会合

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 あれから少しほんの少しだけエドワードの心が変わった。
 いつも胸の中が温かく満ち足りている。
 目の前が一段階明るく感じ、何に対しても活力が湧いてくるのだ。
 小難しい読むのに時間のかかる本もストレスをあまり感じずに読める。
 読書ひとつ取ってもいつもと違う。
 一人でいてもエドワードはホーエンハイムを感じていた。
 それは最愛にして弟のアルフォンスに対する思いとはちょっと違う。
 アルフォンスとはいつも一緒でそれが普通で、お互いにお互いの長所も欠点も判っている事が当たり前だった。
 引き裂かれてしまった後、翼を持つ鳥が片羽根をもがれたような痛みと喪失感を常に抱いていた。
 だけどホーエンハイムとの関係は違う。
 一人の人間として再会し、その存在を知っていった。
 少しずつ歩み寄り、絆が深まっていった。この世界で一番大切だと告白されて、色々な思いで揺れるエドワードの心が少ししっかりした気がする。
 心の隅にその存在を感じている。
 何でだか判らないけど。
 気がつくと傍にいたくて、会いたくなって、一緒にいると少し照れくさくて、だけど嬉しい。
 だからといってホーエンハイムの部屋にエドワードが入り浸っているという訳ではない。
 エドワードは科学の勉強に以前より精力的に取り組むようになった。
 ホーエンハイムもアパートにいる時間の定まらない変わらない生活だ。
 一緒に過ごす時間の長さは変わらない。
 だが、エドワードは二人で過ごす時間の密度が濃くなっているように感じていた。
 そしてその時間が次に一人で過ごす時間を豊かにしてくれているのだ。
 今日はエドワードは朝から自室に篭り、苦手な分野の本を読んでいた。
 ホーエンハイムも自室でまとめたい事があるからと自室に篭っている。朝食の席で会ってからは会っていない。
 多分昼食の時間には声をかけられるだろうが・・


 しばらくして、玄関口でドアを叩く音がした。
 来客は殆どホーエンハイムに関する事が多く、ホーエンハイムが在宅中は部屋が玄関の近くに位置する事もありホーエンハイムが出る事が多い。
 エドワードは本を読みながら、『オヤジに来客か郵便かな』と想像した。
 玄関ドアの開く音がして。しばらく人の話し声がする。
 その後、玄関のドアが閉まり、人の気配が無くなったと思ったら、少しして玄関のドアが開く。
 廊下を歩く音がしたと思ったらエドワードの部屋の前で止まり、自室のドアをノックされた。
「ちょっと良いか?エドワード。お前に届け物だ」
「えっ・・オレ?」
 ホーエンハイムの声がして、エドワードは不思議そうに返事をした。
 慌ててエドワードが自室のドアを開けると、ホーエンハイムは困った顔をして手にしている手紙を見つめている。
 ホーエンハイムは戸惑った動作でエドワードに手紙を渡す。
 エドワードは差出人を見て首を傾げる。知らない名前だった。
 だが『クヴァント』という名前に聞き覚えがある。
「もしかして・・・この前の」
「あぁ・・あの時お前を怒らせた青年のようだな。お詫びの印として贈り物を持って来たようだ」
「何?」
「まぁ・・見れば判る」
 ホーエンハイムは口を濁し、エドワードに自分の後について来るように促した。
 二人の住んでいる部屋を出て階段を下り、外に出る。
 アパートの建物の前には新品の車が置かれていた。
 重厚で頑丈な作り。外装はぴかぴかで、機動性も良さそうだ。エドワード自身、車大好きという訳ではないが、『いいじゃん。コレ』と感じる車だった。
 ホーエンハイムは車のドアの部分に手を触れると、後ろを振り返りエドワードに向かって口を開いた。
「これが、お前に対するお詫びの印だという事だ」
 エドワードは目を丸くした。車に駆け寄り、隅々を舐めまわすように、じっくりと観察する。
「スッゲー!本当にあいつの家は大金持ちだったんだな」
「あの一族は自動車に携わる仕事をしているんだ」
「あぁ・・ナルホドそれでね」
 エドワードは機嫌が良くなり笑顔が零れる。『コレに免じて、こんど会った時にボコにするのは止めておこう』と思う。
「じゃあ。遠慮はいらないよな」
 エドワードは荒々しく飛び乗るように助手席に座ると、期待に満ち溢れた視線でホーエンハイムを見つめた。
 エドワードの求めている事が推測できなくて、ホーエンハイムが不思議そうな顔をすると、エドワードは残念そうな顔になる。
「オヤジが運転を教えてくれるんじゃないのか?・・あ・・もしかして、運転出来ないのか?」
「出来る事は出来るが・・」
 ホーエンハイムが肯定的な言葉を言うとエドワードの瞳が輝き出す。
