は袴田巌ではない」と述べるなど拘禁反応による心身の不安定さは色濃く残っており、その状況は同氏に対する拘置がいかに非人間的なものであったかを物語っている。
 本件は、原決定において詳細に示されたとおり、確定有罪判決において袴田巖の犯人性を根拠付ける最重要の証拠とされた「5点の衣類」について新証拠であるDNA鑑定等の結果によって、犯行着衣であること、袴田巖のものであることについて重大な疑問が生じたことから、袴田巖を本件犯行の犯人とした確定判決等の有罪認定に合理的な疑いが生じたと判示されたものである。
 加えて、原決定は、再審開始決定のみにとどまらず、正義の観点から、死刑の執行停止、さらには拘置の執行停止まで認め即日釈放した。
 これら原決定が示した判断からも、本件は、無実の死刑囚袴田巖を救済するために、速やかに再審公判が開始され無罪判決が言渡されるべき事案であり、即時抗告審においては審理を短期間で終結し、速やかに抗告棄却決定が出されるべきである。
 本意見書においては、本件の緊急性、現在78歳と高齢である袴田巖の速やかな権利回復を図る必要性から、検察官の即時抗告を直ちに終結されるよう意見を述べるものである。
 
第2 速やかに再審公判が開始されるべきであること
 1 再審請求審における検察官上訴は制限されるべきこと
   現行法上、再審は、利益再審のみが認められており不利益再審は否定されている。このことは、再審制度が無辜の救済のために特化した手続であることを意味する(鴨良弼編「刑事再審の研究」成文堂1980年)。
しかも、いわゆる白鳥決定(最決昭和50年5月20日刑集29巻5号177頁)、財田川決定(最決昭和51年10月12日刑集30巻9号1673頁)によって、再審請求審においても、「疑わしきは被告人の利益に」鉄則が妥当することが確認されていることからも明らかなとおり、再審が確定判決を重視する制度ではなく、誤って有罪の言い渡しを受けた者を冤罪から救済するための手続として機能すべきものとされているのである。
   そうであれば、検察官は、「公益の代表者」(検察庁法4条)として再審請求権者の筆頭に挙げられている(刑訴法439条1項1号)ことからも明らかなとおり、通常審における一方当事者として対立的に振る舞うことは本来予定されていないというべきである(三井誠『再審手続の構造』鴨良弼ほか編「刑事再審の研究」成文堂1980年177頁以下参照)。さらに、いわゆる郵便不正事件等において発覚した検察不祥事を受けてなされた検察の在り方検討会議提言「検察の再生に向けて」においては、検察官が、「公益の代表者」として、有罪判決の獲得のみを目的とすることなく、公平な裁判の実現に努めるべきことを謳っている(同提言4頁)。また、同提言は、通常公判についてではあるが、有罪の獲得に拘泥することなく「引き返す勇気」の必要性を強調している(20頁)が、この理は、再審請求審においても当然に妥当するというべきである。
   したがって、検察官は、再審請求審理に協力すべき義務を負っており、誤判救済、無辜の不処罰を目的とする手続遂行に協力するために、裁判所が証拠開示を決定すればそれに従い、ひとたび裁判所において再審開始決定が出されたならば速やかに再審公判、無罪判決に向けて協力すべきものである。
   よって、再審制度の趣旨からすれば、検察官が再審開始の取消しを求めて上訴することは背理と言わなければならない。
 2 刑訴法450条は限定的に解釈されなければならない
   この点、刑訴法は450条において再審開始決定に対する検察官の即時抗告を許容している規定になっているが、上記再審請求審の構造、とりわけ現行法が不利益再審を廃止し利益再審のみを許容し、無辜の救済のみを目的としている制度であることに照らせば、刑訴法450条は限定的に解釈されなければならない。
   このことは、憲法39条が二重の危険の法理を定めていること、上記再審制度の理念は人権保障の原理であり刑事手続における人権保障の基本的規定である憲法31条の適正手続保障が再審制度においても当然に適用され、かつ、同条の保障内容の帰結として再審開始決定に対する検察官による即時抗告は否定されるべきことから導かれる。
確かに、現行法の解釈として、無罪判決に対する不利益上訴は、憲法上許容されるものと解されている(最大判昭和25年9月27日刑集4巻9号1805頁)。しかし、この判例は、一審から上訴審に至る一連の過程がいわゆる継続的危険であることを理由とするものである。しかし、再審請求は、確定した判決に対する是正を求めるものであるから、完結した危険に対する異議申立である。そして、請求審の審理(この過程においては、請求人の主張・立証に対して検察官の反証の機会が存在し、また現実になされているのであるから、確定判決の利益に対する配慮も十分になされているはずである)を経て、再審請求に対して理由があるとされた以上、開始決定に対する不服申立は、二重の危険の観点にそぐわないものというべきである。再審開始決定は、裁判の確定の利益を考慮しつつも、具体的正義の存在(無辜の不処罰)を理由として再度の審判を行うための決定なのであり、それに対する不服申立は、二重の危険の観点からみて、多大な問題をはらむものというべきである。
   以上によれば、刑訴法450条は、無辜の救済の趣旨に反する再審請求棄却決定に対して、再審請求権者ないし公益の代表者として検察官に即時抗告を許していると解すべきものであって、再審開始決定に対する検察官の即時抗告を許容していると解する限りにおいて違憲無効の規定と言わざるを得ない。
 3 正義の観点からも、検察官上訴は許容されない
   仮に、刑訴法450条が再審開始決定に対する検察官による即時抗告を否定していないと解釈したとしても、本件においては、刑事手続全体を支配している正義公平の観点から、本件即時抗告は、権利の濫用として許されないと言わなければならない。
すなわち、袴田巖は今から48年前、30歳の時に逮捕、勾留されて以来、48年間、社会とは隔離された刑事施設において収容され続け、死刑判決が確定した以降は、確定死刑囚(死刑確定者)として33年以上も死刑執行の恐怖に怯えながら生きながらえてきた。
原決定は、そのような異常な状態に置かれていた袴田巖に対して、はじめて司法裁判所として救済の手をさしのべたのであった。そして、原決定は、確定有罪判決において袴田巖の犯人性を根拠付ける最重要の証拠とされた「5点の衣類」について新証拠であるDNA鑑定等を慎重に精査した結果、犯行着衣であること、袴田巖のものであることについて重大な疑問が生じたと判断し、袴田巖を本件犯行の犯人とした確定判決等の有罪認定に合理的な疑いが生じたと判示したのであった。
このように裁判所が証拠の捏造による誤判を強く指摘していることからすれば、検察官のなすべきことは誤判原因の解明であり袴田巌氏を艱難辛苦に二重に陥れる即時抗告でなない。即時抗告は権利の濫用(刑訴規則1条2項)と言わなければならない(権利の濫用に基づく即時抗告権の否定は、通常審における公訴権濫用論や正義の増進のために認められるべき刑事手続打ち切りの理論と考え方は共通している。そして、本件は、公訴権濫用論に引き直してみればまさに「極限的」な場合であり、刑事司法を支配する正義公平の観点、憲法31条が保障するデュープロセスの点からも本件抗告は許容されない。)。
したがって、抗告裁判所としては、かかる検察官の即時抗告は違法、無効であり、その抗告理由について判断するまでもなく、手続に違法があったことを理由に本件抗告を直ちに棄却すべきである(仮に上記のような重大な手続的瑕疵の存在の問題を措くとしても、以下に述べるとおり、検察官の即時抗告には理由がない。)。
 
