空に続く道

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Bitter Chocolate

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Bitter Chocolate 21

 パーティーが終わったのは、8時過ぎだった。
 始めは穏やかならざる雰囲気だった女子も、思う存分青をいじくる事でストレスの発散は出来た様だし、男子達もそれぞれそれなりのチョコレートを手にできた様で、また来年も開催しようという話になって幕が下りた。
 帰り道、約束通り青の家で鍋を囲もうと並んで歩く4人。
 青の女装の画像を携帯に出しては笑う蒼汰と桃の後ろを、青は不服さ満載の顔で歩いていた。
 藍がその隣を、さすがに気の毒に思いながら一緒に歩く。
「顔、大丈夫? 荒れたりしないかなぁ?」
 なれない化粧をしたのだ、もしかしたら多少あれるかもしれないが、だったら化粧をするその前に心配してほしかった。
 青はそう思いがらもただ肩をすくめた。
 今年も、結局、藍からのチョコレートはどっかで見たような既製品だった。既製品が悪いとは言わないが……。
 大笑いしながら桃と関西弁を炸裂させる蒼汰のその手の包みに目をやる。
 紅先輩から貰ったチョコレート、女子部員から貰った義理チョコ、そして藍の手作りのケーキだ。
 あからさまな差に、溜息も出ない。
 藍はそんな青の視線に気がつくと、苦笑いした。
「あ、私も作ったんだけどね。ケーキ。青くんには叶わなかったなぁ」
 そういう彼女の言葉は、自分への負け惜しみには不思議と聞こえなかった。どちらかと言うと、既製品の……小動物を模した、奇しくも同じものを用意した彼女へと向けられているような気がする。
 励ましたいのか、慰めたいのか、それともこのまま傷ついて欲しいのか、自分にはもうよくわからない。
 とっとと、蒼汰とくっついて欲しい気もするし、諦めてほしい気もする。でも、明確なのは、例えどうなろうとしても、自分は彼女の友達だってことだろう。
「関係ないんじゃないの? 腕とか、味は」
「え?」
 優しい言葉を見つけられない自分に苛立ちながら、青は自分の眼鏡を障る。化粧落としのせいで、肌が少しヒリヒリした。
「気持ちと、相手だと思う」
 藍がじっと自分の横顔を見つめているのがわかった。でも、それを見つめ返したり、笑顔を見せたり、そんな器用な事できない。青は黙って視線を少し落とした。
 藍の唇から笑みが吹き出る。
「ありがとう」
 あぁ、こうやって『良いお友達』になっていくんだろうな。青は半ば自暴自棄になりながら、また、肩をすくめる。
 前を行く二人は疲れないのだろうか?
 桃は聞けば昨日は遅くまでチョコレート作りをしていたという。自分の手の先にぶらさがるバックの中のスミレのチョコを凌いで一番大きな箱。それに彼女の気持ちが入っているはずだ。
「桃ちゃんの気持ちも、受け止めてあげてね」
「あ、うん」
 痛いなぁ。藍からそんな言葉を聞くのは。
 苦笑いを噛みつぶす。
 そんな青に、藍はふと、一つの疑問が浮かんだ。
「そう言えば、青くん。あのケーキは誰あてだったの?」
 女子全員で食べてしまった、あの絶品のケーキを想いだす。見た目も凝っていたが、味はもっと凝ってて、まさにプロ顔負けの代物だった。
「別に」
 青は言葉みじかに答えた。本当に、別に……なのかそうでないのかは藍にも本人にもわからない。
「でも、わざわざ手作りって、意味深じゃない。買えばすむのに」
「俺には作る方が気が楽だったよ。男がこの時期にチョコレート買うのなんて、気まずくてさ」
「?」
 藍は首を傾げる。
 でも、結局、チョコレートケーキを作るのなら、チョコレートは買わないといけないのではないか?
 しかも、あのケーキは色んな種類のチョコレートがふんだんに使われていた。
「でも、じゃ、あのケーキはどうやって?」
 青がふてくされたように、口を噤む。言いたくない。言いにくい。
「家に、あったんだ」
「チョコレートが? たまたま? あんなに大量に?」
「まぁ、たまたまといや、そうなるかな」
 どうも歯切れが悪い。
 藍は首を捻る。青の持つチョコレートが視界に入ったのはその時だった。もしや、と思い息をのみ、嘘でしょ? と自分の考えを否定する。
 いくらなんでも、それはないでしょう。
 だって、それは本当なら、きっとひんしゅくでは済まない。
「まさか、青くん。あのチョコレートケーキの材料って」
「ん?」
「他の女子から貰ったチョコレートじゃ……」
 青の目が瞬いた。まるで急に水鉄砲の水を顔面に浴びたような、そんな顔に「そんなはずないよねぇ」と藍は心の中で胸をなでおろす。
 もし、それが本当なら、本当に青は……。
 青の表情がいつものものに戻った。そして告げたのは
「そうだけど。それが?」
 藍は思わず足を止める。
 言葉が、見つからなかった。
 青は、青は本当に、わからないのだ。
「家にあっても捨てるだけだし、皆で食べた方がいいだろうと思って」
「そう、そうなんだ」
 藍は漸くの事で笑みを作り、再び歩き出す。
 来年はもう、バレンタインパーティーはしない方がよさそうだな。そうおもいながら。
 風が吹く。
 夜空に輝く星が揺れる。
 寒さはまだ厳しく、自分達の身を切りつけようとするけれど。
 振り返った蒼汰が女装画像を青につきつけじゃれつく。
 青は迷惑そうに顔をしかめ、藍と桃が鈴を鳴らすように笑い顔を見合わせる。

