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「ちゃんと聞いているのか?」
その声にふと我に返る。
「あ…ごめん、ボーッとしてた。もう1回最初から説明して。」
「やれやれ…君は世話が焼けるな。」
そう言いながらも、顔が嫌がっていないのがわかる。
彼は椅子を少しわたしの方に寄せて、教科書を開く。
「今日も授業中寝ていただろう。来週からテストなのに大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。わたしには薫くんがいるでしょ?」
「まったく…俺がいないとダメだな。」
彼は赤くなった顔を隠すようにわざと咳払いをした。
「君は世話が焼けるな。」
「俺がいないとダメだな。」
これは彼の口癖。
その言葉を聞きたくてわたしは時々わざとわからないふりをする。
本当は最近、結構勉強は頑張ってる。
薫くんとの会話についていきたくて歴史や科学の本を読むようになって、成績も上がった。
いつもの世話の焼けるダメなわたしじゃなくて、こういう頑張ってるわたしのこともちゃんと見ててくれてるのかな?
「ん?風邪か?顔が赤いぞ。」
ふと鉛筆を動かす手を休めて彼は言った。
そしてわたしの額に手をやった。
「少し熱いようだな。」
そういうと今度はわたしを引き寄せ、自分の額にわたしの額をくっつけた。
いきなり近づく距離にわたしの体は熱を増す。
息がかかるほどの距離で、わたしの鼻と彼のメガネがぶつかった。
「やはり少し熱があるようだ。今日はもう帰った方がいい。家まで送ろう。」
「でも、来週からテストだし…。」
「テスト?心配しなくていい。俺がついている。」
そう言って、彼は立ち上がった。
「無理するな。君が頑張っていることは俺が知っている。」
彼は、はにかんだように微笑んで右手を差し出した。
ああ、いつもこの手がわたしを引いてくれるからわたしは歩き出せるんだ。
力強く差し出されたその手を取る。
いつまでもこうやってわたしの進む道にあなたが手を差しのべてくれることを祈りながら…。
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