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「さあ、美幸案内しよう」
幸司に手を引かれ二人の甘い時間を過ごす寝室へと向かおうとした時だった。 「幸司様、お伝えしたいことがございますが」 「そうか、誰か美幸を案内してやってくれ」 幸司をそれだけ言うと美幸を使用人に任せて遠藤と言う男と一緒にどこかへと行ってしまった。 幸司の姿が見えなくなった美幸は少し寂しそうな表情をしながらも階段を上っていく。3階までの階段の長さに少し疲れた美幸は途中で足を止めると階段に座りこんでしまった。 「悪いけど、喉が渇いたの。水が欲しいわ」 少し我が儘だと思いながらも使用人に水を持ってくるように頼んだ美幸。新婚早々、旅行から戻ったその場からどこかへ行ってしまった夫の姿が恋しくて美幸はワザと水を運ばせようとしたのだ。 使用人がいなくなると急いで階段を下りて行った美幸は、幸司が歩いて行った先の部屋を探し始めた。「この辺りだったわよね」とブツブツと呟きながらゆっくり歩いていく。 すると、いくつか並ぶ部屋のドアの一つから幸司らしき声が聞こえてきた。 美幸は幸司を驚かそうとコッソリそのドアに近づき中の様子を窺った。すると、そこからは誰かと会話をする声が廊下へと漏れていた。けれど、幸司の声は聞こえるも相手の声は聞こえない。いったいどこの誰と会話をしているのだろうかと美幸は首を傾げた。 「〇×△□※〇」 幸司の声には間違いないがハッキリとセリフまでは聞き取れない。両親に新婚旅行の報告でもしているのだろうかと、気付かれないようにこっそりドアを手前に引いた。すると、嘘のように会話の中身がハッキリと美幸の耳まで届いた。 「晴海、だから、しょうがないだろう。親父の命令なんだよ、俺の一生がかかっている結婚なんだぞ」 美幸はドアノブを握っている手を見つめ乍ら、その扉の奥から聞こえる幸司の言葉を疑った。今、幸司はいったい誰と何を話しているのだろうかと。 「俺だってまだこの年で結婚なんて考えてなかったさ」 幸司から結婚しようと申し込まれたはずだ。なのに、何故幸司は結婚を考えていなかったとそんなセリフを言うのか信じられなかった。これはきっと何かの聞き間違いか、何か他の事を話しているのだろうとそう聞き流そうとしていた。 「俺が愛しているのは晴海だけだ、信じてくれ。美幸は俺が会社の後継者になる為の条件なんだよ。だからアイツと結婚したんだ。」 美幸はあまりの驚きにドアノブを掴んでいた手にグイッと力が入ってしまった。すると、ほんの僅か開きかけていたドアがぎーっと鈍い音を立ててしまった。 「誰だ?!!」 幸司は持っていた携帯電話の電源ボタンを押した。そして少し開いたドアの方へと急いで駆け寄った。美幸は逃げ場のない廊下でどうすればいいのか悩んだものの、さっきの幸司の会話に足が震えて動けなかった。 「そこに居るのは誰だ?!いるのは分かっているんだ、今すぐに出て来い!」 出て来いと言いつつも、幸司は既にドアを乱暴に開けていた。そのドアの横には壁に擦りつく様に美幸が立っている。その姿を見た幸司の口から舌打ちする音が聞こえた。 「ここで何をしている?」 これまで聞いたことのない幸司の冷たくも荒っぽい物言いに、体が強張り動けなくなった美幸は幸司の顔を見るのも怖くなり壁に向かって俯いているのが精一杯だった。 |
好きにならなければ良かったのに
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そして、翌日二人で出かけたハネムーン。行き先は幸司が一度行ってみたかったという国内旅行。