 違う方向を向く四人が
 屈託なく一緒に笑っていられて

 無邪気になれるほど子どもではなく
 振り切るほどには大人になれない

 今

 それは

 まるで

 口の中でゆっくり溶ける
 
 甘くほろ苦い

 ……








 結局、この事は蒼汰から女子に漏れ、青は再び女子の顰蹙をかい、また出来上がった学校案内のパンフレットに微妙な笑みの彼の写真が載る事になり、彼にとって生涯バレンタインデーは不可解かつ不愉快なものと定義づけられる事になるが、それは包装紙の様なおまけと言う事で。

=Fin=

Bitter Chocolate 20

「あぁ。アイツはいいんです。あんなけのイケメンは、いじられキャラなくらいでちょうどええんですよ」
「そうなの?」
「そうそう」
 視線の先の、女子のケータイカメラを一斉に向けられている仏頂面に吹き出す。
 さぞかし不本意だろう。きっと、彼にとって今日は最悪でも忘れられない一日になるはずだ。
 感謝するなら、あ? 恨むなら? 三宮と春日にしてくれよ。
 そう思いながら、蒼汰はすっかり女装させられた青に手を振って見せた。
 三宮の案は、その場を簡単に収めるに最適だった。
 やる事は簡単。
 青の女装だ。
 クイーンなんだから、それなりの恰好をしてもらおう。どんな格好にするかは女子に任せるから好きにしなさい。
 確か、そんな内容だったように思う。
 女子たちはもちろん喜んだ。大いに人の悪い笑みを浮かべて。
 罰ゲームにしてはお手軽だし、被害は青しか被らない。しかも女子たちも結構乗り気だったから、男子代表としてはこの上ない場の収め方だった。
 ただ一人、青、本人を除いては。
 しかも、三宮と戻ってきた青は何故かメイクも軽くしており、その上に口紅やチークを塗る土台はすでにできていたのだそうだ。
 いったい、何してきてんだ? という疑問もあったが、とにかく、女子たちの怒りが収まるならスケープゴートを捧げるくらい、男子には造作もない事だった。
「基本、お人よしですから、奴は」
「そうみたいね」
 紅も口元に手をあててくすくす笑う。
「それにしても、似合ってんなぁ。アイツって何やっても様になるわ」
 思わず口にした時に青と目があって思いっきり反らされた。
 肩までのかつらをかぶせられ、顔は口紅やつけ睫毛、チークも入っているらしい。
 正直、想像していたのよりは美人になった。
「ニューハーフでも立派にやっていけんちゃうか」
 零した言葉が聞こえたのか、再び青がこちらを睨んだ。
 蒼汰は大袈裟に首をすくめ舌を出す。隣で紅が笑ってくれるのが嬉しかった。
来月には彼女は東京に行ってしまう。
 東京に行って、名字が変わり、他の人の奥さんになり、その人の子どもを産む。
 ふと、彼女を振り返った。
 彼女はまだ、青達の方を見て微笑んでいる。
 どうやら、今から青と春日のチークダンスが始まるらしい。
 紅さん。
 心の中で呼んでみる。
 俺、絶対、神崎川先輩を超える作品、こいつらと作りますから。だから……。
 だから。その先がいつもわからなくなる。
 いや、本当はわかってるけど、気がつきたくないだけなのかもしれないが。
言葉はどうしてもこの先には続かない。
 蒼汰は溜息を一つつくと、立ちあがった。
「ちょっと、行ってきますわ。ここは宴会部長がいかんとアカンでしょ」
「そうね」
 もう、振り返らなかった。
 手の中にはお揃いのチョコレート。
 背中には彼女の微笑み。
 今は、これだけで十分。そう思い、蒼汰は喧騒の真っただ中に突っ込んで行ったのだった。

