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◆[杉田君の気持ち](5/12) 一人暮らしをしている杉田君にこんな温かい食事を作ってくれる人は誰もいない。 そしてその役割を果たすのは彼女になった私だけなのだろうか? 実家へ帰れば家族が待っていると思うのだけど・・・そう言えば、私は杉田君の家族について聞いたことがないように思う。 うーん・・・生島先生がイトコという話は聞いた。でも、苗字が違うからもしかしたらお嫁に行った伯母さん?それとも叔母さんだろうか? そのおばの子どもが多分生島先生になるのだろう。 その逆も考えられる?・・・ どちらにしても私は杉田君の事は何一つ知らないのだと改めて思い知ることになる。 「ねえ、杉田君」 「二人の時は玲人だろ?」 「・・・・えっと」 いきなりそう言われても困る。それに授業中も玲人って呼びそうで。だから私としては日頃から杉田君と呼びたいが・・・かなり杉田君の表情は怖い。 「コホン・・・あのね、その・・ね、」 「で、その杉田君に何を聞きたいのかな? 相川センセ?」 私が杉田君と呼ぼうとするとそうやって私を苛めようとするなんて・・・ズルいと思うのだけど。 これじゃ私が杉田君と呼べなくなる。 「なぁ、時期に同じ苗字になるんだから杉田は不味いんじゃないの?」 「・・・は?」 今、変なセリフを聞いたような気がするが・・・聞き間違いだろうか? それとも、私の耳が少し変になっているのだろうか? 耳鼻科へ行く? 「なんて顔してるんだよ」 「え? どんな顔?」 「狐につままれた様な顔。そんなに俺って好かれていなかったんだ」 「は?」 その前の言葉で杉田君が言ったのはどう言う意味? 確か、同じ苗字になるって聞こえた様な気がしたが。それは聞き間違いだったのだろうか? 私はやっぱり杉田君の言う通りに狐につままれた様な顔をしていた。 そんな私の顔を見て杉田君はフッと笑うと「冗談だよ」と言って食事を続けたが・・・・私にはそのセリフが冗談には思えなかった。 という事は・・・同じ苗字とは、私と杉田君が同じ苗字になるって意味?! 「もしかして私が杉田って苗字になるってこと?」 「嫌なんだろう?」 嫌とかそう言う問題ではなく、それって私に杉田という苗字を名乗れということ? それって私が杉田君と???? そう言う意味じゃないの? 「あの・・・恐れ入りますが、その言葉の意味を教えてくれませんか?」 つい緊張で正座して姿勢を正した私はそんなセリフを言っていた。 すると杉田君は食べていた箸を止め、お皿に箸を置くと、私と同じ様に正座をするかと思えばテーブルの横へと移動し、正座をし直したかと思うと、いきなり土下座を始めた。 「すぎ・・・た・・く・・ん?」 「俺の嫁になって下さい」 「なんだ、そんなこと、いいわよ、それくらいなら・・・って・・・え?・・・ええ?!!!」 頭を上げた杉田君はニヤリと笑うとまた元の位置に戻って食事の続きを始めた。 まるで何事もなかったかのように・・・・ 今のセリフって、もしかして、プロポーズということなのだろうか? 私は杉田君にプロポーズされた? なのに、杉田君は平然として煮魚をパクパク食べている。 いったい今何が起こっているのか、自分でもいったいどうなっているのか、さっぱり分からなくて頭が変になりそうだ。
◆[杉田君の気持ち](6/12) 「あの〜、恐れ入りますが・・・」 「・・・言いたいことあるならハッキリ言え。それとも、早く子供欲しいとかのお願いなら、まだ留美と二人だけでエッチ三昧な生活したいから却下だ」 「そうじゃなくてですね!」 「あぁ、結婚式やハネムーンは無しだ。俺、一応学生だからさ。学生結婚になるだろう、だから入籍だけしよう」 「・・・そうじゃなくてですね」 ああ、何をしどろもどろになっているのか・・・ 第一、杉田君相手になんて喋り方をしているのだろう。絶対に変に思われている。 黙ってご飯を食べてはいるけれど、その様子を見る限りはかなり機嫌は宜しくない。たぶん・・・ けれど、本気でプロポーズしたのだろうか?おふざけでしたのかが区別がつかない。 だから、本気になって答えて良いのか、どう反応して良いのかを悩んでしまう。だけど、こんな風に悩むなんてそれこそ変だ。 相手はまだ学生の身分で、私達が出会ってまだ間もないし、そこまでお互いを知っている訳では無い。なのに、何故、そんな私と杉田君が結婚したいと思うのか。 