ウェブカレdreamブログ

乙女ゲーム「ウェブカレ」をモチーフにした二次創作小説です。

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扉を開けて

何度かトライしてやっと繋がったインターネットに、ホッと胸を撫で下ろす。
 
電気も水もない小さな村で暮らしているわたしが、隔週で訪れる、都心にあるNPO法人。
都心といえど、そこでもやっぱりインフラはまだまだ整備されてはおらず、インターネットに繋がる時間もほんのわずかなのだけど、それでもやはり、時折こうやって世界のニュースを見たり、日本の友達と繋がっていることを実感できるのは、わたしにとって日常の中の小さな贅沢であり、楽しみでもある。
 
メールの受信箱には、仕事関係以外にも、懐かしい名前が何件か入っていて、それを見るだけで思わず顔がほころぶ。
その中で、心待ちにしていた名前を見つけ、急いでそれをクリックする。
 
 
看護師としてアフリカに派遣されて、半年。
助産師の資格も持っているわたしは、ここでたくさんの新しい命を取り上げ、家族と共に喜びの涙を流し、時にはなす術もなく命を落とす子供たちを前に自分の無力さを感じ、それでも自分のできる限りのことを模索しながら充実した日々を送っている。
 
ここでは、圧倒的に医師の数が足りない。
わたしはあくまでも看護師で、医師に代わるような判断や医療行為は当然できない立場なのだけど、この掘立小屋に近い診療所を訪れる人たちには、その違いがわからない。
何とか病気を診てもらいたいと、たくさんの患者が毎日何時間もかけてやってくる。
時には医師の帰宅した深夜だったり、休診日だったりして、わたししかいないときがある。
それでも、そんな患者たちを無下に帰すことが忍びなくて、自分にできる限りのアドバイスをしてあげたいと思うようになった。
もちろん、医療行為はできないので、食事に関するアドバイスや応急処置を教える程度のことしかできないのだけど、それでもやはり医学書には載っていない、医師の経験でしか判断できないようなこともある。
そういうことに出くわしたとき、わたしはそれがたとえどんなに些細なことであっても、必ずメモをして、2週間に1度街を訪れたときに、まとめてメールで相談することにしている。
 
かつてわたしが恋をして、その恋が消えた今でも、深い尊敬と信頼の心を寄せているあの人に・・・。
 
 
彼からのメールを開けると、そこにはいつものように、わたしの質問に対する返答が丁寧に書き込まれていた。
特定の症状に対して疑いのある病気、その対処法、予防、こちらでも手に入りそうな薬の名前や、応急処置など、それは詳細に書かれてあって、わたしはそれを日記代わりにつけている看護日誌に書き留める。
この日誌も、早いものでもう5冊目になった。
 
メールの最後に、簡単な彼の近況報告と、共通の友達の話が書かれてあって、懐かしい気持ちでそれを読み終え、メールを閉じようとしたとき、一番最後に追記として書かれてあった言葉に目が留まった。
それを読んで、思わず遠い昔に心がタイムスリップした。
 
<扉の向こうに何があるかを考えてから扉を開けること・・・それを教えることも、君の役目だぞ。>
 
 
「ねぇ、薫くん、わたしが大学卒業したら、一緒に暮らそうよ。」
 
わたしよりもまだ2年大学生活の残っている彼にそう言ったのは、わたしの大学卒業の約半年前だった。
 
「そんなこと、できるわけないだろう。俺にはまだ2年も大学生活が残っているんだ。親に学費を出してもらっておいて、彼女と同棲するから家を出るなんて、そんなこと言えるわけがない。」
「2年くらいなら、バイトすれば学費くらいは何とかなるんじゃない?わたしだって働き始めるわけだし。」
「5年生、6年生となれば、病院での実習も多くなるし、国家試験の勉強で、ただでさえバイトどころじゃないんだ。学費を払ってその上、生活もなんて、そんなこと無理に決まってる。」
 
その頃のわたしは、母の再婚が決まり、早く家を出たくて焦っていた。
母の再婚相手はいい人だけど、やはり知らないおじさんを「お父さん」と呼び、一緒に暮らすことだけはどうしても嫌だった。
看護師の寮に入るという手もあったけど、寮は規則が厳しいし、先輩後輩の関係が家の中まで続いて面倒だという話を先輩から聞いていたので、できるだけ避けたかった。
一人暮らしも考えたけど、まず先立つものがない。
引越し費用や、アパートの保証金、新しい家具・・・母の再婚相手に言えば、出してくれるだろうけど、借りを作りたくはない。
一人暮らしをするためのまとまったお金を貯金するには、最低でも1年は実家を出られない。
 
