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「君子、おはよう。それから、赤ちゃんもおはよう」
毎朝、必ず春彦は目覚めのキスをしてくれる。それもすっごく濃厚なキッス。 これをされるとどんなに眠くても目が覚めてしまう。 そして、お腹の赤ちゃんへのおはようも忘れない。 お腹に頬を付けては赤ちゃんの様子を伺っている。 「今日もよく動くな。きっと男の子だな」 「あら、そうとも限らないわよ」 「そうだな、ママみたいなお転婆娘かも知れないからな」 人のお腹を擦りながらそんなセリフが言えたものだと呆れたけれど、 こんな時間ってとても幸せな気分になるから好き。 だから、もっと甘えてラブラブな時間を過ごしたい。 だから、ちょっぴり意地悪を言うんだ。 「そんなママに一目惚れしたんだってよ、パパって」 「それを言うならママだってパパに一目惚れだったんだぞ」 「あら、違うわよ」 「違うものか」 「どうしてそう思うの?」 「初対面の男にいきなり子どもが欲しいって言うヤツいるか?」 「それは・・・・」 答えに困っていると春彦は嬉しそうな顔をして私の顔を覗きこんだ。 そんなこと言う春彦だって私に夢中だったじゃない? だって、あの時、秘書の大谷から受け取った手紙にはこんなメッセージが書いてあったのだから、 『君子、愛してるよ』 あんな可愛い封筒に便箋が2枚入っているからどんな愛のメッセージが書き綴られているのか楽しんで開封したけれど、書かれていたのはその一文だけだった。 だから、私も春彦の耳に囁いた。 「愛してる」って。 最後までお付き合い頂き有難うございました<(_ _)> この作品はちょうど1年程前の作品でして、まだ小説書き始めて1年足らずの頃のものです。 ちょっと変わり種の話を書きたいのと、「御曹司」というキーワードを使ったらと、御曹司の話を書いてみたいと、多分、そんな軽い気持ちで書いた作品だったんじゃないかと思います。 と、言いつつ本当はあまり覚えていないんですが(笑) でも、御曹司ものを書いてみようという気持ちはありましたよw なので、その頃これともう一つ御曹司もの「御曹司はじゃじゃ馬がお好き?」というのも書いています。 折角なので、そのもう一つの御曹司のお話をこちらで紹介しますね。 では、24日(月)の午後1時からは「御曹司はじゃじゃ馬がお好き?」を掲載していきます。 この後も宜しくお願いします<(_ _)> |
欲しいのは御曹司(1-85)
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「実はね、君子。お父さんの会社は母さんが亡くなってからあまり良くなかったんだよ。それでも、頑張り続けてきたけど、老舗という名だけでやって来たようなものだ。そこを春彦君はたいそうな融資をしてくれてね。会社は持ち直したんだ」
春彦は父の会社が欲しくて私に近づいたと思っていた。 それに、あの秘書との会話はどう見ても浅井建設を手に入れる為の手段に私を利用したとしか思えない。 だけど、倒産しそうな会社の負債を引き受けて立て直すなんて、そんなメチャクチャな話しってない。 そんなバカなことをして何になるの? 春彦の会社を巻き込んでしまったら、春彦までも一文無しになってしまう。 「そんなのダメ! 春彦さんはそんな無謀なことをしては絶対にダメよ!」 「まだ入籍していなくても内縁の妻なのだから君の親は俺の親でもある。出来る限りのことはさせてもらうよ。それに、子どもが将来継ぐかも知れない会社を潰したくはない。君の為にも俺は努力するよ」 内縁の妻でもなんでもないのに。 それでも、そこまでしてくれるのは子どもの父親だと名乗りたいから? 親権を放棄するつもりが無くなったから? 「どうして、そこまでしてくれるの?」 「君を愛しているからだよ」 私は涙が溢れて止まらなかった。 幸せは愛すること恋人同士でもなく、愛人関係でもなく、婚約者でもない、夫婦でもない、
