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絵入 本 朝 美 人 鑑
本朝美人鑑 巻第二
小 式 部
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本朝美人鑑
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絵入 本 朝 美 人 鑑
本朝美人鑑 巻第一
和泉 式部
(式部をいまより 汝にえさせんと 仰下されける) 保昌
夢の覚(さめ)たる心ちして よろこびのなみだ せきあへず 女院はや式部
を召つゝ 盃取らせられければ はづかしながら 君の仰にまかせ奉
り 互いにむつましき 女夫(めをと)となりけり 其後 保昌 ちと かれ/\゛
なる夜のありけれは しきぶ
やすらひに まきの戸こそは たゝ(さゝ?)ざらめ
いかに明ぬる 冬のよならん
など ひとりごちたるも いとやさしかりけり 扨二日三日ありて保
昌 まうで来りけるを 又二なく契かよはして つらかりし物語など
するほどに やかて夜も明て なく/\帰へるを
恋/\て まれなる夢の 枕だに さめはてぬまに 文結はなん
保昌かへし
さゝ分て 来る夕暮の 露よりも ひとりぬる夜の 袖をしらなん
といひかはしたるも いとおかし 扨かれ/\゛ながら 年比たえぬ中な
れば 夫婦の間に一人のむすめを もうけたり 小式部 これなり
いづみしきぶか 一生の事 むかしよりつたへしるして 世にとぼし
からず ことに秀哥をよみしに まのあたり 飛鳥のたぐひまて 其
徳をかんじたるなど 世の人の口にひろまりし事なり
美人鑑 第一終
せきあへず=不塞敢、塞(せ)き止めることが出来ない。
ちとかれ/\゛なる夜のありけれは=ちょっと涸れ涸れになる夜が有るので、
すこし飽きてきてご無沙汰になることがあったので。
やすらひに・・・=戸惑っています、貴男が来ないので真木の戸を閉ざしてよいものか、
どのように明けていく冬の夜なのだろうか。
「和泉式部集625」
やすらひに まきのとをこそ さささらめ いかてあけつる ふゆのよならむ
恋/\て・・・=恋しくて恋しくて、滅多に見ない夢の枕だけでも、
覚めて忘れる前に文を書くことにしよう。
さゝ分て・・・=笹分けて来る時に、着ている物の裾が濡れる夕暮の露よりも、
一人で寝る夜に涙で濡れている袖の事を知って欲しいのですよ。
かれ/\゛ながら 年比たえぬ中=ご無沙汰になりながら、二人の仲は続いていたので。
小式部=平安中期の女流歌人。父は橘道貞、母は和泉式部。母とともに上東門院彰子に仕えた。
史実では父親は藤原保昌ではなく橘道貞ですが、ここでは保昌との子になっています。
おまけ:
後拾遺和歌集に、保昌と式部の仲の良さそうな会話が聞こえてきそうな、
哥が1首ありました。
丹後国にて 保昌朝臣 あすかり(明日狩)せんといひける
夜鹿の啼を聞てよめる
和泉式部
ことわりや いかてか鹿の なかさらん 今夜はかりの 命と思へは
明日狩りへ行くので、弓矢の手入れでもしていたのでしょうか?
鹿の鳴く声が聞こえてきたので保昌へ、鹿が明日までの命と思って、
妻恋ゆる鳴き声をしてると詠いました。
以前に「和泉式部」を扱った記事。
小倉百人一首 56番「和泉式部」
小倉百人一首 60番「小式部内侍」
女郎花物語 下-20段「和泉式部の事」
これで「美人鑑 第一」終わりです。
十人の美女について学んできました。
美しさだけでなく、内面の美しさが不滅の美を飾りますね。
次回は「美人鑑 第二」小式部からです。
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コメント(8)
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絵入 本 朝 美 人 鑑
本朝美人鑑 巻第一
和泉 式部
(女院も ことにやさしく思召て ふびんせさせ給ひけり)
・・・其比 院へつかうまつる 藤原保昌と云人ありけるか
しきふが ゆふに世なれたるありさまをしたひ つね/\゛心に
かゝりて わするゝひまもなかりけり さればとて色にも出
さで 年月日をふるまゝに 女院も そのけしき かつ/\見
とらせ給ひけり ある夕暮の事なるに 御まへにも人すくなにて さ
びしき折から 保昌をめされて つねよりはむつましく御物語 こま
やかに 酒なといたう下されて後 女院 保昌(ほうしやう)は此比 何となく
思ひしみたるありさまなり いかやうの事か心にかゝるぞと 仰くだ
されけり 保昌 此御詞をきくより いとゝ心はづかしくて侍れと さ
らぬ躰(てい)にもてなし 御いらへ申上ければ 女院の仰に いやとよ世の
人のしりぬべき事にもあらず もし式部なとに 心のうつるふし
/\゛もあらば 有のまゝに申すべしと 仰下されつゝ しゐて とはせ給
けるに 保昌も いなひがたくて 扨々はづかしき御事なり 思ひの
色をさとられ奉るにこそと いひて かほ うちあかめ 物をも申さゞり
ければ 院もいとゞ あはれにおぼして さらば など式部にかゝるよし
をも いはで有けるぞとの給へば さればこそ 君の御心をはゞかり奉
し故に かくとも申さで 月日を送り 仏神にかけて 此事思ひ
とまり侍らんと祈けれど 弥増(いやまし)の思ひにふしゝづみ 今はせんかたも
なきわざになん など申上ければ 院 弥(いよ/\)不便に覚しなりて さらば
何事かあらん 式部をいまより 汝にえさせんと 仰下されける・・・
藤原保昌=武芸にすぐれ、歌人としても著名な人物。和泉式部は妻。平井保昌(ほうしよう)とも。
世なれたる=世馴・世慣たる、世間の事情に通じている。社交的な。
わするゝひまもなかりけり=和泉式部のことが片時も忘れることが出来ないぐらい恋している。
さればとて色にも出さで=だからといって顔色にも出さず、行動もせず。
物語=語り合うこと。
さらぬ躰(てい)=然らぬ体、何事もないようなようす。何げないようす。そしらぬふり。
もてなし=持て成し、遇(あしら)い。応対。
いらへ=答え
思ひしみたるありさま=思い込んだ様子
いやとよ=否とよ、いやそうではない。
もし式部なとに 心のうつるふし/\゛もあらば 有のまゝに申すべし=
もし和泉式部のことが好きで気になっているのなら有りのままに云いなさい。
いなひがたくて=否び難く、否定できなくて。
など式部にかゝるよしをも いはで有けるぞ=
どうして和泉式部に対してこうした気持ちを言わないのですか?
