空に続く道

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デジタルガール

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「私、アナログなのよ」

 そういって、微笑む君が歪んだ。
 髪の先から、0と1の数列に変化し、それがボロボロと剥げて行く。
 警告音が耳元で鳴り、僕は神経端末を頭から外した。

 ゆっくりと目を開ける。
 手元の機械にはタイムオーバーと表示されていた。
 どうやら、長い間使い過ぎていたらしい。

 僕は溜息をつくと、ゆっくりと立ち上がり、台所にむかった。
 後輩に指摘されてから、デジキャバに通うのが億劫になり、自宅に家庭用バーチャル体験機を購入したんだけれど、まだ出始めのせいか、値段の割に出来が悪かった。

 蛇口をひねり、水を伏せていたグラスに注ぐ。
 グラスを満たした冷たい水を、喉に流し込むと体が干からびていた事を、脳が思い出し、逆に急激な喉の渇きを感じた。

 君を失ってから、もう5年。
 僕はこんな事ばかり繰り返している。
 君をデジタル化したなんて知ったら、君はきっと怒るだろうね。
 でも、君が僕に教えてくれたように、僕らの心はデジタル化できないから、面倒なアナログだから……。いつか君は言ったよね。その通りだったよ。デジタルのように、アナログは簡単にデリート出来ない。
 だから、まだ、君の存在が僕には必要なんだ。
 後輩が言ったように、所詮デジタルは情報でしかない。
 けど、この普遍的な数字が記録する記憶の情報を、たかが、と割り切れる自分はここにはいない。

 あれからしばらくして、仕事を辞めた。株取引も止めた。
 それでも数字から、デジタルから解放されない僕は、毎晩君のデジタルと思い出の中を彷徨っている。

 ふと、電気コンロに目が止まった。

 君が死んだ原因は、自分の油絵に火をつけたからだと聞いている。
 君は最期の時、何を思ったのだろう?
 それだけは、どれだけ数字に聞いてみても、答えは返ってこない。

「僕も、面倒なアナログだったよ」

 僕はそう呟くと、もう一度冷たい水を喉に流し込んだ。


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デジタルガール 9

 3日後、君から手紙が届いた。
 まっ白い封筒に、真っ白い便せん。
 名も知らぬ、真っ白い小さな花が同封されていて、清らかな香りがした。
 そこには、黒いペンで君の涙の訳が綴られていた。

 君は、デジタル化に浸かりきった社会に父親を殺されていたんだ。

 君の父親は有名な彫刻家だった。
 しかし、ネットで根も葉もないうわさが飛び交い、君の父親がつ作った彫刻が世界中で破壊される騒動にまで発展した。
 評価はガタ落ち。それまで作品を評価していた人たちもこぞって君の父親をこき落とした。
 そして、最後の作品があるオークションで、一円も値をつけなかった日……君の父親は自ら命を絶った。

 だから、自分はデジタルは嫌いなのだと書いてあった。
 手で触れて、肌で感じて、舌で味わい、目で見て、耳で聞き、そして心が震えるもの。
 それだけを信じようと思ったと。
 馬鹿な僕は、そこでようやくわかったんだ。
 君が頑なに、僕に聞いてきた

「私、面倒でしょ」

 の意味が。
 アナログは面倒なんだ。
 デジタルのように、かっこしとした基準がない。良いも悪いも、右も左も、暑いも寒いも、何もかもを自分で感じ決めないといけない。
 それは不安定で、あやふやで、形のないものだ。
 だから、面倒なんだ。
 手間がかかり、時間を必要とし、なにより信じる力が大切になる。

「私、面倒でしょ」

 確かに。君は数値化できない。
 君の心も、君の想いも、君の存在自体。
 でも、だから、僕は……。
 僕は家を飛び出した。
 彼女の手紙を握りしめて。

「私、面倒でしょ」

 あぁ。面倒だ。
 でも、でも……。

 目を閉じた。
 簡単に手に入る金。
 合理的に目に見えるランキング評価。
 年齢。生年月日。体のサイズ。
 数字、数字、数字……。
 でも、そんなものどれだけ寄せ集めても、君にはならないし、僕にもならない。
 僕らは、僕らは……。

