弁護士 戸舘圭之のぶろぐ

袴田事件に取り組む弁護士戸舘圭之のぶろぐ

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袴田事件即時抗告審で検察官は、開示された取り調べ録音テープなどが集会やマスコミ等を通じて公開されることについて反発していますが、法的にも実質的にも何ら非難されるいわれはありません。弁護団は以下のような意見書を出していますので是非ご参照ください。


平成26年(く)第193号 再審開始決定に対する即時抗告申立事件
抗告人 検察官
被抗告人(再審請求人) 袴田 ひで子
有罪の言渡を受けた者 袴田 巖

三者協議の内容公開及び開示証拠等の取扱いについての意見書

2016年12月26日

東京高等裁判所第8刑事部 御中

第1 三者協議におけるやりとり
 検察官は、弁護人が三者協議の内容や開示証拠の内容等について報道機関等に情報提供をしたことをことさら非難し続けている。
前回の三者協議においても作原検察官は「この際に申入れをさせていただくが、これまでにも、三者協議の内容や裁判所に提出された書面について、弁護団からマスコミに発表されている実態がある。特に、本件意見書については、その中身だけでなく、先生の所属や氏名まで公表されており、先生は非常に迷惑している。今後は、このようなことのないよう強く抗議するとともに、従前から改まらない弁護人の証拠に対する態度に照らすと、証拠の開示における弊害を検討する際にも考慮せざるを得ないし、裁判所においてもこのような実態を知っておいていただきたい。」(第22回打ち合わせメモ4頁〜5頁)と発言をしている。
作原検察官の発言は、いかなる法的根拠に基づいて弁護人を非難し、抗議をしているのか趣旨不明瞭ではあるが、(杆鄂佑蕕三者協議の内容や提出された書面についてマスコミに発表されている点を問題視した上で、⊂攀魍示において「弁護人の証拠に対する態度」をもって証拠開示における「弊害」の検討の際の考慮事由(検察官の意味するところとしては証拠開示に消極方向としての事由)になると主張しているものと思われる。
さらに、この点に関しては、大島裁判長も弁護人を非難するニュアンスで「弁護団としては、証拠はマスコミに公表することは当然と考えているのか。」(同5頁)と述べるなどしている。
しかし、上記三者協議における検察官の発言及び裁判長の発言は、以下に述べる通り、再審請求審(即時抗告審)における弁護人の活動(弁護人の防御権)を不当に制約するものであり、公正な裁判、適正手続の観点からも重大な問題をはらんでいることから、今後の審理を進めるにあたって意見を述べる次第である。
1 再審請求審と開示証拠の目的外使用禁止規制
検察官は誤解しているのでまずもって指摘しておくが、再審請求審において開示された証拠については、平成16年刑訴法改正で導入された開示証拠の目的外使用禁止規制(刑訴法281条の3ないし5)の対象外である。
この点については、各種コンメンタール及び改正刑訴法の立案担当者らの解説においても再審請求審においては開示証拠の目的外使用禁止規制は及ばない旨が明示されている(条解刑事訴訟法・第4版・弘文堂572頁、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)及び刑事訴訟規則等の一部を改正する規則の解説・法曹会31頁)。
したがって、目的外使用を問題とする検察官の主張は前提を欠き、失当である。
2 決定手続の非公開性
  次に、検察官は即時抗告審が決定手続であり、非公開とされているから当事者にも守秘義務があるかのように主張しているとも思われるが、この点についても誤りである。
  この点は、裁判所も同様の見解と思われるので、項を改めて弁護人の意見を述べる。

