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高圧ガス販売店における保安のイロハ 2015-3
8.ハインリッヒの法則
労働災害における著名な経験則の一つに、「ハインリッヒの法則」というものがある。1つの重大事故の背景を調べてみれば、29の軽微な災害事故があり、その背景には三百の無傷のヒヤリハットが存在するというものだ。この法則によれば、些細なことを防ぐことが、なにより大被害の出る事故防止の近道だということがわかる。経産省が発表している高圧ガス事故措置マニュアルは、労働安全衛生法上でいうような、物的損害や人的被害の出るものだけでなく、軽微な漏洩すら、すべて届出し、それを管理し、再発防止し、撲滅しようとすることで、大惨事といわれる、高圧ガスによる重大な災害を起こさないように考えられている。最終的には、最近コンビナート地域の化学工場で連発しているような、公共にまで大きな被害を伴う、甚大災害の抑止さえ目的になっているのだ。
そのためには、消費事業所における定期的な点検が不可欠であり、発見された軽微な漏洩などは事故として再発防止を対策されなければならない。要するにハインリッヒの法則でいう、三百の無傷のヒヤリハットを早期に発見し、減らしていくことが、高圧ガス保安法が軽微なヒヤリハットを事故として扱う所以である。
一方、環境犯罪学上の理論として「ブロークン・ウィンドウ理論」といわれるものがある。こちらは、1990年代半ばにニューヨークで地下鉄の落書き消し、美化活動などとして展開され、当時アメリカ有数の犯罪多発都市となっていたニューヨークから、実際に凶悪犯罪を一掃したという実績のあるものだ。理屈はわかりやすく、同じ町の2つの路地の一方にいくつかごみが捨てられたまま放置されており、一方は常にきれいに片付けられ清掃されていたとしたら、その後その両方の路地がどうなっていくかを考えていただきたい。ごみがいくつか捨てられていた路地は、その後もごみを捨てていく人が絶えず、汚くなって、不審者のたまり場なるようになったり、そのうち暗くなったら痴漢や強盗などが起きるなどという転落の道が想定されるが、きれいな道にはなかなか誰も最初に汚そうという勇気がわかず、治安もよいままに違いない。無秩序がさらに深刻な無秩序を育成するといった悪循環を防ぐためには、小さなほころびの段階で手を打っておかなければならない。面倒がって、その段階を過ぎてしまえば、ダメなことを駄目だと感じられず、誰にも手をつけられなくなる状態になってしまうのだ。
消費現場も同様で、いつも指差呼称で安全を確保し、小さいヒヤリハットをなくしていく努力を続けていけば、消費現場の保安意識を醸成し、大きな被害の出るような事故を食い止めるのはもちろん、もしも天災による大規模な災害や、隣地からのもらい火災などの被害にあうことがあっても、自ら抱えている危険物=高圧ガスによって、さらに大きな被害を生んだりしない土壌ができあがることであろう。そのためには、仕事の中に保安活動が行えるような工夫を、その現場の状況に応じて提案していく販売店の知恵と努力が必要となってくるに違いない。
9.していい商売?
我々溶材商は高圧ガスを流通させるという商売を身につけている、つまりメーカー・充填所から消費現場に高圧ガスという危険物を届けるという商売が、安定した利益を生むということを知っていて、必要とする顧客をつかみ、その手段である容器を所有していたり、運搬に求められる規制を知り、手段を持っているということで高圧ガス販売ができていると思われる。
もちろんそれだけでこの商売をしている人はいないと思うが、もしも「高圧ガスが売れる立場にいるから、消費者保安などに対して、十分なことはできないけれど売っている」ということで商売をしているところがあるとしたら、こういう例えと同じことになるのではないかと思われる話を見てもらいたい。
サーカスでもやっていたということで、合法的にライオンを飼っていた人がいたが、その仕事が失敗して、手元にライオンだけが残ってしまった。お金がないので、しっかりした道具はなく、毎日十分な食事は与えられない。檻は大型犬用の簡単なもので、長年使ってきてガタがきているが修繕もしていない。お金がいるということで、公園で遊んでいる子供を誘ってライオンにちょっとしたエサをあたえさせて金をとろうと考えた。一回100円程度の入場料しかとれないが、ライオンが必死で檻に飛び掛ってくるスリルが面白いと、そこそこ子供はきてくれる。しかし、子供たちはまさかライオンが飛び出てくるとは考えてはいないし、飛び出してきたときの対処もわかるはずはない。ガタのきている檻は、依然修繕もされず、限界がきそうである。
こんな極端な商売は許されるはずはないが、こういうことを企業のリスク管理がなされていない状態というに違いない。万が一(いや、時間の問題だと思うが)、これで事故が起こって子供に被害が出たとしたら、その実態が明らかになってはじめて、世間は「十分な安全に金がかけられないなら、こんな見世物をするべきではない」と言うに違いない。
振り返ってみれば、高圧ガスを扱える立場にあって、その手段が整っていた。だから商売をしたが、商売が手一杯で消費先保安にまで配慮できる余裕はないというのであれば、このライオンの見世物屋と変わらないのではないだろうか。
10.高圧ガスwithout 保安
高圧ガスは危険なものだと繰り返し述べているが、ではそんなに危険なものをユーザーは好むだろうか?もちろんこれに代わるものがなければ仕方なく使わなければしかたがない。だがそのうち、こんな危険なものに頼らなくても、離れていく日はくるだろう。今でも、「そんな危険なものを大事な客である自分に持ってくるはずはない」と嘯いている顧客も多いはずである。
いまどき、アイロンが熱くてやけどをしたら、消費者センターに文句を言う時代である。そういうつもりがあるから、高圧ガスが危険だといってもそれがどれほどのものかわかってもえていない現場が、少なくないのかもしれない。
高圧ガスは危険である。容器は危険の缶詰である。しかし、高圧ガスは便利な社会生活に大いに役立ち、上手に使えば安全に利用できる。つまり、安全に利用できる方法があって、それを行う前提として、高圧ガスの危険性の知識を持つ必要もある。これを伝えるのは我々販売店に他ならない。
そこで高圧ガス販売店が、消費現場に対してしてよい商売、提供すべき商品を「高圧ガス with 保安」と名づけたい。逆に、先に消費者が「持ってくるはずがない」と思っているとした「そんな危険なもの」とはなにか、それは「高圧ガス without 保安」であり、確かにそんな危ないものは、大事な大事なお客様に納品してはいけないものなのだ。
最後に、この内容に納得し、ぜひ自らが消費者を守る知識に精通したいという後学の諸氏に、その意欲が薄れる前に、少なくとも販売主任者の免状、できるなら製造者免状の取得をお勧めするとともに、その他高圧ガス保安の関連知識を取得するための資料をご紹介しておく。
>> 高圧ガス保安の学習資料類 <<
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