そんなときに、ふと思いついたこと・・・。
一人暮らしは無理でも、もし誰かと一緒に住むのなら・・・?
引越し費用も折半にして、家具もお互いが持っているものを持ち寄り、足りないものだけを買い足すのなら、あと半年頑張ってバイトすれば、何とかなるんじゃないだろうか・・・。
それが、わたしが彼と一緒に暮らしたい最大の理由だった。
 
「それに、結婚するわけでもないのに一緒に暮らすなんて、親が賛成するわけがないだろう?」
「じゃあ、結婚しようよ!」
「なっ・・・、そんなこと、簡単に決められるものじゃない!」
「簡単に決めてるわけじゃないじゃない。だって、わたしたち何年付き合ってると思ってるの?お互いを知るには、十分すぎる長さだと思うけど?」
「お互いをよく知ってるとか知らないとか、そういう問題じゃないんだ。君は結婚と簡単に言うけど、結婚後の生活を考えてみたことがあるのか?毎月の生活にいくらかかるのか、お互いの仕事はどうするのか、子供は欲しいのか、欲しいならいつ頃作る予定なのか・・・。」
「あーあーあー!もう!薫くんと話してると、息が詰まるよ!世の中、そんなに何もかも計画通りにいくわけないでしょ!やってみなきゃわからないことだって、あるじゃん!」
 
その頃のわたしは、「計画」などという言葉とは無縁の世界で生きていて、自分の欲求をどうすれば今すぐ満たせるか・・・と、そんな風にしか物事を考えていなかった。
そんなわたしには、彼の言う「計画」がなんだか、臆病者の言い訳に聞こえて、「親に何も言えないお坊ちゃん」に苛立ちを感じ始めていた。
 
「学生結婚するには、きちんとした計画と、それなりの覚悟が必要なんだ。ただの勢いや、その場の盛り上がりなんかじゃなくて、ちゃんとした人生設計があることを示さないと、誰にも賛成なんてしてもらえない。どうせデキ婚だろうと思われるのがオチだよ。」
「じゃあ、子供作ろうよ!それならみんな仕方ないって納得するでしょ。」
「ばっ・・・バカなことを言うんじゃない!」
 
そのとき、彼が言った言葉。
 
「扉を開けるときは、扉の向こうに何があるかを考えてから開けなきゃいけないんだよ。君がやろうとしていることは、扉の向こうで火事が起こっているのに、それを確かめもせずに扉を全開にして自ら火の中に入っていくようなものだ。」
 
 
あのときには心に響かなかった彼の言葉・・・。
でも、あれから何年も経った今、遠い異国の地でその言葉を聞いて、なんだか初めてその言葉の意味を理解したような気がした。
 
扉の向こうに何があるかを考えるという教育を受ける機会のないまま、明日の生活も見えない中、10代で妊娠、出産という扉を開けていく、この国の人たちの貧しさの連鎖を目の当たりにするとき、彼のあのときの言葉が胸に迫る。
 
<それを教えることも、君の役目だぞ。>
 
あの頃の甘酸っぱい恋心は消えても、今も彼が遠くからわたしの行く道を見守ってくれている・・・なんだか、そんな気がする。
心を大きなふるいにかけて、愛とか恋とか友情とか・・・そういった心の澱をすべて流し去ったあとに残った絆。
それが、きっと今のわたしと彼の関係。
 
あの頃の二人に・・・そして、今の二人に誇れるように、わたしはあの頃二人で見た夢を必ずここで叶えてみせる。
 
さぁ、わたしの次の扉は、すぐ目の前にある。
 
 
 
 

閉じる コメント(2)

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薫君とほのかちゃんらしい思い出。双方が同じようにいい思い出だと心にしまっていることを望みます。
若いうちは今に精一杯というのもあるけれど、先を見据えないといけないのも事実。かおる君はすごい子ですvv私も見習わないと!!

2012/2/29(水) 午後 6:55 [ かな♪ ]

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かなさん

こちらにまで来ていただいて、ありがとうございます。

恋の中で、相手が言った言葉でそのときまったく何も思わなかったことが、何年も経ったあとで胸にしみることがあります。
恋愛って、付き合ってる間だけではなくて、その人の思い出に一生影響を与えるパワーを持ったものだと思います。
会長とほのかちゃんの恋が真剣なものであったからこそ、今、お互いの人生にそれがいい影響を与えているのだと思います。
かなさんもそういう恋をしてくださいね♪

2012/2/29(水) 午後 7:55 [ ]


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