 甘い香りが鼻先をくすぐった。
 握りしめたせいで、手の中であの白い花が潰れたようだ。

 彼女の下へと急ぐ。
 アクセルを踏む。
 ハンドルを切る。
 クラクションを鳴らす。

 そして、辿りついた彼女の家は……。

 灰になっていた。


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デジタルガール 8

 僕らは農園を後にし、そこから1時間かけて君の家へと向かっていた。
 あの日以来、僕らが一緒に寝泊まりするのは君の家と決めている。というか、君が決めた。
 ドアを開ける。
 ロッジ風の作りの君の家は、昔のアニメ映画に出てきた絵描きの家と似ていた。小さな魔女と黒猫の話の、あの映画だ。
 そして、君はやっぱり絵を描いている。
 ドアを開けてすぐに、いつも鼻をつくような匂いがする。
 油絵具の匂いだ。
 何度か来るうちに少しは慣れてきたが、それでも、やはり刺激臭な事には変わりない。

「ねぇ。結婚したらアトリエを別の建物で作ろうよ。お金なら心配ないしさ」

 僕はここに来る途中でよった農場主のうちから貰った野菜を抱えながら、君が手掛けている最中の大きなキャンバスの横を通り抜けた。
 先に台所に入っていた君は、エプロンをつけながら首を突き出し

「いやよ〜」

 と、やはり容赦なくきっぱりした答えを返す。
 君が開けたのだろう、窓から入り込む夜風に、手元の紙袋がカサカサと音をたてた。とたんにホウレンソウの青臭い香りが昇って来て、油絵具のそれと混じり合い、何とも奇妙な臭いになる。

「だって、これじゃ、油絵具を食ってるか、君のおいしい料理を食ってるかわからなくなるじゃないか」

 僕は非難の色と、ついでに今日こそ首を縦に振ってくれないかという願いも一緒に込めて、彼女の隣に紙袋を降ろした。

「そんな事ないわよ。絵はね、降りてくるの。ある時、突然」

 君はそう言いながらオール電化のキッチンで湯を沸かし、貰ったホウレンソウを物色し始める。

「だから、生活のすぐ傍にキャンバスがいなきゃダメなのよ」

「それは、何時に降りてくるとか、どうやったら降りてくるとか、ルールや法則はないのか?」

 僕は手伝う事はないか目で訊きながら、口では違う事を尋ねる。彼女も目でパスタの位置を示しながら

「ないわよ」

 と答えた。
 後ろの戸棚だ。古く、手彫りの彫刻が施されている。この間個展にいったあの彫刻家に買った後から彫ってもらったのだと聞いているが、僕はその彫刻家がやっぱり嫌いだった。
 正直に認めると、僕より彼女と話が合い、僕より男前だったからだ。
 何となく嫌な気分になり、パスタを入れた長ぼそい筒のようなものを取り出し、少々乱暴に彼女に突きつける。
 彼女はホウレンソウを洗った手でそれを受け取りながら、僕の顔に苦笑した。
 きっと、僕があの彫刻家に嫉妬しているのは知っている。でも、やっぱりその事には触れずに

「アナログなのよ。面倒臭いでしょ」

 と答えた。
 彫刻家をかばったように思えて、少しムカつく。冷静に考えればただの言いがかりなのだけれど、僕はその時、久々の太陽に頭をやられていたのかもしれない。
 そして、言ってはいけない事を言ってしまったのだ。

「でもさ。なんだかんだ言ったって、芸術もデジタル化されるんじゃないか」

「え?」

 振り返った君の気配は感じていた。でも、僕はその時とっくに台所を出て、居間の大半を占拠してしまっている君の書きかけのキャンバスに向かっていたから、君がどんな顔をしていたのか知らない。
 僕はしてやったりの思いで、色が塗りたくられたそのキャンバスを、指の先でつついた。