 待ったの効かないエドワードの性格は重々承知していたが、念のためにとホーエンハイムは確認する。
「もしかして・・今か?」
「そうそう。丁度天気もいいしさっ」
 機嫌よくエドワードは返答し、思いついたように声を上げた。
「あっ!・・ちょっと待った!」
 慌てて助手席から降りると、車のドアにもたれて、エドワードは言葉を続ける。
「いつもの店で食い物と飲み物、買ってくるからさ。サンドイッチか何かだったら品切れって事無いだろうし・・オヤジは何かリクエストある?」
 エドワードの思いつきは車の運転を教えてもらいつつドライブする事に変化したようだった。
 キラキラと瞳が輝き、ウキウキした気持ちが零れだしている。
 エドワードの楽しそうな姿を見ているだけでホーエンハイムも何だか嬉しく楽しくなる。
「いや・・適当に見繕ってくれたらいいから」
「そ?・・じゃ、すぐ行ってくるからさ。オヤジはオレが帰ってきたら・・すぐに車出せるようにしてくれよな」
 エドワードは言いながら駆け出す。
「やれやれ・・慌しい事だ」
 ホーエンハイムは苦笑しながら、車の点検をする。ホーエンハイムは困った顔をしながらも、エドワードと行くドライブが楽しい時間になる事を確信していた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー  おわり (20051129作成)

 エドワードは誰もいないアパートに戻ると、電気もつけずに自室に直行する。
 窓のカーテンの隙間から漏れる月明かりで乱暴に上着を脱ぐ。
 苛立ちがずっと収まらない。
 さっきのやり取りを思い返したくないのに、頭の中でぐるぐると周り、エドワードは自分の力では止める事は出来なかった。
 ぎゅっと目を閉じると、右足で重厚で丈夫な作りの机の脚を蹴り上げた。
「痛っ・・」
 エドワードの生身の右足に激痛が走る。
 腹立ち紛れの八つ当たりなのに、憂さは晴れるどころか深くなるばかりだ。
 外に出て憂さ晴らしをしようかとも考えたが、誰とも話したい気分ではないし、これといって丁度いい気晴らしになる事も考えらない。
「くそっ」
 エドワードは何とはなしに毒づくと、上着を脱いだままの状態でベッドに身を投げ、布団に潜りこんだ。
 ふて寝をする事に決める。
 頭の中で最近気になっていた科学の実験結果と論文を思い出す。
 論文は論理的で美しくまとまっており、今後の課題も明確な方向性が示されており、もし最終局面まで分析出来たら新しい科学の常識がまた生まれるという画期的なものだ。
 実験にかける熱意や新しい分野を拓く喜びが論文からも感じられて書いた人にも興味を持ったのだ。
 そして何よりその結果はエドワードの追い求めている知識にも共通点がありそうだった。
・・・あそこであんな奴も話さなきゃ良かったんだ。アレからが全て変になったんだ。
・・・くっそー。腹立つ、腹立つ、腹立つ!
・・・今度何処かで会ったら、ただでは済まさないからな。
 エドワードは話をした青年の顔を思い浮かべながら、思った。
 素晴らしい論文を書いた学者と話がしたいために行った会合だったのに、収穫ゼロどころかマイナスだ。
 知りたくない事まで知る羽目になった。
 エドワードが布団の中で悶々と考えていると、部屋をノックする音がした。
 返事をしないでいると部屋のドアノブを回す音がする。
 止まっていた部屋の空気が流れるのをエドワードは布団の中から感じた。
 空気の対流が変わったのはドアが開かれたのか。
 そこまで気がついてエドワードは腹立たしさのあまり自室の鍵をかけ忘れていた事を思い出した。
 布団の中でエドワードは舌打ちをした。
 ホーエンハイムはエドワードの部屋のドアを開いたのだった。ホーエンハイムはエドワードの暗い部屋を見てため息をつく。
 今はホーエンハイムの存在を近くに感じるのすら苦痛と感じているため、エドワードは部屋の鍵をかける事を忘れていた事を後悔した。
 ホーエンハイムは部屋の電気をつけて、エドワードが布団に包まっているベッドの横に座ると、こんもりと盛り上がる布団の上にそっと手を乗せる。
「すまない。エドワード」
 ホーエンハイムは背中があると思われる膨らみの場所を優しく撫でるながら謝罪の言葉を言う。
「私はお前の存在を軽んじている訳ではない・・・お前との関係も簡単な気持ちで続けているんじゃないんだ」
 視線を彷徨わせて、苦し気な表情をしてホーエンハイムは続けた。
「・・・だが・・私達の関係を他の人がみたら・・」
「他の人なんか関係ない!」
 エドワードはホーエンハイムの言葉を聞いて、布団の中から叫んだ。
「あんたがどう思っているのか・・それだけが重要なんだ」
