Sing a song

一緒に眠った。あなたの隣で目覚めた。幸せだと思った。

夏物語。

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ちょっと保留中。

お許しくださいね。
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夏物語。 11

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11
 
  ごめん。あたし、今日彼氏できちゃって。
 
「だから一緒に帰れないや」
 
「ん。あ、あそっか。わかった。」
 
そうなんだぁ。
 
うん、とゆりが小さく頷く。
 
「で、も、すごいねぇ。いいなぁ。彼氏かぁ」
 
「ごめんね」
 
「えぇ、いいよお。そんなの。気にしないで。彼氏と帰りなよ」
 
うん、とさらにちいさい返事が返ってくる。
 
そっかあそっかあ、と繰り返すうちにだいぶ状況が飲み込めてきて
 
そして、聞いてしまった。
 
聞かなければ、よかったことを。
 
「え、誰なの。ゆりの初カレだもんね。お祝いしなきゃ」
 
「うん。あのね」
 
坂下、なの。
 
「え」
 
「坂下」
 
ぐるん、と意識が回転してしまった。
 
なに。なんていったの。
 
坂下、とゆり、付き合うの。
 
なんだろう。こういう気持ち。
 
なんだろう。なんて言うんだろう。
 
「ま、き?」
 
ああ、そうか。
 
ショック。
 
ショックなんだ。
 
あたしは今、ショックなんだ。
 
「まき、どうしたの?」
 
「え、」
 
「なんで泣いてるの?」
 
「あ、あぁ。ごめん。嬉しいね。そっか」
 
坂下なんだぁ。
 
わざと、なんでもないようにこぼれた雫を拭う。
 
「よかった。よかったねぇ」
 
「うん」
 
ありがとう。
 
ちっとも嬉しそうじゃないゆりの姿をぼやけた視界にいれたまま
 
あたまの隅々に感情が行き渡っていた。
 
ショック。ショックだ。
 
悲しい。悲しい、と。
 
じゃあね、とゆりが鞄を持ち上げて教室から出て行ってから
 
しばらく呆然とその場につっ立っていた。

夏物語。 10

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10
 
「いーち、にー、いちにさんし」
 
男子の掛け声が遠ざかっていく。
 
野球部だろうか。
 
こんなに暑くても外で練習する部活はすごい。
 
あたしなら立っていられない。
 
日に焼けることも嫌。
 
なのに彼らは真っ黒になることをむしろ楽しんでいるような気がする。
 
きっと何かに没頭するというのはそういうことだろう。
 
でも体育館の中も十分に暑い。
 
屋根があり日差しが照りつけてこない分、ひどく熱がこもっている。
 
息をするだけで汗が滲みでてくる。
 
それなのに奴は一本でも多くシュートを打ってやろうと
 
必死に走り回っている。
 
「よし、小西。ナイス!」
 
あぁ、小西がシュートを入れた。
 
奴はボールを小西にやってしまった。
 
確かにパスも上手いけど、やっぱりシュートがみたい。
 
なんて思っている自分がいる。
 
「坂下ぁ、おっ前上手いなあ」
 
パン、と手と手が弾き合う。
 
「小西ぃ、おっ前でかいなぁ」
 
「っのやろ。背だけがでかい奴にこの腹回りの脂肪の重さが分かってたまるかって」
 