「最近は、こうやって書かれた絵もデジタル化されてネットで売られている。個展を開いて人に足を運んでもらうより、ネットに乗せて世界に発信する方が多くの人の目にもとまりやすいからだ。そして、表現は受け手がいて初めて成り立つ。それに、少なくとも、君の絵にしたって、その彫刻にしたって、誰かが値段をつけるわけだろ?だったら、芸術的価値を数値化している……つまり、値段を付けた時点でデジタル化されてるっていう事になるんじゃないか?」

 乱暴な論理だとは思ったけど、僕は君が大切にする彫刻家を一時でも貶められたらそれで気がすむと思った。
 そんなくだらない、子供じみた自分の意地の悪さに、僕はまだ気がつかずにそのまま、顔を上げた。
 台所の向こうで、君が青い顔をして立っていた。
 唇を強く噛み、強烈な憎しみを持って僕を射抜かんばかりに睨みつけている。
 その目には涙が溢れ、僕はその雫に気がついた時、初めて君を酷く傷つけたことに気がついた。

「出てって」

 低い声は風が揺らすカーテンの音より小さかった。
 でも、僕にはわかった。
 僕は、僕は言ってはいけない事を言ってしまったのだという事を。



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デジタルガール 7

 5時のチャイムが鳴る。
 一応の終業の合図だが、これで帰る日本人は公務員くらいだろう。
 パソコンの前に座る僕の肩に、誰かの手が乗った。

「笠原先輩」

「あぁ」

 あのコンパに僕を誘った後輩だった。
 僕は振り返りながら、彼の顔色が悪いのに気がつく。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

「いいえ。かみさんにしごかれました」

 肩を落とす彼の横顔に、あの日の活気は見当たらない。
 僕は少々同情して、彼の落ち込んだ肩に手を置いた。

「なんだ? 相談なら、一緒に飲みにでも行くか?」

「いや、それなんですけどね……」

 そういうと、後輩は携帯端末を差し出した。
 指先でボタンを器用に操作し、何かの画面を呼び起こす。
 それはピンク色で、挑発的な下着をつけた女性の画像と大きな文字が踊る、一見しただけで風俗店のものとわかる画面だった。
 最近流行りのデジタルキャバクラ、通称デジキャバだ。
 普通の風俗と違うのは、人間が相手をするのではなく、神経端末にコードをつなぎ、そこから送られてくる情報に接待してもらうというものだった。

 実際の人間が相手ではないから、おさわりどころか本番も問題ない。しかも、好みの女の子をいつでも選択できるし、人気ランキングとか言って、同時にその女の子のデータを何人が接続しているかまでわかったりする。
 とはいえ、神経に伝達される刺激は本物だから、酒を飲まなくても酔っ払った気分にはなれ、実際事に及んでいなくても快感は本物と同等以上に味わえる。

 もともとは、酒が飲めない人や身障者向けに開発された擬似体験プログラムらしいが、今や金とリスクの少ない風俗としても利用されているものだ。
 この後輩のように、小心者のくせに浮気癖もなおせない輩にも好評だと聞いてはいた。

「なんだよ、それが見つかって絞られたのか?」

「まぁ、そんな所です。で。僕、回数券買っちゃってんですけど、今日中にこれを処分して来いって言われまして。先輩。ただでいいんで貰ってくれますか?」

 まるで、マラソンを完走して来たような疲労感漂う彼の表情から、きっとこれから彼が家庭に帰って起こるのであろう惨劇を一緒に想像し、僕までその疲労感に苛まれた。
 僕はそれをじっと見てから、君の事を思い出し

「ただで人に譲るより、ネットオークションでもかければいいよ」

 と言ってみた。彼はこれまでにも何人かに断られたのであろう、しょんぼりとしぼみ「わかりました」と呟くとその画面を閉じる。
 踵を返そうとするから、僕も画面に戻ろうとした。
 
「でも」

 と彼が足を止め、振り返る。
 その顔には卑屈さと嘲りが混ざり合い、同類を嬲り殺すような醜さも見て取れた。

「笠原さん、こういうの結構好きって聞きましたけど。通ってるんでしょ? 確かに、家庭用機は高いですもんね。僕らの年収を軽く超えちゃうくらいですもん」

「……」

 僕は返事はしない。する必要はないと思った。なぜなら、どう返答した所で、彼の中の僕のイメージも真実も固定されたものから動かないのは目に見えているからだ。
 後輩は溜息をつきながら、掌でもう一度あの画面を引っ張りだし、溜息混じりに独り言とも当てつけとも取れない言葉を漏らす。

