ウェブカレdreamブログ

乙女ゲーム「ウェブカレ」をモチーフにした二次創作小説です。

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春になり、俺と彼女は、一緒に暮らすことを決めた。
二人で暮らせるように、少し広いマンションを借り、今日は、彼女の部屋を引き払うために引越し準備をしていた。
 
家具は二人で新しく買い揃えるつもりだったし、場所ももともと二人が住んでいたところから近いところに決めたので、引越しといっても車を何度か往復させるだけで事足りそうだった。
 
彼女の私物を段ボール箱に詰め込んでいたときに、棚の奥の方から古びた人形を見つけた。
 
それは、高校時代、女子生徒たちの間で流行っていたクレーンゲームの人形・・・カメウサだった。
懐かしさと共に、ふとアイツのことが頭をよぎる。
アイツと付き合う前、このカメウサをアイツに取ってやったんだ。
彼女もこのカメウサを持っていたなんて・・・知らなかったな。
 
「これ、もう捨てるだろ?」
 
俺がそう言って、その人形を取り上げると、彼女は慌てて駆け寄ってきて、その古びた人形をひったくった。
 
「ダメ!これは、引越し先にも持って行くの。」
「え?こんな古い人形を?」
「いいでしょ!何か、文句ある?」
 
いや・・・別に、文句はないけど・・・。
彼女は部屋のインテリアにはあまり興味がなくて、今までだって人形や置物を飾っているのを一度も見たことがない。
それなのに、どうしてこんな古い人形にこだわるんだろう・・・そう思いながら、横目で彼女を見ると、その人形を懐かしい目で愛おしそうに撫でる彼女の姿があった。
 
・・・それを見て、わかった。
 
きっと、この人形には、彼女の大切な誰かとの思い出があるんだ。
俺が、この人形を見てアイツを思い出すように、彼女にもこの人形を見て思い出す誰かがいる。
彼女が、俺の思い出を大切にしてくれているように、俺も彼女の思い出を大切にしてやりたい・・・そう思った。
 
 
荷物をすべてマンションの方に運び込み、ガランとした部屋の中で荷物を解いていると、いきなり玄関のドアが開いた。
 
「鍵も閉めないで、不用心じゃないですか。」
 
そう言って、入ってきたのは兄貴。
 
「いいんだよ。まだ、車の中に荷物が残ってて、出たり入ったりするから。」
 
そう答えて、ふと思った。
 
マンションの入り口はオートロックになっているはず。
部屋番号を押して、それから暗証番号を入れればロックが解除される・・・その手順は確かに兄貴に話したけど、暗証番号そのものを教えた記憶はないのに、なんで入ってきてるんだ?
 
「マンションのオートロック・・・どうやって開けたんだよ?」
 
すると、兄貴は涼しい顔で一言、こう答えた。
 
「君の暗証番号は、君が高校生の頃から知ってますから。」
 
その言葉を聞いて、一瞬で顔が熱くなった。
 
そう・・・俺は高校時代からずっと同じ暗証番号を使っていて、それは・・・アイツの誕生日なんだよな。
高校生のとき、バイト代が振り込まれる口座を作らなきゃならないとかで、その暗証番号を、当時付き合っていたアイツの誕生日にした。
それ以来、毎回暗証番号を変えるのが面倒で、クレジットカードや、ネットショッピングや、携帯など、何か暗証番号を作る際には、すべて同じ番号にしていた。
 
考えてみれば、暗証番号を彼女の誕生日に設定するなんて、あの頃の俺はそれだけ恋愛に夢中で、今から思えば、寝ても覚めてもアイツのことばかり考えてた。
なんだか恥ずかしいけど、それも、今となってはいい思い出だよ。
あれほどまでに夢中になれる恋愛は、人生の中でそうないってことを、大人になった今ではわかる。
一度でもあんな経験ができた俺は・・・ラッキーだったよな。
 
「あの頃の君は、本当に・・・」
「手伝いに来たんだろ?だったら、さっさと手伝えよ。」
 
これ以上、兄貴に何か言われたら、恥ずかしすぎて卒倒する。
俺は、自分の首にかけていたタオルを取って、兄貴の方に放り投げた。
 
 
3人で、ダンボールの中の荷物を解く。
もともと部屋についていたクローゼットの中に服を入れ、本は本でまとめて、あとで本棚に入れやすいように同じ場所に固めて置いておく。
兄貴が、カッターでダンボール箱のガムテープを剥がし、中身を取り出した瞬間、声を上げた。
 
「志帆さん、これまだ持ってたんですね。懐かしいですねぇ。」
 
その声に振り向くと、兄貴があのクレーンゲームの人形、カメウサを高々と掲げている。
 
「志帆さん、覚えていますか?高校生のとき、ゲームセンターにいた君をわたしが補導したんですよね。この人形が取れるまで帰らないとダダをこねるもので、どうしたものかと考えた挙句、一か八かで挑戦してみたら、案外簡単に取れてしまって・・・。そして、そのあと、一緒にラーメンを食べたんですよね。懐かしいですねぇ。」
 
え・・・?
このカメウサ・・・兄貴が彼女に取ってやったってこと・・・?
 
