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曲作りに煮詰まり、何かひらめきが欲しくて、CDラックをゴソゴソと探していたとき、ふと昔好きだったアーチストの曲が聴きたくなって、押入れのダンボール箱を引っ張り出した。
ウチには、CDだけで丸々一部屋埋まっちまうんじゃないかと思うくらいたくさんCDがあって、とてもじゃないけどCDラックには入りきらないので、ラックに入れるのは、そのとき仕事に使いそうなものや、自分がどうしても聴きたいと思うものだけにして、あとのものは全部ダンボールに詰めて押入れに入れている。
受けた仕事の内容によって、定期的に衣替えのようにラックに入れるものを変えたりはするけど、それでもやっぱり、こんな風に突然、思ってもいなかった曲を聴きたくなったりするんだな。
ダンボールの中のCDを1枚1枚手に取り、お目当てのCDを探していたとき、何も書かれていない真っ白なCDを見つけた。
・・・何だろう?
何も書いてないってことは、多分、昔作った曲や、作りかけて途中でやめてしまったものだと思うけど、そういうものの中から、フッとインスピレーションが湧くこともあるので、一度聴いてみようと思って、そのCDをプレーヤーに入れた。
ヘッドフォンを伝わる弦の音を聴いた瞬間、あまりにも恥ずかしくて、部屋には俺しかいないのに、誰かに聞かれてやしないかと、思わず周りをキョロキョロと見回してしまった。
ドラムもベースもすべて無視して、ただがむしゃらに突っ走るギターソロ、メンバー1人1人の勝手な自己主張がぶつかり合うだけの音の重なり・・・それは、俺が高校生のとき、当時組んでいたバンドでやったライブのCDだった。
こんな下手な演奏で、スター気取りだったあの頃を思うと、顔から火を噴くくらい恥ずかしい。
それでも・・・何故か、ヘッドフォンを耳から外せなかった。
なぜなら、そこには今の俺がもう忘れてしまっていた何かが、確かに存在していたから。
それは・・・音楽に対するひたむきな情熱、夢を見る真っ直ぐな心、未来を信じる強い輝き・・・。
音楽を仕事にするようになって、少しずつ忘れていった音楽に対する純粋な想い。
それが、この下手な演奏の中には、ぎっしりと詰め込まれていたから。
あまりにも下手すぎてとてもまともに聴けたものじゃないけど、そのときの自分のひたむきな情熱が蘇ってきて、なんだか胸が熱くなった。
そして、この演奏の中に詰め込まれているもう一つの想い・・・。
幼い愛情を傾けて、ただひたすらに誰かを想う恋心。
音もテクニックも関係なくて、俺の奏でる音を聴く誰かの一瞬の笑顔を見るために・・・ただそれだけのために、ギターを弾いた。
過去も未来もどうでもよかった。
ただ二人でいられる一瞬のきらめきに、自分のすべての想いを乗せた。
・・・そんな俺たちの恋は、青春時代の終わりとともに幕を閉じた。
あの頃の俺は、視界にも入らない遠い彼方にある夢を見るのに必死で、目の前にあるものをまったく見ていなかった。
思い描いていた夢は、思ったほど簡単には手に入らなくて、焦りと不安ばかりが募り、それでも弱さを見せたくなくて、半ばヤケになって強がった。
いつもイライラして、優しさを弱さだと勘違いして、アイツのことはただ待たせるだけで、それでも、アイツは俺のことを理解してくれてるから・・・アイツが俺の元を離れることなんて絶対にない・・・って、自分勝手な愛情を押し付けた。
絶え間なく注ぎ続けてくれるアイツの愛情を、俺は、いつでも欲しいときに蛇口を捻れば出てくる水みたいな風に思ってた。
どんなに深い井戸の水も雨が降らなきゃいつかは枯れてしまうのに・・・そして、そうならないためには俺自身が雨になってやらなきゃいけなかったのに・・・そのときの俺は、そんなことにまったく気付かなかった。
アイツがいなくなって、初めて失ったものの大きさに気付いた。
そのときに胸に開いた空洞は、時とともに小さくはなっても、きっと一生ふさがることはないと思う。
なぜなら・・・アイツの代わりになるものは、この世に存在しないから。
他の誰かで代用したり、時の流れとともに風化していくような、そんな存在じゃないから。
それは、未練とか恋心とか、そういうのではなくて、死んだ両親を想うときの気持ちに近い。
俺が両親と過ごした時間は短かったから、正直、両親との思い出はそれほどたくさんあるわけじゃない。
それでも、やっぱり両親は俺の人生の中で唯一無二の存在で、それを何かに置き換えることは決してできない。
今ではもう、墓参りのときくらいしかしみじみ思い出すことなんてないし、顔もはっきり覚えてないけど、それでも両親のことが俺の心の中から消えることは決してなくて、たとえば戦争とか事故とか究極の状況に陥ったら、思わず「お母さん!」なんて、叫んでしまうかもしれない。
それと同じで、アイツのことも決して俺の心から消えることはないんだよ。
毎日思い出すわけじゃないし、今更、取り戻したいと思ってるわけでもないけど、それでも俺の心の中には、アイツだけが存在する特別な場所がある。
なぁ、リコ・・・。
自分の青春のすべてを俺に預けて、ただひたすら俺だけを見つめ続けてくれたお前に、俺は何か一つでも確かなものを残してやれたかな?