 エドワードの背中をホーエンハイムはもう一度ゆっくりと撫でる。
 布団の上からエドワードを抱きしめると、ホーエンハイムは深呼吸した。
 エドワードの耳があると思われる場所に向かって、ホーエンハイムは本心を真剣な声で告げた。
「愛しているよ。エドワード」
 ホーエンハイムの言葉を聞いた途端にエドワードの中で何か熱いものが込み上げた。
 かぶっていた布団を捲り上げ、ホーエンハイムを見つめる。
 ホーエンハイムはエドワードの瞳を受け止めると苦しげな表情を残したまま微笑んだ。
 逡巡し後悔もあるが、その言葉には嘘はない。
 ホーエンハイムの瞳はエドワードを包み込むように見つめる。
 真剣なホーエンハイムの瞳を見てエドワードは安心した。
 自分が確信していた事は勘違いではなかったと確認出来たからだ。
 安心で緩んだエドワードの胸の中でじわじわと喜びが満ちる。
 愛おしさが心の底から溢れてくる。
 こんな短い誰でも知っている簡単な言葉。
 その言葉を何よりも望んでいたとはエドワード自身も気がつかなかった。
 真剣な瞳でホーエンハイムを見つめるエドワードの瞳を、ホーエンハイムは愛しそうに見つめる。
 いつもエドワードの前でしているように優しく微笑んだ。寂し気だけど満ち足りた笑顔。
 ホーエンハイムはエドワードの頬を包み込み囁く。
「お前の事は誰よりも大切に思っているよ」
 エドワードの瞳が潤む。ホーエンハイムの言葉が嬉しかった。エドワードはその言葉だけで充分だと思った。
「この気持ちを比べる事は無意味かも知れないが・・」
 ホーエンハイムは逡巡するように言葉を区切る。
 何を言おうとしているのか想像がついたが、迷っている言葉など今のエドワードにはいらない。
 エドワードは自分自身ですら自分の事を掴みかねているのだから。
 だから、今判ってる実感している大切な思いだけ抱きしめたかった。
 エドワードは起き上がり、手でホーエンハイムの口を塞いで言葉を制止する。
「母さんの次だろう?」
 真剣な瞳で有無を言わさないように、エドワードは言葉を発した。
「そうだよな」
 エドワードは強い口調で確認するように言う。
 ホーエンハイムは驚いて目を見張ったが、少しして表情を和らげ悟ったような表情をする。
 そして、「あぁ、そうだ」とエドワードの言葉を肯定した。
 ホーエンハイムの言葉を聞いて、エドワードはホッとしたような、嬉しいような切ないような、複雑な顔をして口を開く。
「オレもアルが一番だから・・さ」
 二人とも世界で一番愛している人が心の中にいる。
 だが、愛する人は今生きている世界には存在しない。
 だから二番目に愛しているという告白の言葉は、この世で一番愛していると告白し合っているのと同じだった。
 ホーエンハイムは真摯な瞳で見つめ、エドワードもホーエンハイムの瞳を見つめ返した。
 視線が絡まり、二人同時に笑みを深める。
 どちらともなく薄く瞳を閉じて、顔を近づけた。
 そっと。
 触れ合うだけのくちづけを交わす。
 それはまるで愛の誓いのような、くちづけだった。
 触れ合わせた時と同じく、二人はそっと離れると腕を伸ばし、お互いを抱きしめしっかりと抱擁する。
 ホーエンハイムは耳元で囁いた。
「愛している」
 エドワードは声は発せずホーエンハイムの胸に顔を埋めたまま、腕の力を入れる事で返事をした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 了 ( 20051128作成 )

『ヴェニスに死す』の内容を知らないエドワードには青年の発した言葉は誹謗や中傷の類だと信じて疑っていないから、尚更ホーエンハイムの言葉を咎めてしまう。その思いは強い。
「さっき。あの青年とお前は話をしながら笑っていただろう?」
 ホーエンハイムはエドワードを見つめる。ホーエンハイムの瞳に責めるような色があり、エドワードは不思議そうに見つめ返す。
 笑っていたのはホーエンハイムの出自に対する噂を聞いた時だけだ。
「あぁ・・あれは、あいつが変な事言うから」
「お前は気を許したような屈託ない笑いを浮かべてた」
 揶揄するようにホーエンハイムは言う。親しげな様子が何か気に障ったというのか。
 拗ねた声色が嫉妬でもしているように聞こえる。
・・・でも
・・・まさか・・な。
 エドワードは心に浮かぶ思いを否定した。
「あんた、見てたのか」
「・・お前はそんな風に笑ってはならなぬのだ。いいかね、誰にもそんな風にほほえみかけてはならぬのだよ・・」
 何かを思い出すようにホーエンハイムはエドワードに告げる。
「・・と言いたいくらいだ」
 何処かの文章からの引用のだと言うようにホーエンハイムは言葉を続けた。
