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「幸せって何だと思う?」
そう君が問いかけてきたのは、春と夏の中間に位置する時期だった。 蒸し暑い空気が僕と君を包んで、かなり思考が億劫な時だった。 「知るかよ…そんなの自分で考えろ」 そう簡単に切り返して、僕は手元の小説に視線を戻した。 昼休みは短い。この短い間に、少しでもストレスを発散してから午後の授業に臨もうと思い、僕はいつも小説を読んでいた。 彼女は僕の机の前から上目遣いで僕を見てきた。その目は、捨てられた子犬のように悲しげで、何も知らない純粋な少女のように澄んでいた。 「ねぇねぇ、別に教えてくれたっていいじゃん。君の思う幸せってなんなの?」 僕は少し考えた。『幸せってなんなんだろう?』と、そう考えた。 「生きる事じゃないか」 僕は、簡単にそう答えた。 彼女は不機嫌な顔で「そうかなぁ…」と言った。 彼女のその膨れっ面が、少し可愛らしいと思った。 彼女の膨らませたほっぺたに触ると、フニフニと軟らかく、モチモチとした触感があった。 面白くなってほっぺたを少し引っ張ってみる。 顔の右側の肉が引っ張られ、少しゆがんだ顔になった。 そのまま彼女に問いかける。 「それじゃぁさ、君の考える幸せってなんなのさ?」 尚もほっぺたを引っ張り続ける僕の手を払ってから、彼女は答えた。 「そんなの、辛い事に決まってるじゃん」 自信満々の、万人全てが当たり前のようにそう答えると思ったかのような答え方だった。 「何故?」 自然とそう言ってしまった。僕は根っからのツッコミ役なようだ。 それにも彼女は自信満々に答える。 「辛い物を食べると舌が痛くなって、私って生きてるんだな〜って思えるじゃん。それに、辛いと幸せって似てるでしょ。『幸い』って書いたら、辛いって読めそうでしょ?」 彼女の理屈は僕には余り理解できなかった。 口を開けたまま考え込んでいたら、彼女はまた口を開く。 「だから今日の放課後は、幸福になれる場所に行こうよ。」 「幸福になれる場所ってどこだよ?」 「CoCo壱に決まってるでしょ。私はビーフカレー10辛で、トッピングにゆで卵とパリパリチキンとチキン煮込みを君の奢りで。今日は給料日なんでしょ?奢らせてあげるよ。感謝しなさい。」 どうやら彼女の幸福論は、僕にカレーを奢らせるために仕掛けた罠だったようだ。 ここで嫌だと言えばいいのだが、どうしても彼女に甘くなってしまう。たった1200円のカレーで彼女の笑顔が見れるなら、安いものだと思ってしまった。 もしかしたら、僕は彼女の事が好きなのかもしれない。彼女に甘くする事が、僕の幸せなのかもしれないと思った。 |

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