第3 検察官の主張について
 1 DNA鑑定については原審において、既に十分に審理が尽くされ、検察官は十分な反論の機会を与えられていること
   DNA鑑定については、原審において、DNA鑑定が実施された後、2名の鑑定人に対して十二分な尋問が行われ、そのうえで弁護人、検察官双方から詳細な意見書が提出されており、検察官はその意見書において、即時抗告申立書とほぼ同様の意見を既に提出している。
   原決定自身、本田鑑定に対しては検察官による激しい批判があったことから、「とりわけ本田のDNA鑑定については、当裁判所は、複数の専門家による批判を念頭に入れ、批判にある程度の合理性がある場合にはその批判を受け入れた前提で検討を進めたものである。」(原決定66頁)と、検察官による批判(検察官が提出した専門家の意見書における批判)を十分に考慮した結果、「確定判決が最も重視した5点衣類が、袴田の犯人性を基礎付けるものでないことが明らかになったばかりか、ねつ造されたものではないかとの疑いを相当程度生じさせるものである。各味噌漬け事件の結果や5点の衣類の発見経緯等これを補強するような証拠や事情が複数存在することからすれば、現時点で、再審の審判において袴田に無罪判決が下される相当程度の蓋然性が認められる。」と判示しているのである。
   そして、この決定に対して、検察官が拘置の取り消しを求めた暴挙とも言うべき抗告に対し、東京高裁刑事第11部は、拘置の執行停止の判断に不可分に結びついている再審開始の実体判断について、「原裁判所のこの判断は、その前提事実の認定や推論の過程に明らかに不合理な点は見当たらず、論理則、経験則等に照らして、ひとまず、首肯できるものである。」と判断したうえ拘置の執行停止は原審の裁量の範囲内として抗告を棄却しているのである。
   したがって、即時抗告審においては、検察官主張の批判を再度、改めて検討する必要は全くない。
 