 エドワードの方は何を言っているのか理解できずに首を傾げる。
「・・・一体、何の冗談だ・・それ・・」
「『ヴェニスに死す』という小説にそんな台詞があるんだよ」
「・・・ふうん、有名なのか・・まぁ、オレには関係無いけどな」
 青年の言葉に憤慨する気持ちに賛同してもらいたいだけなのに、ホーエンハイムはそれを肯定するような言葉を言う。
 エドワードは面白くなくて、眉間にしわを寄せた。もう一つ思い出した言葉を吐き出す。
「そう言えば・・ヴェルレーヌを知っているかとかも言ってたな」
 エドワードの言葉を聞いてホーエンハイムは困ったような笑いを浮かべた。
 ヴェルレーヌは妻のある身で若い青年ランボーを恋人にして性愛の詩を書き話題になったが、男に対しては受身だと判る記述が多い。
 さっき『ヴェニス死す』の比喩表現とは違い直接的な言葉を青年がエドワードに言ったのではないかと想像出来て、さっきとは別の意味でホーエンハイムは困った。
「それは、ちょっと違うな・・・」
 ホーエンハイムは膝の上に乗るエドワードの背中から指を滑らせて、いつも自分を受け入れ甘く締め詰める窄まりを撫でる。
「・・・ぅ・・ん・・ぁっ・・」
 突然ホーエンハイムから刺激を受けてエドワードは驚きながらも、全身を甘い官能が走るのを止められない。
 背中を反らせて色のついた吐息を漏らした。
 ゆっくりと撫で回すと、エドワードは身を捩って嫌がった。
「何するんだ・・止めろって!」
「まぁ、ここがカナンの地であることは確かだが・・」
 詩に使われていた表現を思い浮かべてホーエンハイムは言った。
 あらゆる書物に目を通している上に抜群の記憶力をもつホーエンハイムは表で語られる事や裏の意味までも冷静に評価できる。
 自分自身の主義主張はあるものの、エドワードのように潔癖でもないので基本的に大らかで肯定的な意見が多い。
 エドワードが中傷されたと思っていた言葉をホーエンハイムは感心して受け止めていた。
 何よりホーエンハイムにはエドワードとの関係を自分が起こしてしまった過ちだという思いが強い。
 そこにどんな思いが込められていようとも、悪いことをしている気持ちが心の底でずっとわだかまっているのだった。
「カナンって?・・・聖書の中で『乳と蜜の流れる場所』と描写されて、神がアブラハムの子孫に与えると約束した・・あの・・『約束の地』の事か・・?何を言っているんだ。あんたは?」
・・・愛情溢れる、深い抱擁の延長だと思っていた。
・・・あんな事・・誰でもいい訳じゃない。
・・・あんただから
・・・オレは・・
 エドワードは強い瞳でホーエンハイムを責めるように見つめた。 エドワードはホーエンハイムとの関係を否定的には捕らえていない。
 ホーエンハイムとは捕らえ方が違う。
 その違いは今までも薄々と感じていたが、エドワードは今その差をはっきりと感じはじめていた。
 だが、その事実をどうしても受け入れ難くて、エドワードは吐き出すように言った。
「あいつにオレ達の何が判るっていうんだ・・下衆な勘ぐりをしやがって」
 エドワードの言葉を聞いて、熱烈な告白を受けているようだとホーエンハイムは思った。エドワードはホーエンハイムが思ったよりも真剣に思ってくれている。二人の関係を大切だと認識している。
 慰めの手は誰の手でも良かった訳ではない。
 ホーエンハイムだったから手を取ったのだと、エドワードの言葉と態度は告げていた。
 その一方で青年の言った言葉に感心しつつ冷静に感想を述べるホーエンハイムに対して、エドワードの中で不満が募る。
「あんたは、あいつの言った事が許せないと思わないのか?」
 二人の感情の温度が違う。
 熱く怒るエドワードと冷静なホーエンハイム。
 冷静さは思いの強さと深さのバロメーターのようにも思える。
「それは・・」
 困ったような顔をしてホーエンハイムは言葉を濁した。
 罪の意識のあるホーエンハイムとしては、他人から見たらエドワードの語る青年の言った様に見えても仕方無いという思いもある。
 だからその口からは憤慨も怒りの言葉も出せなかった。
 そんなホーエンハイムを見て、エドワードは自分の思っている事とホーエンハイムの思っている事は違うのだと、はっきり悟った。
 エドワードの心の中で怒りが萎み、胸を切ない痛みが走る。
 自分ひとりだけが憤慨していた。
 空回りだったのかと沈む心の中で思った。
・・・あんたは誰とでも簡単にそういう風になれたのかもな。
・・・今は腐敗する体で誰でもって訳にはいかないのかも知れないけど。
・・・誰にでもその手を指し出して温めてあげてたんだろう。
・・・でも、オレは違う。誰でも良かった訳じゃないんだ。
