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現在27歳になる長男のKが保育園に行っていたときの話です。
Kは次男のTと7歳近く離れているので、当時はまだ一人っ子状態。なので、兄弟げんかも経験がなく、父親の私が言うのも親馬鹿の誹りを免れまいと思いますが、優しい性格の子でした。集団生活がどのようなものかも知りませんでした。
保育園への送り迎えは私がしていました。保育園で先生に預けて立ち去るときのつらさ‥‥私の背中をいつまでも見つめているKでした。
そんなある日のこと。私が迎えに行くと、暴れん坊のSちゃんがKの背中やおしりをたたいていました。Kはなす術を知らず、ただ薄ら笑いを浮かべて逃げて回っていました。私は、Kの薄ら笑いから、この光景がその日たまたま起こったことではなく、日常的に繰り返されていることを直感的に嗅ぎ取りました。
これは、このまま放置してはいけないと思いました。こんなことが続いていたら、Kは弱い子になってしまう。なんとかしなくては。しかし、大人の私が入って行っても何の解決にもならない。ここはひとつK自身の力で突破させないと‥‥。私は考え抜きました。
その夜、私はKにあるトレーニングを施しました。それは、腹の底から大声で「やめろ!」と怒鳴りつける練習です。Kは最初のうち、小さな声で「やめて」と言うのが精いっぱいでした。「やめて」では相手より立場が下になってしまいます。せめて相手と同格のポジションにいないと怒りの感情は沸いてきません。私はKにいま必要なのは「怒り」であるという気がしていました。私は心を鬼にして「『やめて』じゃない。『やめろ』と言え。」「声が小さい。腹の底から声を出すんだ。」やがてKの声はしっかりしたものになっていきました。その夜遅く、私はKの寝顔を見て、そのあまりの素直さに切ない気持ちでいっぱいになりました。
翌朝、私はKが保育園に行きたがらないのではないかと案じていましたが、Kは普段と変わらないばかりか、玄関を出がけに「よおし、やるぞー」と気合を入れ直していたのには私の方が驚きました。保育園で別れ際に私はKの方に右手を伸ばし、拳の親指を立てて「ノー・プロブレム」の合図をすると、Kも同じ合図で応えてきました。
その日は、あまり仕事が手につきませんでした。
さて、仕事を終えて保育園に迎えにいくと、Kはひとり2階に通じる階段のところに座って泣いているではありませんか。「ちくしょう、ちくしょう」と呟きながら溢れ出る涙を手の甲でぬぐっていたのを今でもはっきりと覚えています。先生がやって来て、Kの頭を撫でながら、「Sちゃんに対して少しもひるまず立ち向かっていったんですよ、泣かされちゃったけど偉かったもんねえ。」先生も涙目です。
私はKをぎゅっと抱きしめ「よくやった、よくやった」と呟きました。結局、これを境にKとSちゃんは大の仲良しになっていきます。
私自身、人生の岐路に立ってへこみそうになったとき、「よおし、やるぞー」と言って玄関を飛び出していったKの姿を思い出し、勇気をもらったことが幾度もありました。自由とは勝ち取るものです。怠けやわがまま、身勝手などとは質が違うものだと私は思っています。
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