Bitter Chocolate 19

 現れたのはまたしても三宮だった。三宮は女子全員が青ににじり寄る異様な光景を、楽しげに見つめながら髭をさすった。
「先生!」
 スミレがまたしても先頭を切って声を上げる。
「青が悪いんです! 厭味ったらしく女子より巧いケーキ作って来て、女子の中にチョコレート紛れ込ませて、クイーンになったんですよ! あんまりでしょ!? こんなことってないですよ! 皆、青のクイーンになりたくて頑張って来たのに。こんなんじゃ台無しです」
 っていうか、青がキング前提なら、そもそもの企画自体を、いやその他の男子の存在をまるごとすっかり無効にしているんじゃないのか?
 と、口にするほど曲りなりにも教授という職業の三宮は馬鹿じゃなかった。
 やっぱり蒼汰の様にうすら笑いを浮かべると、「まぁまぁ」と闘牛の興奮を収めるような心境になりながらスミレの肩を叩く。
 なるほど、こういった企画つぶしもあったか、と感心し青の方を見て見るが、どうやら彼が故意にやったことでもないらしい。
 何かのアクシデント、もしくは……部室の隅で事の成り行きをじっと黙って見ている男の方を見る。どうやらキングらしく、幼稚な紙の王冠を被せられた春日だ……青がキングにならないように誰かが仕組んだ事のなのだろう。
 この場を収めるには、どうしたものかな。
 三宮はもう一度周りを見回す。
 努力とプライドを踏みにじられた女子を納得させ、場の空気を明るくする方法……。
 青の方をちらりと見た。
 そう言えば、彼はさっき施されたメイクそのままじゃないか。そして、ここは映画部の部室だ。
 悪戯心が騒ぐ。
 三宮はにやりとして、青を一瞥すると、大きく手を叩いた。
「わかった。ここは、顧問である俺に一任させてくれ」
 青の表情がさっと変わる。
 おぉ、そろそろ危機探知能力も備わったか。少々意地の悪い事を心の中で呟きながら、「芦屋、ちょっと」スミレを呼び、彼女に耳打ちをした。


「まさか同じやったなんて、ほんまに」
 運命を感じる、と言いかけて蒼汰は相手の視線を感じ口を噤んだ。隣で紅がさっき自分が渡したハムスターのチョコレートを手にとって目を細めている。
 賑やかな喧騒から一歩距離をとったこのテーブルについているのは、蒼汰と紅の二人きりだった。
 部室が一望できるその席は、窓の方にも向いていて、もうすっかり暗くなっている外も伺えた。
 冷え込みが一層厳しくなり、さっき、エアコンの他にも彼女の為に電気ストーブを足元につけたが、それでも彼女が冷えていないか心配だった。
 もし、自分がそれを許される立場なら、喜んで彼女の肩に腕を回したり、少なくともつめたそうな指先を握ったりするのだろうが、残念ながら現実にはすぐ傍にあるのに遠いそれらに溜息をつくしかできない。
 そう、紅はあくまで自分の先輩であり、最も尊敬する人の奥さんになる人なのだ。
「嬉しい偶然ね」
「へ?」
 蝶の羽ばたきの様な小さな声は、もしかしたら自分に聞こえないように発せられたものかも知れなかった。でも、思わず反応してしまい、彼女の方も驚いた顔をこちらに向ける。
 すぐに、眉を寄せた照れ笑いに溶けた。
「蒼次君、元気?」
「あ、あぁ。はい」
 いつもなら軽口がいくつも飛び出す口なのに、どうも彼女の前だとうまく開かなかった。蒼汰はもどかしく感じながら頷くと、やはり自分の手の中にある同じ形のチョコレートに目を移す。
「元気も元気。俺の分のストーブまで陣取って、絶好調ですよ」
「そう」
 安堵のため息とともにつかれた相槌に、こちらの気持ちも少し軽くなった。
 視界に彼女の手が入り、その下の腹が見えた。
 もう、目立ってきてもいいはずのそれは、未だに一緒に映画を撮っていた頃のそれと変わりがない。
 本当に妊娠しているのか? そういう疑問すら浮かぶ。同時に、彼は彼女をちゃんと大切にしているのだろうかという不安もよぎった。
 彼女の夫となる人、神崎川先輩が以前から彼女に暴力をふるっているのは知っている。知っているし、自分は彼女の事がこんなにも好きだ。
 だけど、この手は、冷えた指先に触れることすらできない。
 そう、自分は何にも……。
「ありがとう」
「え?」
 今度はしっかりこちらに向けられた声だった。
 顔を上げると紅が静かな笑みをたたえこちらを見つめている。月の様な、穏やかで控えめで、それでいて暗闇を照らす光の様な、彼女の笑みだ。
「楽しかったわ。ちょっと、園田君には気の毒だったけど」
 苦笑交じりにそう言うものだから、蒼汰もつられて苦笑して、まだ騒いでいる部屋の方に首を巡らせた。

