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「描くことが逃げ道だと言われてしまえば仕方ないね。
だけど茂樹の描いてる時の表情、私は好きだよ」
彼女が居なくなってしまったことを
いつから悲しいと思わなくなったんだろう
キャンパスに絵筆を擦りつける分だけ
自分の呼吸が消えていくような気がした。
絵を描いて生きていくことを
親に告げた日、家を追い出された。
「死んじまえ!」
大声で叫んだところで何も変わらない現実が
目の前に立ちはだかった瞬間だった。
若気の至りだ
そう思われたって
あの学校という恐ろしい世界に戻るよりはマシだ。
考えるより先に家の前から駆け出していた。
僕はあの頃ひどく荒れていた。
親が嫌いだった。
先生が嫌いだった。
同級生が劣って見えて
親友さえも歪んでると思った。
全てが闇の中に存在している気がして
それがとてつもなく悲しくて
だから逃げた。
自分が納まっていなければいけなかった世界から
飛び出した。
別にそれが悪かったとは思わない。
実際、食べていくには困らない生活を
今、僕は手に入れているのだから。
自分自身に素直になれたんだと思う。
だけど時に
ふと感慨にひたっていると
世の中が遠のいていくのを感じてしまう。
自分がそこに存在していないで
ただひたすらに目の前で世界が動いているような
そんな感覚に陥ることがあるのだ。
そのことで僕はひどく悩み続けた時期があった。
きっとそういう不安が募ったのは
当時、僕には深く関わることのできた人間がいなかったからだろう。
親や友人と関係を持たなくなってから
周囲の物事全てから切り離されていく感覚があった。
そんな衰退しきった僕を救ってくれたのは
彼女だったんだと今更ながら思う。
彼女と出会ったのは秋が終わりかけて
冬が道の端々で顔を出し始めた季節だった。
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