第2 公平な裁判所による公正な裁判(適正手続)を実現するための裁判所の権限行使、検察官の権限行使に対するチェックの要請はいかなる手続構造においても妥当する
 1 「再審請求審は非公開手続であるから守秘義務が課される」との命題について
   検察官及び裁判所は、三者協議の場において、再審請求審が非公開手続であることを理由として、弁護人による三者協議の内容や開示証拠の報道機関等への情報提供を問題であると認識しているようである。
   しかしながら、刑訴法上、再審請求審(即時抗告審等の上訴審を含む)における審理を非公開にすべき旨の規定は存在せず、再審請求審における審理を公開で行うことは法的に認められている。過去の再審請求事件においても、公開の法廷で証人尋問等が実施された例は存在している(金森老事件、いわゆる日産サニー事件においては重要な証人の尋問が公開法廷により行われており、かかる手続について上級審において違法とは判断されていない。福島地裁いわき支部決定平成4年3月23日判時1423号40頁参照)。
   決定手続であることも非公開を根拠付けることには当然にはならない。なぜなら決定手続といってもその本旨は迅速な判断のために弁論手続を経なくてよいことを意味するに過ぎないからである。また、決定手続といっても多種多様であり、手続の内容に鑑みて公開で行ったほうがより適正手続等に適う場合というのもありうるからである。
   したがって、「再審請求審は非公開手続である」との理解は法的に誤りである。
 2 裁判の公開原則と再審手続
   仮に、再審請求手続が非公開に行われていることを前提にしたとしても、手続の内容を弁護人が外部に公表することは妨げられない。
   一般に裁判の公開の趣旨は、裁判所における審理手続が公正に行われているかを国民がチェックをする点にある。
裁判の公開は裁判の公正を担保するためにあるからといって、非公開の裁判手続は公正でなくてもよいということにはならない。裁判の公正はいかなる手続段階においても妥当する基本原理である。
かかる公開の趣旨の背後にある裁判所の権限行使に対するチェックの要請は、公開法廷に限らず全ての手続段階で要請される基本的原理である。
いかなる手続段階においても、裁判所の独断で審理を進行してはならないのであって、裁判所を監視し、公正な裁判を担保するための何らかの措置は当然必要となる。
したがって、公開法廷における審理が保障されない非公開手続においても、公正な裁判を保障するためには、当該手続の内容が広く国民に明らかにされる必要があることは当然の理であり、報道機関等が弁護人や他の関係者を通じて情報を入手し、広く一般国民に向けて事実を知らせた上で批判の対象とすることは裁判の公正を担保する上でも不可欠である。
もし、非公開手続であることを理由に弁護人が一切の情報を報道機関等へ提供することが許されないとするのであれば、同じく非公開手続である少年事件における家庭裁判所での少年審判の内容について報道機関は一切報道をすることができなくなるという不合理な帰結をもたらす(現実には捜査機関及び付添人、場合によっては裁判所を通じて報道機関は情報を入手した上で詳細な報道を行うこともままみられる。)。通常審でいえば、非公開手続で行われている公判前整理手続に関しても報道機関は一切の報道をすることができなくなってしまう。
 3 再審請求審と手続の公開
   本件のごとく無辜の救済を目的としている再審事件においては、社会的関心も高く、裁判所における審理がいかなる内容で行われているかを知りたいと考えている者は多く存在し、報道機関等も社会的関心に応えて報道する要請は極めて強い。
   とりわけ、本件においては、検察官による明白な事実のねつ造である5点の衣類の寸法札の問題や袴田氏に対する取調べ録音テープから明らかになった弁護人との接見盗聴や便器を持ち込んだ取調べなどの数々の違法行為のオンパレードが審理において明らかになっており、かかる事実は刑事司法制度の根幹を揺るがす大問題であり社会的にも正確な情報を提供したうえで広く社会の批判を喚起する必要が認められる。捜査機関の違法行為を明るみにし社会に問うことは弁護士の職業的義務ですらある。
   このように憲法が保障する公平な裁判所による公正な裁判を実現するためには、手続が外部から全く分からない状態であることは絶対にあってはならず社会による監視は不可欠であり、再審請求審も例外ではない。
   したがって、再審請求審における審理内容は可能な限り広く一般に公開されるべき情報であり、それによって社会による監視が可能となり裁判の公正が実現するのである。
 4 「弊害」の懸念
   検察官および裁判所は、弁護人による報道機関等への情報提供により何らかの弊害を懸念しているのかもしれないが、少なくともこれまで弁護人が記者会見や個別の取材等を通じて公表してきた事実・資料によって、法的に問題となるような具体的な弊害(第三者のプライバシー侵害等)は一切生じていない。
   もちろん、検察官にとっては「不都合な真実」であることから、当該事実、資料が広く公にされることについて主観的には不満があることは十分に推察できるが、それはただ検察官が嫌だと思うだけのことであり法的に問題になりうる弊害とはいい難い。
   そもそも、検察官は証拠開示を行うにあたって開示よる弊害がない証拠に限定して開示しているのであり、現に検察官は証拠開示に対する考え方として「これを明らかにしてもプライバシーの侵害等の弊害がなく相当と考えられる場合には、請求人側に有利であるか不利であるかを問わず、検察官が保管する証拠を裁判所に提出するとともに、弁護人にもその内容を明らかにしてきている」(平成28年9月1日付検察官意見書4頁)と述べている以上実際に開示された証拠について「弊害」はないはずである(裁判所の勧告によって開示する場合においても裁判所は開示による弊害ないことを認めた上で開示を勧告している。)。
検察官が自ら弊害がないと認めて開示した証拠について、事後的に弊害を云々すること自体背理である。
   したがって、検察官は、あたかも弁護人による報道機関等への情報提供が何らかの弊害を生じさせているかのような前提に立ったうえで弁護人を非難し、さらには証拠開示に消極となる理由にしようと企ているが理由がないことは明らかであり、検察官のかかる態度は公益の代表者としてあるまじき不当な態度であると言わざるを得ない。

