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今日は綾川くんのライブの日。
今まで、学園祭や校内のイベントでのライブは見たことあるけど、ライブハウスで見るのは初めて。
しかも、このライブハウスからは有名なアーチストたちがたくさん出てて、何度もオーディションに挑戦してやっと出演できたんだって興奮気味に話してくれた。
「ま、これが夢への第一歩ってとこだな。」
って嬉しそうに話してたっけ。
ライブハウスなんて行くの初めて。
暗い照明とタバコの煙とお酒の匂い。
こんなところに制服で来ちゃったわたしは、自分だけ浮いてる気がして一番後ろの隅で立って見てた。
ステージの上の綾川くんはいつもとは別人みたいに輝いてて、なんだか手の届かない人みたいだった。
ドキドキしちゃダメだよ…。
明日から顔見て話せなくなっちゃうじゃん…。
でも、心臓のドキドキはおさまらなくて、ステージをまっすぐに見ることもできない。
綾川くんはわたしに気づいてくれてるかな?
気づいてるわけないよね…。
こんなにたくさん人がいるんだし、ファンの子たちもいるし。
最後の曲が終わった。
バンドのほかのメンバーはまだステージで楽器を片付けたりしているのに、綾川くんだけギターを持ったままステージから降りて、人ごみの中をかきわけながらこっちにまっすぐ向かって来た。
汗もぬぐわずに、そのままの姿で。
そして、わたしの目の前に来て、
「はい、夢の第一歩への記念。お前に一番最初に渡したかった。」
と言って、さっきまでライブで使っていたピックをわたしの手の平に握らせた。
いつも教室で見せるのと同じ笑顔で。
「俺、バンドのメンバーと打ち上げあるから、お前は早く帰れよ。お前はかわいいんだから夜、気をつけろよ。」
っていつもと同じセリフで。
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