・・・あんただから。
・・・あんただから手を取ったんだ。
・・・でも・・
・・・あんたにとっては、違うんだな。
・・・特別なのは、母さんだけ・・
・・・母さんだけなんだ。
 エドワードは心が冷えていくのを感じた。
 嫉妬も交じって、胸が苦しい。
 エドワードは居たたまれない気分になった。
 一瞬でもこの場に居たくなくて、ホーエンハイムの体温を感じる事すら苦痛で、エドワードはホーエンハイムの膝を降り、捕まえようとする腕をすり抜けた。無言でその場を立ち去ろうとする。
 エドワードの背中を追い、ホーエンハイムは声をかけた。
 手を伸ばし、エドワードを捕まえようとする。
 エドワードはその手をすり抜け、屋敷を抜け玄関に続く廊下に出る。
「エドワード!何処に行くんだ」
「不愉快だ・・・帰る・・・」
「まだ話をしたいと言った・・彼とは話しをしていないだろう?いいのか?」
「もういい」
 エドワードは不意に立ち止まった。後ろを振り返り目を吊り上げてホーエンハイムを睨む。
 ホーエンハイムはすまなそうな顔をして口を開いた。今にも謝罪の言葉を紡ぎ出しそうだ。
 エドワードはホーエンハイムから謝罪の言葉を聞きたい訳ではない。切なさが怒りに変わる。
 ホーエンハイムの口から今は何も聞きたくなかった。
「じゃあ」
 ホーエンハイムが一緒に帰ると言い出そうとして、手を差し伸べる。
 エドワードはホーエンハイムの手を振り払った。
 そしてエドワードは拳を握り締め、ホーエンハイムの頬を目掛けて腕を振り上げた。
 ホーエンハイムはエドワードから攻撃が来ると判っていながら、受身を取ることなくエドワードの拳をまともに受ける。    
 ホーエンハイムの頬にエドワードの拳が当たり、その大きな体がよろけた。
「あんたは、ゆっくりしてくればいいさ」
 エドワードはホーエンハイムを睨みつけたまま、言い放った。
「今は・・あんたの顔、見たく無いから」
 言いながら、エドワードの顔が泣きそうに歪む。
 エドワードはホーエンハイムから視線をぎこちなく外すと、踵を返して屋敷を後にした。  
「エドワード!」
 ホーエンハイムがその名を叫んだが、エドワードは後ろを振り返ることなく、早足で立ち去っていった。
 はっきりしない自分の言葉と態度がエドワードを傷つけた事を実感して、ホーエンハイムは後悔した。
 罪の意識があるとしても、もう少し他の言い方があったのではないか?大切だという思いを伝える事が出来たのではないか?ホーエンハイムは自身に反問して深く反省する。
・・・このままにしておく訳にはいかない。
 ホーエンハイムはそう思うと、周囲を見回し、近くにいる知り合いに急いで退出することを言付ける。
 慌ててエドワードの後を追いかけた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー つづく (20051124〜11225作成)

 ホーエンハイムがエドワードの瞳をのぞき込むと、エドワードは視線を伏せ気まずそうに頬を強張らせる。
 エドワード自身青年の言った言葉をホーエンハイムに告げ口したい気持ちもあるが、言いたくない気持ちもある。
 青年が疑ったような金銭で取引された肉体関係はないが、二人は確かに関係を持っていた。
 苦悩の果ての結果だが、いくら事情があるとは言え、それは間違いようのない事実だった。
 そしてその関係は今でも続いている。愛とも恋とも言わないまま、慰めとしての行為は続けられていた。 
 エドワード自身、関係を続ける自分自身の気持ちを掴み兼ねている。
 始まった頃のどうしていいのか判らない精神の混乱は無く、失意も希望に変わっている。
 続けられる行為の中に慰めの意味以外の思いがこもってきている事を感じていた。
 だが、それを正面から見つめて考え答えを出す事は避けていたのだ。
 その思いは開けてはいけないパンドラの箱のように、胸の奥底で閉ざされたまま沈んでいる。
 ホーエンハイムに青年の言葉を話したら、どう考えるのだろうか。
 自分の事をどう思っているのだろう。
 ホーエンハイムはこの関係を本当はどう思っている?
 自身の事だけでなく、エドワードの胸の中に押し込めていた疑問も噴出しそうで、今どうすればいいのか判断がつかないでいた。
「どうしても言いたくないって言うのだったら仕方無いが・・」
 身長の事などのエドワードの身体的な事に話が触れて過剰に反応しただろうと思っていたのだが、どうやら違うようだとホーエンハイムは察した。
 いつもとは違う戸惑うようなエドワードの表情にホーエンハイムは心配になる。
・・・心の琴線に引っかかるような、気持ちを抉るような事を言われたのだろうか?