 5 検察官においても報道機関等に情報を提供している事実
   検察官は、弁護人による報道機関等への情報提供について執拗に非難し続けているが、検察官ないし検察庁じしん、本件再審請求審および即時抗告審における情報を報道機関等に提供の上、報道させていることもあるのであり、実際に、検察官は事件の内容に踏み込んで検察官としての見解を公表するなどしている。
   また、本件においては、そもそも事件発生当時から警察による捜査情報の大々的なリークが行われ「袴田犯人視報道」が大規模に行われてきたことも忘れてはならない。
   このように、捜査機関は一方では、自らの有利になるような情報をマスコミに提供しておくこともありながら、弁護人に対してのみそれを禁止しようとすることは著しく不合理である。
 
第3 請求人の防御権、再審請求人の権利
 改めて言うまでもなく再審制度は、無辜の救済のための制度である。
 現行刑訴法は、憲法39条に基づき不利益再審を廃止し、誤った有罪判決から被告人を救済する利益再審のみを認めている。かかる憲法、刑訴法の態度からは、再審制度は、誤った有罪判決から被告人を救済するための制度、すなわち無辜の救済のための制度と理解しなければならない(田宮裕「再審の指導理念」鴨良弼編「刑事再審の研究」成文堂1980年19頁所収)。 最高裁もいわゆる白鳥,財田川決定(最決昭和50年5月20日、刑集29巻5号177頁,最決昭和51年10月12日刑集30巻9号1673頁)において、再審請求審においても「疑わしいときは被告人の利益に」「鉄則」の適用を認めており、再審制度が無辜の救済のための制度であることを承認している。
 このように再審制度は無辜の救済に特化した制度であるから、弁護人には再審を開始させるための様々な活動を行うことが法的に承認されている。
 それは裁判所を通じた活動にとどまらずに裁判所外における活動も重要な意義を有している(この点についてはさしあたり日本弁護士連合会編「再審」(日本評論社、1977年)「続・再審」(日本評論社、1986年)、「白鳥決定40周年」記念出版編集委員会 編「再審に新しい風を」(日本評論社、2016年)を参照)。
 これらの再審弁護活動を実効的に行うためにも、報道機関等への情報提供を行うことは極めて重要である(渕野貴生「法廷外弁護活動と公正な裁判―松川裁判運動と裁判批判論争に学ぶ」立命館法学2009年5・6号766頁は、刑事手続における両当事者の圧倒的不均衡の現状の下においては被告人側が法廷外においてマスコミ等に情報を提供し世論、社会に対して自らの主張を訴えていくことは適正手続保障、公正な裁判を受ける権利の保障に資するものであることを論証しており、この理は再審請求審における請求人、弁護人の活動にも妥当する。)。
 また、捜査機関と異なり何等の強制処分権限も有していない弁護人が新証拠を発掘する手段としても、報道機関等への情報提供を通じた弁護活動は広く承認されるべきである(現実の再審事件においても、弁護人からの報道機関等を通じた情報の提供の結果、有力な物証、証言が出現したり、真相解明に向けた重要な証拠や鑑定人の協力が得られることは珍しくない。)。

第4 三者協議の内容、開示証拠の取り扱いについて
 以上をふまえれば、三者協議の内容、開示証拠の取り扱い、具体的には、これらの内容を、マスコミ等を通じて社会に公表するか否かに関しては、第一義的には当該弁護人の責任において当該弁護人の判断に委ねられていると解するべきである。
 念のため述べておくが、これは、裁判所が懸念するような開示証拠、確定記録等が無制限にマスコミに流されることを許容する趣旨ではない。
 証拠の性質、内容等に照らして、これが報道機関等を通じて対外的に公表されれば、関係者の名誉、プライバシー等の重要な利益が侵害される危険がある場合には、当該証拠等の公表は許されないのは当然である(その場合は、当該行為を行った弁護人は別途法的責任を問われることになる。)。
 本件においても、弁護人は上記観点から、情報を取捨選択の上、いずれも袴田氏の冤罪を晴らす上で社会的に重要な事実について記者会見等を通じて報道機関等に公表をしているのであり、検察官から非難、抗議されるような不適切なことは一切行っていない。今後も同様の観点から弁護活動を行っていく所存である。
 以上によれば、本件三者協議において検察官が執拗に主張し続けている弁護人のマスコミ等への情報提供に対する非難、抗議はいずれも法的な根拠を欠くのみならず再審請求審における弁護活動を不当に制約しようとするものであり到底許されないと言わざるを得ない。


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