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プリンの恩返しは、それだけでなかった。
美姫さんが、ピアノを教わって帰るときだった。家まであと50メートルほどのところで、たまたま会っ
た純也君たち男の子三人が、美姫さんを取り囲み、「なんで、ちゃんとしゃべらないんだ」と文句を言っ
ていた。自動販売機の前で、純也君が「ジュースをおごってくれよ」と言ったのが、きっかけだった。
ふだんから口数の少ない美姫さんは、図々しい純也君に何と答えてよいか困っていた。
何も話さない美紀さんを、純也君がこづき始めたときに、リードにつながれていないプリンが家の柵を
とびこえてきた。
「遠足のときに、ついてきた犬じゃないか」
と言って、少し距離をおいた純也君がげんこつでプリンをなぐるまねをした。
(かみつかれたらどうしよう)とこわごわとそうしていることが、美姫さんにはわかった。
プリンは、純也君たちをにらみつけ、今にもとびかかりそうに身がまえた。
こわいくせに、純也君はけるふりまでした。
プリンが、低い声でうなったあと、大きな声でほえた。
純也君たちは、思わずあとずさりした。
その声に、猛君が家から出てきて、「どうしたんだ、プリン」と声をかけた。
プリンのことがそうとうこわかったのか、純也君はいらだっていた。
「猛が飼っていたのか、しっかりしつけろよ。」
猛君が「よし、よし」と頭をなでると、プリンは前足をまげ、行儀よくおすわりをした。
純也君は「やれば、できるんじゃねえか」とどなり、プリンをにらみつけた。そのあと、また美姫さん
がしゃべらないことを責め始めた。「ジュースのことだって、冗談で言ったのに」と言い逃れをした。
それを聞いていたプリンが、また立ちあがり、うなり始めた。
その頭をなで、意を決したように猛君は強い調子で話し始めた。
「純也君。言ってることが、あまりにもひどすぎるよ。」
これまで純也君に遠慮していた猛君が、初めて勇気をふるって言った言葉だった。
すごんたプリンときっぱり言いきった猛君に、気おくれした純也君たちは、ブツブツ文句を言いながら
立ちさった。
美姫さんに笑顔がもどったことや、心をふるいたたせた猛君のことをプリンは喜んでいるようにしっぽ
をふった。
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