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二人で達した後、エドワードの体を清めていたホーエンハイムにエドワードは思いついたように問い掛けた。
「どうしてオレにこんな事をしたんだ?」
こんなこと・・・エドワードの指し示している事がホーエンハイムには一瞬判らなかった。
今まで繰り返していた憎むべき行為の事か、謝罪を込めたさっきの行為か。
だがどっちにしてもエドワードには同じ事かも知れない。
それならば。ホーエンハイムは用意していた理由を口にした。
「どうしてって・・・それは・・・俺の腐敗する肉体にも欲があるって事だよ。相手は誰でもって訳には行かないから・・・つい・・・な・・・」
言葉を詰まらせながらホーエンハイムは苦しげに告白した。
本当のことは言えない。
お前の存在を愛しているから、どんな事をしても生き延びさせたいという思いから行動を起こしたとは、言えなかった。
本心を告白したとしても、そんな事で動かされるエドワードでは無いだろう。
ホーエンハイムはそう考えて、エドワードが一番嫌がりそうな理由を口にする。
相手に対する情も無く、ただ自分の欲望を満たすためだけに動いたと思われたかった。
エドワードは真剣な瞳でホーエンハイムを見つめた。
見透かさすような視線だった。ジッと見つめるエドワードの瞳からホーエンハイムは逃げた。
切なそうな表情を浮かべたホーエンハイムを見て、エドワードはふっと、微かに笑った。
* *
その日からエドワードは見違えるように良くなっていった。
ホーエンハイムの予想を裏切って明るい表情をするようになっていった。
二人で同じベッドを使い、エドワードの誘いで体を繋げる。
若いエドワードとの情交は熱く、いつのまにか愛人の顔を持ちようになったエドワードに半ばのめり込みそうな自分を感じるホーエンハイムだった。
エドワードの明るい変化に戸惑ったのはホーエンハイムだった。
エドワードにどんな変化があったのだろう。考えても判らなかった。
だがどんな決断をしたとしても、ホーエンハイムは肯定し賛成するつもりでいた。
味方になるように見せかけて、懐に入って、いつか復讐の隙を狙っているのだとしても。
エドワードは徐々に起きる時間が長くなり、手慰みに家事や読書に興じている姿を見かけるようになった。
エドワードを見張る必要が無くなったため、ホーエンハイムは肉親が病気だからとずっと断っていた魔術の集まりにも再び行くようになった。
ホーエンハイムが明日の集会の準備のため、昨日行った集会の資料を机に広げていると、興味深げにエドワードが覗き込む。
「これは何だ?」
「この世界の魔術だ。この世界にはあっち側とは違う学問も文明が進んでいる。直ぐにはアチラへの扉は見つからないだろうが、いつかはきっと見つかる」
「向こう側への道が見つかる?」
「そうだ。エドワード。きっとな」
ホーエンハイムはエドワードに資料を渡し、やり掛けた仕事に戻る。
「・・・そか」
夢見るようなボンヤリとしたエドワードの瞳に光が灯った。
瞳に生気が注ぎ込まれて、強く輝く。
「そうだ。また、自分で探せばいいんだ」
その場をすぐに立ち去ったホーエンハイムはこのエドワードの瞳の輝きは知らず、呟きも聞いていなかった。
* *
最近またエドワードの様子が変わってきた。
寝食を忘れてホーエンハイムの蔵書や資料を読み漁るようになり、世界の情勢にも興味を持つようになって来た。
独りで街に出る事も多い。
ホーエンハイムがエドワードの変化を痛感するようになっていた。
「あの・・・オヤジ・・・」
エドワードの準備した朝食を摂っていたホーエンハイムは、エドワードが急に真面目な顔になって言いかけた事に気付くと、カップを置いて真剣に聞く姿勢になる。
「ごめん・・・オレ。ずーっと世話かけっぱなしで、甘えてて・・・」
ホーエンハイムの前でエドワードが頭を下げる。
予想のつかない行動にホーエンハイムはその場に固まった。
ホーエンハイムは呆然としてエドワードを見つめると、真剣な気配は直ぐに消える。
柄に合わないことをしたと自覚があるのか、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
そして仕切り直しのように両手を合わせて『ホント、ゴメン』と茶化したような仕草をして、ホーエンハイムを笑わせた。
「お前にはてっきり憎まれると思っていたよ」
「憎む・・・何で?」
「俺はお前に何度も何度もあんな事・・・」
事実と向き合う覚悟はしているが、その事実が辛い事には変わりない。
胸が痛くてホーエンハイムは言葉を詰まらせる。
エドワードはホーエンハイムの言葉と表情を見てカラカラと笑った。
「だって慰めてくれたんだろう?オヤジは。自分の体で」
「・・・・・・・・」
あっけらかんと言われてホーエンハイムは唖然とした。
あの行為を慰めと納得するとは。ホーエンハイムは驚きを隠せなかった。
何と柔軟な思考だろうと思う。
てっきり、なじられる責められると思っていたのに。
殴られても、例え殺されたとしても文句は言えない事をしたつもりだった。
覚悟していただけにエドワードの反応に脱力する。
この認識の差はなんだろう。ホーエンハイムは不思議に思った。
改めてエドワードの芯の強さを見た気がする。
惹かれて止まなかったトリシャの持っていた真の強さを受け継いでいるんだと痛感する。
「何だ・・・オヤジは自覚なかったのか。あんな辛そうな、泣きそうな顔してたのに。全部オレの為だったんだろう」
「まぁ・・・それは・・・」
表情を全部読まれていたと知ってホーエンハイムはバツが悪くなる。
「あの頃のオレは、おかしかったんだ。上手く言えないけど、ここに穴が開いているみたいだった」
胸の真ん中に手を当ててエドワードは言う。
「開いた穴からオレの全てが流れ出して空っぽになっているみたいだった・・・怒りも哀しみも愛しさも全ての感情がなくなっちまったみたいだったんだ。オヤジが苦しんでいる事も判っていたけど、知らん振りしてた。生きる事も死ぬ事も何も出来なかった。なんにも選べなかったんだ」
遠くを見る様にエドワードは言う。その瞳に以前の儚さは無い。
あの日々のエドワードは遠くに過ぎ去ったのだな。
もう過去のことになったんだなとホーエンハイムは感じた。
「オヤジが何かするかと思っていたけど、あんな事されるとは思わなかった。はじめはビックリしたけどな・・・あの後オレも気持ち良くなったし。お互い様だろ」
「なっ」っと馴れ馴れしくホーエンハイムにエドワードは言う。
親だと慕われていないのは判っていたが、これは何だかちょっと違う。
教育する必要ありだな。ホーエンハイムは心の中で思う。ため息を付いて紅茶を口に含んだ。
「自分でもして無かったし・・・やっぱ溜まっていたのかな」
「ぶっ」
「汚ったねぇ。吹き出すなよ」
「あぁ・・・すまん。すまん」
あんまりな明け透けな言いようにホーエンハイムは紅茶を吹き出した。
ホーエンハイムの向かい側で紅茶を浴びたエドワードは、服を拭きながらぽつりと言った。
「オレさ・・・アルの元に帰る。いつになるか判らないけど・・・その方法を探す事に決めたんだ」
「そうか・・・早く見つかると良いな」
ホーエンハイムが嬉しそうに微笑むと、エドワードは照れくさそうに微笑み返した。
微笑むエドワードの瞳には希望の光が宿り、絶望の気配は微塵も感じられなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 終り(20050403作成)
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