「でも、これって、浮気になるんですかね?」

「え?」

 後輩はそのまま闇の部分だけずぶずぶと深めるような表情で、もう一度僕を見据えた。

「昔のアナログ時代のように、人間がやってる風俗に言ってるわけでも、ましてや不倫してるわけでもないじゃないですか」

 後輩は話しながら興奮して来たのか、僕に詰め寄ると、手の中のその端末を握りしめた。
 確かに、彼の言っている事は間違ってはいない。
 しかし「間違っていない」と「正しい」の間には深い溝があるようにも思う。

「ただ、個室に入って、ただ、情報端末をつないでいる。それだけです」

 あぁ、そのとおりだ。
 それ以外は何もしていない。
 そうなんだ。手を握ったわけでも、ましてや肌を合わせたわけでもない。
 ただ、端末をつないだ、それだけ。

 僕は気分が悪くなっていくのを感じた。
 軽い眩暈を感じ、机に寄りかかる。
 君の事を思い出す。

 確かに僕は君の手を握った。
 確かに僕は君に電話した。
 僕は手紙を書いて、カメラのシャッターを下ろした。
 一緒に農園を借りて、野菜も植えた。
 収穫が楽しみだと君と目を細めた。

 後輩の声が脳を揺さぶった。
 
「所詮。全てはデジタルです。ただの、情報です。そうは思いませんか?」


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デジタルガール 6

 その日は君の学生時代からの親友という彫刻家の個展に来ていた。
 木を彫ったものもあれば、硬そうな石を彫ったものもある。中にはアスファルトの塊を砕いたようなものもあって、僕にはその芸術性がさっぱり理解できなかった。

「やぁ。来てくれたんだね」

 唐突に現れたそのうわぜのある男に、君はそれまでしかめていた顔を解いて振り返った。

「うん。お招きありがとう」

 握手する。その距離が他の個展でのそれより近い気がして、僕は気が気でならない。
 僕は、少しむきになって、相手から僕に関心を示すまではこちらから声はかけまいと決めて、黙っていた。
 僕を無視して二人が目の前の、鉄くずの塊のような奴について語り合う。時に深く頷き、時に討論口調になり、二人のやり取りはまるで熟練した舞踏家の即興のダンスのようだった。
 取り残された気持ちになり、僕はそっと逃げるように彼らから離れようとした。
 その時になって、ようやく、君が僕の腕をとった。

「あ、紹介するね。私の彼氏」

「……へぇ」

 あからさまな挑発だった。
 たっぷり間を置き、品定めするような視線で僕のつま先から頭まで眺める。上から目線のそれは鋭く、最後僕の瞳の奥に止まったそれは僕の内側をまるごと射抜きそうな迫力すらあった。
 とっさに、彼女の事が彼は好きなのだとわかった。

「どこで知り合ったの?」

「コンパよ」

 臆することなく応える君に、僕は少しはなじろみ、彫刻家は苦笑した。口の中で嘲るように「コンパねぇ」と言語外にその年で、というのが聞こえた気がして、僕は耳まで赤くして俯く。

「そんなのに出かけるくらいなら、さっさと僕を彼氏にしてくれればよかったのに」

 そんな本気とも冗談とも判別しがたい言葉に、君は「浮気者はお断り」と舌を出して即答していた。
 僕は、彼が誠実ならいいのか、とも思う。
 
 帰り道、僕は君の手を握りながら、訊こうか訊くまいか悩んでいた。
 君はそんな僕の態度を察したのだろうか、それとも手の温もりを通して僕の不安が伝わったのだろうか、独り言のように話し始めた。

「あのね、コンパに参加した理由、話してなかったね」

「あ、あぁ。そうだね」

「あれも、デジタルに抵抗したかったからなのよ」

 こんな所にもアンチデジタル? 僕はよくわからなくて君の顔を見た。
 駅へ続く遊歩道に等間隔に灯った街灯に、君のやわらかな髪が照らされる。白い吐息が立ち上り、君が笑ったのがわかった。

