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●K.498 三重奏曲 変ホ長調 「ケーゲルシュタット」
モーツァルトは、ピアノ三重奏曲をおよそ8曲残している。およそというのは他人が補筆完成させたものも含まれているからであるが、その中で特異なのが「ピアノ三重奏曲変ホ長調K.498」である。通常ピアノ三重奏曲はピアノ、ヴァイオリン、チェロという編成が一般的だが、この《ケーゲルシュタット・トリオ(Kegelstatt Trio)》と呼ばれる作品は、ピアノ、クラリネット、ヴィオラという楽器で演奏される。少々変わった編成ではあるが、モーツァルトが親しくしていたジャカン家で行われる音楽の集まりのために作曲され、そのジャカン家の娘フランツィスカがピアノを、アントン・シュタードラーがクラリネットを、そしてヴィオラをモーツァルトが受け持って演奏されたと伝えられている。名曲に触発されるように、同じ編成でシューマン《おとぎ話》、ブルッフ「8つの小品」、ライネッケ「三重奏曲変ロ長調」などが誕生している。
ケーゲルシュタットとは現在のボーリングの前身となる遊戯であるが、モーツァルトはこの手の遊びが大好きだったようである。ビリヤードは自宅に台を置いていたほどだし、カードやダーツ、射的の部類は一応全部こなしていて、それをギャンブルとして楽しんでいたフシもあるが、どうやら腕前の方はサッパリだったという説もある。とすれば結構ピアニストとして、あるいはピアノ教師として稼いだ金銭をそれにつぎ込んでいたとも考えられ、モーツァルトのお茶目な一端も見えてくる。ケーゲルシュタットにしても同様であろうが、それでもこのような名曲に仕上げてしまうあたり、さすがは天才というところか。
●ケーゲルシュタット・トリオ−K.498 三重奏曲 変ホ長調 「ケーゲルシュタット」
ケーゲルシュタット・トリオ(Kegelstatt Trio)は「ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 K.498」のニックネームであり、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって1786年にウィーンで作曲された。ニックネームの由来は、ボウリングの前身である「ケーゲルシュタット(九柱戯とも訳される)」に興じながら作曲したという言い伝えによるものである。
この一風変わった編成は、友人のクラリネット奏者アントン・シュタットラーら仲間うちで演奏するために作曲されたからだと言われる。モーツァルトはピアノの神童として有名だが、ヴィオラを弾いたことでも知られる。
●モーツァルトとクラリネット
モーツァルトは、友人にアントン・シュタットラーというクラリネットの名手がいたこともあり、当時発明されて間もないこの楽器に興味を持ち、この「ケーゲルシュタット・トリオ」を手始めに、幾つかのクラリネットの曲を残している。そのうちクラリネット五重奏曲 イ長調 K.581、クラリネット協奏曲 イ長調 K.622は名曲として名高く、またオペラ「皇帝ティトゥスの慈悲」K.621のクラリネット・ソロも印象深い。また、クラリネット五重奏曲(未完)は1楽章のみの未完の作品。K.581より魅力は劣るが、ブライトコップフ社から楽譜が出版されている。
この「ケーゲルシュタット・トリオ」はクラリネットを独立して扱ったおそらく最初の作品であるが、モーツァルトはこれらの曲によりクラリネットの魅力をほとんど開発してしまったと言ってよい。
また、クラリネットに隠れがちであるが、ヴィオラパートも魅力的である。奏法的にも、一つの独立した声部としての取り扱い方からいっても、その能力を十分に発揮させたヴィオラの名曲でもある。
●楽曲の構成
第1楽章 Andante
第2楽章 Menuetto
第3楽章 Rondeau, Allegretto
●楽器編成
クラリネット 1
ヴィオラ 1
ピアノ 1
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