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久しぶりに楽しかった週末が終わり、
翌日、私は仕事に向かった。
いまは旦那の「別れた」と言う言葉を信じて
自分自身も毎日、きちんとやるべきことをやり
旦那と向き合い、少しずつ、以前の暮らしに戻すしかない。
旦那の浮気が教えてくれた
私のダメな部分、直さなければならない部分とも
きちんと向き合い、努力することも忘れずに。
そんなふうに、久しぶりに前向きな気持ちで迎えた朝だったが、
一件の電話から、一気に気持ちがブルーになる。
それは、浮気相手からの電話だった。
着信の番号を見たとき、
一瞬、出るのをためらったけれど、
出ないのは逃げているようでイヤだったので
思い切って電話に出てみた。
すると、浮気相手は名前を名乗るとすぐに
「これまでいろいろご迷惑をかけましたが、
もう終わりにします。
けじめをつけるために、お電話をさせていただきました」
と言ってきた。
私はこれまでの彼女からは想像もできない言葉が出てきたので
一瞬、言葉につまった。
頭の中でぼんやりと
「これで、本当に旦那の浮気から解放されるのだ」と思った。
が、相手はその後、私の言葉を待たず、さらに話し続けた。
「奥さんもいろいろと苦しまれたようですが、
私はもっと苦しみました」と
旦那と浮気している間に何度かした自殺未遂のことや
リストカットのことを事細かに教えられた。
リストカットのことは少しは聞いていたけれど、
自殺未遂のことは初耳だったので正直、驚いた。
薬を飲んで死のうとしたこと、首をつって死のうとしたことなど、
どれだけ苦しんできたかを切々と私に訴えてきた。
そして、どれだけ自分が旦那に愛されているかも話しはじめた。
どこそこのお店に連れていってもらったとか
プレゼントに何をもらったとか
別れてからも旦那から会いに来てくれたとか
今も心から愛し合っているのは旦那と自分だけど、
お互いの家族のことを考えて今は別れることにした。
というようなことを話し続けた。
傷跡に塩を塗る行為というのは、
こういうことを言うのだろうか。
彼女は何がしたくて私にこんな話をするのだろう。
一体、彼女は何が言いたいのだろう。
彼女の言う“けじめ”とは、一体何を意味するのだろう。
彼女から発せられる言葉の一つひとつに
愛し合っている二人が無理矢理引き裂かれることへの悔しさがにじみ出ていた。
そして、繰り返し繰り返し、自分がどれだけ苦しんだかを訴えられた。
一方の私は
「でも、どれもあなたが選んだことですよね。
はじめから妻のいる相手だとわかっていたのですから。
今私が言えることは、もっと自分を大切に、
今度は幸せな恋愛をしてください、ということだけです」と言うのがやっとだった。
電話を切ってから
不思議な感情が私の中で生まれはじめた。
電話で一方的に話を聞かされている間は
「一体、この人は何が言いたいのか」と腹立たしい気持ちでいっぱいだったけど、
少し気持ちが落ち着いてくると、
だんだんと、そんなに愛し合っている二人を
「結婚」という二文字を盾に別れさせようとしている自分が
ひどく悪者に思えてきた。
愛し合う二人を引き裂く権利が果たして私にあるのだろうか。
私さえ、身を引けば、すべてがうまくいくのではないか。
彼女の口から出た旦那と一緒に行った店というのは
旦那の友人の店で私もよく食事に行っていた。
その店で何度もデートして楽しかった話を浮気相手は
誇らしげに話した。
旦那の友人とも仲の良いことなども聞かされた。
もしかしたら、私以外のみんなは
旦那とその浮気相手との間を応援しているのではないか。
まわりのみんなは私さえ離婚すれば丸く収まると思っているのではないか。
私はこの場所にこのまま居ていい人間なのだろうか。
私がすべての不幸の原因なのではないのか。
そして何より、彼女はまた自殺未遂を起こすかも知れない。
これまでは未遂で終わっていたけれど、
今度は本当に死んでしまうかも知れない。
もしも、そうなったらどうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・。
言いようのない不安が心をどんどん支配していった。
心の闇はどんどん、どんどん広がっていった。
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