「友達に誘われた時ね、あ、この間行った、陶芸の子なんだけど、もう30超えてるんだからどっちか選べって迫られたのよね。結婚紹介所に登録するか、コンパに行くか。どうして彼氏が欲しいわけでも、結婚したいわけでもない私にこの二拓を彼女が迫ったのかよくわからなかったんだけど、今思うと、彼女自身が迷ってたのよ。どっちにするか」

 その時の事を思い出したのか、君はまた、笑った。
 可愛らしい白のゆらめきが天に昇っていく。
 つないだ君の指先が冷えないかと僕は心配になって、握り直した。

「で、コンパは面倒だと思ったから、紹介所の方を始めに選んだの。でも、ビックリした。それってね、人間を検索するのよ」

 まぁ、そうだろうな。と、僕はぼんやりと想像する。
 条件を絞り込み、それに該当する人と会う。効率的で合理的な方法だ。

「やれ、年齢だの、やれ年収だの。職業、身長、体重、趣味。そう言うのを全部データ入力して、ボタン押してポンよ」

 君は「ポン」の所だけ微妙に可愛らしく唇を弾いた。

「馬鹿にしてるって思ったわ。人間の出会いって、そんなもの? 知りあって、あぁ、いいなって思って、少しずつその人をわかって行って……。それで生涯を共にするかどうか決めるべきでしょ? なのに、皆簡単に要約しちゃってさ」

 不満を口にするほどに苦々しさが募って来たらしく、君は頬を少し赤らめた。寒さに相まって、それは林檎のようだ。
 君の不満はまだ続く。

「人間は非効率で非合理的で手間がかかって、それでいいのよ。簡単に手に入る者は、簡単に手放せるでしょ? 私、そんなの嫌。私は情報でできてるんじゃない。私はここにいるのが、私なのよ」

 何か不安なのだろうか? そうも思わせる口ぶりだったけど、僕はそこにはあえて触れなかった。ここそこが君の不安点でしょ? と指摘されて喜ぶ人間はそうはいない。少なくとも、僕は嫌だ。だから、察した君の不安を拭うような言葉を選ぶ事にした。

「で、抵抗したくなって、アナログな君としては、アナログな出会いとしてコンパに出席したんだ。そして、僕は情報じゃなく、君自身を見つけて好きになった」

「そう言う事」

 君は照れたのか、あんなに饒舌だった口を閉じた。足を止め、右手にあったショウウィンドーに目を向ける。
 宝石店のショウウィンドーだった。
 一瞬、僕はそこに並んだ指輪が欲しいのかと思った。けど、君が見ているのはそれではなく、僕らの影だという事に気がつき、言いかけた言葉と違う言葉を口にする。

「まぁ、紹介所に登録しても、出会いは間違いじゃないとは思うよ。そういう出会いも悪くない。うん。でも、君らしいと言ったら、君らしいな」

「そうよ。私は面倒臭いの。アナログ人間だから」

 僕は君のその台詞を聞きながら、考えていた。
 僕らは二人ともコンパに縁遠い人間だった。
 なのに、たまたま僕は人数合わせに、君はアンチデジタルの為にあの場所に居合わせた。そして、何故か二次会に一緒に行き、その後付き合うようになった。
 数ある確率の中から、僕らはこの出会いを選んだんだ。

「結婚、しようか」

 気がつくと、僕はそんな言葉を口にしていた。
 それは自分でも驚くほど自然で、ためらいがなかった。
 まるで、今度の週末はどこそこへ行こうか、そう言う提案をするような軽さでもあったし、ずっと準備をして全てのわだかまりを排除した後のような潔さもあった。
 でも、実際は、本当に、口をついて出た、と行った感じで。
 僕は息をのんで、ショウウィンドーに映る君の影を見つめていた。
 すぐ傍にある、君の瞳を直に見るのが怖かったからだ。
 君の影が揺れた。
 そしてこう言ったんだ。

「私、面倒臭いけど、それでいいなら」

 そして、僕らは婚約する事にした。

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