Bitter Chocolate 18

「はぁ?」
 さっと、皆が青に見える様に場所を開ける。その先にはテーブルの上に並んだチョコレートケーキと高級そうなチョコレートだ。
「今年のクイーンとキングや」
「は? だって」
 意味が分からない。確かに、確かに目の前にあるチョコレートケーキは自分のものだった。自分が作って持ってきたものだ。
 だが、しかし、何故『クイーン』なんだ?
 混乱して言葉が口の先から出てこない青の前に、スミレが立ちはだかる。
「これは、どういう……」
「こっちが聞きたいわ!」
 仁王立ちの彼女は、硬い表情でおおよそ笑みとは思えない笑みを口元にひきつらせると、青の質問を詰問で跳ね返した。
 まるで掴みかからんかの勢いで青に詰め寄る。
「女子のチョコレートに混ざってたみたいなのよ。ね、あれって、ま・さ・か……手作りじゃないよね?」
「え、あ……」
 手作りが何かまずいのか?
 自分のチョコレートが女子のものに混ざっていた理由も、手作りでこんなに怒られる理由もわからず、蒼汰の方に視線で助けを求める。蒼汰は深い深い溜息をつくと、青に言い聞かせるように口を開いた。
「青が鬼のようにド器用なのは知ってんねんけど、あれは、あかんやろ」
「なにが? ケーキは手作りだとまずいのか?」
「ちゃう。ちゃうねん。つまりな……」
「女子の顔に泥を塗らないでって事よ!」
 たまりかねて声を上げたスミレは、勢いよく振り返ると、青のケーキを手に身をねじり曲げる様にしてそれを作った帳本人に突きつけた。
「今日に向けて、皆頑張ったのよ! わた……中には青にチョコレートあげたくて頑張った子もいたのに、青と一日恋人になりたくて必死だった子もいるのに、何? これ、あんまりじゃない」
「だから、なにが駄目なんだよ!」
 さっぱりわからない。青はようやく声になった言葉をスミレにぶつけた。スミレは間に入った蒼汰を邪魔だとばかりに強引に押しやると、青にぐいっと顔を突き出す。
「わからない?」
「わからない」
 わからないものはわからない。女子にまぎれていたのはアクシデントだ。自分のせいじゃない。
 青は、スミレに勢いで押し切られないようにじっと正面から彼女の痛いほどの視線を受け止めると、真剣に頷いた。
 スミレはじれったそうにさらに一歩詰め寄る。
 そして、叩きつけるようにその言葉を吐きだした。
「巧すぎるのよ!」
「はぁ?」
「女子より巧くてどうするのよ! しかも、青目当てで頑張った作品を蹴散らして、自分がクイーンになるなんて、あんまりじゃない! どうせ」
 きっと男子の方を睨みつける。男子はスミレの眼力に身を縮め後ずさる。
「男子で企画つぶしをしようと思ったんでしょ?!」
「それは誤解や!」
 蒼汰が声を上げる。しかし、一度火のついたスミレを止められるものはここにはいなかった。スミレは蒼汰の方をそのまま睨みあげると
「うるさい! こんな嫌がらせ、サイテーです! ねぇ、皆」
 女子が波のように調子を揃えて頷いた。
「この落とし前、どう付けてもらいましょうかねぇ」
「はぁ? どうして、俺が……」
「問答無用よ! 女子の気持ちを踏みにじったんだから、それ相当の事はしてもらわないと、気がすまないわ! そうよね!」
 波の第二波が大きくうねる。
 なんだよ。 理不尽じゃないか。
 青は閉口して、蒼汰の方を見た。しかし、こればかりは部長といえど何ともできないらしく、申し訳なさそうな顔でうすら笑いをするだけだ。
 女子たちがにじり寄ってくる。
 青が後ずさる。
 さらに追い詰める。
 背が壁に突き逃げ場をなくす。
「青、さぁ、どうしてくれるの? さぁ! さぁ!!」
 その時だった。
 救世主が現れたのは。
 扉が開き、扉からの救世主を待ちわびたその本人が救世主として現れたのだ。
「? 何してんだ? お前ら」

