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女郎花物語 仮名草子 内閣文庫本(古典文庫)
女郎花物語(をみなへし ものがたり) 上
23段(いじらしい女の事)
おとこうらむることやありけん けふをかぎ
りにて 又はさらにをとなし と いひて侍りに
けれど いかにおもひけん ひるつかたをとづ
れ侍りけるによめる
ごしういに あかぞめのゑもん
あすならば わすらるゝ身は なりぬべし
けふをすぐさぬ いのちともかな
おとこ此哥を見て かぎりなくあはれに
思ひて もとのごとくかはらず侍るとなん
参考1
をとなし=音無し、明日から消息はないよ
ひるつかた=昼方、昼のころ、昼時分
ごしうい=後拾遺和歌集、八代集の第四、ここでは712
あはれ=深く心に感じる愛情
参考2
あすならば 忘らるる身に なりぬべし 今日をすぐさぬ 命ともがな 赤染衛門
明日になれば忘られてしまう身になってしまうのなら、いっそ、この上なく幸せなまま、
今日を限りに翌日に過ぐさない命であってほしい。
いじらしい女性には、何ともあわれで同情したくなる感じです。
健気に耐える人を守ってやりたくなります。
「いじらしい女性」と「いやらしい女性」は、違います。ご注意を!
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女郎花物語
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女郎花物語 上-22段
22段は、5つの話が集まっています。今日は最後の5の部分です。
1. 嫉妬心を堪え忍んで哥を詠う女。2. 仏教に於ける忍辱の有難い話。3. 行成と実方の堪忍と切れた人の運命。4. 西行の堪忍の話。5. りよしやうぶが妻(め)の堪忍が足らなかった話です。
22段-5(りよしやうぶが妻(め)の堪忍が足らなかった話の事)
又いはく りよしやうぶがめ これもいゑのまど
しきをすみわびて はなれにけり りよしやう
ぶ いくほどなく みかどの師〈し〉となりて いみし
かりけるとき かのめかへりきたりて もとのごとく
あらん といふ そのとき りよしやうぶ おけをひ
とつとりいだして これに水を入よ といふ
あひだ 入つ 又 こぼせといへば こぼしつ さて も
とのやうにかへし入よ といふときに をう
な わらひて つちにこぼれぬる水の いかでか
かへし入ぬ とこたふに りよしやうぶいふは
なんぢが我に えんのつきにしこと おけ
の水を こぼしつるに おなし いまさら いかで
かへりすまん といひける これらは 物ねたみに
は侍らねども 物にこゝろえず 我こゝろの
はやりかゝるにまかせて いひふるまひなど
し まどしき世を 忍びえず こゝろみじ
かきたぐゐなり かゝれば まどしきいゑに
なりとも えんにまかせて たえ忍ふべきこと
にこそ
参考1
りよしやうぶ=呂尚父・呂尚武、太公望
め=妻、馬氏、呂尚父は読書ばかりして働かなった
いゑのまどしき=家が貧しくて
みかどの師〈し〉となりて=周の文王に認められ軍師となって
かのめかへりきたりて もとのごとくあらん=元の鞘に収まりたい
えんのつきにしこと=縁の尽きたこと
こぼしつるに おなし いまさら いかでかへりすまん=覆水盆に返らず(ふくすいぼんにかえらず)
こゝろの はやりかゝるに まかせて=心のままに勇み立ち、思ったら直ぐに
こゝろみじかき=思慮が足りない
参考2
文王が渭水で釣りをしていた呂尚を知り、「これぞわが太公(祖父)が待ち望んでいた人物である」と言って召し抱える話に由来する「太公望」。「盆」は、平べったいお盆ではなく「鉢・桶」のようなもの。文王の子・武王は、殷の紂王を牧野で破り、周を立てました。太公望は、文王・武王の2代にわたって仕え、斉の諸侯に封ぜられました。兵法書「六韜」の著者と言われてますが疑わしい。
「覆水盆に返らず」に関して。
元の鞘に収まっても良かったのでは? 読書ばかりして働かなったし、養えない夫に愛想尽かすのは、尤もなこと。夫婦は仲良く、大変な逆境の時は、二人で乗り切りましょう。見捨てたりしないで。「覆水盆に返らず」なら、水を注ぎ足しましょう。歩み寄って許し合いましょう。分かれることで一人でも悲しむ人がいるなら、もう一度努力してみては?
