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Q20
安倍内閣は「集団的自衛権が行使できる4類型」を示しましたが、イマイチよく理解できません。 A
第一次安倍内閣が安全保障の議論を始めた2006〜㎝年当時、日本の官僚機構は国連による「集団安全保障」と、各国が行使する「集団的自衛権」を明らかに混同していました。そのために集団的自衛権が国民に正しく理解されなかったばかりか、官僚や学者などのレベルの低さが世界に知られてしまい、国益を大きく損ねてしまった、とすらいえます。そんな混同が整理されてきたのはようやく最近のことなのです。 集団的自衛権を長く封印してきた日本では、1990年前後からPKO(国連平和維持活動)などの国際貢献を求められるようになり、議論の混乱が目立ちはじめました。国連のPKO活動は明らかに「集団安全保障」システムの一つです。ところが、PKOに参加させるため自衛隊を海外に派遣するのは、憲法上認められない「集団的自衛権」の行使ではないか、という声が起こったのです。「集団安全保障」と「集団的自衛権」の混同は、これに引きずられてしまった側面があります。 もう一つ、日本の専門家が集団安全保障と集団的自衛権を混同する原因になったのは、NATOのような地域を共同防衛する機構を、欧米で集団安全保障と呼ぶことがしばしばあったからです。NATO各国は集団的自衛権を行使して同盟を守ります。そのNATOが集団安全保障の仕組みの一つであるなら、集団安全保障は集団的自衛権の行使で成り立つと言えないこともない。そこで、集団安全保障も集団的自衛権も同じことだろう、という誤解が生まれたわけです。
「集団安全保障」と「集団的自衛権」を混同
第一次安倍内閣当時の2007年5月18日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、座長・柳井俊二元駐米大使)の初会合が首相官邸で開かれました。 安倍首相は、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの開発など日本を取り巻く安全保障環境が格段に厳しくなったと語り、「新しい時代の日本が何を行い、何を行わないのか明確な歯止めを国民に示すことが重要だ」と、憲法解釈見直しを検討するように要請したのです。安保法制懇は、いわゆる首相の私的懇談会で、設置の目的は「個別具体的な類型に即し、集団的自衛権の問題を含めた、憲法との関係の整理につき研究を行うため」(同年4月17 日の首相決裁文書)とされていました。 そこで示された「個別具体的な類型」とは、 ①海上自衛隊艦船と公海上で共同行動している米国艦船が攻撃された場合の防護 ②アメリカなど第三国に向かう可能性のあるミサイルの迎撃 ③国連平和維持活動(PKO)などで共同行動している外国部隊の救援・反撃のための武器使用 ④PKOなどに参加している外国部隊の後方支援 これが、いわゆる「4類型」です。 結論からいえば、安保法制懇の事務方を務める外務省などの官僚たちが出してきた4類型は、無理やり集団的自衛権の問題としてとらえる必要などありませんでした。 特に、PKOに代表される国際平和協力活動など「集団安全保障」についての誤解と混同が目立ちました。 たとえば、③は、もちろん国連の集団安全保障の話で、集団的自衛権とはなんの関係もありません。共同行動している外国部隊への攻撃は、「任務に対する攻撃」として考えなければいけません。PKOの武器使用については、のちほど問題点を指摘することにします。 ④も、国連の集団安全保障の話であって、集団的自衛権とは関係ありません。 安保法制懇の事務方の官僚たちが陥っていたのは、「共同行動している外国部和協力活動においても「同一地域で一緒に行動しているのは常に米軍」という錯覚です。だから、「集団的自衛権」のテーマだと誤解してしまったのです。 たとえば、ソマリア沖の海賊対処に護衛艦2隻とP13C哨戒機2機を派遣している海上自衛隊は、中国海軍の駆逐艦とも共同行動をとっています。もし中国軍が海賊の奇襲攻撃に遭って苦戦することになったとき、「尖閣諸島の領有権問題で緊張関係にあるから助けない」ということはあり得ません。日中が共同行動している「任務」に対する攻撃と見なし、反撃や救援を行うというのが、集団安全保障の当たり前の姿だからです。 国連の平和維持活動ということになれば、今後、同じ地域で自衛隊と中国軍が活動するケースは増えていくと思われますし、理屈のうえでは国連加盟国として北朝鮮軍が同じ任務に従事する可能性だってあるのです。その北朝鮮軍がゲリラなど武装勢力に攻撃されたとき、「なぜ日本にミサイルを向けている北朝鮮軍を助けるのか?」という話にはならないのです。 ①は、あとで触れるようにオーストラリアの艦船が米軍と一緒に行動していることもありますし、日米同盟に基づく集団的自衛権の話だけではなく、国際平和協力活動の場合も視野に入れなければなりません。 とにかく、最初から「海上自衛隊艦船」と決めつけてしまうと、海賊対処やPKOに派遣される海上保安庁の巡視船はどうなのかという問題が出てきますから、「日本国籍の艦船」としなければいけません。「公海上で」というのもおかしい。許可を得たうえで他国の領海内を通過するときもありますから、「自国の領海以外で」としなければいけません。 さらに「米国艦船」も、オーストラリァ海軍などがアメリカ艦隊と共同行動をする場合が多いので、「共同行動している外国艦船」などの表現に変えたほうがよいでしょう。 さらに、「自国の領海以外」、つまり公海上や隣接国の領海内であっても、周辺事態の範囲内で米艦船と行動を共にする場合もあります。こちらは日本の防衛という個別的自衛権の問題として、米艦船への攻撃に対する反撃を位置づけるのは当然のことです。 弾道ミサイル迎撃は個別的自衛権で
