夢追いなお止まず〜六十歳からの女子大教授

女子大教授時代のキャンパスライフを中心にしたエッセイ集

全体表示

[ リスト ]

やっと、われわれ研究所の「本業」である、実験への取り組みを本格化する。

「プロジェクトX」のスタートから1ヶ月近くが経ち、4月の上旬も過ぎようとしていた。

デザインが決まり、製造方法のメドもついたあとに残された大きな仕事は、「デザインの3本柱」のそれぞれが、ほんとうにその効能を発揮するかどうかを実証するデータをとることであった。

「5月のゴールデンウィークまでに、研究所でのデータ採取のメドをつけます」

研究所のC所長、開発部のE部長、そしてD常務へもこう公言したわたしは、研究所のスタッフたちに、「神頼み」的な尽力を要請することになる。

主担当のBを中心に、わたしたちの研究グループ、そしてエンジン試験や実車試験を担当する研究グループのメンバーの、総力をあげての奮戦が始まった。

まず、第2の柱の『TEC−FLUSHER』については、台上でのエンジン・テストを主体に行った。

エンジンを過酷な条件下でまわして、エンジン内部や吸気バルブなどへデポジット(カーボン)が付着して汚れる状態を観察する。

エンジンのクリーンパーフェクトを狙った新清浄剤の効果は、抜群であることが実証された。

続いて、第1の柱の『HY−Product』の実証実験。

これには、主として「ロードシミュレーター」とよばれる実験装置を使用した。

この装置は、クルマが道路を走る代わりに、クルマを載せた道路を動かす原理を用いたものである。

運動のために、外を歩く代わりに室内で使う、ウォーキングマシーンのようなものと考えてもらえばいい。

このロードシミュレーターで、クルマの速度、加速状態、坂道を想定した負荷などを変えて、ノッキングの起こる状態を調べる。

オクタン価を100としたことによる「ノッキング防止」効果を、はっきりとキャッチすることができた。

問題は、第3の柱である『2S−B』の効果の実証であった。

この実験には、ロードシミュレーターと併せて、これよりもさらに精密な多機能を備えた「シャシーダイナモメーター」とよばれる装置も使用した。

この上に載せたクルマに、さまざまな気象条件を与えること、例えば気温を極低温度から高温度まで変えたり、強さの異なる風を当てたりすることもできる装置である。

「第3の柱」を取り入れた新ガソリンを入れた場合と、従来のガソリンを入れた場合で、いろいろな条件下におけるクルマの運転性(ドライバビリティー)を比較する。

始動性、低速・中速からの加速性、高速での加速性、登坂性能、安定した走行性・・。

これらについて、いろいろなタイプのクルマを用いて、テストした。

「なかなか、うまく差が出ません」

「そんなはずはない。テストの条件をもっと変えて工夫してみろ」

考えていた性能差が、思うようにデータとしてとれない。

加速性などは数値的に出すことはできるが、いわゆる「感性」に訴える「アクセル・レスポンス」などは、数値化することの難しさもあった。

これらの室内装置を使った実験に加えて、実際の道路上での走行試験も大々的に行った。

一般道路、高速道路、さらにテストコースも使って実施する。

この実験には、研究所だけでなく、開発部のメンバーも全面的に協力してくれた。

なんとか、『2S−B』効果の見えるデータが徐々に出始める。

なかなか、差の出ないクルマもあった。

この新ガソリンを使うことによって大きく運転性の向上するクルマと、効果の小さいクルマのあることも分かってくる。

期限までに、可能な限り多くの車種についてのデータをとること。

これが、残された時間でわれわれの為すべきことであった。

この激闘のなかで、わたしは48歳の誕生日を迎えていた。


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事