たましいの情報

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   *     *



 アルフォンスはエドワードに埋め込まれた自分の指を、ゆっくりと慎重に新しい傷を作らないように注意しながら引き抜く。エドワードはぐったりしてアルフォンスにもたれかかったまま全く動かなかった。
 意識を失って力を無くしたエドワードの体をアルフォンスは大事そうに抱き上げる。
 ベッドからシーツを剥がすとエドワードに巻きつけ、ベッドの隣にあるソファーにもたれかからせる。アルフォンスは簡単なシャワーのついた洗面所で自分の手や腕についたエドワードの体液をやる
せない気持ちで流し、綺麗になった所で熱めのお湯をくむと、備え付けのタオルを浸しエドワードの元へ戻った。
 シーツに包まったエドワードの顔をアルフォンスは見つめる。
 血の気の引いた青白い疲れきった顔だった。
・・・こんな風にしなければ、僕達は・・・・兄さんはダメになっちゃうんだろうか?
 選んだ選択に疑問が浮かぶ。
 シーツからエドワードを出して、温かいお湯で絞ったタオルで、行為の残滓を丁寧に拭きとっていく。
・・・こんな事しなくても、本当はどうにかなるものかも知れない。
・・・僕達が気づかないだけで・・・
・・・そもそも、兄さんは僕が居なければ、こんな辛い道を進む事も無ければ、哀しい思
いもすることは無かったのだろうけど・・・
 愛しい人を苦しめる原因が自分の存在にある事を思い出し、アルフォンスは心でため息をつき肩を落とす。力になってあげたくて、支えてあげたいと思っているのに、現実は無常だ。
 ふと、エドワードが自分に消えて欲しいと望んでくれれば、自分は喜んで消えていくであろう想像がついて、気持ちが暗く落ち込む。実際にそんな事を望む筈が無く単なる思い付きの想像でしかなかったが。
・・・このまま今、僕が消えたからといって状況が変わる訳じゃない。
 現実が辛く混乱する思考が消えてもいいと自棄の気持ちになってしまった事にアルフォンスは自分自身で気づき、現実逃避の自分に苦笑した。
・・・兄さんを支えたいと思っている筈なのに、こんな泣き事考えてしまうなんて・・・
・・・もっと僕がしっかりしなきゃ。
 綺麗になったエドワードを抱えるとアルフォンスはベッドの上に横たえた。
 羽布団を首までかけて乱れた髪を撫でて直す。
 薄く瞼を開いて、エドワードの瞳がアルフォンスを捉えた。
「・・・アル?」
 目覚めたばかりで意識が朧気なのか、先程までの暗さは感じれられない、いつものエドワードの視線だった。
 ベッドから半身を起こそうとして、エドワードは痛みに顔を歪めた。
「・・・・・ぃ・・・つっっ・・・」
 声を上げて、唇から隠れた場所に血が滲んでいる事にアルフォンスは気づいた。
 歯を食いしばった時に唇も噛んでしまったのか。
「唇が切れている。」
 アルフォンスは指先でエドワードの血液に滲んだ傷を押さえた。少しんの時間押さえたままにして、そっと離した。
「・・・・血か・・・」
 アルフォンスの指に移った自分の血液を眺めてエドワードはポツリと呟いた。
 そして大きなため息をつく。
「・・・・・また、血が沢山流れたな」
 アルフォンスの顔を真っ直ぐに見つめてエドワードは言った。
 その瞳には先程までの危な気な色はない。
「・・・・そうだね」
 アルフォンスはエドワードの状態が元に戻った事に安堵しながら答える。
「体に流れる血液は体内に酸素やエネルギーを与えたり、外的から守るだけじゃなくて。色んな情報も含まれているんだよね」
「あぁ」
「太古の原始の時代からの情報も知恵も含まれている貴重なモノなのに、なかなか大事に
扱う事が出来ないね・・・・僕達も・・・」
 これまでの過去を振り返りアルはしみじみと言った。
 アルフォンスの言葉を聞いて、エドワードは自嘲気味に笑うと、渇いた笑い声を発した。
「・・・・・オレは特にそうかもな。・・・・お前に心配ばっかかけてて・・・」
「兄さん・・・・僕そんなつもりで言ったんじゃないよ」 
 言外にエドワードを責めた発言になってしまっていたことに気づき、アルフォンスは慌てて訂正する。
 気にしてないよという様に、「まぁまぁ」と軽く手で制した動作をすると、心は修復さ
れても体は辛いのかエドワードはベッドにゴロンと横になった。
「・・・・血液・・・・たましいの情報・・・・か」
 頭の下に腕を組んで、天井見上げて呟く。
「オレの血液には、お前とは似た情報が詰まっているんだよな」
 考え事をしている時に特有の遠い視線でエドワードはアルフォンスに話かけた。
 深く思考している時はエドは思考する事に集中している事が多く、声に出した事に対する返事をどれだけ聞いているか怪しい所がある。
 だが、時には思考の迷路に彷徨っていて、自分自らでは唾棄出来ない拘りを、何気なくかけた言葉ひとつで飛び越えて答えを見つけ出す事もある。
 エドワードには明るい道を歩いて行って欲しいと、アルフォンスは何度も心の中で願っている。
 思考はこの場所には居ないだろう事は判っているが、思考の助けになればとエドワードの見つめる天井に視線を移してアルフォンスは返事をした。
「うん・・・・同じ親から生まれてきたから、かなり似通っていると思うよ」
「少し配合が違っても同じ情報で構築されているかも知れないしな・・・」
 ふと、視線を感じて、天井からエドワードに視線を移す。
 エドワードはアルフォンスを痛いほど真剣な瞳で見つめていた。
「・・・・どうしたの?兄さん。」
「オレのたましいの情報でお前を錬成出来るのなら・・・この体に流れる血液を全て差し
出しても後悔しないのに」
 口の端でエドワードは笑顔を作った。冗談だというかのように。だが、目は笑っていない。
「何を言っているの?・・・僕はそんな事嬉しくないよ・・・」
 心の奥から競り上がる不安にアルフォンスは声を荒げて、エドワードに返事をした。
「・・・・そうだな」
 納得の言葉をエドワードは呟いたが、アルフォンスは安心出来ない。もし、万が一そんな方法が出来ると判ったら、エドワードは躊躇い無くその方法を選ぶと判っているからだ。
「兄さん。・・・戻る時は二人一緒だよ。・・・その方法じゃなきゃ、僕は嫌だ」
 真剣なアルフォンスの声に、エドワードは真意を探るようにアルフォンスをじっと見つめた。
 そしてアルフォンスをしばらく見つめた後、エドワードはふっと目を綻ばせると、いつものようにニヤリと笑った。
「そうだな。・・・・二人でその方法を探すしかないか。」
 その顔には瞳には闇の気配は微塵も無くなっていた。                              