それに、もし、万が一、杉田君が私と結婚したいと思ったとしても、それは一時的な感情で、多分、病気になった杉田君を看病して手作りご飯を食べさせたから? 「なあ、留美って家族は? 一人暮らしってことは今は実家から離れているんだろう? 実家ってどこ? 両親に連絡はつくんだろう?」 「え、あ、実家は隣の市で両親がいるわ・・・って、挨拶にでも行くつもりなの?!」 ご飯を食べ終わった杉田君はあくまでもその態度は冷静で、食器を重ねると台所へと運んでいる。その立ち振る舞いを見ている限りでは、とても姿勢が良くて礼儀正しい。 きっと、杉田君は育ちが良くてお坊ちゃん育ちなのだろう。 そもそも本格的な海外留学の経験ある杉田君が私の様な一般庶民の出であるはずがないのだから。 そんな私を相手に本気でプロポーズ? 信じられない・・・・と思うのだけど。 「さっきから何考えているんだよ? あ、どっちのアパートで暮らすとか寝室をどうしようかとかエッチなこと考えてた?」 「ち・・・違います!! 杉田君が突拍子もない事言うから驚いて。そんな冗談は」 「冗談じゃないよ、俺、本気で留美にプロポーズしているんだけど」 台所から私を見つめる杉田君の表情は紛れもなく真剣な表情だ。とても熱い瞳をしている。 やはり杉田君は本気で私にプロポーズしているんだ。 ◆[杉田君の気持ち](7/12) 杉田君のプロポーズを本気にしていなかった私を見て杉田君は少し怒った顔をしている? 食器を流し台へと置いた杉田君はゆっくりと茶の間にいる私の方へと歩いてやってくる。 その足取りがとても重々しく感じて目を逸らしてしまう。 「なあ、留美」 「・・・その」 こんな風にプロポーズされた事ないからどう考えて言いのか頭が回らない。 って言うか、プロポーズなんて生まれて初めてされたからもう頭の中が滅茶苦茶で殆どパニック状態なのに・・・ 「おいで」 目の前に立っている杉田君は座っている私に手を差し伸べる。そして、その手を取る私は杉田君に引き上げられ立たされる。 何をしようと言うのか身長の高い杉田君を見上げると、杉田君にすっぽり抱きしめられ頭を撫でられた。 「杉田君?」 「・・・俺、幼い頃に両親を亡くして以来、弟と二人で親父の実家の祖父の家で暮らしていたんだ」 思いがけない杉田君の告白に少しドキッとしたけれど、その昔話をしてくれたことより杉田君が幼い頃に両親を亡くしたという事実に私は戸惑った。 「亡くしたって、両親一緒に?」 「交通事故だったんだ。二人は慈善団体のパーティに招待されていてそこへ行く途中に交通事故に遭ってそのままいなくなった。俺の幼い頃の話だよ。弟なんて親の顔も思いだせない程に小さい頃でね」 「それからお父さんのお祖父ちゃんの家で暮らしてたの?」 抱きしめていた杉田君はコクンと頷いただけ。何も言わずにいたけれど、抱きしめるその腕がとても悲しそうに感じてしまった。 幼い頃に突然両親を亡くしその悲しみの深さは私には想像も出来ない程のものだろうと思う。 「だから、俺は家族には憧れがあるんだ。弟の彼女が産んだ甥っ子がどれほど可愛いか留美には分かるか? 俺にも自分の血の繋がった家族が欲しいんだ」 両親の愛情に飢えて育った分、それだけその愛情を新しい自分の家族に求めるその気持ちは十分に分かる。 だけど、だからって、付き合い始めたばかりの私が相手なのは、きっと、弟に子どもが生まれたのが影響している様に思える。 もし、杉田君が今違う女性と交際していても、きっとその女性に結婚しようとプロポーズをするのかも・・・きっと、そうだ。 「杉田君の気持ちは分かるよ。家族が欲しいっていうのは、でも・・・焦り過ぎじゃないの? まだ杉田君は結婚するには若いしそれに相手は誰でもいいってことにはならないでしょ?」 「そうだよ、俺は留美だから良いと思ったんだ」 何故私なのかよく分からない。でも、本当にそう思ってくれている? 浮ついた考えではなくて真剣に考えた末の結論なのか。もし、本気で私と夫婦になって家族を築きたいのであれば、私も真剣に考えて返事をする必要がある。 「俺の心をここまで惑わせた女は留美が初めてだし、留美が他の男のものになるなんて絶対に許せないし・・・」 もしかして、私が先輩と九州旅行へ行ったあの時、杉田君を相当不安にさせたのだろうか? その反動からプロポーズをしている? |
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