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アルフォンスはエドワードに埋め込まれた自分の指を、ゆっくりと慎重に新しい傷を作らないように注意しながら引き抜く。エドワードはぐったりしてアルフォンスにもたれかかったまま全く動かなかった。
意識を失って力を無くしたエドワードの体をアルフォンスは大事そうに抱き上げる。
ベッドからシーツを剥がすとエドワードに巻きつけ、ベッドの隣にあるソファーにもたれかからせる。アルフォンスは簡単なシャワーのついた洗面所で自分の手や腕についたエドワードの体液をやる
せない気持ちで流し、綺麗になった所で熱めのお湯をくむと、備え付けのタオルを浸しエドワードの元へ戻った。
シーツに包まったエドワードの顔をアルフォンスは見つめる。
血の気の引いた青白い疲れきった顔だった。
・・・こんな風にしなければ、僕達は・・・・兄さんはダメになっちゃうんだろうか?
選んだ選択に疑問が浮かぶ。
シーツからエドワードを出して、温かいお湯で絞ったタオルで、行為の残滓を丁寧に拭きとっていく。
・・・こんな事しなくても、本当はどうにかなるものかも知れない。
・・・僕達が気づかないだけで・・・
・・・そもそも、兄さんは僕が居なければ、こんな辛い道を進む事も無ければ、哀しい思
いもすることは無かったのだろうけど・・・
愛しい人を苦しめる原因が自分の存在にある事を思い出し、アルフォンスは心でため息をつき肩を落とす。力になってあげたくて、支えてあげたいと思っているのに、現実は無常だ。
ふと、エドワードが自分に消えて欲しいと望んでくれれば、自分は喜んで消えていくであろう想像がついて、気持ちが暗く落ち込む。実際にそんな事を望む筈が無く単なる思い付きの想像でしかなかったが。
・・・このまま今、僕が消えたからといって状況が変わる訳じゃない。
現実が辛く混乱する思考が消えてもいいと自棄の気持ちになってしまった事にアルフォンスは自分自身で気づき、現実逃避の自分に苦笑した。
・・・兄さんを支えたいと思っている筈なのに、こんな泣き事考えてしまうなんて・・・
・・・もっと僕がしっかりしなきゃ。
綺麗になったエドワードを抱えるとアルフォンスはベッドの上に横たえた。
羽布団を首までかけて乱れた髪を撫でて直す。
薄く瞼を開いて、エドワードの瞳がアルフォンスを捉えた。
「・・・アル?」
目覚めたばかりで意識が朧気なのか、先程までの暗さは感じれられない、いつものエドワードの視線だった。
ベッドから半身を起こそうとして、エドワードは痛みに顔を歪めた。
「・・・・・ぃ・・・つっっ・・・」
声を上げて、唇から隠れた場所に血が滲んでいる事にアルフォンスは気づいた。
歯を食いしばった時に唇も噛んでしまったのか。
「唇が切れている。」
アルフォンスは指先でエドワードの血液に滲んだ傷を押さえた。少しんの時間押さえたままにして、そっと離した。
「・・・・血か・・・」
アルフォンスの指に移った自分の血液を眺めてエドワードはポツリと呟いた。
そして大きなため息をつく。
「・・・・・また、血が沢山流れたな」
アルフォンスの顔を真っ直ぐに見つめてエドワードは言った。
その瞳には先程までの危な気な色はない。
「・・・・そうだね」
アルフォンスはエドワードの状態が元に戻った事に安堵しながら答える。
「体に流れる血液は体内に酸素やエネルギーを与えたり、外的から守るだけじゃなくて。色んな情報も含まれているんだよね」
「あぁ」
「太古の原始の時代からの情報も知恵も含まれている貴重なモノなのに、なかなか大事に
扱う事が出来ないね・・・・僕達も・・・」
これまでの過去を振り返りアルはしみじみと言った。
アルフォンスの言葉を聞いて、エドワードは自嘲気味に笑うと、渇いた笑い声を発した。
「・・・・・オレは特にそうかもな。・・・・お前に心配ばっかかけてて・・・」
「兄さん・・・・僕そんなつもりで言ったんじゃないよ」
言外にエドワードを責めた発言になってしまっていたことに気づき、アルフォンスは慌てて訂正する。
気にしてないよという様に、「まぁまぁ」と軽く手で制した動作をすると、心は修復さ
れても体は辛いのかエドワードはベッドにゴロンと横になった。
「・・・・血液・・・・たましいの情報・・・・か」
頭の下に腕を組んで、天井見上げて呟く。
「オレの血液には、お前とは似た情報が詰まっているんだよな」
考え事をしている時に特有の遠い視線でエドワードはアルフォンスに話かけた。
深く思考している時はエドは思考する事に集中している事が多く、声に出した事に対する返事をどれだけ聞いているか怪しい所がある。
だが、時には思考の迷路に彷徨っていて、自分自らでは唾棄出来ない拘りを、何気なくかけた言葉ひとつで飛び越えて答えを見つけ出す事もある。
エドワードには明るい道を歩いて行って欲しいと、アルフォンスは何度も心の中で願っている。
思考はこの場所には居ないだろう事は判っているが、思考の助けになればとエドワードの見つめる天井に視線を移してアルフォンスは返事をした。
「うん・・・・同じ親から生まれてきたから、かなり似通っていると思うよ」
「少し配合が違っても同じ情報で構築されているかも知れないしな・・・」
ふと、視線を感じて、天井からエドワードに視線を移す。
エドワードはアルフォンスを痛いほど真剣な瞳で見つめていた。
「・・・・どうしたの?兄さん。」
「オレのたましいの情報でお前を錬成出来るのなら・・・この体に流れる血液を全て差し
出しても後悔しないのに」
口の端でエドワードは笑顔を作った。冗談だというかのように。だが、目は笑っていない。
「何を言っているの?・・・僕はそんな事嬉しくないよ・・・」
心の奥から競り上がる不安にアルフォンスは声を荒げて、エドワードに返事をした。
「・・・・そうだな」
納得の言葉をエドワードは呟いたが、アルフォンスは安心出来ない。もし、万が一そんな方法が出来ると判ったら、エドワードは躊躇い無くその方法を選ぶと判っているからだ。
「兄さん。・・・戻る時は二人一緒だよ。・・・その方法じゃなきゃ、僕は嫌だ」
真剣なアルフォンスの声に、エドワードは真意を探るようにアルフォンスをじっと見つめた。
そしてアルフォンスをしばらく見つめた後、エドワードはふっと目を綻ばせると、いつものようにニヤリと笑った。
「そうだな。・・・・二人でその方法を探すしかないか。」
その顔には瞳には闇の気配は微塵も無くなっていた。
------------------------------------------------ おわり
(20031230初稿)
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