------------------------------------------------   おわり
(20031230初稿)

   *     *



 
 アルフォンスはさっき来た道は戻らず、今度は裏通りを歩いた。
 また行き交う人の種類が違う。着ている衣服が目立って異なる訳でなく、目付きや醸し出している雰囲気が普通とは異なって異質なのだ。
 そして並んでいる店もやはり異質だった。崩れそうな廃屋に見える埃の溜まった窓や傾いたドアの中から賑やかな下卑た笑い声が聞こえる。
 怪しげな雰囲気の店の立ち並ぶ通りの中の掠れて消えかかった看板に、薬草や小物を扱った雑貨店の文字が見える。
 店に入ると、小さな店には所狭しと物が陳列されていた。
 日常に使う小物から、錬金術の道具、薬草、機械のジャンクパーツに、一見しただけでは一体何に使われるのか想像つかない小物まで。
「いらしゃい・・・何かお探しですか?」
 店内を見回したアルフォンスに中年の太った男性がにこやかに声をかけた。
 声を出さず鷹揚に頷くと、アルフォンスは手持ちの羊皮紙とペンで目的の数種類の薬草の名前と必要な数を示す。
 声を出さなければ、自分の事を子供だと思う人はいない。
 判っているから、子供の自分を出せない時は敢えて黙ったままでいる。
「・・・これは・・・全部ありますかねぇ・・・」
 メモに目を走らせながら、男はカウンターの後ろにある陳列棚から薬草の入った瓶をカ
ウンターに並べて行く。
「コレとコレと・・・」
 メモに目を留め、「うーん」と考え込んだ。メモを見ながら陳列棚の瓶を眺める。
「・・・見つかりませんなぁ・・・コレは。」
 メモを指差し、男はアルフォンスに見せる。
 メモを受け取ると無いと示された薬草のもう一つの呼び名を思い出し、それを書き出し男に見せた。
「ははぁ・・・」
 感心したように、声を上げると男はアルフォンスを見て嫌な感じの笑いをする。
 男の視線に感嘆の声にこの店を選んだ理由を悟られて、アルフォンスは嫌な気持ちになった。
「ダンナもなかなか通ですな。この情報は何処から仕入れたんで?」
 一言も声を発しないアルフォンスに、訝しげな表情をするが、直ぐに元のにこやかな笑顔に戻り言葉を繋げた。
 瓶から薬草を出すとメモの通りに袋に入れる。
「あ・・・お忍びの遊びですか?・・・・こりゃ失礼しました。それじゃ・・・これはこちらからのサービスと言う事で入れさせて頂きますね。」
 声を少し落として男はアルフォンスに対して勝手な勘違いをして言葉を繋ぐ。
 歪んだ笑いと供に、変な色の液体の入った小瓶を袋に入れる。
 市価の倍程の値段を言われ、言い値で会計を済ませるアルフォンスに対して男は媚びるような視線を送る。
「またいらして下さいね。サービスしますから。」
 視線から逃げるようにアルフォンスは足早にその店を後にした。

