空に続く道

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三十路女と記念日男

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「今まで黙っててゴメン。今日、彼女と、彼女の家族にちゃんとケジメつけてから、その……言うつもりだったんだけど、先に言われちまったよな」

 貴志は苦笑いして頬をかいた。私は首を傾げる。言われた?今の事は全部初耳で、私は聞いていただけど。

「何が?」

「だから!」

 貴志は声を上げると

「その、そろそろイニシャルを変えませんかって、話し」

「は?」

 イニシャルを変える?改名?
 意味が分からない。どうしてそういう話になるんだ?
 私がさらに首をかしげ貴志を見つめていると

「だから、つまり、飯田にならないかって事」

 え、それって……。
 私は瞬きする。貴志はみるみる顔を赤らめ

「結婚しようって事だよ!」

 怒ったようにそう言った。
 私の目から涙が零れ落ちた。
 でも、この涙は生まれて初めて零す涙だ。

「ちくしょ。先に言われると思ってなかったし、墓場でプロポーズする予定もなかったんだけどな〜。てかさ、メロン飴とかわかんないんだけど。何?それ」

 貴志が照れ隠しに早口で何か言っている。
 私は思わず噴き出して笑った。
 笑った拍子に涙が止まらなくなった。

 全くだ。こんなプロポーズってある?

 前カノのお墓の前で、私が先走って、コロッケとお線香の匂いに包まれてのプロポーズなんて……。

 最高だよね。

 私は涙を拭うと貴志の肩に額を寄せた。貴志も苦笑いを止めてお墓の方に向き直った。
 二人で荻野友美のお墓を眺めた。

 花束の色鮮やかな花達が微笑むように揺れたように見えた。

 それから私達は手をつなぎ、コロッケを食べながら駅に向かった。
 貴志はしきりにメロン飴を気にしていたけど、私は教えなかった。

 今日と言う日は二度と来ない
 隣にいる人が明日隣にいる保証はどこにもない
 たとえ結婚しても
 どんな約束をしたとしても、だ。

 だから、私達には毎日が記念日。

 私達は二人の家に帰るとカレンダーをかけなおし、まだ空白のままのそこに二人で頬を寄せて今日の記念日を書きこんだ。

 どう書きこんだか?
 それはご想像にお任せします。


=完=
「でもさ、そんな俺を見かねてダチが無理やり連れて行ったコンパで、お前に出会った。んで、驚いたよ」

「何が? 誕生日?」

 貴志は素直に頷いた。

「誕生日が彼女の命日と同じって言うのもあるけど、イニシャルがさ……」

 貴志は気まずそうな顔をして「ほら」と言葉を投げた。私は小さく声を漏らす。
 一緒だ。

 大橋悠里と荻野友美……O.Y.

「それで、俺、馬鹿だから運命感じちゃって、お前の事気になりだして。そしたらさ、少しずつ、少しずつだけど、生きて行こうって思える様になったんだ」

「貴志」

 貴志はもう一度私の手を握るとお墓の方を振り返った。

「きっかけは、確かに荻野友美だよ。でも、俺はもう彼女の元に行きたいとは思わない」

 そして私の方をしっかりと見た。

「お前と一緒に生きていきたい。記念日は、その証にしたかったんだ」

「貴志」

「俺は、友美といる時、まだガキで一緒にいられる事がこんなにかけがえのないものなんて思わなかった。だから、もう、同じ後悔をしないように、悠里との毎日は一日一日、特別なんだって自分に言い聞かせてたんだよ」

 「それでも、最近、この日の事を考えてぼんやりしてたけどな」と貴志は申し訳なさそうにそう付け足すと、今度は引きよせて私の肩を抱いた。
「え、これって、どういう事?」

 貴志は私の手を握ったまま、それを見下ろしていた。
 私もつられてそれを見つめる。

 貴志が連れて来た場所、それはお墓の前だった。

 墓前には、梓が見たものだろう、まだ新鮮な花が手向けられていた。線香も煙を立てている。

 貴志は私に振り返ると。

「ここに眠っているのが、荻野友美。俺の前の彼女だよ」

「え? どういう事? さっき一緒にいた女の人は?」

 貴志は「何だ、そんな所から見てたのか?」と呆れ声出すと、ようやく握った手の力を少し緩め

「あの人は、彼女のお姉さん。今日、三回忌で、お姉さんも同じ駅から行くって言うから、待ち合わせて先に一緒にここに来たんだ」

 え?どういう事?
 さっきのおばさんの話を反芻する。
 そう言えば、おばさん、あの女の人が荻野友美とは一言も言ってなかった。ただ、あの女の人の妹が貴志と一緒に事故にあったと……。

 じゃ、事故に遭って亡くなったのが、荻野友美。
 今日は、荻野友美の命日って事!?

