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原作とはまったく関係のない妄想です。
1793年10月16日午後零時15分、マリー・アントワネットは断頭台の露と消えました。
その昔、光り輝くベルサイユ宮殿で、さながら紅薔薇のように君臨なさった王妃さま。
あの日も王妃さまは、昔と何ら変わらず、きりりと頭を上げて、前を見据えて、優雅に歩いていらっしゃいました。
コンシェルジュリー牢獄では、まるで親しい女友達のように、わたしと会話を交わして下さった王妃さま。
「オスカル・フランソワはね…」
一瞬、どきりとしました。
王妃さまの唇から、オスカルさまのお名前が出た瞬間。
それまで、王妃さまは、宮廷のお話はいっさいなさらなかったから。
もちろん、フェルゼンさまのお名前など、口にするはずもなく。
オスカルさまのお名前を聞いて頬を染めるわたしを、王妃さまは微笑ましそうに見つめて下さいました。
「オスカル・フランソワは、最初に会った時と印象が変わったわ。革命の少しまえだったかしら。久しぶりに宮廷を訪れてくれたとき、それまでの彼女とは違っていたの。彼女は軍人ではあっても、軍服の下にはわたくしと同じ女の血が流れていると、ずっと信じていたわ。でも、それは違っていたと気づいたとき、どんなに悲しかったか。わたくしの、ひとりの平凡な女性としての気持ちをわかってもらえなかった時、どんなに辛かったか。オスカルは軍人そのものだった。ひたすら軍務に励む、近衛連隊長だったわ。あのころは…。」
興味深そうに耳を傾けるわたしに、王妃さまはお話を続けて下さいました。
「でも、あの日、彼女はたしかに変っていた。オスカル本人は気付いていたかわからないけれど、たしかに彼女は変っていたわ。あの日、久しぶりに宮廷で会った彼女は、わたしと同じ血の流れる女性だった。軍服で身を包んではいても、その下には、わたしと同じ女性が存在していた。ロザリー、あなたは気付いていたかもしれないわね。オスカルが変った事を。かつては、女性としての幸せを求めるわたくしに対して、否定的だった彼女が、その日は、わたくしに、ひとりの女性として生きよと言ってくれた。フェルゼンのために生きていると言ってくれと…。」
王妃さまは、フェルゼンさまの名前をとても小さな声で口になさいました。
「ねえ、ロザリー、今ならきっと、わたくしたちは、女性として同じ立場で話ができるわね。オスカル・フランソワもきっと…わたくしたちと同じ女性として、楽しく語り合えるわね…」
そう仰って、王妃さまは遠くを見るように目を細められました。
「王妃さま…オスカルさまは…」
わたしがそこまで言ったとき、王妃さまは、やさしく微笑まれました。
きっと王妃さまは、オスカルさまが生きていらっしゃる事をご存知だったのでしょう。
ご自分と同じように、深い愛を知った女性として、オスカルさまが生きていらっしゃる事を。
革命などなかったら…王妃さまとオスカルさまは、同じ女性としてお互いを理解しあえる良き親友でいらっしゃれたのに。
おふたりとも、フランスのために命をかけられました。
王妃さまをお助けできなかった事を、オスカルさまはどれほど嘆いていらっしゃる事か。
紅薔薇のような王妃さまの傍にはいつも、白薔薇のような近衛士官がひかえていらっしゃいました。
革命前の宮廷の、まるで絵のような時間と空間が、たしかに存在していたのです。
原作とは無関係です。
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