雪の日

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 体温と一緒に嗅ぎなれたホーエンハイム特有の香水の香りが全身を包まれていく。
・・・こんな風に包まれて眠るのは久しぶりだ。
 最近お互い自分の興味ある事を追いかけるのに忙しくて触れ合っていない事を思い出す。
 寝る時間もまちまちだったため、ただベッドを共にして寝ることすらも久しぶりだった。
・・・この前はいつだっただろう?
 随分前だった事だけはエドワードも思い出した。
 甘い吐息を分けあって、心と体を溶かしていく行為。
 求めながら与え、与えてあげながら求める。
 循環する気持ちはいつもエドワードの心と体を満たしていくのだった。
 それを思い出した時エドワードの胸が跳ねた。
 安心出来るその香りが、意識した途端に、エドワードを落ち着かなくさせる。
 ジッとしていられなくなって、エドワードは寝息を立てるホーエンハイムの上着のボタンを外すと、年齢を感じさせない肌に手を触れる。
 大きな体についた筋肉は鍛えたものの逞しさからすると劣るが、中年の体と比べたら弛んでもいない。
 もっとも精神の年齢として数百年生きている訳だし、この体になってからも相当な時間が経っているはずだ。
 比較すること自体無意味なのかも知れない。
 ただエドワードを包み込んであまりある大きな体がエドワードを安心させ乱れさせる力を持っている事だけは確かだった。
 エドワードは手の平で確認しながら、何度も唇を押し当てる。
 軽い愛撫を繰り返し、エドワードは徐々に気持ちが高まってくるのを感じていた。
 寝ているホーエンハイムの体を使って自慰をしているみたいだった。
 状況を考えると実際そうだろう。
 だが、そうは判っていてもエドワードの行動は止まらない。
 気持ちも体も熱くなるばかりだ。
 頬を摺り寄せて、体を押し付けると頭上から声がした。
「何を・・している?」
 少し呆れるような咎めるようなホーエンハイムの声。
「寒いから・・さ」
 悪戯がバレた子供のように、舌をぺろっと出すと、くすくすと笑いながらエドワードは答えた。
 エドワードはホーエンハイムの太腿から腹部にかけて、ゆっくりと撫で上げる。
 手の平をきわどい部分にそっと乗せると形を確かめるように軽く握った。
「こらこら」
「オレが勝手にやっているだけから・・・オヤジは寝てていいから」
 ホーエンハイムを握りこんだエドワードは形にそって包み込み上下に撫で擦る。
 刺激を続けているうちにエドワードの手の中で柔らかかったそれは徐々に硬さを増していった。 
「止めなさい。そんなにしたいんだったら、付き合ってあげるから」
 ホーエンハイムはエドワードの悪戯な手を掴み動きを止める。
 そのまま手を握ろうとホーエンハイムはエドワードの指の間に自分の指を滑らせる。
 エドワードはホーエンハイムの指から逃れるように掴まれた手を払った。
「そんな、なおざりに言うな」
「じゃあ、どうすればいいんだ」
「あんたが、そんな風に子供扱いしなきゃいいんだ」
 ぷいと顔を背けて、不機嫌を露わにする。
 そういう態度が子供なんだと思い、ホーエンハイムはエドワードに悟られないように小さく笑った。
 だが、行動を止めたエドワードにも少し悪いなと思う。
 外に出る事を止められて、逸る気持ちが他の事に向いても仕方の無い事だからだ。
 そこまで考えて、最近触れ合っていない事をホーエンハイムも思い出した。
 エドワードが知識を吸収する事に夢中になっており、ホーエンハイムも研究に熱中しているとは言え、放っておき過ぎたと反省する。
「エドワード・・判ったから。機嫌を直してこっちを向いてくれ」
 ホーエンハイムが反省して静かな声でお願いをする。
 顔を背けたエドワードの額に唇を押し付け、豊かに実った小麦の穂の色の髪を弄り、首筋から背中までを慰撫するよう撫でる。
 その動作には性的な色はなく、大切に守り包み込むような仕草だった。
 なおざりにしている訳でも軽んじている訳でもない。
 大切に思っていると行動で伝えてくる。
 ホーエンハイムに態度でも反省の気持ちを伝えられて、エドワードは曲がったつむじを少し戻した。
 背けた顔をホーエンハイムに向けると、エドワードは思いついた事を提案する。
「じゃあさ。今日はいつもと違ったオトナな事しようぜ」




---------------------------------------------- つづく

      ◇     ◇



 空気が張りつめていく。
 冷たい気温の中で、その気配がした。
 エドワードはベッドの中で目を開く。
 目前に広がるのは漆黒の闇で今が夜中であることを示していた。
・・・この感じ・・もしかして・・・
 ムクリと起き上がり、裸足のままベッドから飛び出す。
 慣れ親しんだ自室は目を閉じていても何処に何があるのか判る。
 エドワードは暗闇の中まっすぐに窓に駆け寄ると勢いよく窓を開いた。
 窓を開いた音は周囲に吸収され、すぐに柔らかい静寂がエドワードを包む。
 外に向かって身を乗り出した。
 生身の左手の平を広げる。
 軽く冷たい感触が幾つも上空から落ちてきて触れ、水滴になって手の平に残る。
 手の平は僅かな時間ですぐに水滴でいっぱいになった。
「やっぱり、雪だ」
 雪が降っている。
 それもチラツクだけでなく、しっかりと降っている事を
 エドワードは確信する。
・・・今日は積もるかも知れない。
 近頃、気温の低下で雪は度々降ったが、今のところ積もるまでではない。
 寒い事は好きではないが、一面を雪で染めた銀世界をエドワードは好きだった。
 真っ白な世界に、誰も足跡を残していない場所に、誰が一番に足跡をつけるかで競った遠い過去を思い出す。
 幼い子供の頃、故郷リゼンブールで雪が積もった時は弟のアルフォンスや幼馴染のウィンリィと雪合戦や雪だるま作りなど、雪の遊びを一通りしていた。
 いつもとは見慣れない世界の楽しさに、寒さも忘れて朝から外で遊んだ事を懐かしく思い出した。 
 弾んだ気分のままエドワードは部屋を飛び出した。
 エドワードは廊下に出ると真っ直ぐホーエンハイムの部屋に駆け込む。