「繋がった?」

 貴志は私の顔を見て、それからしゃがんで手を合わせた。

「友美、これが話してた、俺の彼女。大塚悠里。ちょっとおっちょこちょいだけど、悪い奴じゃないんだ」

 貴志はそう、墓前に話しかけると立ち上がって私に振り返った。

「お前が言ったように、友美を忘れようとお前と付き合い始めたのは、本当だ。俺、こいつが死んでから、もう、どうしていいかわからなくて、毎日死ぬ事ばかり考えていた」

 貴志は、友美さんが亡くなった二年前、本当に暗闇に置いて行かれたような気分になったそうだ。

 彼女が生きていた時。その時はその時で後悔と自責に苦しかった。自分の出来る限りの事を、彼女にしようと思っていた。そうすることで、逆に救われてもいたと、貴志は自嘲気味に語った。

「でも、きっと友美の方がそんな情けない俺に愛想を尽かしたんだろうな。あんなに毎日通ってたのに、友美が死んだとき、俺は傍にいられなかった」

 かすれた声はまだ過去に彷徨っているようだった。

「突き放されたと思った。周りは俺に同情して『お前は十分やった』なんて言ってくれたけど、俺にはもう、生きる理由がなくなったんだ。毎日、毎日、友美の元に行くことばっかり考えてた。それこそ、悠里に会うまでは死人のように生きてた。今でも、どうしてその時思いとどまれたのかわからない」

 貴志はそう言うと、寂しげな笑みを浮かべ私を見つめた。
「結婚できなくなるのが怖いんじゃなくて。貴志を失うのが。怖かったの! ずっと一緒にいられるって、約束が欲しかったの! だって、私、自信ないもん。 こんなに平凡で、何にもない私は、結婚でもしない限り、貴志はきっとずっと傍にいてくれるはずないもん。不安なんだもん! だから結婚したかったの!」

「悠里」

 もう、頭がまっ白だ。何を自分で口走っているのかわからない。でも、もう、いいのだ。これで最後なら、気持ちを思いっきりぶつけてやる。
 それなりの人生だった。それなりの仕事について、それなりの恋愛だってしてきた。

 でも、駄目なの!
 貴志の事は、それなりじゃ、駄目なのだ。

 ふと、荻野友美と一緒に遠くなっていく貴志を想像した。
 長い長い間、後悔と謝罪を胸にその想いを押し殺してきた貴志。きっと、私の事も……。

「貴志は」

 私は目を開けると、貴志を見据えた。

「荻野友美さんを忘れる為に、私と付き合ったんだよね」

「え」

 貴志は驚いたように声を漏らし、すぐにその瞳を陰らせた。そして、たっぷり呼吸を整えてから、それでも私の目をそらさずに答えた。

「それは、否定しない」

 やっぱり。私は再び力が抜け、崩れ落ちそうになる足に力を込めた。一人で、立たなきゃいけない。一人でちゃんと立って、彼と向き合わないと。

「だよね。それで、今日、気持の整理がついたんだ」

「あぁ」

 貴志は頷くと、いきなり私の手をとった。

「え? 何!?」

「いいから、ついてこいよ」

「何よ!」

 貴志は怖い顔をして、私の手を引っぱりどこかに向かい歩き出した。
 私はただただ驚いて、足をもつれさせながら彼の横顔を見る。

「何よ! もう、話す事はないでしょ! 貴志は荻野友美と……」

「今から、彼女にお前を紹介するから」

「は? 嫌よ!」

 私は手を振り払おうとした。どうして私がその女に逢わないといけないの? もう、これ以上惨めな思いなんかしたくない! なのに!

「黙ってついてこい」

 でも、貴志の頑なな横顔は私の拒否を受け付けなかった。
 彼の握る私の左手はちぎれそうなほど痛くて、私は息を飲む。私は、一体どうしたらいいの?

 そう思いながら、駅を通り過ぎ、貴志はどんどん人気のない所に私を連れて行く。

 そうして、辿りついた場所は……。
 私はなんと言っていいのかわからず、俯きながらその陽の中に出る。

「おぅ」

 貴志も決まりが悪そうに私に軽く手を挙げると、少しだけ振り返りおばちゃんに「すんません」と短く声をかけて歩き出した。
 私も少しだけ振り返って頭を下げる。

 おばちゃんは『頑張れ』と口パクでウィンクしてくれた。

 二人で駅に向かう道を行く。
 二人とも、話すきっかけがないまま無言だ。気まずい。もう、このままダッシュで逃げてしまいたい気分だ。

 私はすがるように、おばちゃんから貰ったコロッケの袋を胸の前で抱きしめていた。甘く香ばしい匂いが優しく私と貴志の間を埋めていく。

 貴志はズボンに両手を突っ込んで

「うまいだろ。そこのコロッケ」

 と独り言のように呟いた。私は頷いた。
 やっぱり、貴志はここの味を、彼女と食べてた味を覚えている。

「おばちゃんから、何か聞いた?」

「うん」

「ごめん。黙ってて。帰ったら、ちゃんと、話すつもりだった」

 帰ったら……そうか、きっと、もうずっと前から彼の中では私との別れも決めていたんだ。
 私は下唇を噛んで泣くのをこらえて頷いた。ここで泣いたら、もっと惨めになるからだ。

「怒って……るよな」

 貴志の溜息混じりの声。私はそれにも頷いた。
 だって、本当に悔しかったんだもの。本当に、本当に……。

「本当に、貴志の事、好きだったんだから」

 言葉と一緒に零れ出た想いが、コロッケの紙袋に水玉の染みを付けていく。それが引き金になったように、それはとめどなく溢れ、私は目を閉じた。

 かっこ悪い。私、本当に惨めだ。

「悠里」

 貴志が足を止めて私の顔を見る。私は立ち止まり、涙の合間に声を漏らす。

「本当に……好きで。そりゃ、結婚したいから好きになったのは本当だよ。でも、今日、気が付いたの。私にとって、貴志はメロン飴なの。惨めでも何でも、こんなかっこう悪いことしてでも、貴志の事、知りたいと思ったし、思ったし……失いたくないと思ったの」

「悠里」

 私に延ばされる貴志の手を振り払う。

「怖かったの!」

 あげた声は心からの叫びだった。

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