 2 再鑑定等の事実調べは即時抗告審においては必要ない
   検察官は、即時抗告申立書において、「再現実験を含めた再鑑定等を行うことが必要不可欠」などと主張して、マスコミに対しても「即時抗告審の焦点は再鑑定の実施」などと誘導していると思われるが、許し難い暴論といわざるを得ない。
   そもそも、原審段階において、検察官は、本田鑑定に対して、多数の法医学者等の専門家による批判的意見書を提出し、その間、それらの法医学者らに依頼して、必要であれば再現実験を行うことは期間的にも、能力的にも十分可能であった(本田鑑定人は、自らの鑑定書等において鑑定の手法を詳細に明らかにしており、もし本田鑑定の鑑定手法に疑義があるのであれば専門家によって再現実験を行うことは当然に可能であった。)。
さらには、検察官において、真に必要と考えているのであれば原審段階において再鑑定の実施を求めることも十分に可能であった。
しかも検察官は、本田鑑定に対し、本来は判定不能の鑑定をすべきであったと主張しているのであり、本件資料では鑑定は不能になるはずであることを前提としているのであって再鑑定を請求すること自体自己矛盾なのである。
   検察官の即時抗告申立書における態度は、「公益の代表者」(検察庁法4条)であるべき検察官の在り方と真っ向から矛盾するのみならず、再審請求審における適正手続(憲法31条)、正義公平、訴訟上の信義則の観点(刑訴法1条)からも到底許されないと言わなければならない。
 
第4 即時抗告審における審理の進め方
 以上に述べたとおり、本件即時抗告審において我々法曹三者に課せられた課題は、原審裁判所が司法の威信を賭けて国家の違法を告発した決定を重く重く受け止め、78歳と高齢である袴田巖に残された時間の中で、いかにして同人の権利の救済を実現していくかという点にある(さらにいえば、袴田巖の実姉であり、自らの人生を賭けて弟の雪冤を晴らすために生き抜いてきた請求人袴田ひで子−81歳−の権利救済も実現されなければならない。)。
 本件は、原決定が明らかにしたとおり、捜査機関による証拠のねつ造という、捜査機関による違法、不当な捜査が疑われているという本来刑事司法においてあってはならない国家機関による重大な人権侵害が疑われている事件である。原決定が「国家機関が無実の個人を陥れ、45年以上にわたり身体を拘束し続けたことになり、刑事司法の理念からは到底耐え難いことといわなければならない。」と説示し、「袴田に対する拘置をこれ以上継続することは、耐え難いほど正義に反する状況にあると言わざるを得ない。」として拘置の執行の停止を決定したことからも明らかなとおり、袴田巖に対する刑事手続上の負担は可及的速やかに解消され、一日も早く名実ともに自由の身にさせることが、先人の過ちに気づいた我々法曹三者に課せられた唯一の義務である。
 そうであるならば、本来、公益の代表者である検察官は、本件即時抗告を速やかに取り下げるべきである。
 そして、即時抗告審である貴裁判所においても、袴田巖を迅速な手続によって解放するために、速やかに審理を終結し、本件抗告を棄却する決定を短期間のうちに行うべきである。もしも貴裁判所において慎重な審理を行いたいと考えているのであれば、実施すべきは再鑑定などではなく、原審が判断した証拠の捏造が本当であったか否かを精査するため、検察官に対し未開示証拠の全ての開示を命じることである。原審の判断が重く正しいとすれば、捜査機関や検察官は有罪判決を「詐取」したにほかならず、裁判所はそうでないことを徹底的に調査するためにあらゆる手持ち証拠の開示を命じる必要があるからである。
 弁護人としては、迅速な手続進行について最大限協力する意向であるので、貴裁判所においても、早期に決定時期を確定した上で、速やかな決定に向けた計画を策定するよう強く求める次第である。
以上

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