さらば何事かあらん 式部をいまより 汝にえさせん=
それならどうって事はないわ、和泉式部をそなたに得さてあげよう!
「奥手の保昌」を、端から見ていた上東門院さま、
じれったかったんですね。
保昌に、「愛のキューピッド役」をします。
「和泉式部を今より 汝に得させん!」
保昌の気持ち、どんなだったでしょうね。
次回は保昌の気持ちと結婚、その後のことなど。
お楽しみに。
おまけ:
さて夫の藤原保昌、盗賊袴垂(はかまだれ)保輔(やすゝけ)を畏伏させたという話が、
「今昔物語」巻25-7に出て来ます。
袴垂という大悪人が、着るモノが欲しいので刀を抜き、
「追い剥ぎ」をしようとしましたが、
藤原保昌は笛を吹きながら少しも隙が無く、逆に袴垂は威圧されてしまいます。
保昌は、袴垂に「家へ来い」と言い、付いて行くと、
衣を授けて「汝誤(あやま)らるな」と諭します。
しかし袴垂は改心はせず、その後も悪事をし続けて、
最後には日本最古の切腹をします。
仕事が忙しく、なかなかコメントや皆さんの所へ行けません。
ゴメンね。
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絵入 本 朝 美 人 鑑
本朝美人鑑 巻第一
和泉 式部
いづみ式部は 越前の守 吉雅のむすめにて 上東門院の官女也
藤原保昌が妻となれり 式部 いとけなき比より 宮づかへにも
出し立んと思ふ心有けれは 父 吉雅 大和にくだりける比 同く
ともなひて かのさかいにて そだてられけり 其後 吉雅みやこに
のぼりけるに 又ぐしてのぼりけるが 住なれたる所恋しく思ひ
侍れば 古郷へ便りあるごとに 文してねん比゛につかはし 哥共
おほく聞えける中に
来し方を 八重の白雲 へだてつゝ いとゞ山ぢの はるかなるかな
とよみて送りければ あねなる人 かの国にありしが 返しに
末とをく かさなる雲は いかゞせん 心ばかりを へだてずもがな
とたがひに いひかはして 年比ある程に 吉雅 宮づかへのほゐ とげ
させんとて 上東門院へ出し奉りけり かくてしきぶ 御まへ近
くつかうまつりて いとおかしき口ずさひなど さま/\゛いひ出
侍れば 女院も ことにやさしく思召て ふびんせさせ給ひ
けり・・・
和泉式部=為尊親王、次いでその弟の敦道親王と恋をし、
上東門院彰子に仕えてのち藤原保昌に嫁するなどした経歴から、恋の歌が多い。
越前の守吉雅=和泉式部の父は越前守大江雅致(まさむね)、名前の相違に関しては不明。
上東門院=一条天皇の中宮藤原彰子の院号。藤原道長の娘。
紫式部・和泉式部ら多くの才媛が仕えた。
藤原保昌=武芸にすぐれ、歌人としても著名な人物。和泉式部の夫。平井保昌(ほうしよう)とも。
来し方を・・・=今に至るまでの過去には、数多くの雲が私達を隔てて来ました、
これからもいよいよ山路遙か彼方ですね。和泉式部集191
末とをく・・・=これからずっと先、重なる変転きわまりない雲をどうしましょう、
私達の心を隔てることは出来ないでしょう。
口ずさひ=口遊び、和歌を詠んだり、吟じること。
ふびん=不便・不憫、1.かわいがること。2.かわいそうなこと。ここでは1の可愛がること。
和泉式部と姉との心のこもった文の遣り取り。
それから、上東門院のもとへ出仕し、
才能を光らせ、院から可愛がられます。
この話では、為尊親王、弟の敦道親王との話は語られていません。
ですから「和泉式部日記」の話も出て来ません。
残念ですから、「和泉式部日記」の最初の一首、
かほるかに よそふるよりは ほとときす
きかはやおなし こゑやしたると
(橘の)香りは昔の人(為尊親王)のことを思い出します。
ホトトギスよ、同じ枝の弟宮(敦道親王)さまは、
同じ声をしてるのでしょうか? 宮内庁図書寮蔵本・三條西実隆公筆
寄(よ)そふ・比(よそ)ふ=くらべる。引き寄せてくらべる。たとえる。
かなりそそる哥ですね♡♥。
機会がありましたら、
ぜひ「和泉式部日記」お読みください。
次回は、夫との馴れ初めが語られます。
乞うご期待。
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本朝美人鑑1-9-紫式部1/2
本朝美人鑑1-9-紫式部2/2
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