お前が俺に残してくれた「何か」は、確実に俺の体の中にしっかりと根を張って、ゆっくりと、でも着実に「成長」という実をつける。
あのときのお前との恋があったから、俺は今の当たり前の生活を幸せに感じていられるんだと思うんだ。
キッチンで、食器を洗いながら、妻が発声練習をしている声が聞こえる。
正式に入籍していないから、「妻」という言葉は正しくはないのかもしれないけど、長年一緒に暮らし、娘までいるこの関係をどう呼べばいいのか、自分でもよくわからない。
妊娠、出産を経て、今はもう、白薔薇学園軽音部のスターだった頃の面影はないけど、それでも今でもやっぱりきれいだな、と思う。
そうは言っても、ケンカはしょっちゅうだし、特に音楽のことになるとお互い一歩も譲らず収拾がつかなくなって、最後には「俺は、お前の専属ギタリストじゃねぇ!」とか俺が怒鳴って、夜中に家を飛び出したりする。
ムシャクシャした気持ちで、しばらく車を飛ばしてあてもなくウロウロして・・・。
そんなときに、俺が必ず行く場所があるんだ。
・・・それは、白薔薇学園の校門前。
校門の前に車を止めて、シートを倒してぼんやりしていると、あの頃から俺は全然変わってねーな・・・とか、まだまだ子供だよな・・・とか思って、なんだかアイツにたしなめられてる気がするんだよ。
そうしてると、なんだかさっきまであんなにムカついてたことも、どうでもいいような気がしてきて、ケーキでも買って早く帰ろうかな・・・なんて思う。
目の前にある幸せを見ずに、自らそれを失ったあの後悔を、もう二度と繰り返したくはないから・・・。
今回のアルバム製作が終わったら、入籍しようって言ってみるかな・・・。
一笑に付されるかもしれないけど。
この20年の間に校舎は何度か改装され、俺たちの思い出のあの古ぼけた図書室ももうとっくになくなっているけど、でもこうやって目を閉じると、あの図書室の窓際のあの席で、今でも制服姿のアイツが待っていてくれるような気がするんだ。
今、会ってみたいような気はするけど、思い出は思い出のままにしておく方が美しいということを理解できる程度には俺も大人になった。
リコ・・・。
娘には、お前のような女に育ってほしいと思うけど、でも年頃になって俺みたいな男に振り回されることを考えたら、もう少しわがままなお姫様タイプに育てた方がいいのかな。
お前が、どこでどんな暮らしをしているのか、知る由もないけど、でもお前の場所まで俺のギターの音が届いているといいな。
それを祈りながら、俺はこれからも弾き続けるよ。
がむしゃらに夢に向かって走り続けたあの時代を、お前と一緒に過ごせて、本当によかった。
*絵は、ウルルさんに描いていただいたもの。
20年前の思い出のワンシーン。
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ああ、そっか、、やっぱ結婚となると変わっちゃうよね><
でも経験してきたことって次に生かせると思うし
りゅーは昔の恋を悪いほうに引きずることなく今の奥さん(予定)のことをちゃんと愛してあげて欲しい。
先生との兄弟関係とかはどーなったんだろう(^p^)なんか、ちょっと気になったw
2011/5/14(土) 午後 6:27 [ ウルル ]
ウルルさん
早速読んでくれてありがとう。
うん、多分、今竜士はちゃんと幸せだと思うよ。
だからこそリコちゃんのこともちゃんと懐かしく思えるんだと思う。
先生との兄弟関係は、多分、昔とそんなに変わらないと思う。(笑)
2011/5/14(土) 午後 7:46 [ 紫 ]
竜士くんはさぞかし渋いオッチャンになってそうですね。(^^)
一般人よりはかなり若く見えるでしょうけど。
そうかぁ、事実婚の相手はそうなんだぁ☆とニヤニヤしてました。
彼女と先生の関係もちょっと気になります。
勿論何もないと思うものの、こう心の柔らかいとこをくすぐられるような、ちょっと痛痒い感じが。
リコちゃんが竜士と別れを決心した出来事が知りたい!
それは次回ですかね?(^^;)
2011/5/15(日) 午前 8:18 [ かおる(orum) ]
かおるさん
フフフ・・・竜士の事実婚の相手、わかりましたか?www
サラッと読んじゃうと読み過ごしてしまうと思うので、わかった方はすごい!
彼女と先生は、どうかなぁ・・・?
多分、先生は何も気付いてないままじゃないかな?
リコちゃんが別れを決意した経緯は、多分次回でサラッと触れますが、多分、お互いの解釈が違うので二人の間に少しズレはあるかも・・・。
なんか、卒業以降の話も連載で書きたくなってきちゃったwww
2011/5/15(日) 午前 10:30 [ 紫 ]