軽鴨の介______________________________________φ(.. )
女郎花物語22段、やっと終わりました。どうなるかと思っていました。良かった。
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女郎花物語 上-22段
22段は、5つの話が集まっています。今日は4の部分です。
1. 嫉妬心を堪え忍んで哥を詠う女。2. 仏教に於ける忍辱の有難い話。3. 行成と実方の堪忍と切れた人の運命。4. 西行の堪忍の話。5. りよしやうぶが妻(め)の堪忍が足らなかった話です。
22段-4(西行の堪忍の話の事)
又いはく さいぎやうほうし おとこ
なりけるとき いとおしくしけるむすめ三
四ばかりなるが 大事にわづらひて かぎり
なりけるころ ゐんのほくめんのもの共 ゆみ
いてあそびけるに いさめられて 心ならず
にあそびくらしけるに わかたうはしり
きたりて みゝに物をさゝやきければ こゝろ
しらぬ人は なにともおもひも入ず さいぎやう
ほうし いまだおとこにて けんしひやうゑのぜ
うとてありけるに めを見あはせて 此こと
こそすでにうちいひて 人にもしらせず さり
けなく いさゝかのけしきも かはらざりけり
ありがたく うか/\しからぬ とぞ さいぎやう
ほうし のちに人にかたりける これ さま こそ
かはれども みな物に たえ忍ぶたぐゐなり 心
はへもて しづめぬ人は なにごともこは/\
しく けしからず よきもこと/\しく あ
しきも けちめ見ゆるなり あやしきしづ
のめなどが 物なげくこゑ けしからず侍
れ 物にたえ忍ぶたぐゐは かきつけ侍り
参考1
ほうし おとこなりけるとき=出家前の俗人であった時
大事にわづらひて=病気が重く患う、重態
かぎりなりけるころ=危篤であったころ
ゐんのほくめん=院の北面、臣下として主君(鳥羽院)に仕えること
わかたう=若党、武家の身分の低い家臣、若い郎等、騎乗の資格のない武士の従僕
けんしひやうゑのぜう=源次兵衛尉、兵衛府の判官、源次は不明?
此ことこそすでにうちいひて=病気の娘は既に亡くなったと言って
ありがたく うか/\しからぬ=滅多になく うかうかしていない
こは/\しく=強強し、いかにも優しさがない
けしからず=怪しからず、いけない、不都合である、けしからん
あやしきしづのめ=怪しき賤の女、賤しい身分の低い女子
かきつけ侍り=心覚えに書きしるす
参考2
『「西行物語」における西行の娘』の逸話は、色々な形で伝わっていますが、実際の西行の伝記ではないかも。例えば、西行は娘を庭に蹴落として出家したなどあります。
西行物語 京都大学附属図書館所蔵 奈良絵本コレクションは、面白いサイトですよ。
このサイトは、エンコーディングの調整が必要かも知れません。
(・・・妻)子と言う絆を付けおき、出離の道を妨ぐといへり。これを知りながらいかで愛着の心をなさんや。これこそ陣(陳)の前のかたき。本能の絆を切る初め也、と思ひて、この娘を情けなく縁より下へ蹴落としたりければ、小さき手を顔において、尚、父を慕い泣きければ・・・
発心出家の動機と決断のいきさつで、妻子を捨てて出家した西行、娘の死にも動じない。また、子供を蹴落して発心するという話などあります。現代的価値観では、ピンと来ないかも。普通のお父さんは、自分を捨てて家族のために汗して働くけど、時代や背景次第で、一概に決めつけることはできない。でも、仏道に入ることが憧れであった時代がある。そして、こうした行為が美談や涙話として存在している。西行や山頭火みたいな人に憧れる人もいる。
軽鴨の介______________________________________φ(.. )
次回は、りよしやうぶが妻(め)の堪忍が足らなかった話です。
次回でやっと、22段が終わります。
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女郎花物語 上-22段