 ホーエンハイムはエドワードの肩にそっと触れて、軽く肩を抱くようにしてホールから屋敷の外に誘う。
 どうしても聞かれたくない話ならばホーエンハイムの手にも従わないだろうが、もし人に聞かれたくない話であれば誰も居ない場所ならば話してくれるのではないかという考えだった。
 エドワードはホーエンハイムの手に従って、屋敷の外の庭に出た。
 夜だというのに外は明るい。
 大きな月が辺りを照らし出していた。
 煌々と光る月の光に映し出されて広大な庭が見える。
 二人は手入れされた芝生の上を歩き、高い木々をすり抜け、屋敷から遠ざかる。
 喧騒から遠くに離れた。
 ホーエンハイムは木の陰の花壇に面したベンチに座り、傍らで突っ立っているエドワードの手をぐいっと引っ張って、自分の膝に乗せた。
 慌てて立ち上がろうとするエドワードを抱きしめる。
 腕を突っ張って離れようとするエドワードの抵抗を抑え込み、広い胸に抱き込んだ。
 抱擁だけで見られたとしても仲のよい親子に見えないことは無いのだが、さっきの青年の言葉が耳に引っかかってエドワードは意識してしまう。
「こんな所で・・誰かに見られたらどうするんだ」
 エドワードが焦った声でホーエンハイムに言うと、ホーエンハイムは微笑みながらエドワードの耳元で囁いた。
「大丈夫。ここは屋敷の方からは死角だ。それに近づく者がいれば草を踏みしめる音がするから判る」
 ホーエンハイムの言葉を聞いてエドワードは「はぁ」とため息をつく。
 安心したのか、エドワードは安堵の表情を浮かべて、くったりと体から力を抜きホーエンハイムの体に自分の体を預けた。
 ホーエンハイムは体を預けるエドワードの頬を両手で包み込むと頬をすり寄せる。
 整えられたホーエンハイムの髯がエドワードの頬を撫で、エドワードは色のついた吐息を漏らした。
 月明かりで仄かにお互いの表情が見える。
 二人は見つめあい、瞳で笑みを交わす。ここには誰もいない。邪魔をする者は、誰も。
 お互いに、この場所が二人だけの時間と空間である事を実感する。
 エドワードが首を動かし、ホーエンハイムの鼻に自分の鼻を擦りつける。
 ホーエンハイムの眼鏡の硬いフレームにエドワードの顔が当たる。
 二人を別つ眼鏡が邪魔でエドワードは顔を離すと、ホーエンハイムの眼鏡を外し、折りたたんで自分のポケットに入れた。 
 両手を伸ばしてホーエンハイムの首に手を回すと、額と額をくっつけ合う。
 エドワードの瞳に誘うような色が浮かぶ。
 ホーエンハイムは薄く目を閉じて、密着する額を動かし、自分の唇をエドワードの唇に、そっと触れさせた。  
 上唇と下唇でエドワードの唇を軽く挟み、離す。
 啄ばむようなくちづけを何度も繰り返した。  
 密着した口元からエドワードの笑みが深まるのをホーエンハイムは感じた。
 くすぐったさそうに身を捩るエドワードから強張った表情は無くなり、いつものリラックスした表情になった。
 エドワードがくすりと笑うと、薄く開いた口元からホーエンハイムが舌を忍び込ませる。
 エドワードはホーエンハイムの舌を舌先で舐めたかと思うと口腔の奥に逃げ込み、ホーエンハイムの絡めようとした舌から逃げる。
 何度も攻防は続き、エドワードのからかうような仕草にムッとしたホーエンハイムが口づけたままエドワードを見つめると、悪戯を企むような瞳がホーエンハイムを見つめていた。
 エドワードはジャレているつもりなんだろう。
 ホーエンハイムが口づけを解こうとすると、エドワードは慌ててホーエンハイムの舌を追いかけてくる。
 ホーエンハイムの口に飛び込んできたエドワードの舌をホーエンハイムは捕まえると自分の舌を絡めた。
 強く吸い、舌で舌をねっとりと撫でる。
 歯を立てて軽く噛むと、エドワードは悩ましげに眉間にしわを寄せて体をしならせた。
 ホーエンハイムはエドワードをゆっくりと横たえ、覆い被さる。
 抱きしめたまま口づけると、背中に回されたエドワードの手がまさぐるように彷徨った。
 熱いくちづけの後にエドワードは潤んだ瞳でホーエンハイムを見つめた。
 濡れて緩んだ唇は更に先の行為を誘っているようだった。
 人目にはつかないとは言え、流石にこんな場所で事に及んでしまったら帰りが大変な事になる。
 ホーエンハイムはエドワードから体を離すと、力の抜けたエドワードの体を起こした。
「大丈夫か?」
 伺うようにホーエンハイムが尋ねるとエドワードは苦笑した。
 こんな場所で溺れそうになった自分を自嘲した笑いだった。
 エドワードの胸の中でわだかまる気持ち。ホーエンハイムによって解された心が言ってしまいたくなる。
 さっきの青年の言葉を。
 エドワードの眉間に考えるようなしわが刻まれて、迷うような色が瞳に浮かぶ。
 だが、その直後には思い切って覚悟したような目つきになり、ホーエンハイムを真っ直ぐ見た。
 エドワードはさっき青年の言った言葉にホーエンハイムがどんな反応をするのか。知る事は少し怖かった。
『大丈夫だ』・・根拠は無いがそんな確信がエドワードに溢れ、それに勇気づけられるようにエドワードは口を開いた。
「あんたとオレが、愛人とパトロンに見えるって言われた」
 エドワードは悔しそうな顔をして、ホーエンハイムに告げた。エドワードの発した言葉を瞬時には理解出来なくて、ホーエンハイムは考えるように首を傾げる。
 エドワードが発した言葉はさっきの騒ぎの時に青年が言った言葉だろうと言うことは想像がついたが、どうしてそんな言葉を言われたのか判らないからだ。
「ヴェニスがどうした・・・とか言ってたな。シェークスピアかって聞いたら笑いやがって」
「・・・トーマス・マンか」
 ホーエンハイムは『ヴェニスに死す』を思い浮かべ作者の名前を呟く。
 これは老年の芸術家アッシェンバッハが美しい少年タジオに、その身を捧げ魂をかけるような恋をする話だ。
 懊悩の果てに、恋焦がれその姿を追いかけようとして、病を押して行動し、アッシェンバッハは死の途につく。少年と触れ合う事なく、ほんの少し話しをしただけの激しい片恋。
 同性愛の片恋をモチーフにしているが、内容は他者を認識して自分の存在を問う物語だ。
 そして輝く魂に惹かれるという事にホーエンハイムも心当たりがあった。
 エドワードを思う時、胸に過ぎる思いは親子の情だけではない。
 眩しい気持ちでエドワードを見つめる視線を悟られてしまったか・・とホーエンハイムは反省した。
 それとも、エドワードの美しさに青年が惹かれ、それが遠まわしな質問になったのか?