そんな私達の間に子どもを授かった。 それを父にどう説明すればいいのかと悩んだ結果、春彦が出した答えは「内縁の妻」だった。 だから、流産騒動を起こしたとき、春彦の機転で私は内縁の妻となり、父の会社を倒産から救った春彦は文句なしの娘婿になった。 ただ、後で聞かされた話だけれど、最初に父に私の妊娠と流産しかけた話をした時は、しっかり父に殴られたそうだ。 春彦は少し照れた顔をして話ていたが、殴られた直後は頬がかなり腫れたらしい。 私が目を覚ました数日後には、その腫れは引いていて私は見ることが出来なかった。 せめて写真でも残しておけばいいのにと、しっかり文句を言ってやった。 それから私達の生活は一変した。 流産の心配がなくなった頃に、私は自分が住んでいたアパートを引き払い春彦の屋敷へと移った。 これから春彦の屋敷が私の屋敷となる。 そして、お腹の子の家となりこれから親子三人での暮らしが始まる。 |
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「春彦君から連絡を貰った時は驚いたが、彼と二人で家庭を築こうというお前の気持ちはよく分かるよ。だけど、一言くらい父である私に言って欲しかったよ」
「お父さん、ごめんなさい。勝手な事ばかりしてごめんなさい」 父の言葉を無視した私は罰を受けた。 一度目は元夫との結婚だった。 利用されるだけ利用されて終わった結婚だった。 あんな男に私は騙され散々嫌な思いをさせられた。 唯一の救いは子どもが出来なかったことだ。 夫は子どもを大層欲しがっていた。 もし、子どもがいれば浅井建設の権利を主張出来るからだ。 自分には相続出来なくても我が子が浅井建設の後継者となる可能性はある。それを狙っていた。 でも、そんな結婚は直ぐに終わった。 そして、今回が二度目。 でも、元夫と違い私から契約を持ちかけた。しかも、春彦が浅井建設を狙っていると分かっていながら、春彦を愛してしまった。 一度目より最悪だ。父の会社が狙われているのに私は春彦の手を突っぱねることが出来ない。 それどころか、騙されていると分かりながら春彦にもっと抱きしめられたいと思っている。 私はとことんバカだと思い知った。これ程にバカな女はいないだろう。 だけど、愚かな女だけど、もう、この気持ちはどうにもできない。 「ごめんね、お父さん。私、春彦さんと一緒になりたい」 「聞いたよ、春彦君に。幸せならお父さんは何も言わないよ」 「お父さん・・・・いいの?」 「それに、春彦君にはお父さんの会社の経営陣に入ってもらうことにしたんだ」 お父さんは何を言っているの? 私が春彦と一緒にいたからとそんな事する必要はないのに。 一体どうして春彦を父の会社の経営に関わらせるの?! 春彦はもうそこまで父に取りいって自分の物にしようとしているの? そんなに浅井建設が欲しいの?! 私なんてどうでもよかったのね。 「お義父さん、君子は疲れていますから、それは、また、後ほどにでも。私から話しておきますよ」 「いや、ありがとう、春彦君。君のお蔭でどれほど救われたことか」 救われた? お父さんは何を間違っているの? 今から春彦はお父さんの会社を乗っ取るつもりなんだよ? 本当にそれでもいいと思っているの? 私はそれでも、春彦を悪者にしたて父に告げることなど出来なかった。 |
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目が覚めるとそこには真っ白な天井が見えていた。