22段は、5つの話が集まっています。今日は3の部分です。
1. 嫉妬心を堪え忍んで哥を詠う女。2. 仏教に於ける忍辱の有難い話。3. 行成と実方の堪忍と切れた人の運命。4. 西行の堪忍の話。5. りよしやうぶが妻(め)の堪忍が足らなかった話です。
22段-3(行成と実方の堪忍と切れた人の運命の事)
又いはく 大なごん行成〈こうせい〉の卿
いまだてんじやう人にて おはしけるとき さね
かたの中将 いかなるいきどをりかありけん
てんじやうにまいりあひて いふこともなく
こうせいの かふり打おとして こにはにすて
けり こうせいさはがずして とのもりつかさ め
して かうふりとりてまいれ とて かうふりし
て まもりがたなより かうがいぬきいでゝ
びんつくろひて ゐなをり いかなることにか
候らん かほどに ばうじやくの御ふるまひ
こそおぼえ候はね と にが/\とけしきか
はりていはれければ しらけて さねかたは 立
にけり おりふし こしとみより しゆしやう御
覧じて かうせいはいみしきものなり かく
おとなしき こゝろあるらんとぞおぼしめさね と
て そのたび くらのかみのあきけるに おほく
の人をこしてなされけり さねかたをば 中
将をはぎて うたまくら見てまいれ とて
むつのかみになして ながしつかはされけり
やがて かしこにてうせにけり さねかた くらの
かみになして やみにけるを うらやみて しう
しんとまりて すゞめになりて てんじやうの だ
いはんにいで はんをくいけるよし 人申つ
たへけり ひとりは 忍ぶをたもたざるゆへに
せんとをうしなひ ひとりは 忍ぶをしんずる
によて めぐみにあづかる よく/\忍ぶを
たもつべし
参考1
行成〈こうせい〉=藤原行成・ゆきなり・こうぜい、平安中期の書家、正二位権大納言、
小野道風・王羲之を学んで、和様書道を完成、三蹟の一
てんじやう人=殿上人、清涼殿の殿上の間に昇ることを許された者、
四位・五位の中で特に許された人および六位の蔵人
さねかたの中将=藤原実方、平安中期の歌人、中古三十六歌仙の一人、
正四位下左中将。陸奥守として下向、任地で没
かふり=冠物、髪を切らず、髷を結い、そこに冠をかぶる習慣があった、
人前で冠物を落とされて頭を見せることは恥ずべき事
こには=小庭、清涼殿殿上の間の小板敷の前にある庭、紫宸殿前庭は大庭
とのもりつかさ=殿司、後宮の清掃、輿などの乗り物、照明などの仕事をした
まもりがたな・かうがい=守り刀・笄(こうがい)
笄は髪の乱れを直すなどの身嗜を整える際に用いられる小道具、脇差の付属品のひとつ
柄と刃がついたものを小柄、髪を直したり耳の中等を掻いたりするための道具を笄と云う
びん=鬢、頭の左右側面の髪
ゐなをり=居直り、いずまいを正す
ばうじやく=ぼうじゃく、傍若無人
こしとみ=小蔀、清涼殿の昼の御座(ひのおまし)と殿上の間との境にある蔀のついた小窓、
天皇は殿上の間(ま)をここから見た
しゆしやう=主上、天皇を敬っていう語、おかみ
かうせいはいみしきもの=行成はすばらしい者だ
くらのかみの=内蔵寮の長官
はぎて=剥ぎて、取り上げる
うたまくら見てまいれ=歌枕見て参れ、和歌に詠まれて有名になった各地の名所・旧跡を見てこい
むつのかみ=陸奥国へ左遷
しうしん=執心、ある物事に心が強くひかれる
すゞめになりて=入内雀(にゅうないすずめ)、内裏に侵入する雀、実方の怨念が雀と化した
だいはん=台盤、食物を盛った皿を載せる台
はんをくい=飯を喰い
せんとをうしなひ=先途を失い、前途が無くなる
参考2
入内雀〈にうないすゞめ〉
藤原実方 奥州に左遷
せらる その一念 雀と化し
て 大内(だいり)に入り 台盤所の
飯を啄(ついばみ)しとかや 是を
入内雀と云
怒りっぽい人っていますね。きっと損してますよ。
まして怨霊になったりして、悪い名を残してしまいますよ。
「歌枕見て参れ」なんて辞令がある会社だったら、笑えますね。
釣りバカ日誌の「ハマちゃん」は、釣りができるから喜んで行くかな?