 荒々しくドアを開けた。

 駆け出しそうな気持ちのままエドワードは、ホーエンハイムの寝ているであろうベッドに向かって声をかける。
「オヤジ。起きてくれ」
 ベッドの盛り上がりを揺すると、脹らんだ布団がモソリと動く。
 次いで布団の中でくぐもった声が聞こえた。
 だが、動きはすぐに止まり、声もそれ以上発せられる事はない。
 起きる気配は見えなかった。
「なぁなぁ・・起きろよ」
 エドワードはもう一度、今度は乱暴に布団を揺らす。
 布団が大きく揺れる。
 手が伸びるとベッド横のライトに明かりがつけられた。
 エドワードは急に明るくなり、眩しさに目を細める。
 そんなエドワードの前でホーエンハイムは大きく伸びをして、眠そうに目を擦り、薄く瞳を開ける。
「エドワード?」
「あのさ」
 口を開こうとするエドワードをホーエンハイムは有無を言わさず布団の中に引き入れた。
 大きな腕がエドワードの体を包み抱きしめようとする。
 静かにしろと言わんばかりのホーエンハイムの態度に、エドワードは嫌がってホーエンハイムの腕から逃れ、ベッドの端まで移動した。
 そんなエドワードをどう思ったのか判らないが、ホーエンハイムはエドワードの嫌がる素振りも気にする様子もなく、半分しか開いていない瞳で微笑むとゆっくりと目を閉じる。
 呼吸はすぐに静かになり、そのまま寝てしまいそうだった。
「なぁ・・」
 エドワードは尚も食い下がり、ホーエンハイムに声をかける。
 度重なる声かけに意識が浮上したのか、ホーエンハイムは重く口を開いた。
「昨日は遅かったんだ」
「判っているさ。明日の昼に何だか判らない集団の会合なんだろう?この一週間くらい調べ物調べ物で・・ずっと部屋にこもりきりであんまり出て来なかったもんな・・・疲れているところ悪いとは思うんだけど・・でもさ。積もりそうな雪ってのは今年は今が初めてなんだぜ。誰も居ない今、外に出て足跡をつけたいんだよ」
 エドワードは目を細めて嬉しそうにホーエンハイムに必死で訴える。エドワードの輝く光を湛える瞳は弓月になって、気まぐれでプライドの高い猫のようだった。
 眠たさで半分しか開いていないホーエンハイムの瞳でもその顔は確認できる。
 一点の曇りもない明るい表情と話の内容の子供っぽさが微笑ましく、ホーエンハイムの顔は自然と綻んだ。
 ホーエンハイムにはエドワードがこんな風に言い出したら待ったの効かない性格である事は、充分に判っていたからどうやって他の事に気を逸らそうかと考える。
「こんな時間に騒いだら近所迷惑だから、今は我慢しなさい・・・日が明けたら付き合ってあげるから」
「えぇぇ」
 エドワードは即座に不平を言った。
 可愛げの無い唇を塞ぐようにホーエンハイムはエドワードの唇に軽く自らの唇を押し当てる。
 エドワードの唇は冷え切っていて、その冷たさにホーエンハイムは驚いた。
 即座にエドワードの体温を確かめるように、ぎゅうと抱きしめる。
 表に駆け出そうとする熱い心とは裏腹にエドワードの体も唇と同じく冷え切ってしまっていた。
 エドワードの装着している義手や義足が金属部品で作られている事も原因のひとつだろう。 
 体を擦り確かめると、装着部の周囲の冷たさは尋常ではなく、ホーエンハイムはエドワードが寒さから体を壊すのではないか心配になった。
「こんなに冷えて・・・体を壊したらどうするんだ」
 ホーエンハイムは頬を擦り寄せてエドワードに自分の熱を分け与えようとする。
 頬の髯がエドワードの顔を撫で、エドワードはくすぐったそうに身を捩ると軽く返事をする。
「冬に外に出ていたらいつだってこんなもんだろう。大丈夫だよ。慣れているからさ」
「今は温まりなさい」
 有無を言わさぬ強い声でホーエンハイムは諌めるように言う。
 体を擦っていた腕をエドワードの頭に回すとゆっくりと何度も撫でた。
「明るくなったら一緒に外に出よう。約束するから」
「ちぇ」
 諭されて反論出来ないエドワードは顔をしかめると舌打ちをしたが、ホーエンハイムの腕に従うように体から力を抜きもたれかかる。
 逸る気持ちで気がつかなかった体の冷えを自覚したのだろう。
 包まれた温かさにエドワードは『ほぅ』と安心したため息をつく。
 胸に顔を埋めると、薄く目を閉じた。



----------------------------------- つづく

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