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君が学級委員になってから、国語準備室が明るくなりました。
毎日花瓶の花を活けかえて、部屋の掃除をしてくれるおかげで、殺風景だったこの部屋が生き返ったようです。
それに何よりも、明るい無邪気な君の笑顔は、どんな疲れも吹き飛ばしてくれるわたしの唯一の癒しなのです。
そんな君が今日はなぜか浮かない顔。
「どうかしましたか?元気がありませんね。」
「先生、結婚するって本当ですか?」
おや、これはまた唐突な質問ですね。
独身教師というものは、生徒たちのこういう噂の的になりやすいもの。
「誰かそんなことを言っている人がいるのですか?」
「クラスの女子が噂してます。先生がもうすぐ結婚するって…。」
「根も葉もない噂ですよ。そんな特別な人はいません。それに第一、竜士が学校を卒業して一人前になるまでは結婚なんてできませんよ。うちは、両親を早くに亡くしていますからね。」
「そうなんですかぁ…良かったぁ…。」
そう言って子供のように喜ぶ君を見ていると、思わずこちらの口元までほころんでしまいます。
君にとってわたしは少女がマンガの主人公に恋をするようなそんな淡い憧れなのでしょうね。
本当の恋はもっと切なく、苦しいもの。
特に若すぎる恋は悪戯にお互いを傷つけ合うものです。
君がどこかの少年と恋をして泣いたり傷ついたりする前に君をさらってしまいたいと思うけれど…。
でも、それが大人になるために必要な痛みなのだとしたら、わたしは黙って見守るしかないのでしょうね。
「これ、竜士くんにもらったんですよ。可愛いでしょ?」
そう言って、君はゲームセンターで取った小さなマスコットをわたしの机の上に飾ろうとしています。
弟に嫉妬するほど子供ではないけれど、まだ恋の痛みを知らない君たちの若さに嫉妬してしまいます。
いくつかの恋をして、傷つき泣きたくなったときはいつでもわたしの元に帰ってきてください。
わたしはいつでもあなたの涙を受け止める準備をして待っています。
そのときにはあなたはきっとわたしだけの素敵なレディになっているはずです。
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