心ひとつ、心の持ちようで、人生楽しく。柔和な人は地を受け嗣ぎます。
軽鴨の介____________________________________φ(.. )
次回は、22段-4 西行の堪忍の話です。
お詫び:22段、ちょっとづつ誤字など、訂正しています。
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女郎花物語 上-22段
22段は、5つの話が集まっています。今日は2-2(後半)の部分です。
1. 嫉妬心を堪え忍んで哥を詠う女。2. 仏教に於ける忍辱の有難い話。3. 行成と実方の堪忍と切れた人の運命。4. 西行の堪忍の話。5. りよしやうぶが妻(め)の堪忍が足らなかった話です。
22段-2-2(仏教に於ける忍辱の有難い話の事-2)
しかれば あれたるの
きに おひたるあだなるくさまでも かゝる
なをえたれば 大かたにはすまじきとぞ
中にも 雪山にくさあり なをばにんにく
といふもんあり のちかの れいさうも おな
しなにかよひ 又 しんすいさうともいふ
なあれば いかにも うちあるくさのたぐゐ
にはあらず ほつしほんのもんに
加刀ちやうくわしやく ねんぶつ故応忍之
〈こおうにんし〉
もんを かのくさのなによせて しやくねんが
よめる哥に
ふかき夜の まどうつ雨に をとせぬは
うき世をのきの 忍ぶなりけり
ふきやうほんのこゝろを 江以言の詩にも
つくれり
真如珠上座厭礼 忍辱衣中石結緑
〈しんによのたまのうへちりれいをいとふ
にんにくのころものうちいしみどりをむすぶ〉
五せつちうしやうの ゝちもたのまん とよめる
哥のことばもやさしく すわうのないしが
我さへのきの とかきつけたる ふでのあとも
ゆかしく 花ぞのゝおとゞ かのくさのもみぢ
につけて こゝろの色をあらはしけんも やさ
しくおぼゆ 何かたにつけても おもひすて
かたきくさの名なり
参考1
あれたるのきに おひたるあだなるくさ=荒れたる軒に生いたる仇なる草、忍ぶ草のこと
大かたにはすまじき=大方にすまじき、少しもいい加減にしてはならない
雪山=せっせん、せつざん、北天竺の山(ヒマラヤ山脈)
にんにく=忍辱草、生於雪山之草名、
涅槃經二十七曰:「雪山有草,名為忍辱,牛若食者,則出醍醐」
「雪山に草あり、名づけて忍辱とす。牛、もし食すればすなわち醍醐を出す。」
もんあり=文(もん・ふみ)有り
れいさう=霊草
しんすいさう=尋瑞草・じんずいそう
うちあるくさのたぐゐにはあらず=内有る草の類にはあらず、そこいら辺にある草ではない
ほつしほんのもんに=法師品の文に、妙法蓮華経 法師品 第十
加刀ちやうくわしやく ねんぶつ故応忍之=加刀杖瓦石 念仏故応忍、
刀や杖やかわらや石を投げても 仏を念ずるがために辛抱しなさい
如来の衣とは柔和忍辱の心
しやくねん=寂蓮法師、新古今1949
うき世をのきの 忍ぶなりけり=軒・退き、忍ぶ草・憂き世を堪え忍ぶ
ふきやうほん=「法華経」常不軽菩薩品、法華経・常不軽菩薩品に説かれる菩薩で、釈尊の前世の姿
江以言の詩=大江以言(おおえもちとも)が詩、平安中期の学者、漢詩にすぐれる
「以言集」は今に伝わらないが「本朝文粋」などに作品が残る
真如珠上座厭礼=真如・本来持っている仏性の珠の上の煩悩の塵を厭う
忍辱衣中石結緑=忍辱の衣に石を持って当たるがそれが結縁に成って行く
五せつちうしやう=五せつ(五郎?)の中将、在原業平、阿保親王の五男、右近衛権中将
のちもたのまん=忘草 おふるのべとは 見るらめど こはしのぶなり のちもたのまん(伊勢100段)
すわうのないしが 我さへのきの=金葉591、周防内侍
住みわびて 我さへ軒の 忍草 しのぶかたがた しげき宿かな
花ぞのゝおとゞ かのくさのもみぢにつけて=新古今1027、
詞書 忍草の紅葉したるに付けて女のもとに遣しける 花園左大臣
わが恋も 今は色にや 出でなまし 軒のしのぶも 紅葉しにけり
参考2
忍ぶ草・忍辱草を通して、堪え忍んで如来の衣としての柔和忍辱の心を持つように説く。
夜叉の如くの貴女より、じっと忍ぶ貴女が好きです。
だから待っててください。遊び疲れて帰って来るまで・・・。m(__)m
軽鴨の介______________________________________φ(.. )
おまけ 忍
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