小西の手がすばやく坂下の頭を捕らえ、ぐりぐりとねじる。
 
「ぎゃ、やめろや」
 
ぎゃはは、と笑い声が響き渡る。
 
坂下は楽しそうに笑っている。
 
「可愛いやつ」
 
誰にも聞こえないくらいの小声でぼそり。
 
すると突然後ろから大声がした。
 
「まぁーた坂下はぁ。やってんねー。ねぇ元カノジョ」
 
いつの間にか右隣に腰を下ろしていたゆりが、あははと笑って答える。
 
「もう今はカンケイないけどねー」
 
「なんでよーぅ。今でも仲いいんでしょ」
 
ゆりと話しているのはどうやら佐々木さんみたいだ。
 
声で分かる。
 
だけど振り向かない。振り向きたくない。
 
「佐々木ちゃん、テニス部は順調なの?もう終わった?」
 
「あー、うん。ちょっとモメちゃってさぁ」
 
「へぇ、もしかしてあの子?」
 
「そぉそ。もー参るったら。」
 
「大変だねぇ」
 
手が震える。
 
あのときの記憶が甦る。
 
佐々木さんを苦手になったあの日が。
 
 
「おわったー。かえろぉ」
 
「ねぇ、あの店寄んない?」
 
「いいねぇ」
 
ざわざわと話し声や椅子を引く音を聞きながら溜め息をつき椅子から立ち上がった。 
 
その日はゆりと帰るつもりでいた。
 
だからいつものように声をかけた。
 
「ゆり、帰ろ」
 
「あ、えっとね」
 
ゆりの目が伏せられたまま泳ぐ。
 
嫌な予感。
 
少しの沈黙があり、ゆりの口が開いた。
 
    ごめん。あたし、今日彼氏できちゃって。

夏物語。 9

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今朝はひどく暑い。
 
日焼け止めをつけすぎたのか肌がべたりとしている。
 
裏腹にジャージの黄色のストライプが目に鮮やかだ。
 
あたしはまだ昨夜の坂下の言葉が頭から離れないでいた。
 
   お前、何言いたいの
 
あの後からどちらも何も喋らなくなった。
 
坂下の険阻な表情は初めて見た。
 
いつもはヘラヘラと笑っているくせに。
 
すぐに謝れば済むことなのについ刺々しい感情が邪魔をして
 
結局その日は最後まで坂下と会話することはなかった。
 
坂下が悪いわけじゃない。
 
あたしが勝手に不安を引きずっているのだ。
 
本当はもう、ゆりと坂下は関係ないと割り切るべきなんだろう。
 
いや、割り切ってもやはり二人の距離はあたしと坂下の距離より断然近いかもしれない。
 
だけど過去に嫉妬したってしかたない。
 
それに自分の気持ちは今でも変わらないままなのだ。
 
部活の練習試合でもつい目で追ってしまう。
 
いつもボールを夢中で追いかけている坂下を。
 
シュートを決めた後のはにかむ表情を。
 
ゆりはそのことに気づいているのだろうか。
 
できれば悟られたくない。
 
 
「まき、ご飯よぉ」
 
母の甲高い声がしてはっとする。
 
とりあえずは部活に行かなければ。
 
どんなに気が重くても毎日は区切られている。
 
確実に秒針が進んでいく。
 
きっと何分後かには外の強い日差しにクラクラしながらも学校に向かっている自分がいるはずだ。
 
そうしていつもと変わりない一日を過ごすのだ。
 
溜め息をつきながら階段を下りていくと味噌汁の匂いが鼻をかすめた。

夏物語。 8

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少しオレンジに近い光に照らされたステージの上ではドラムの音が鳴り響いている。
 