それが不満だったわけではなかったが本当は美幸には海外へ行きたいという希望があった。けれど、海外は危険だからと幸司の希望する国内へ行くことに。それも、辺鄙なところだった。 そこは観光名所ではなくひっそりとした場所だった。だから勿論、観光する所はなく遊ぶ所もない。しかし、幸司が選んで行った先は、山の景色は素晴らしく空気が澄んでいて水も美味しい名水百選に選ばれるような場所で、如何にも金持ちの隠れ宿の様な所へやって来た。 「美幸と二人だけになりたかったからだよ」 この場所を選んだ理由にそんなセリフを言われて美幸は舞い上がる一方だ。 新婚旅行へやって来た二人は昼夜問わず殆どをベッドで過ごしている。幸司は甘い言葉を囁き、美幸をすっかりその気にさせては優しく抱きしめて情熱的なキスをする。そんな時間が美幸には幸せな時間だと信じて疑わなかった。 甘い二人だけの世界がこれ程に幸せな時を刻むのだと知った美幸は、こんな時間が一生続けばいいのにとさえ思えた。旅行から帰れば通常の生活へ戻ってしまう。そうすれば、夫である幸司は会社へと出かけ、まだ学生の美幸は大学へ通うことになり、離れる時間ばかりが多くなる。 少しも離れたくない美幸にとって、この旅行から戻れば好きな人と引き裂かれる様でとても寂しく感じた。 「まだ帰りたくない」 そんな甘えたことを言う美幸をしっかり抱きしめる幸司。更にもっと布団の中へと美幸を引きずり込んでーーー 「帰れば二人だけの新居だ、こんな風にずっと甘えられるだろう?」 「うん」 媚薬の様に甘く囁かれる幸司の言葉に美幸は抗える筈もなかった。 幸司の言う通りで、新婚旅行から戻る二人を待ち構えているのは二人だけの新居だ。短い結婚準備期間に幸司の父親である榊セキュリティ(株)の社長が準備してくれた一戸建て。二人の新しい生活の場となる真新しい家が二人の帰りを待っていた。 急きょ行った結婚式にしては式は素晴らしく新婚旅行も人並みに行くことが出来た。いきなりの予約に旅行会社との話に折り合いが付くかと心配していた美幸だったが、観光名所への旅行ではなかったが満足いく旅行となった。素晴らしい景色の中で幸司との熱い時間を過ごせるお忍び旅行が出来たことにとても喜んでいた。 世間一般で行くような新婚旅行ではなかったが、それでも蜜な時間を持てた美幸は不満を言う事なく甘い時間にとても満足していた。 そして、いよいよ、旅行から帰る日。 美幸は寂しそうな顔をしながらも新居となる幸司との新しい生活の場へと心は弾み、これから夫婦として過ごす家を楽しみに旅行から帰って来た。 二人が宿泊したお忍び宿へ迎えに来た車に乗った二人は新居となる自宅へと向かった。新居は広い敷地でその中央に位置する家は屋敷と呼ばれるような大きな洋館で、まるでどこぞの金持ちの家というような風貌の豪邸だった。 「凄い、大きな家」 「俺は榊家の跡取りだから美幸にはしっかり後継者になる子どもを沢山産んで欲しんだ」 熱い視線を送られると美幸は恥ずかしそうにしながらも幸司の妻になったのだからと頷いた。きっと、そう遠くない日に赤ちゃんも授かるだろうと思うと美幸は頬を赤く染めた。 「さあ、おいで」
幸司の手に引かれた美幸は車から降りると正面玄関まで二人仲睦まじく並んで歩いて来た。しかし、玄関前までやって来ると「西洋風に俺達も入ろうか」と幸司がそう呟くと美幸を抱きかかえた。 いきなりお姫様抱っこをされた美幸は驚いて思わず幸司の首に抱きついた。 「驚かさないで!」 「外国じゃ良くやっているだろう?新婚夫婦が新婚旅行から戻って新居に入る時、こんな風に入るって。俺達も新婚なんだし初めての新居だからいいだろう?」 まさかここでお姫様抱っこされるとは思わなかった美幸はとても幸せな気分に浸り瞳に涙を浮かべていた。『こんなに幸せでいいのだろうか』と、あまりにも幸せ過ぎて怖くなる程に。 「ねえ、このまま私達の部屋まで抱っこしてくれる?」 「うーん・・・確か、俺達の寝室は最上階の三階なんだよな。運べないことはないけど今は体力は温存したいな」 「どうして?」 「ベッドで体力使った方が良いだろう?」 そんなセリフを言われたのでは美幸は幸司に何時までも抱っこさせられない。けれど玄関から中へ入るまではダメだと下ろして貰えなかった。 こんな二人を待っていたのは榊家で新たに雇用した使用人達だ。幸司夫妻のお世話をする使用人が既に5人程いて、二人が玄関から入ってくるのを今か今かと待っていた。 「ご結婚おめでとうございます」 「おめでとうございます」 二人が建物内へと入ると待っていた使用人達が玄関ドア真正面に一列に並んでいた。殆どが女性ばかりの使用人達だが一人だけ年配の男性がそこに立っていた。 「お帰りなさいませ、幸司様」 「ああ、ただいま。遠藤、またこっちでもよろしく頼むよ」 頭を深々と下げた遠藤という男性だけは幸司は知っている顔の様だった。 |