 店を出たアルフォンスは、来た道を戻り、繁華街に出る。
 簡単に食べられて美味しそうな食料品を選んで買い込み、宿に戻った。



   *     *


 
 宿の部屋に戻ってアルフォンスが見たのは、自分が外出した時のそのままの姿で、ソファーの背もたれに寄りかかった状態で、うたた寝をするエドワードの姿だった。 
 アルフォンスは食料品を置き、部屋に備えつきの灰皿をテーブルに置くと、雑貨屋の包みを開ける。数種類の薬草を一緒に手の平で揉んで細かくして、灰皿の上に盛り、その上に紙を細
かく切って乗せた。
 荷物からライターを取り出すと、灰皿の上の細かい紙片に火をつけた。
 乾燥の足らない薬草に火をつけるには、燃え易い物に引火させて炙った方が簡単に火がつく。何度も繰り返した方法だから、慣れた手つきでアルフォンスは作業を終えたのだった。
 ゆっくりと、火が燃え上がり、細かくなった薬草から煙が立ち昇る。
 甘い香りが部屋に広がって、充満していく。
 そばでうたた寝をしているエドがピクっと体を震わせた。
 甘い空気を吸って、眠っているエドワードの体に少しづつ変化が訪れる。
 青白かった頬に赤みが差し、呼吸が深くなった。
 アルフォンスが雑貨屋で買った薬草の殆どは、混ぜて使用すると感情と感覚を高める作用のある物だった。ひとつひとつは病気の治療の為だったり、滋養強壮に使われるが、感覚を高めるという事は使いようによっては快感が拡大される。
 性的感覚に刺激を与える薬草をほんの少し加えるだけで、媚薬として使用も可能な配合になっているのだった。
 煎じて飲む事も可能だが、この方法の方が即効性があって、早く醒めるから、短い時間で使用しようと思うと一番良い方法だった。
 ソファーに沈んだ疲れたエドワードの寝顔を見つめる。
 疲れきったエドワードにあまり負担はかけさせたくなかった。
 これまでにも、仕事で色々な土地に行って、沢山の血が目の前で流れた。
 仕方無いと割り切れる事ばかりであれば、悩みもせず単純に体の疲れを癒せばいいだけなのだが、中には本人にそもそもは本人に問題があったのではなくて他事件の被害者で、進むべき道を途中で間違えてしまった人もいれば、悪いと判っていても状況がその道しか選べなかった人もいる。
 そんな人々との出会いの中で、悲劇的な最期を見てしまった時の、エドワードの精神的な衝撃はいつも大きい。
 自分達も一歩間違えばそっちの道を歩いていたかも知れないからだ。
 救ってあげられなかった後悔からか、そんな時のエドは仕事から帰ってから、体を崩すほどの無理をしていた。憑かれたように研究に仕事をするのだ。そしてそんな時にエドワードがアルフォンスを求める時も体の欲求だけではない行過ぎた行為に溺れる事も多い。
 度々、疲労と過労で倒れるエドに遭遇して、アルフォンスは戸惑い悩んだ。
 何故エドワードがそんな風になってしまうのか、肉体の感覚の無いアルフォンスにはしばらく理解出来なかったからだ。
 でもある日、ふと気づいた。
 エドワードが仕事や研究にいつも以上に没頭するのは義務や使命感ではなくて、何かをせずにはいられない焦燥だと気づいた。体を酷使する事によって、罪の意識から自分の目を逸らせているのではないかと。
 苦痛が何かを救うわけではなかったが、エドワード自身が行動に行為に癒されている事実は否めなかった。
 理由を理解してからのアルフォンスは試行錯誤して、こんな方法に行き着いた。
 媚薬を吸わせて、エドワードの気持ちを高めて体を蹂躙する。エドワードを短時間で普段では心も体も経験出来ない快楽の高みに押し上げ、開放する方法だった。
「うぅん」と身じろぎをしてエドワードが薄く目を開いた。
「・・・・アル?」
 焦点の定まっていない瞳がアルフォンスに呼びかける。
「うん・・・兄さん。起きた?」
 エドワードは大きく伸びをすると、アルフォンスの腕に頬を摺り寄せる。
「・・・・・・待ちくたびれたゼ。」
 上目使いにアルフォンスを見る。そこには誘うような色があった。
 エドワードの服の上から、アルフォンスはゆっくりと体を弄る。
 強弱をつけて、記憶する性感帯を撫でると、エドワードの口から熱い吐息が漏れた。
「あ・・・・そこ・・・・」
