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旅の途中で、泊まった宿は値段の割に食事も美味しく部屋も良かった。
こざっぱりとして掃除が行き届いている部屋に案内されたエドは「今日の宿は当たりだ。」と心の中で喜んでいた。
部屋の調度品は手作りの木製の家具で、ベットは柔らかいスプリングでフカフカの布団。
その上にはこの地方に伝わっている幾何学模様のパッチワークで枕は羽枕。
旅で疲れた体を癒すだけでなく、心まで癒されそうだ。
長い距離の移動で疲れた体をベットに沈めて、心地良い眠りにつきそうになったエドにおずおずとアルが声をかけた。
「あのさ・・・兄さん・・・もう寝た?」
「・・・ん?・・・何だ?アル。」
アルの相談事を持ちかける時特有の戸惑った声に眠りに吸い込まれかかったエドの意識は引き戻される。
「ボクちょっと悩んでいる事があるんだ・・・」
アルの深刻そうな硬い声。エドは心配になって返事をする。
「どんな事だ?」
「あ・・・の・・・うーん・・・と。」
「何だ、はっきりしないな・・・いいから、はっきり言えよ。」
すっかり目覚めたエドは言葉をどもらせるアルに先を促した。
「あのね・・・ボク達、お互いの体を取り戻す為に旅をしている訳でしょ?」
「あぁ・・・そうだな。」
二人の旅の一番の目的をアルは確認する様に言う。
旅は始めから迷いと戸惑いと後悔の連続だった。
アルの心を傷めて捕らえているのは何時のどの事柄なんだろうか?エドは記憶を巡らせて、アルの言葉を待つ。
傷つきやすい魂を持つ弟にどんな言葉をかけて慰めてあげられるだろうかと考えを巡らせる。
「それで、もし元に戻ったとした時の事だけどね。・・・ボクの体って、あの時の体なのかなぁと思ったりするんだ。」
「まぁ・・・」
アルの言葉に、エドは今回の相談はそう深刻な内容じゃ無いかもしれない、と安堵する。
考えている事がすぐに表に出るエドと比べてアルは温和で柔和な感情的になり難い人となりに思われがちだが、案外とプライド高く競争心や闘争心も旺盛だった。
「そうかも知れないけど・・・あぁ、そうだったらオレより背が低くなるな。」
「・・・・うん。」
「別にいいじゃないか。アルはアルなんだし。」
アルを慰めるような言葉を言いつつ、エドの声はそこはかとなく嬉しそうだった。
・・・なんだオレに身長が追い抜かれるのが嫌なのか、案外まだまだ子供だな。
自分でも身長の事を取り上げられたら、子供じみた反応をするエドだったが、自分でなくて他人の事だと冷静に客観的に見ることが出来る。
優越感もあいまってエドは気分が良かった。
しかし、アルはエドのその声色に気づかず、言葉を続ける。
「・・・そうだけどさ。ボクは自分の背が低いことが嫌じゃなくて・・・そのぅ。それって、手や指や・・・他の所も小さいって事でしょ?」
「まぁ・・・そうだよな。」
アルが何を言いたいのか判らなくて、エドは不思議そうに相槌を打つ。
「そしたら、兄さんを気持ち良く出来なくなるんじゃないか・・・心配なんだ。」「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
想像していた話の方向がどうやら違った事に気づいて、だがアルの言おうとしている内容を一瞬理解出来なくて、エドは凍った。
「ボクの今のこの鎧の体は大きくて、手も大きくて、指も太くて長いでょ?・・・最近は奥まで入れた方が兄さんいいみたいだからさ・・・・・元の体になったら満足させられないんじゃないかと思って・・・」
アルの言おうといていた言葉を理解するにつれ、エドの顔が羞恥と怒りに赤くなる。
エドは自分の羽枕を力任せにアルに投げつけると、布団を頭からかぶった。
「変な事、心配してないで早く寝ろっっ。」
「変なことじゃないよ・・・」
「いいから、黙れ。オレはもう寝るっ。」
・・・心配して損した。
心の中でエドはアルに毒づく。
エドの逆鱗に触れ、アルの相談は失敗に終わった。
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(2003.11.16.初稿:サイトより再録)
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二人とも、何てかわいいの…!
2014/6/12(木) 午後 4:21 [ RIKA ]