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新郎が社長子息という事もあり二人の初々しい姿には似合わず盛大な結婚式となった。
世間一般的に行われる結婚式と同じ様に、二人の門出を祝う祝辞に始まり大勢の祝福に駆けつけてくれた招待客へのキャンドルサービスや夫婦二人の初仕事のケーキ入刀、二人の生い立ちビデオ上映、招待客らの歌や踊りやらと会場を賑わせる披露宴だった。 予定通りに挙式と披露宴を済ませた二人は着替えを済ませると式場を後にした。 そしてその夜二人は新婚旅行へ出かける為に空港近くのホテルで一泊する。それが、二人にとっての初夜となる。 結婚式場からホテルへ向かった二人。美幸はかなり緊張した夜となる。 ホテルで幸司と二人だけの夕食を食べることになるのだが、初夜となるホテルでの夕食にあまり食事が喉を通らない。 「緊張している?」 「……」 恥じらう美幸は頷くのが精いっぱいで、声に出して何と言えば良いのか頭がクラクラしそうだった。幸司に優しい瞳で見つめられると、今日の日がまるで夢か幻かとそんな気分で現実味のない空想の世界にいる気分の美幸は、これから起こる幸司との素敵な夜に胸を膨らませる。 美幸の緊張を感じた幸司は食事を早めに切り上げ、早く二人だけになって美幸の緊張を解してやろうとした。けれど、逆にそれが美幸にとっては緊張が高まるばかりで二人だけでホテルの一室にいることが恥ずかしくて幸司の顔さえ見れなくなっていた。 そんな美幸に「可愛いね」と、いつもの様に囁いては美幸を抱きしめる。そして耳を擽るように「お風呂に入る? それともベッドに入る?」と訊かれた美幸の顔は茹蛸の様に赤く染まる。 これから生まれて初めての経験をする美幸に、返事が出来るはずがない。なのに、わざと美幸を困らせようと、幸司はもう一度囁く様に耳許で訊く。 「一緒にベッドへ入る? それともお風呂が先の方が良い?」 殆ど心臓が爆発しそうな状態の美幸に、そんな質問はハードルが高過ぎて答えられない。 俯いてモジモジするのがやっとで、どう反応すればいいのか。ベッドと言えばエッチを連想し、お風呂も同じように裸になるのだと思うと、どちらとも答えられず困ってしまった。 そんな美幸の困った反応を見て、クスクス笑う幸司はいきなり美幸を抱きかかえた。「きゃっ!」と驚きの声を上げる美幸の顔を覗きこんだ幸司は、「ベッドへ行こう」とそれだけ言って寝室の方へと向かう。 二人が過ごす部屋はスウィートルームだ。リビングルームの他にクィーンサイズのベッドがある寝室が一つある。そこへ美幸を運ぶとベッドへと下ろした。 「さあ、美幸のすべてを見せてもらうよ」 「……でも、私」 処女の美幸にはこれから起こることがどんなことなのか想像もつかなかった。雑誌で読んだりテレビで見たりして得た知識などはたかが知れている。そんな少ない情報を頼りに今夜夫となった幸司と一夜を共にすることになる。それがどんなに胸に期待していることか、そしてどんなに不安に思っていることか。 ベッドに横たわる美幸は目を潤ませていた。そんな美幸の額に軽くキスをすると、幸司は「大丈夫、俺に任せて」と優しい言葉を囁いた。 緊張と期待とで美幸の心臓は爆発寸前。幸司に触れられるその手に体がビクつきながらも次第にその幸せな波に緊張も解されていく。額から頬へ、そして唇へと幸司の甘い唇が重なる。これまでのキスとは全く違った熱くて深いキスに美幸の頭は完全に痺れてしまう。 幸司の唇が首筋へと這っていくと美幸は思わず声が漏れてしまった。自分でも恥ずかしいと両手で口を塞ぎ、必死に声を押し殺している。 幸司は、そんな美幸の手を握り締めては口許から手を離させた。 「もっと感じている声を聞かせて」 「でも……あ、そんな」 「恥ずかしがらないで、その声が聴きたいのだから」 幸司が何を聞きたがっているのか、そんなことすら分からない美幸は、ただ顔を赤らめては幸司にされるがままジッと横たわっていることしか出来なかった。 押さえこんでいた美幸の腕から手を離した幸司は、横たわる美幸の服のボタンを上から順に外していく。ボタンが千切れない様に一つずつ丁寧に外しながら、優しいキスが首筋から胸元へと移動していく。熱い息と湿気交じりの柔らかい唇の微妙な動きを、その初々しい肌から伝わる。