 ゆっくりと全身を弄ると、気持ち良さそうに身を捩る。
「もっと・・・ちゃんと、触って。」
 エドワードは吐息と一緒に囁くように呟く。
「何処を・・・?」
 アルフォンスの質問に、エドワードは頬を赤らめながらズボンの前ボタンを外し上着を出すとアルフォンスの手を直接肌に導く。
 普段は恥ずかしがって行為の始めからは素直にアルフォンスの言う事は聞かない。
 優しく触れて体と心が解れてから、行為の没頭するのがいつもだった。
 薬草の効果を確認してアルフォンスはホッとする。愛撫の手を強めた。
 総毛だった肌にアルフォンスは手を這わせて、硬くしこった胸の飾りをこねるように刺激する。
「・・・あぁ・・・んっっ・・・アル・・・気持ち・・・イイ・・・」
 エドワードは薄く目を閉じて、体を仰け反らせ、体を震わせる。
「そこ・・・んっっ・・・ここも・・・もっと、触って・・・お前の指で・・・」
「何処がイイの?」 
 エドワードは薄く目を開き、情欲を滲ませた瞳でアルフォンスを見つめる。
 上気した頬を更に赤く染めて、アルフォンスの手の甲に自分の手の平を重ねて、動かす。
「・・・・・アル・・・」
 腰をくねらせて、快感を訴える。アルフォンスは愛撫の手を休めないようにしながら、慣れた手つきでエドワードの衣服の上と下を脱がせた。
 エドワードの中心で立ち上がる屹立に指を添えると、柔らかく包み込んで、括れを擦る。
 その刺激と同時にアルフォンスはエドワードの後ろにも指を這わせて、蕾の入り口を撫でるようにゆっくりと刺激した。
「あぁっ・・・んんっっ・・・・」
 甘い喘ぎ声を発しながら、エドワードはアルフォンスの腕に縋りついた。
 強弱をつけて、前と後ろを刺激する。エドワードの足がガクガクと震えて崩れそうになり、アルフォンスに縋りついた腕に力がこもる。 
「アル・・・も・・・もう・・・入れて。」
 エドワードの蕾を広げてアルフォンスの指がほんの少し入った所で、エドワードは叫ぶようにアルフォンスに訴えた。
「まだ、ダメだよ。・・・ちゃんと此処が柔らかくなってからじゃなきゃ。」
 ゆっくりと周囲を掻き回しながら、アルフォンスは諭すように囁く。
「良いから・・・このまま・・・奥まで、入れて・・・」
 エドワードは腰をくねらせ、奥に誘うように体を動かす。
「・・・兄さん・・・」
「いいから・・・・お願い・・・・欲しい。」
 エドワードは叫びながら、アルフォンスの指を自分の奥に捕らえようと、強引に体を動かす。
「・・・・・・っ・・・・・・」
 声にならない痛みにエドワードは眉間にしわを寄せた。
 まだ解れきっていない蕾みに自ら無理矢理アルフォンスの指を捻じ込む、咥え込んだ場所は裂けて、アルフォンスの指をエドワードの赤い血液が流れた。
 だが、エドワードの中心の屹立は更に硬さをまして、鈴口から透明な雫を垂らしていた。
 もどかしげに腰を揺すり始め、徐々に動きが激しくなる。
 痛みの快感を高める要員になったのか、エドワードは狂ったように腰を動かした。 
「あっっ・・・イイ・・・イく・・・イく・・・アルッッ・・・」
 一人で動いて頂点を極めたエドワードはアルフォンスの腕にぐったりともたれかかって、荒く呼吸を繰り返す。アルフォンスは無茶したエドワードの背中をあやすように擦ると、抱き締めた。
 呼吸が整い、飛んだ意識が戻ってくると、エドワードはアルフォンスを見つめて熱っぽく囁いた。
「もっと・・・もっと・・・アル・・・」
「兄さん。・・・もう止めよう。」
 蕾に捻じ込まれた指を抜こうとアルフォンスが動かすと、エドワードは「まだだ・・・」と真剣な声で
止めて、熱い息をしながら自らゆっくりと埋め込む。
「これ以上したら、兄さんが壊れちゃうよ。」
「いいから・・・オレを壊して・・・くれ・・・」
 震える声でアルフォンスに懇願する。無茶をした場所は傷つき赤い血液と白濁した液体が混ざって、太腿を汚し床へと滴っていく。
 快感に溺れるエドワードを見て観念して、アルフォンスはゆっくりと動き始めるエドワードの負担を軽減させるために指を慎重に動かし始めた。
 快感を得るポイントを刺激したり、時に外したりして、ゆっくりと追い上げていく。
 2度目の頂点を極めて、エドワードは意識を手放した。




