|
去る11月のある日、母が亡くなった。
満90歳だったが、70歳に見えた。
喪主だった私は、葬儀の日、花束を柩の中に入れるとき、眠ったままの母にこう告げた。
「さようなら」
なんの装いもなく口走ったその言葉は、私が発した言葉なのか、母が私に発した言葉なのか、
わからなくなっていた。
とにかく、この言葉とともに、母の亡骸は煙になって宙空に消えていった。
それは母との別れであると同時に、
母からの愛の大きさに初めて気づく瞬間であり、
そんな愛を一瞬のうちに失って、
真空状態に、
無重力状態に
なっていた私は年甲斐もなく、
ただべそをかき続けるしかなかった。
受ける愛と授ける愛。
受ける愛だけが大きくて、授ける愛のなんと貧弱だったことか。
私はいつの間にこんな冷たい人間になっていたのだろう。
私は、
何者にも手を差し伸べられることなく、
坂道を転げ落ちていくだけの
ひとつの塊に過ぎないような気がしていた。
|
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
2013年01月10日
全1ページ
[1]
全1ページ
[1]