すると自分の体の奥から未知なる何か熱いモノを感じた。 その熱は押し寄せる波のように、体全体に一気に広がっていく。 「あ……やっ」 「恥ずかしくないから、じっとして、力抜いて」 「あ……あっ!」 自分の体なのに何が起きているのか。美幸は突然襲った激痛に裂けるかと思った体を仰け反らせた。痛みの残る中、幸司に優しく包み込まれ躰の隅々まで愛され、その証拠を次々と残されていく。 その力強く男性らしい行為に美幸はこんなにも未知なる世界があるのだと生まれて初めて知った。 そして、その世界は痛みだけしか感じなかった最初とは違い、次第に幸せと悦びを感じるようになる。それが、とても心も体も満たされていくのだと気付くと、幸司との夜がこんなにも素敵なものだと初めて知ることになる。 |
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Berry's cafeにて掲載している「「
【恋愛小説】好きにならなければ良かったのに1-3「美幸、俺と結婚してくれないか? 俺には美幸だけなんだ」憧れた男性からのプロポーズだった。 薔薇の花束を持って現れたその人は、美幸の心を一瞬で掴んでしまい「イエス」という返事をさせた。 そんな彼との出会いは、美幸の父親が勤務する会社の創立記念パーティだった。 その日、美幸は父親に誘われて、父親の勤務する榊セキュリティ株式会社の創立記念パーティへと出掛ける。そのパーティには美幸の心臓が止まるかと思うほどに目を惹いた男性がいた。 まだ、ほんの十八歳だった当時高校三年生の美幸にとって二十五歳の彼は大人でセクシー過ぎた。しかも、雑誌から飛び抜けてきた様なデザインスーツを身に纏い、濃紺な色合いがシックでそれでいてとても華やかで、整った顔立ちが更に彼をより魅力的に素敵な男性へと醸し出していた。 まさしく洗練されたモデルを思わせる姿に、美幸だけでなくその場に居合わせた誰もが彼から目が離せないほどだった。それほどに彼は魅惑的な男性だった。 そんな彼が美幸に声を掛けた。恥じらう美幸は、魅惑的な男性を前にしどろもどろになり上手く受け答えは出来なかったが、それでも楽しい会話をすることが出来た。そして、その夜、そんな彼に美幸はデートを申し込まれてしまう。勿論、美幸は彼との幸せなデートを夢見て頷いていた。 『可愛いね』 何度もその言葉を囁かれ有頂天になった美幸は甘いキスをされる。デートの度の甘い口づけに天国気分を味わう美幸は幸せそのものだった。そして、数回目のデートで彼は美幸にプロポーズをしたのだ。 「俺の妻は美幸だけだ、美幸以外考えられないんだ」 甘く囁かれ激しいキスをされたら美幸には『イエス』以外の言葉は見つかる筈もない。 「幸司さん、結婚するわ! 大好き!」
プロポーズをしたデートの帰り、早速美幸を連れて自宅へと急いだ幸司は父親に結婚すると報告した。 あまりにも性急過ぎないかと美幸は困惑したものの『早く結婚したいんだ』と幸司に微笑まれては何も言い返せない。 そして、その言葉に頭がクラクラした美幸は幸司と一日も早い結婚式を夢見るようになる。 それから両家揃っての食事会に始まり、結婚式の打ち合わせなどトントン拍子に進んでいき、美幸はこんなにもあっさりと話が進むものなのだろうかと怖くなる程だった。 「美幸、幸司君に幸せにして貰うんだよ」 「うん」 「彼はまだ修業の身で何かと大変な時期だ。社長の一人息子なのにそんな態度を見せずに他の社員同様頑張っている素晴らしい人だ」 「うん」 「お父さんは安心して美幸をお嫁に出せるよ」 「うん!」 美幸は両親に祝福され、会社の社長である幸司の両親からも祝福を受け結婚式を挙げることになった。純白のウェディングドレスに包まれて純真無垢な花嫁は大好きな男性の許へと嫁いでいく。 「美幸、しっかり二人で家庭を築いて行こう」 「うん!」 まだ、あどけない表情を見せる初々しい花嫁はこの時はまだ高校を卒業したばかりの大石美幸十八歳だった。そして、花婿となったのは社長令息でその会社で開発も手掛けながら営業主任として勤務する榊幸司二十五歳の青年だった。 |
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