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◆[恋人同士に](3/10) 私は無我夢中で帰って行った。自分のアパートまで。 だけど、そこでハッと気づいたけれど、私に疑われて一番傷ついたのは杉田君じゃないのかって。 これが事実だったにしろ、そうでなかったにしろ私が杉田君を責めてどうするの? どんな事情があったとしても杉田君を責めるようなことをしてはいけなかった。 私が本気で杉田君のことを思うのなら。 この気持ちって・・・・やっぱり、嫉妬してるから? その女子生徒に嫉妬しているからこんな気持ちになるの? 「難しいな・・・人の気持ちって。」 それから杉田君から連絡はこなかった。ずっと、電話の前で連絡が来ないだろうかと待っていたけれど連絡は全く来ない。 きっと、私とは話したくないのかも。 声も聴きたいと思わないのかも。そんな人のところへ私から電話をしていいものじゃない。 なら、杉田君の気持ちが静まるまで私は待っている。 なんて、自分に都合の良い事ばかり考えていたら杉田君からは全く連絡はなかった。 それどころか、杉田君は平然と学校へ出てきては何時もと同じ態度で過ごしていた。 ただ、違うのは、私を以前のように「留美」と言わなくなったこと。 「相川先生、これ、生島からの頼まれものだから。確かに渡したからね。」 そう言って、廊下で杉田君に呼び止められドキッとしたかと思えば生島先生からの頼まれ物を渡しただけだった。 私の目を見ない杉田君。 それでも、まるで普通の生徒のように私に接してくる。 でも、必要以上には話さない。 用が済めばどこかへと行ってしまう。 「あの、杉田君」 「何ですか? 先生?」 「その・・・・話しがあるのだけど」 どうしてもあの日のことで話し合う必要があると私はそう感じていた。だけど、杉田君の中ではそんな事はもう過去の出来事に過ぎないのだろうか? やっと顔を上げて私を見た杉田君の目は以前のような目をしていなかった。 「俺、何もないですよ? 先生と話し合う必要あれば生島先生に相談します。だから、相川先生と話すことは何もない。」 恐ろしいほどに冷たい目で、睨まれるような目で私を見つめる杉田君に体が凍る様だった。
◆[恋人同士に](4/10) 杉田君の凍り付くような瞳に私はかなりのショックを受けた。自分でもここまで落ち込むとは思っていなかった。 だから、仕事が終わった後でも職員室の自分の机に座ったままボーッとしていた。 頬杖をついてはまるでナマケモノの様に動くことなく呆けた顔をしていた。 「相川先生、どうしました? 元気ないですね。」 「生島先生・・・・」 「これから飲みに行きませんか?美味しいお店知っているんですよ。」 「でも、」 「落ち込んだ時は飲むに限りますよ。」 優しい瞳を向けられると嫌とは断れなくなってしまう。 それに、今はそんな優しい瞳に慰めて貰いたい気持ちでいっぱいになる。 だから、素直に生島先生に着いて行ってしまった。 それぞれの車で生島先生から聞いたお店へと運転する。駐車場へ行くと既に着いていた生島先生が車から出て待っていてくれた。 「すいません、遅くなって。」 「道に迷ったかと心配しましたよ。さあ、行きましょう。」 生島先生は誰かに電話をかけていたようで、私がやってくると電話を切り携帯電話を胸ポケットに仕舞い込んだ。 こんなお店に一緒に入って行くと、生島先生は大人なのだと感じてしまう。 居酒屋の雰囲気がとても似合っているのだと感じる。杉田君の時はこんな感じは受けなかった。 でも、それは杉田君を高校生と思っているからで大人として見ていなかったから。 でも、生島先生の年齢を知らなくてもこの場所に似合った人だと感じるが、杉田君にはまだ不似合いだと感じる。 やっぱり、これが年齢差がある証拠なのだろうなと感じていた。 その杉田君の若さが私は怖いのだろうかとも思えた。 「........せんせい? 相川先生?」 「え? あ、はいっ!」 「注文しますよ。何を飲みますか?」 いけない。生島先生と来ているのに杉田君のことばかり考えていた。 これでは生島先生に失礼だ。 「あの、ビールをお願いします。」 「じゃあ、生を二つと枝豆に冷ややっこを。」 隣には店員さんがメモを取りながら立っていた。注文を取りに来ていたなんて気付かない私ってどこまで杉田君のことばかり考えているの? 今日はもう杉田君の事は忘れて思いっきり飲むのよ! 杉田君は私のこと嫌いなのだから、あんな目をして睨まれたのだから、 もう忘れなきゃ・・・・ 「はい、生二つ、お待ち」 生ビールのジョッキが目の前に置かれると乾杯もせずにいきなりグイグイと飲んでしまった。 乾杯をしようとジョッキを持った生島先生は私の飲みっぷりを見て驚いていた。 |
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