ウェブカレdreamブログ

乙女ゲーム「ウェブカレ」をモチーフにした二次創作小説です。

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20年後―綾乃

お風呂上りに、寝室で鏡に向かいながら化粧水をコットンに含ませていると、ベッドの上に座って濡れた髪の毛を拭いている彼と、鏡越しにふと目が合って、なんだか照れくさくて、慌ててコットンを顔にはたきつけた。
 
子供たちがいない家の中は、しんとしていて、夜ってこんなに静かなものだったんだ・・・と、改めて思う。
 
化粧水をつけるふりをしながら、鏡に映る彼の姿にチラッと目をやる。
上半身裸で髪の毛を拭く彼の体は、昔に比べると少しはたるんできたような気はするけれど、まだまだほどよく筋肉がついていて、髪の毛から滴る水滴が、きれいな形に盛り上がった胸の上を滑り落ちていくのを見て、少しドキドキした。
 
こんな風に、二人きりで静かな夜を過ごすのは、何年ぶりだろう?
 
男の子ばかり4人もいる我が家は、朝から晩まで毎日が戦争のような慌しさで、その混乱の中を生き延びるだけでも大変で、彼の体に目を向ける暇も、彼の声に耳を傾ける時間もなかった。
 
決して、彼のことをおざなりにしているわけではない。
 
でも、子供が4人もいると、それが現実。
食事の準備をする側から、誰かが味噌汁をひっくり返し、兄弟喧嘩が始まっては誰かが泣き、やっと夜になったと思ったら誰かが「おしっこ」と言って起きてくる。
それは確かに「幸せな戦争」ではあるけれど、時々、まだ独身の友達や、子供のいない友達を羨ましく思うときがある。
お洒落して、恋人や夫と素敵なレストランでクリスマスやバレンタインデーを過ごせる人たち。
わたしたちにもそんなときがあったのに・・・って。
 
素敵なレストランとまでいかなくてもいい。
たまには、二人でゆっくりと話したい。
いつもの寝室でいい。
でも、せめて、そこをきれいに季節の花で彩って、アロマキャンドルを灯してみたい。
いつものように、子供服とオモチャの散らかった寝室ではなくて。
 
ずっとそんな風に思ってたのに、いざこうやって二人きりになると、何から話していいかわからない。
話したいこと・・・というより、話さなきゃならないことはあるのに。
ここしばらく、いつ切り出そうかずっと悩んでた、「話さなきゃならないこと」。
せっかくそれを話せるチャンスが来たのに・・・。
 
「さぁ、子供たちがいないときくらい早く寝よ。こんなときくらいしか、ゆっくり眠れないんだから。」
 
気持ちとは裏腹に、思わずそんなことを言って、ベッドの中にもぐりこんでしまったあとで、後悔する。
こんなときくらい、ビールとおつまみくらい、出せばよかった・・・かな?
そうしたら、わたしも「話さなきゃならないこと」を話せたかもしれないのに・・・。
 
そう言って、ベッドの上に横たわったわたしの目の前に、彼が小さな封筒をポンと置いた。
 
「何、これ?翔太が書いたの?」
 
ゆっくりとベッドの上に起き上がりながら、その封筒を裏返す。
封筒の宛先の字があまりにも汚かったので、長男が書いたのかと思ってそう言うと、彼は少しムッとした顔でこう言った。
 
「違うよ。僕が書いたんだよ。」
 
ふーん・・・何だろう?
 
消印を見ると、2011年・・・20年も前?
20年前ということは・・・そう・・・わたしたちは高校3年生。
 
封筒の中の紙切れを取り出すと、封筒と同じく汚い文字が並んでいて、遠い昔によく見た、彼のラクガキだらけの授業のノートを思い出した。
 
<20年後の僕の夢・・・
 
1.NBAの選手になること
2.フェラーリに乗ること
3.シベリアンハスキーを飼うこと
4.プール付きの家に住むこと・・・>
 
ここまで読んで、思わず大笑いしてしまった。
なぜなら、それはわたしたちが高校時代、夢中で語り合った夢物語のリストだったから。
 
 
駿がNBAの選手になって、アメリカに住むことになったら素敵だね。
アメリカでは、特別お金持ちじゃなくても、みんな家にプールがあるんだって。
じゃあ、そんな家ならシベリアンハスキーも飼えるね。
フェラーリは日本で買うと高いけど、アメリカではもっと安いんじゃないの?
だって、日本では「外車」だけど、アメリカでは「国産車」なんでしょ?
 
・・・フェラーリがイタリア製だということすら知らなかったあの頃。
 
 
笑いすぎて目に滲んだ涙を拭おうとしたその瞬間、次の一文を見つけ、一気に涙のスピードが加速し、わたしは慌てて手で口を押さえた。
 
<5.綾乃ちゃんがこの手紙を読んでいること
 
この中で、僕たちの夢はいくつ叶ったかな?
全部、叶うといいな。
でも、もし神様が5番目の夢を叶えてくれるなら、僕は1番目から4番目までの夢は全部叶わなくても、それだけで幸せ。>
 
目の前の彼の姿にもやがかかり、わたしの心の中のスクリーンに20年前の彼の姿が映る。
 
背が低い分、人の3倍頑張らなきゃいけないんだと言って、誰よりも練習して、誰よりも動いて、誰よりも汗を流す彼の背中をいつも見ていた。
授業中は寝てばかりで、テストはいつも赤点、忘れ物にかけては天才的で、それでもなんだか憎めなかった。
一緒に過ごす時間が増えるにつれて、わたしの心の中で彼の占める割合も少しずつ増えていって、いつしか青春時代のすべてを彼と過ごし、気がついたら人生までも共にしていた。
 