ヴォーカルが上手い。
 
坂下は隣の席で見入っている。
 
「うまいよなぁ、このバンド」
 
「うん」
 
こくりと頷きながら横顔を眺める。
 
赤や青の光を受けてピカソの絵みたいだ。
 
真剣に見ているのかこちらの視線には全く気づかない。
 
いつだって素直になれない自分に笑ってしまう。
 
今日だって本当は一緒に花火を見たり屋台をまわったり
 
こういう風に隣でステージイベントを楽しむのを期待していた。
 
そのくせ気持ちを悟られるのが怖くて、いざというときに逃げてしまう。
 
部活の皆やゆりに気を使わせてしまう。
 
けれどそれには理由があるのだ。
 
率直に自分の気持ちを伝えるのは避けたいと思ってしまう理由が。
 
ギターが震えるたびに激しいメロディーが耳に焼き付いていく。
 
坂下、と小さい声で呼ぶとステージに向けられていた顔がこちらをむく。
 
「なん?」
 
「なんかさ」
 
「なん。言ってみんさい」
 
「うん。あたし坂下にだいぶ可愛くない態度とっちゃってるね」
 
「はぁ?」
 
「あたし、可愛くない」
 
「あぁ、まあね。ていうよりお前が可愛いとか考えられん」
 
「失礼な」
 
「別に俺は気にせんけど」
 
「ふぅん。さっきまで傷つくとか言ってた人がねぇ」
 
「やぁ、ちがくて。あれとこれとは別。今のお前はお前らしいじゃん。
 
 でもああやって“よそよそしいタイド”されるとさ」
 
なんか調子くるう。
 
そう言ってクシャクシャと頭を掻く坂下はなんだか可愛い。
 
「わかったわかった」
 
ヨシヨシと頭を撫でると思いっきり払われる。
 
「何なんですか、鈴村サン」
 
今日はやけに慣れなれしくないですか。変ですよ。
 
坂下がふざけて軽く肘をぶつけてきた。
 
お返しに力いっぱい腕をはたいてやると相手は苦笑を浮かべる。
 
「あんねえ、そんな力込められても困りますから。
 
ていうかお前もう少し淑やかさっていうもの身につけろや」
 
「ゆりみたいに?」
 
「あぁ?なんで川村がでてくんの」
 
怪訝な顔つきの坂下を見てヤバイと思う。
 
よせばいいのに、つい言葉が出てしまう。
 
「だってさ、ゆりって可愛いし大人しいし女の子だなぁって」
 
坂下だって思うでしょ。
 
坂下は押し黙ったままこちらを見ていた。
 
視線をふいと逸らして続ける。
 
「思うでしょ。あたしみたいなのより可愛いなって」
 
はぁ、と隣から溜め息が聞こえる。
 
 
「お前、何言いたいの」
 

夏物語。 7

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坂下の呼吸に合わせて白と黒のボーダーが少しだけ揺れる。
 
すっきりとした一重の目がステージを見つめている。
 
「坂下」
 
「なした?」
 
「皆はどこいるの?」
 
「さぁ」
 
「さぁ?」
 
「いやだってあいつらお前と連絡ついた途端、『ここに座って待っててやれ』
 
 とか言って、お前らはどうすんのって訊いたら、『はい、ちっちゃい事は気にしなーい』って」
 
ぶっ、と噴出す。
 
  ちっちゃい事は気にしなーい
 
みんな相変わらずだ。
 
「古いネタ使うねー」
 
「あぁ?」
 
「ほら、坂下もやってごらん。ワカチコワカチコォーって」
 
「嫌だ」
 
「なぁんでー。ね、絶対カワイイって」
 
「絶対嫌だ」
 
クスクスと笑うと坂下もクッと笑う。
 
さっきまで気まずくなるかもしれないとか心配していたのも
 
どうやら杞憂だったようだなと思った矢先、 
 
「そういえばお前、なんであん時目ぇ逸らした」
 
「あれは」
 
こちらが答えに困っていると、坂下ははき捨てるように続けた。
 
「そういうの傷つくわ、まじで」
 
「それだけで傷つくの?」
 
あはは、と笑う。
 
「ったりめぇだろが。俺の心は弱いんだよ。大切にしたれや」
 
「ふーん。その背丈で『弱いんだよ』ですか、あなた」
 
「あーそーだよ。背が高い奴だって低い奴と変わりゃしねーよ」
 
ほんと、背だけで判断されるのってこまんだよね。
 
ぼそりと呟く坂下は今日も少しだけ猫背だ。
 
部活のときはちっとも猫背じゃないのに。
 
はいはい。すみませんねぇ、と言いながら坂下の隣に座るとパイプ椅子がギィと軋んだ。

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