Bitter Chocolate 17

 自分の部屋、と、まではいかないがホームのような安心感があるはずその部屋の中は、青にとって完全にアウェイだった。
 顔を見せたとたん、部屋の中にいた皆の動きは止まり、示し合わせたように一斉に視線が集中する。
 まるで、今の今まで流れていたBGMまでがその音量を落としたような錯覚すらした。
「なんだよ。みんな」
 思わず部屋を間違えたんじゃないかと丁寧に見回してしまう。しかし、やはりどこをどう見ても、そこにあるのはいつものメンバーの顔で、部屋もあの少女趣味なデコレーションのままだった。
 たっぷり10数えるくらいは睨みあった後、皆の輪の中から何かすまなそうな顔をしておずおずと進み出てきたのは、やはり部長の蒼汰だった。
 その顔を見て、少々の緊張は緩むが、それにしても彼の表情は暗く、まだ安全地帯に身を置いたと判断できるには程遠い気がした。
 何かのサプライズだろうか? 皆で自分をはめようとかしているのだろうか? いつものサークルのノリなら十分考えうるそんな展開も、今ばかりは少し違うようだ。
 何より、女子からの視線が、痛い。
「青。ちょっと聞きたい事があんねんけど」
「なんだよ」
 蒼汰はすぐ傍まで来て足を止めると、一度だけ肩越しに皆の方をちらりとうかがった。
 その後ろに見える皆の顔は、どれも無表情に近く、非難の色を帯びている。なんだ? そんなに途中で抜けたのが気に食わないのか? だったら、文句は三宮に言って欲しい。自分は巻き込まれただけだ。
 不平と理不尽感が胸に喉にせりあがってくる。が、それが言葉の形を整える前に蒼汰のまるで内緒話をするような声にそれは遮られた。
「青のチョコレートの包み、どんなんやった?」
 まるで腫れものにおそるおそる触れるかのような口調だ。青は首を捻る。
 なんだ? キングを決めるのに誰のかわからないものがあったのか? 青は腕を組み、一応の防戦を決め込んで答えた。
「黒い包装紙の赤いリボンだけど?」
 空気の色が再びがらりと変わった。
 顕著なのはやはり女性陣のサイドだ。それは非難なんてレベルではなく、殺気、いや憎悪に近いものが伺える。見えるはずのない、どす黒いうねりの様なものが見えたような気すらし、思わず助けを求めようと視線を桃や藍、スミレに順に移すが、彼女達が最たる根源の様で、今まで見たことのないような不機嫌な顔をしてこちらを睨みつけていた。
「なにか、包装がまずかったのか?」
 思わず声をおとして蒼汰に尋ねるが、蒼汰は首を横に振り、憐れみたっぷりの目で青を見つめ、緩慢な動作で彼の肩の上に手を置く。
「おめでとう」
「?」
 肩に置かれた手がやけに重く、言いようのない不安を誘う。
 ざわつき始める胸に、息が詰まりそうなほどの嫌な予感。蒼汰はそんな青の気持ちをすっかりくみ取ったかのように、一度大きく頷くと、やけにもったいぶった口調でこう告げたのだった。

「お前が、クイーンや」

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