NBAの選手にはなれなかったし、フェラーリどころか中古の国産車のローンだけでもいっぱいいっぱいだし、シベリアンハスキーを飼えるような大きな家にも住めなかった。
 
でも・・・それでも・・・5番目の夢だけは叶った。
 
それがどんなに幸せなことか、そして、それこそが幼かったわたしたちがずっと夢見ていたことだったのだと、日々の忙しさの中で、この手紙を読むまでまったく忘れてしまっていた。
 
そっと顔を上げると、少し照れくさそうな顔をした彼と目が合った。
その瞬間、わたしは彼の首にぎゅっと両腕を巻きつけた。
 
ありがとう・・・最高のプレゼントを、ありがとう・・・。
 
そして、今なら言えるような気がした。
ずっと言えなかった「言わなきゃならないこと」を・・・。
 
「わたしからもプレゼントがあるの・・・。」
 
わたしは彼の首に腕を巻きつけたまま、彼の顔を見ないようにしてそう言った。
やっぱり、彼の顔を見るのは少し怖かった。
 
「え?何?」
 
そう言って、彼がわたしの腕をそっと自分の首から放し、ベッドの上で向かい合う。
わたしは、やっぱり彼の目を見れずに、俯いたままこう呟いた。
 
「5人目・・・できたみたい・・・。」
 
その沈黙は、きっとほんの数秒のことだったに違いない。
でも、わたしにはとてつもなく長い時間に思えた。
 
だって・・・プレゼントなんていったけど、本当は、今回ばかりは、もう素直に喜んでもらえないかもしれないって思ってたから。
今でも、もう十分子供は多くて、生活は大変だし、これ以上子供が増えてやっていけるのかどうか自分でも自信がない。
 
喜んでもらえなかったら、どうしよう・・・。
困った顔をされたら、どうしよう・・・。
 
そんなことばかり考えて、なかなか言い出せないでいた。
 
すると、彼はそっとわたしの腕を引き寄せ、それからわたしをぎゅっと強く抱きしめた。
 
「ありがとう・・・綾乃ちゃん。」
 
その言葉を聞いた途端、目から涙が溢れて止まらなくなった。
そして、「産まない選択もあるかも」・・・そんなことを、一瞬でも考えた自分を恥じた。
 
「でも・・・パパのお小遣い、また減っちゃうよ?フェラーリも買えなくなっちゃうよ?」
 
子供がいなかったからって、買えるわけじゃないけど・・・。
わたしの涙混じりのその言葉に、彼はクスクスと笑いながら、わたしのおでこに自分のおでこをくっつけてこう言った。
 
「5番目の夢が叶ったから、もう僕は他には何もいらないんだ。」
 
 
まだ子供だったわたしたちが遠い未来に見た夢は、たった一つしか叶わなかったけど、でもその夢は他のどんな夢にも変えられないほど大きな幸せを運んでくれた。
 
彼と過ごした青春の一つ一つのきらめきが、今、大きな輝きとなってわたしの体に宿っている。
星の数ほどある出会いの中で、あのとき、あの場所で、二人が同じ夢を見ることができた奇跡・・・そして、そのたった一つの夢を叶えてくれた神様に、わたしは心の底から感謝した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閉じる コメント(4)

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ステキ☆
駿くんと綾乃ちゃんは幸せ夫婦なのですね!
大人になった綾乃ちゃんと、昔と変わらない駿くん(もちろん大人なんでしょうけど)。

子供が5人は大変やろな。しかも男子だらけ。皆チビ駿で腕白なんやろなw
私は女の子2人でもヒーヒー言うてます。
5人目が女の子でありますように(*^^*)

2011/5/12(木) 午後 8:21 [ かおる(orum) ]

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かおるさん

はい、子供がいないわたしがこんなお話書くのもナンですが(笑)、なんとなくバスケは繁殖力が強そうな気がして・・・。www
少子化に貢献していただきましょう、頑張れ、相葉ファミリー!

5人目は女の子がいいなぁ、とわたしも思います。www

2011/5/12(木) 午後 10:39 [ ]

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駿くんは私の中では弟的ポジションで
かわいいけど恋をする対象ではなかったのですが(失礼すぎる)
このストーリーにはものすごく泣けてしまいました。
そして、20年前の駿君にも
いまの駿君にもときめいてしまいましたよ。
20年後の年齢に自分が近いことも、
結婚前とは変わってしまった夫への気持ちや関係も、
愛しいけどうるさく手がかかる(笑)
3人のこともたちのことも
小説と重ねてしまい、、
心にぐぐーーっときちゃいました。

うちは男男女ですが、男の子4人って大変そう(笑)
そして5人目が女の子だったら
うちのムスメ同様、甘やかされつつ男勝りな子になるのかなとか
妄想を広げてしまいました。

2011/5/16(月) 午後 10:27 [ a*a ]

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ayaさん

バスケにときめいていただいて、ありがとうございます!
実は、バスケはわたしにとっても恋愛対象ではないので(笑)、どういうのがときめくのかイマイチよくわかってないんですが、読む方がそれぞれ自分の状況と似た話に重ねてときめいていただけたら嬉しいです。

そうそう、結婚前とあとでは夫との関係も変わってきますよね。
わたしは子供がいないので、あまり変わりはないですが、子供がいる方は本当に大変だと思います。
特にバスケカップルのように4人もいると。(笑)
5人目が生まれてからの話もいつか書きたいな〜、なんて思いました。

2011/5/16(月) 午後 11:23 [ ]


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