ここは病院なのだろうか? 私はさっきまで暗闇の中にいたというのに、今度は白い世界にいるの? 一体私の体はどうなっているの? すると、お腹が急に重々しくなって辛くなった。 痛みはないけれど体が重々しい。 「君子!」 その声に私は手を握り締められていることに気付いた。 そして、暗闇の中で聞いた声と同じ声が私の耳元で囁いた。 「よかったよ。君子、心配したんだぞ」 少し涙ぐんだ声に私は目を閉じてしまった。 この声は春彦の声だ。あの暗闇の中で聞いたのも春彦の声だ。 私を裏切った癖に、私を騙していた癖にと文句を言いたかったけれど、涙声の春彦の言葉に言えなかった。 「君子、大丈夫か? 気分はどうだ?」 「体が重いの・・・・」 それに、口を開けるのも重くて話したくない。 私を騙し討ちしようとするあなたとはもっと話したくない。 でも、この声を聞きたくて堪らない。 暗闇の中でこの声を聞いただけで私は救われた気がした。 私は、騙されていると分かりながらも、春彦を愛していると気付いてしまった。 春彦が父の会社を欲しいと言うのなら、私は父に春彦の会社をプレゼントするわ。 それでお互い様よね? そうなっても文句は言えないわよね? 春彦がこんなに優しいのも、 私の頼みを聞いてくれたのも、 私に子どもを授けてくれたことも、 素敵なディナーも、甘いキスも、 どれも、これも、みんな浅井建設が欲しいから。 だったら、私もあなたを独り占めにするわ。 あなたも会社も何もかも、あなたのものは全て私の物なのよ。 「君子、お腹の子は無事だ。本当に良かったよ。一時は心配したんだからな」 「もう大丈夫ですよ。寺崎さん、奥様はご無事です」 奥様? 私はまだこの人の妻ではないわ。 結婚をしてもいないのに、どうして妻なの? 「数日間眠りっぱなしだったんだよ。それに、何故か原因が分からず血圧が異常に低下して、本当に一時は心配したんだ」 「君子。大丈夫か?」 その懐かしい優しい物言いは・・・・お父さん? あんなに気難しい人になった父なのに、まるで母が生きていた頃の父の声のようだ。 こんなに優しい声をしていたのだと今更ながら気付いてしまった。 |
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今の会話はなんだったの?!
私はまた騙されていた? 離婚した夫に騙され、今度は子どもの父親に騙され、 私はいったい何度騙されれば気が済むの?!! だから、父は私にはいつも厳しかった。 浅井建設の娘である以上、つきまとうこのお金への執着。そして、会社の権利。 男なら誰もが欲しがるもの。 それを浅井建設の一人娘と結婚することで手に入れられる。 だから、父は私に厳しく当たり世の中の恐ろしい現実を学ばせようとしたのだ。 でも、私はそんな父の言葉など聞き入れなかった。 世の中のことを何も知らなかったから。知りたくもなかったから。 私はその場から一刻も早く立ち去りたかった。 だから、走って逃げた。出来るだけ早く走りたかった。少しでも遠くへ逃げたかった。 息が出来ない程に走って走って・・・・・少しでも遠くへ・・・ なのに、社長室のフロアから逃げただけで床に座り込んでしまった。 なんだろう? 急に目が・・・・ お腹が痛い・・・・ 「いたい! お腹が!」 助けを呼ぼうとしたけれど、あまりにも急な苦しみに倒れ込み人を呼べる力は出なかった。 あの腹痛からどれくらいの時間が過ぎたのか、私は体が軽くなって宙に浮いたような気がした。 そして、気付いた時には真っ暗闇の中にいた。 ここはいったいどこなの? 真っ暗な部屋に私一人だけ? 誰もいないの? 声を出しても平気? 辺りを見渡しても誰一人としていない。 いないどころか、真っ暗闇の中に私が一人ポツンと立っている。 真っ暗なのにどうしてだろう、私の周りだけなんだかぼんやりと明るい。 この明かりはどこからきているものなの? 「ここだよ」 そんな声が私に聞こえた気がした。 誰なの? それに、ここって? すると、お腹を誰かに蹴られ急に体が重々しく感じた。 でも、重々しいお腹なのに、私のお腹から光が出ている。 光り輝くお腹に私は驚いてしまった。 「ここにいるよ」 今度は誰なの? 私に呼びかけるのは誰なの? いったいこの声は誰? でも、聞いたことある声。 とても、落ち着く声だ。私はこの声が好き。 どこから聞こえてくるのか、暗闇の中から聞こえるこの声の所へ行きたい。 「君子!!」 名前を呼ばれハッと気づいた。 私の大好きな声に引き寄せられるようにその声に目が覚めた。 |