 ホーエンハイムの胸をちりっと焦げる痛みが襲った。
 エドワードは本人は自覚していないが、エドワードは黙っていれば美しい容貌をしている。
 黄金色の髪と宝石シトリンのような瞳。
 口を開けば汚い言葉を使い、その美しさは半減するが、生き生きとした表情は生命力に溢れている。
 天真爛漫な姿は近くにいる誰もが好ましく思い、そんなエドワードをホーエンハイムは誇らしくも嬉しくも思っていた。
 無邪気であるが故のデリカシーの無さに閉口する事があったとしても。 
 だがそれすらも、エドワードの持つ魂の輝きは減る事はない。
 ホーエンハイムは複雑な思いを感じながら、それをどうエドワードに説明するべきか・・考えつつ、苦笑しながら口を開く。
「・・まぁ・・それは当たらずとも遠からずだな」
「あんたまで、そんな事言うのか?」
 ホーエンハイムの言葉を聞いて、エドワードは驚いて咎めるように言った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー つづく (2005118〜1122作成)

 黙り込んだまま不機嫌な表情をするエドワードの様子をどう判断したのか、青年は平然と喋りかける。
「今じゃこんなだけど、ちょっと前まではミュンヘンは芸術的でデカダンの街だったんだよ」
・・・退廃的な芸術を信奉しているから、宗教的禁忌は無視できるっていう訳か。
・・・随分と軽い宗教観だな。
 大戦の前ミュンヘンは観光と芸術の街で賑わっていた事をエドワードは知っている。
 今でも住民は陽気で大らかで、他の街と比べても余所者を包み込む包容力がある事をエドワード自身実感していた。
 だからと言って、青年の言う事を納得出来る事とは問題が別だ。真面目に道を追求するなら、一目置く事もあるだろうが、青年はいい加減を絵に描いているように見える。
「お金だったら僕も結構出せるけど。それとも他の事?」
 青年は気軽にエドワードに囁く。
・・・まるで歓楽街の客引きのように気軽に誘ってきやがる。
 享楽的に怠惰に現実を過ごしている様が見えて、底の浅さが一層際立つ。
・・・オレはこういう奴が一番嫌いなんだ。
 青年はエドワードに馴れ馴れしく近寄ってきて、腰に手を回す。
 その手は意図を持ってエドワードの腰をそっと撫でた。
 ぞわっとエドワードの全身に鳥肌が立つ。
「オレに触るな!」
 エドワードは叫ぶと青年の手を避けるように離れる。
 その拍子にエドワードが右手で掴んでいた空のグラスが手から滑り落ちた。
 大きな音を立て、グラスが砕ける。
 音と共に周囲の視線が二人に注がれた。
 騒然とした空気が広がった。
 手が滑ってグラスが割れたと言えば騒動にはならないだろうが、今のエドワードには事を穏便にすませる理由が無かった。
 否、我慢しすぎた位だと思えてくる。
 青年本人は否定しているものの、青年の言葉はエドワードにとって侮辱以外の何物でもない。
・・・もうこうなったら派手に暴れてやるぜ。
 エドワードは振り返ると、青年を義手の右腕で殴った。
「痛っ!」
 殴った反動で青年は尻餅をつき、倒れる。
 青年はまさか殴られるとは思っていなかったようで、驚愕に瞳が見開かれていた。
・・・喧嘩もした事のない、どっかの金持ちのボンボンって訳か。
 青年はエドワードの攻撃を防御する事もなくまともに受け、受身もろくに出来ていなかった。
 エドワードは腹を立ててはいたが、手加減する事は忘れなかった。
 ホーエンハイムの作った義手で、エドワードが本気で殴ると、軽い怪我では済まなくなる。
 玄人相手と戦闘経験あるエドワードと、素人の上ろくに喧嘩すらした事のない相手では、まともにやり合う事は出来ない。力の差は歴然で、一方的な暴力になってしまう。
 本当は手加減無しで、骨のニ・三本折れる位ぶん殴って吹き飛ばしたい気分だったが、先程ホーエンハイムに紹介された人物の中には政府の要人や高名な学者の類もいたので、こんな場所で暴力沙汰を起こすのは流石に不味いと思ったのだ。
 不敬に対する報復程度に収まるくらいに手加減する。
 だが、そういう余裕も今後の青年の対応では無くなりそうだが・・
「・・・何で・・こんなに硬いんだ?」
 青年は呆然とエドワードを見つめた。
 エドワードの義手の感触を受け、事の異常さに気がついたのだった。
「悪かったな。オレのこっちの手は義手なんでね。コッチの足は義足だ・・・見てみるか?」
 青年はエドワードの言葉を聞いて、ハッと目を見開いた。
「・・・いや・・」
 青年は瞳に同情と憐憫の色を滲ませ、納得した表情をする。
「・・・それは済まなかった」
 青年の口から謝罪の言葉が搾り出された。
「エドワード」と名前を呼ぶ声がする。ホーエンハイムの声だった。