------------------------------------------------- つづく (20031230初稿)

   *     *

 汽車は賑やかな町を後にした。
 空は快晴で、寒い冬でありながら窓際には日差しが差し込んできて暖かい。
・・・これって小春日和っていうんだっけ?
 アルフォンスは心の中で呟いて、座席の隣の窓際に座る兄のエドワードを見た。
 2メートル強の高さに幅も大きな鎧の体のアルフォンスが座席に座ると残った座席の隙間はかなり狭い。
 その狭い座席に座って、エドワードは窓の外の晴れた風景をボンヤリと眺めている。
 生気の無い表情で疲労の色を浮かべていた。
 エドワードに声をかけようとしてアルフォンスは思い留まった。
 こんな表情をしている時のエドワードは何を話しても上の空で、アルフォンスの言葉を聞いてくれない。
 返事をしてくれたとしても、条件反射に言葉を返している事が多く、聞く姿勢の感じられない会話はアルフォンスにとって虚しいものだった。
 兄のエドワードの視線を辿り、外を眺める。
 外を流れる風景は旅行気分の時はウキウキして楽しいものだが、エドワードはそうは感じていない事が物憂げな表情で判る。
 エドワードの思考はこの場には無く、深く自分の中に潜っている。
・・・やっぱり、後悔している・・・か。
・・・それは、僕も同じ気持ちだ。
 アルフォンスはため息をついた。
 気持ちが判るだけに、何を言ったらいいか迷ってしまう。
 今回は嫌な仕事だった。
 仕事の内容自体が嫌な事であったというより、結末が嫌な事になってしまった。
 仕事としてまとめる前に、関わった人達が全員死亡して、強制終了となったのだった。
 そして、仕事の遂行の途中で親しくなった人も失った。
 エドワードは救えなかった自分を責め後悔している。
 アルフォンスも同じように後悔していた。
 なんとも、後味の悪い仕事だ。
 汽車は荒涼な大地を横切り、渓谷を越え一路セントラルへと向かう。
 汽車が時刻通りに何のトラブルも無く走れば夜中には終着駅でもあるセントラル駅の構内に着く筈だった。
 エドワードと一緒に外の風景を眺めながら、アルフォンスは『このままの気持ちじゃセントラルに帰れない、帰っちゃいけないな』と思う。
 傍らに座るエドワードの細い肩はいつもより細くなっている気がして、アルフォンスはたまらない気持ちになった。
 大きな手をエドワードに回すとアルフォンスは自分へと引き寄せる。
 エドワードは肩に触れたアルフォンスの手に視線を移すと、素直にアルフォンスに体を預けてもたれかかる。
「・・・・アル・・・・・」
 静かに優しい声で名前を呼ばれる。その声には暗く憂いた色が滲んでいた。
「兄さん・・・疲れた顔している。」
「・・・・・・・そうか?」
 薄く苦笑いをして、エドワードは元気なくため息を吐く様に小さな声で呟いた。
 その行動にもエドワードは素直に従っている。それどころか、エドワードは身じろぎをすると、自分からアルフォンスにより密着出来るように擦り寄ってきた。
 エドワードの精神的な疲労を痛感して、アルフォンスは思った。
・・・やっぱり、このままじゃセントラルには帰れない。
・・・このままじゃ。
・・・このままじゃ・・・ダメだ・・・
 元々喜怒哀楽の激しいエドワードだから、激怒して怒ったり、号泣していればアルフォンスは不安にならなかっただろう。いつものエドワードとは違うから心配になる。
 暗く冥い思考の行く先には、破滅的な衝動に犯される事を経験している。
 これまで出会ってきた人々の中にも居た。
 自分達とはほんの一歩道を間違えてしまっただけなのに、それだからが為に進む道を塞がれてしまった人々を。そんな人々の仲間になってしまうのではないかと思わせる危うさが、闇の気配が今のエドワードには漂っていた。
「・・・兄さん。次の駅で降りよう。」
 意を決して、アルフォンスは少し身を屈めると、エドワードに囁いた。
 考えた末の結論だったからアルフォンスの声は緊張を帯びていた。
 アルフォンスの囁きにエドワードはハッとした表情をして顔を上げる。
 エドワードは瞳でアルフォンスを探ると、力無く笑った。自分でも思い当たる所があるのか。
 表情を崩すとエドワードは熱い瞳でアルフォンスを見つめて、体を摺り寄せる。
 今度は意識的に甘えているようにも見える仕草で。
 誘うような瞳でアルフォンスをしばらく見つめて、口を開きかけたエドワードだったが、声にして誘いの言葉は発する事は出来ず、気まずそうに目を伏せ素っ気無い返事をした。
「・・・・・・・・・そうだな。」
 エドワードに灯った欲にアルフォンスも煽られる。
二人は次の駅で降りる事に決めた。