彼女の方を見ると、彼女は焦ったような表情で顔を真っ赤にしながら、兄貴に向かって両手をパタパタと振っている。
でも、兄貴はそんな彼女の様子にまったく気付かずに、その人形をひっくり返したり、引っ張ったりしながら懐かしそうに見つめている。
 
そうか・・・そうだったのか・・・。
彼女の大切な思い出の相手は・・・兄貴だったんだ。
そうだったんだ・・・。
 
なんだか、心の奥に優しい暖かい風が吹いたような気がした。
嫉妬とか、そういう嫌な感情はまったく起こらなかった。
それよりも・・・彼女の大切な思い出を兄貴が覚えてやってくれていたことが、嬉しかった。
たとえ片想いだったとしても、親との葛藤に苦しみ、常にスターであらねばならないと片肘を張っていたあの頃の彼女の心の支えになってくれたこと、そしてそれを彼女の心の中に美しい思い出として残してくれたこと・・・そのことに、心から感謝すると共に、その相手が兄貴でよかった・・・と、なんだか素直にそう思えた。
 
 
その後、兄貴が「引越しソバを食べましょう」と言うので、3人で車で近くのスーパーに買い物に行った。
そのついでに、彼女が引越しの間ペットショップに預けていたプードルのプー子を引き取りに行く。
ソバだけじゃなくて、何だかんだと余計なものまで買って、結局マンションに着いたときには、俺は両手に大きなスーパーの袋を提げていた。
 
駐車場からマンションまでの道は、桜並木になっていて、春風に煽られたピンク色の花弁が花吹雪となってひらひらと舞い踊っていた。
その中を3人で歩いていると、なんだかふと高校時代を思い出す。
 
桜の舞い散る中庭の向こうに見える古い校舎・・・。
陽だまりの図書室・・・。
遠くの空に夢を馳せた屋上・・・。
 
その一つ一つに3人それぞれに違った思い出がある。
そうやって、違う思い出、違う人生を違う人と共に生きてきた3人が今、こうして一緒にここにいることを思うと、改めて人生の不思議さを感じる。
きっと、一口に「あの頃」といっても、そこに思い浮かべる景色や、音楽、人との会話、ぬくもり・・・それは3人それぞれに違っていて、案外、共通するものは少ないような気がする。
 
でも・・・それでいいんじゃねーかな?
 
お互いがこれまでの過去を認め合い、それを大事にしながら未来を一緒に生きていく。
過去と未来とどちらが大切かなんて、決められない。
どちらも自分にとって、かけがえのない大切なものだから・・・兄貴にも、彼女にも、思い出は大切にしてほしいんだよ。
 
「お前、髪の毛に桜の花びらついてるぜ。」
 
俺が彼女に向かってそう言うと、彼女はブルブルと頭を振りながら、こう言った。
 
「取ってよ。わたし、プー子抱えてるんだから。」
「俺だって、両手ふさがってるだろ。」
 
そのとき、俺たち二人の前を手ぶらですいすいと歩いていく兄貴の姿が見えた。
 
「兄貴、取ってやれよ。」
 
すると兄貴は、くるりと俺たちの方を振り返ると、呆れた声でこう言った。
 
「何を言ってるんですか。それは、君の役目です。」
 
はぁ・・・。
 
俺は、両手の荷物を地面に下ろした。
そして、彼女の髪の毛についた桜の花びらを取ろうとした瞬間・・・。
 
「・・・やっぱ、やめた。」
「はぁ?何よ、それ。早く取ってよ。」
 
そんな彼女の声を無視して、俺は大声で笑いながら先を歩く。
 
なんだか・・・花びらを髪につけた彼女が、今までに見たことがないくらい、とてもきれいに見えたんだよ・・・。
こうやって、これからもずっと彼女をきれいだと思って、一緒に生きていけるといいな。
 
そして、アイツも・・・アイツのことをそんな風に思ってくれる誰かと一緒にいてほしい。
俺が今、こんな風に幸せを感じていられるのも、きっとアイツのおかげだと思うから。
 
 
※画像は、お友達のあゆこさんに描いていただいた絵。
間山さんの髪についた花びらを取りかけてやめる竜士。
 
 
 
 
 

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