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何度かの行為の中で二人はタイミングを掴み二人で気持ちよくなる方法を知っていった。
暗闇の中で体を弄られる。
何だか体が熱い気がしたが、気のせいかもしれない。不安定な感覚の中で自分の奥を触れられている
――――一体オレは何しているんだ?
疑問が駆け巡る。
「兄さん」
アルフォンスの声が耳元に届く。声を聞いて浮かんだ疑問はどうでも良くなった。アルフォンスに触れられているのならば何も不安など無い。浮かんだ疑問は多分時間が経てば払拭される事柄だと判断する。
「…アル…いいよ…」
エドワードは甘えた声を出し、アルフォンスに縋りつく。縋りついた先が硬く違和感が心に昇ったが、思考は混濁して考える事が出来なかった。
奥を探るモノが、いつもと何かが違う気がしたけれどいつもの様に身を委ねる。
体を委ねて二人で高めあう行為を覚えてしまったら、嵐のような快感の波の後に安心感と充足感を感じる事を知った。繋がって体を使って一つになる快感を覚えてしまった。二人で揺れて揺さぶって、同じ開放の時を向かえる。
何物にも替えがたい大切な触れ合う時間。
だがエドワードはその思いが何であるのか判らなかった。愛なのか恋なのか、性の欲求からくる肉体的な反応なのか。
だけど、いつか判るだろうとも思っていた。
この時間が続いて行けば二人は成長していくし、時が全てを明らかにして行く。漫然とした確信をエドワードはその時感じていた。
二人が母親の人体錬成を試みたのは、そんな経験をした、ほんの少し後の出来事だった。
エピローグ
遠くで自分を呼ぶ声がする。気づいたら、周囲は闇に包まれていた。
真っ暗な闇。質量をもたない空間。
体を動かそうとして、動かせない自分に気づいた。体が重いのか軽いのかすら判らない。オートメイルの体の部分は故障の事も考えられるが、そうでない生身の部分すら感じられないのだ。底冷えする暗い気配。本能的な恐怖に囚われそうになる。
「兄さん…大丈夫?」
闇の中で声がする。優しい声がエドワードを導く。声の方へ向かおうと、そう思っただけで、どんなに動かそうとしても動かなかった生身の手の指が動いた。そして感じる急激な浮遊感。
とてつもなく早い速度で闇から明るい光の方へと、銃口から射出される弾丸のように移動した。
――――抜けた!
浮遊感の後に頭に冷たい湿った物を感じる。そうされる事でエドワードは自分自身が高熱を出している事に気づいた。
「アル?」
エドワードは目を開けると、明るい部屋の中で自分を覗き込むアルフォンスの姿を確認する。
「良かった、目が覚めた。もう開かないかと思って心配しちゃったよ…往診してもらった医者の先生は流行りの風邪だって言ったけど…こんなに高熱が続くなんて今までに無かったことだったから…ここ数日ホンノ少しの時間しか目を醒まさなかったの憶えている?ボクが帰ってきたら、兄さん高熱で魘されて意識が無かったんだよ。毎日、何回か目を開けた時に僅かな水分と薬は飲んでくれたから良かったけど」
何となく涙の混じりそうな湿った声で、アルフォンスはホッとした安堵の言葉を繋げる。
「オレ。どれくらい寝ていた?」
「三日間。寝ていたら水分も取らせる事が出来ないから大変だったんだよ」
「そうか…世話かけたな」
エドワードの言葉を聞いて、アルフォンスは力なく首を横に振る。
「仕方無いから、毎日往診に来てもらって、朝と晩に点滴を打ってもらってた…今、兄さんと同じように重症の人が多いってお医者さん言ってた…それで病院は患者さんでいっぱいで、本当は入院しなきゃならない状況だったけど、入院できなくて往診になってたんだ」
「道理で腕が重いと思った」
左腕を見るとでテープが貼られている。多分点滴を抜いた後なのだろう。妙に重く鈍痛がしている。何となく周囲が腫れているような気がして、エドワードはジッと見つめているとアルフォンスがその視線に気がついた。
「それは兄さんがあんな高熱でも動いちゃうからだよ…」
くすりとアルフォンスに笑われる。点滴が漏れ周囲に染みこんだという訳だ。つられて苦笑いをしたエドワードは清潔な寝衣に着替えている事に気がついた。見たことのない服だった。
アルフォンスが新しく購入したものだろう。
「あれ?そうか…着替えさせてもらったのか」
「うん…熱が上がったら沢山汗かくからね。着替えも沢山したし…高熱が続き過ぎると肺炎になってマズイから今日も良くならなかったら入院しましょうって言われてたんだよ」
「アルの献身的な看護のお陰だな。ありがとな」
「…ううん。献身的なんて…ボクも兄さんを看護しながら、心配だったけど…でも…まぁ、役得だったし…」
「…役得?」
看護にそぐわない表現にエドワードは首をかしげる。
「熱で潤んだ唇とか、うなされて悩ましげな表情とか、火照った体も着替えの時に見れたし」
「アル…」
「解熱の座薬を使う時には兄さんは無意識だったと思うけど…誘うよう気持ち良さそうにボクの名前を呼んでくれて身を任せてくれて…いつもの兄さんは恥ずかしそうだったり、苦しそうだったり…もっと気持ちよくボクに身を任せてくれたらいいのにって、思ってたから…ちょっと嬉しかった」
「座薬か…それで、あんな夢見たのか…」
「何…どんな夢見たの?」
「そんな事、どーでもイイだろっ」
顔を朱に染めてエドワードはぶっきらぼうに言い放った。
「えーボク知りたいよぉ。ずーっと、献身的な看護してたんだから…」
「でも、役得だったんだろ?」
「それは…そうだけど…」
「…まぁ話してやらない訳じゃないから。あのさ…アル…オレ今病気からやっと回復した訳で、腹減って腹減って仕方ないんだ。そうだな。何か食べ物を買って来てくれないか?飯の後にオレが見た夢の話してやっからさ。」
「そうか…そうだよね…お腹減ってるよね。ねぇ、兄さん何が食べたい?」
「オレ的には何でも食べたい気分だけどな…肉はこの調子じゃまだ無理だろう。柔らかいパンと着込み野菜かスープでもあればいいかな」
「うん…判った。じゃあ、ボク買い物に行って来るね。サイドテーブルにあるハーブティは飲んじゃって。体が楽になる配合だから」
「おう!判った」
「行ってきまぁす」
明るい声でアルフォンスはドアを飛び出して行った。
恥ずかしさで直ぐには言い出せなかったけど、
食事の後に見た夢をエドワードが話したらアルフォンスはどんな反応をするだろうとエドワードは考えた。
穴を掘って自分を埋めたい程の恥ずかしい記憶だったが、確かに過去にあった出来事だ。
アルフォンスは憶えているだろうか、あの時のこと。アルフォンスの肉体のあった頃にほんの少しの間だったけど。
エドワードには未だにアルフォンスに対して抱く気持ちに名前が付けられない。
――――どうにも絡み合った絆になってしまった事は確かだけどな。
自嘲気味な苦笑を浮かべエドワードは思った。
過去の自分が漫然確信した、自然と答えの出る時が本当に来るのか。
今のエドワードには判らなかった。
快晴の空を窓から眺めながら、自分の記憶の中で降る霧雨に思いを寄せた。
--------------------------------------- おわり
(20040523発行:同人誌より)
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