   *     *
 
 駅に着いたのは夕暮れだった。
 乾燥した大地に砂埃を巻き上げながら、風が人々の間をすり抜けていく。
 行き交う人の通りは多かった。
 大きな町と町の間に位置するこの町は物が流通する、商業中心の町だった。
 風の通った後の人や荷物は砂まみれになっている。
 駅の構内の町の地図でアルフォンスは町全体を把握しながら目的地を探す。
 アルフォンスの後ろでエドワードはつまらなそうにボンヤリと立っていた。
「・・・初めての町だし、少し時間かかるから兄さんは椅子に座ってて。」
 アルフォンスはそう言って、今来た方向の構内の待合の椅子を指差す。
 これから町に向かって行くのに、また戻るのかと言いたげな顔をしたが、言葉には出さず、エドワードは手に持ったトランクをアルフォンスの後ろに置くと、その上に腰掛けた。
 何処に行ってもいい、どうでもいいという態度がエドワードにはありありと表れている。
 町の地図は細かい店や宿の場所も説明入りで書かれていて、初めて来た人にも判りやすく書かれていた。それは、町に住む人だけでなく遠くから人々の行き交う通過点的なこの町を物語っていた。
 繁華街をチェックして、商業地区の外れに位置する歓楽街を確認する。
 道と町並の相関関係を頭に入れて、アルフォンスはこれからの予定を組み立てた。
 店と宿屋を数件目星をつけてアルフォンスとエドワードに声をかけた。
「待たせてゴメン・・・じゃあ・・・行こうか。」
 アルフォンスの声にエドワードは頷くと立ち上がり、二人は駅を後にした。