 エドワードはその声を聞いて舌打ちした。
・・・クソッ・・
・・・オヤジに見つかる前に、もう二・三発殴っておこうと思ったのに・・
 騒ぎの中心にエドワードがいるのを見て、ホーエンハイムは慌て駆けつけたのだろう。
 息を切らしながら走って来る。
 少し困った顔をしながら、ホーエンハイムはエドワードの脇に立った。
『また何かしでかしたのか?』と伺うようにホーエンハイムはエドワードを見つめる。
 ホーエンハイムの視線を受けてエドワードは何も悪いことはしていないとばかりに挑戦的に見つめ返した。
・・・今回は本当にあいつが悪いんだからな。
 エドワードの方には確信があったが、やりとりを見ていないホーエンハイムに判断材料はない。
 いつものコドモじみたどっちが悪いのか判らないような原因の喧嘩ならば、エドワードは自分の理由の正当性を主張するべく、我先に声高に訴えるのだが、今回は口を開く素振りも無い。
 口にするのは憚られる内容だから、エドワード自身、青年の言った言葉をホーエンハイムに告げたくなかった。
 周囲からの好奇の視線は集中しており、それもエドワードの口が重くなる原因だった。
 ホーエンハイムは口を開こうとしないエドワードを見て、ため息をつき、青年に話かけた。
「息子が何か?」
 青年の顔にはホーエンハイムの姿を見た時から緊張が走っていた。
 エドワードの前で浮かべていた上っついた軽い表情ではなく、真面目な顔でホーエンハイムの事を見つめている。
 瞳の中には尊敬の色を湛え、憧がれの目で見ている事は間違いない事を物語っている。
「いえ・・ちょっとした行き違いがあって」
 青年が返事をする声にも緊張が漲っている。
 エドワードは青年の自分に対する態度と、ホーエンハイムに対する態度のあからさまな違いに気づいてムカついた。
・・・どうせオレは尊敬に値したいさ。
・・・くっそー。腹が立つ。
・・・やっぱ、もう少し殴っておけば良かった。
・・・手加減なんかするんじゃ無かったぜ。
「そうなのか?エドワード」
 問いただそうとするホーエンハイムを青年が止める。青年とエドワードの言葉のやり取りを聞かれたら困ると思ったのだろう。反省の色を顔中に張り付かせていた。
 後でホーエンハイムに『ある事ない事言ってやる』・・とエドワードは心の中で呟いた。
「僕が悪かったんです。スミマセンでした」
「そうなんですか」
 丁寧に謝る青年の様子を見て、エドワードには非が無いと理解したのか、ホーエンハイムは安堵したように顔を緩める。青年はホーエンハイムの表情を見て緊張を少し解き、ホッとした顔をする。
 青年はホーエンハイムに簡単な挨拶をする。
 そそくさと逃げるようにエドワードとホーエンハイムのそばを後にした。
「一体あいつは何なんだ・・芸術家みたいな事言ってたけど・・」
 エドワードはホーエンハイムに向かって、吐き出すように言う。
 ホーエンハイムに向かって不機嫌な声を出すのは方向違いだが、エドワードはそうは判っていても、まだ胸にわだかまっている怒りは静まらなくて、つい怒ったような言い方になる。
「そうなのか?・・彼は確か・・クヴァント家の縁の者だと思ったが?」
 こんな状況には慣れきっているホーエンハイムはエドワードの口調には意に介した様子もなく感情の波は立たなかった。
 エドワードの言った内容に首を傾げ、考え込む。
「クヴァント家って・・何だ?」
「まぁ・・大きな会社を興している一族だ」
「あぁ・・なるほどね」
 ホーエンハイムの簡単な説明にエドワードは想像通りの人間だったと思った。
 金の心配は無いくらいの金持ちの家で、社会に対する責任や感心が薄い直系ではない位置にいるのだろう。
・・・やっぱり、楽にいい加減に生きていける財と余裕のある家の息子か。
・・・だけど、オヤジを見て憧れてるみたいだし。
・・・それで興味を持ってオレを口説くなんて。
・・・何か考え方の方向性が間違っている奴だな。
 エドワードはため息をつきながら思う。怒っているのが馬鹿らしくなって脱力する。
 エドワードが怒りを脱力に換えたのを確認して、ホーエンハイムはエドワードに再び質問した。
「それで。さっきの騒ぎは一体どうしたと言うんだ」
 ホーエンハイムの質問を聞いて、エドワードは青年に言われた言葉を思い返し、ムッとする。
 口にするのも嫌でエドワードは眉間にしわをよせたまま俯いて、ムッツリと黙り込んだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーー  つづく (20051114〜1117作成)

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