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◆[愛の蜜月](15/16) 「おい、人の話聞いているのか? アホ面してんじゃねえよ」 杉田君は思いっきり私の頬を抓っては引っ張った。それも容赦なく皮膚が剥がれるんじゃないかって思うほどに。 「いひゃい!!」 「相変わらず不細工な面。そんな顔して俺を誘惑しようなんざ百年早いんだよ」 そう言って私の驚いている顔を覗きこんだ杉田君は私の唇に親指を当てて、ゆっくり指の腹で唇の淵を撫でている。 その指の柔らかくて生温かい熱が唇から伝わってくると、顔がもの凄く熱くなって自分でも頬がリンゴの様に真っ赤に染まっているのだろうと思えた。 「それで? 一緒に暮らしたくないの?」 そんなこと今まで考えたこともなかった。男の人と一緒に住みたいとか同じ部屋で眠りたいとか考えたことなかったから、どう返事して良いのか迷ってしまった。 「俺と一緒にいたくないんだ」 さっきまで優しく触れていた指がグイッと力が入って唇を押した。そして、その指は私の口内へと入って行くと私の舌を掴む様に押さえた。 「ん?! にゃ・・・に?」 「イエスかノーか早く返事しないと涎まみれになってもいいの?」 舌がざらざらする変な感触と何か妙な味がしてくると頭の中がぼんやりして考えなんてまとまらない。 「俺と暮らすのを決めるのがそんなに悩むこと?」 「・・・・」 こんなセリフ生まれて初めて言われて自分でも戸惑っている。確かに杉田君とはずっと一緒に居たいと思う。思うけど、簡単に一緒に暮らしても良いものなのか自分では判断できない。 悩む表情を見せたのがいけなかったのか、杉田君は指を口内から抜くと今度は自らの舌を入れては私の口内を再び犯しはじめた。 「ま・・・って」 「俺、完全に怒った」 「ま・・・」 待って欲しかったし、私の気持ちを聞いて欲しかったのに、杉田君はそんな時間を与えることはしなかった。 私が想像する以上に杉田君の独占欲が強くて、こんなにも杉田君が嫉妬深い人だとも思わなかった。 「あの先輩をここへ泊めたお仕置きしなきゃな」 何故か杉田君はあの時、杉田君が子どもを連れた彼女を連れ帰ったあの日、悲しむ私を慰めようとここへ先輩が泊まったことを知っていた。 そして、その怒りと私が一緒に暮らしたいという言葉を中々云わなかったからと「俺無しでいられない体にしてやる」と言われ、旅行から戻ったその日はずっと杉田君の腕の中で過ごすことに。 杉田君はこれまで付き合ってきた女の子にもこんなことしてたのだろうか? 一夜限りの相手にもここまで尽くしてたんだろうか? そんなバカげたことばかりを気にしてしまう。 けれど、もし、杉田君が他の女の人とこんなことをすると思うと胸が締め付けられそうになる。きっと相手の女を罵っては叩いて追いだしてしまいたくなる。 私は、杉田君に完全に溺れてしまっているんだなぁって、完全に身も心も杉田君のものになったんだと思い知った夜だった。
◆[愛の蜜月](16/16) ぐったりして布団のなかで意識朦朧としていると、おでこに何か冷たいものを感じた。 何が当たってるのだろうかと目を向けると、目の前には私の大好きなスイカの形をしたアイスがぶら下がっていた! 「きゃあ! これ、どうしたの?!」 「どうしたのって、買ったんだろ?」 「私の大好きなアイスを杉田君がどうして知ってるの?! でも、嬉しい」 「嬉しいもなにも冷凍室に入ってたんだよ、こんな子供っぽいのが好きなんだな」 そう言って杉田君の口にもスイカのアイスが一つ。それって、私がお風呂上がりに食べようと思って買い置きしたアイスなの?! それを、私に無断で食べてるの?! 「ダメよ、こんなの」 「何だよ、アイスの一つくらい」 「人のものを勝手に食べるなんて信じらんない。そんな人と一緒になんて暮らせない」 杉田君は私が思っているよりずっと自由奔放で自分中心に世界が回っている。何処へ行っても女性にチヤホヤされていて、それが当たり前となって日頃の生活を送っている。 だけど、私はそうじゃない。 自分には自分の生活があるし杉田君に振り回される生活はしたくない。 確かに好きな人との暮らしは充実感あるだろうし身も心も満たされるだろう。 だけど、それが杉田君とでは本当に満たされる生活が送れるのか。私には分からない。 「それ、俺と同棲はしたくないってこと?」 「そうよ。なにも一緒に暮らす必要なんてないでしょ? こんな風に会えればいいのだから」 今だって一緒に同じ時を過ごしているのだから。このままで十分なのだと思える。 あまりにも時を同じくすると、きっと、杉田君の周りにいる女性達が目障りになるし、今まで以上に気になってしまう。 「私は一人で暮らしたいの。自分の好きな様に生活していたいの。自分の生活を誰かに振り回されるのは真っ平なの」 「俺は邪魔ってこと? 留美の生活には俺は必要ないんだ?」 邪魔なんて思ったことは一度もない。それに杉田君のいない生活は考えられない。少しでも一緒にいたい。居たいのに・・・・何故か、拒否反応が出てしまう。 「杉田君はまだ学生なんだから、同棲する暇があったら勉強しなきゃ。そうでしょ?」 「そこで教師面に戻るんだ。」 決してそんなつもりはない。杉田君が高校生ではなかったという事実と、既に飛び級でアメリカの大学も卒業していたことにはかなり驚いたけど。 でも、やっぱり、今はまだ大学の教育課程を勉強中なら学生が現役教師と同棲することは認められない気がして・・・ 「俺の前まで教師でいるつもり? 俺、教育実習受けたらその後は同じ対等の教師なんだ。それでも、俺を生徒扱いする?」 私は首を縦にも横にも触れなかった。ここで認めたら同棲まで受け入れている様で返事は出来なかった。 「あんなに大事にしていた処女を俺にくれたから、てっきり留美にとって俺は特別な存在だと思ったけど・・・・そう思っていたのは俺だけだったんだ」 悲しそうな表情を見せる杉田君はその後何も私に話そうとはせず、服を着て身なりを整えると何も言わずに私のアパートから出て行った。 これで良かったのだと心の中ではそう思いながら、私はその夜、一人布団に潜って泣いていた。 |
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