②については、集団的自衛権のテーマとしてだけでなく、次の二つのケースについては個別的自衛権で対処すると宣言することによって、とくに北朝鮮の弾道ミサイル攻撃や恫喝を抑止していくのが理に適った方法だと私は考えます。 【ケース1】日米双方または日米のいずれかに対して弾道ミサイルで攻撃する、との威嚇が繰り返し行われている状況で発射された飛翔体については、もっとも対処しやすいブースト段階で破壊する。 【ケース2】危険海域の通報など国際ルールを無視して発射された飛翔体は、やはりブースト段階で破壊する。 ケース1は、弾道ミサイル発射直後、アメリカ本土か、ハワイか、グアムか、それとも日本なのか、どこに飛んでいくかわからないミサイルを、発射1〜2分間ぐらいのブースト段階(ミサイルの速度がマッハ3前後の状態)で撃ち落とすということです。北朝鮮領海近くに展開するイージス艦や潜水艦からでも、時速900キロ弱のトマホーク巡航ミサイルでは間に合わないので、SM-3クラスのミサイルを発射することになるでしょう。
アメリカしか威嚇していない場合でも撃ち落とします。これまで述べてきたように、日本列島はアメリカにとって唯一無二の戦略的根拠地です。日本を威嚇していなくても、弾道ミサイルは確実に在日米軍基地がある日本列島に向かうと考えなければならないのです。 ケース2については、人工衛星打ち上げなどを装った奇襲攻撃があり得ることを前提に考えれば、当然のことです。 ブースト段階での破壊は、北朝鮮領空内でおこなわれる可能性が大きいので、念入りに理論武装しておかなければなりません。まず、日本は戦力投射能力を備えておらず、そこにおいてミサイル防衛はあくまでも専守防衛のシステムであることを明らかにし、上記の2ケースについて個別的自衛権を行使する場合があることを、北朝鮮を含めた国際社会に繰り返し宣言しておくのです。 日本が弾道ミサイルを破壊しなければならない事態については、憲法が禁じる武力行使には当たらないということもまた、国際社会に周知徹底しておく必要があります。そうなると、北朝鮮もうかつにミサイルの発射はできなくなるでしょう。むろん、このような弾道ミサイルの迎撃を「日本としての集団的自衛権の行使」としてアメリカに認めさせることもあってよいと思います。 安保法制懇の報告書を修正 私は2007年5月末の段階で安倍首相にメモを届け、4類型の問題点を指摘しました。私以外にも問題点を指摘し、アドバイスした専門家が少なからずいたはずです。その結果、2008年6月24日の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会報告書」では、問題点がかなり整理されました。 私が集団的自衛権の問題ではないと指摘した点は、こう修正されました。 「基本的に、①と②は自衛権に関する問題であり、③と④は国際的な平和活動に関する問題であって、両者は明確に区別して考察されなければならない」(報告書4ぺージ)そして、③の「(4)法的制約に関する問題解決の選択肢」という項では、日本が国連の集団安全保障に参加することに問題はない、と結論しています。 「憲法第9条が禁じているのは、個別国家としての我が国による『国際紛争を解決する手段として」の『国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」であって、国連等が国際平和の回復・維持のために行う集団安全保障や国連PKOとは次元を異にするものであり、これへの参加は憲法で禁止されていないと考えるべきである」(同13ぺージ)これに続けて、国連憲章が本来予定する国連軍の創設などの集団安全保障体制が実現しておらず、国連の平和活動にもさまざまな段階があるから、参加にはケースバイケースで慎重な検討が必要だとしたあと、武器使用についてこう書いてあります。 「しかしながら、少なくとも、国連PKOの国際基準で認められた武器使用が国連憲章で禁止された『武力の行使」に当たると解釈している国はどこにもなく、したがって、自衛隊が国連PKOの三貝として、駆け付け警護や妨害排除のために国際基準に従って行う武器使用は、憲法第9条の禁ずる武力の行使に当らないと解すべきである」 この考え方で問題ありませんが、文中の「駆け付け警護」という言葉だけは、なんとかしてほしいものです。こんな言葉は軍事用語にはありません。自衛隊と外国部隊の話なのに、交番のおまわりさんが駆けつけるような言葉を使うのは、おかしい。当たり前の「救援」という言葉を使うべきです。 4類型の①について、私は次のような点も指摘し、これも修正されました。 「報道では『併走する艦船』という表記も出ているが、艦船の運用上、整理する必要がある。艦船が並走するのは給油等の限られた行動の場合だけで、通常は目視できないほどの距離に展開している……」 報告書は、「日米の艦船が互いに近くで行動している場合として一般に想像されるのは、例えば、日米の艦船が併走して給油活動をしているような場合であろうが、共同行動といっても、広大な公海上で日米の艦船が互いに数百キロ離れていることがあるのが実態であって、至近距離で給油活動をしているような場合は、稀である」(報告書9ぺージ、1.公海における米艦の防護(1)現実の状況)と、最初の4類型での表記についての言い訳のような書き方になっています。 |

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