 砂ほこりで視界の霞む町に下りるとアルフォンスとエドワードは、まず繁華街の方向を目指して歩く。
 地図を思い返して実際の店をチェックしながら歩くアルフォンスの後ろを、エドワードは精彩を欠いた様子で歩いて行く。
 通りは人で賑わい、露天の店には人だかりが出来ている所もある。
 二人は人込みの中を泳ぎ、通りを曲がりる。
 繁華街から歓楽街へと足を踏み入れた。
 一本通りを変えただけなのに、雰囲気がガラリと変わった。
 人の通りが多いのは同じだったが、行き交う人々の種類が違う。
 気温は低く寒い筈なのに、肌の露出の多い服を着ている男女が目立ち、そうでない人もこれ見よがしに装飾品を幾重にも重ねてつけていたりと、ひと目で派手な格好をしている人が多い。
 時々、露出の多い服を着た男女から二人は慣れなれしく声をかけられるが、聞こえないふりで通り過ぎる。声は無視されるとそれ以上追ってくる事はなく、直ぐに他の人へかける声へと変わっていった。
 通りのやや外れの酒場の隣の建物の前に立つ。
 外灯に照らし出された、装飾された古い看板には、宿の文字。
 周囲は暗かったが、照らし出される壁が新しい気がして、ふと上を見ると途中から古いレンガが見えた。普通の宿の体裁はしているけど、違和感を感じる。
 ちぐはぐな改装はいわゆる「連れ込み宿屋」にありがちな事だ。
 アルフォンスは気後れしながらも、後ろからついて着たエドワードを振り返り、顎をしゃくった。
 古びた建物には似合わない取ってつけた様な、複雑な装飾の施された扉を開く。 
 暖房の効いたホールは暖かかった。古い天井に新しい壁が目に入る。
「いらしゃい。」
 素っ気無い声色が二人を迎える。
 フロントの家具は古びていて、古い型の木製のものだった。  
 眉間にしわを寄せた初老の男性が鋭い目つきで二人を観察した後、アルフォンスに視線を凝視して再び口を開いた。
「泊まりかい?」
 声を出さないで、アルフォンスは頷く。
「前金で4万。」
 少し高いかなと思ったが、アルフォンスは言われた額を差し出すと、古い鍵を渡される。金属のプレートに203の文字。
「階段上がって、三番目の部屋だ。」

 声に従って、階段を上り、部屋の前にある「203」の文字を確認すると部屋に入る。
 大きなベッドの隣に横長ソファーと小さなテーブル、奥に一つ扉があって、開けたら簡単なシャワーと洗面台とトイレが設置され、ベッドの上には内線用の電話がついていた。
 エドワードが部屋に入るのを確認して、アルフォンスはドアを閉める。
 古い部屋だが、設備には手をかけているのか暖房が効いていて、廊下では聞こえていた外の喧騒が全く聞こえない。
 中に少し位大きな音や声を出してもいいように図られているようだ。
 自分達のこれからすることを見透かされていることを自覚して、この場所を選んだのは
自分自身の筈なのに、アルフォンスは落ち着かない気持ちになる。
 気恥ずかしくて、エドワードと目を合わせられない、見つめられない。
 アルフォンスは気持ちを落ち着かせる為、エドワードから視線を逸らすと、室内を観察した。
 宿についたらいつも真っ先に部屋の点検に乗り出すエドワードは、疲れた表情でソファー横に荷物を置くと、ローブを脱いでソファーに腰掛け、テーブルの上に乗っていた紙をボンヤ
リ眺める。
・・・何が書いてあるんだろう。
 紙に興味を覚えて、エドワードを見る。
 そして興味深く読んでいるというよりも、手持ちぶさたで紙を弄んでいる様に見えるエドワードにアルフォンスは声をかけた。
「何が書いてあるの?兄さん。」
「・・・・ん?・・・・酒や飲み物が頼めるってさ。」
 紙には手書きで、酒や飲み物や簡単なおつまみを書いてあり、書かれている物はオーダー出来、持って来たその場で料金を払う事、他の食事は外で各自で購入するよう書いてある、裏面は宿の使用に関しての簡単な注意書きだった。
 アルフォンスはふと、エドワードが朝から何も食べていなかった事を思い出した。
「隣、酒場だったからね。・・・そう言えば、兄さんはお腹減って無いの?」
 アルフォンスの言葉にエドワードは考えるように視線を彷徨わせ、ふぅとため息をつく。
「あー・・・オレは・・・今は腹減って無いしな・・・どうでもいいや。」
 投げやりな口調でエドワードは答える。
「ボク・・・何か買って来るから・・・兄さんは、その間、シャワーでも浴びてたら?・・・この町って砂埃スゴイかったし。」 
 これからの事を想像してアルフォンスの声が上ずる。
 エドワードはアルフォンスをチラっと見て、ニッと笑った。



----------------------------------- つづく 

(同人誌「たましいの情報より200031230初稿:20080503UP)

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