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「悟志、元気でな」
智也は振り向き様にそう言って手を振った。
これが最後の言葉になるかもしれないと感じながら…。
残された悟志は静かに去りゆく智也を見送っていた。
心の中に、わだかまりは沢山あったが、今の智也には通用しないことを悟志自身が一番よく知っていた。
智也が去って行かざるおえなくなったのは、悟志にも原因はあったが、一度言い出したからには一歩も引かない智也の頑強な性格を、悟志は親友として、よく知っていたからだ。
《気が済めば、またヒョッコリ帰ってくるさ》
悟志は一通り思いを巡らして最後にこんな結論を出していた。
去りゆく智也は、悟志が自分を止めないことを知っていた。
智也自身わがままな性格だと知っていたが、悟志はいつも、そんな智也を当たらず騒がず受け止めてくれたからだ。
智也は街外れまで歩いてきて一人思いにふけった。
悟志と意見が合わず激しい口論をしたが、それでも自分の主張を一番に理解しているのは悟志であろうと…。
智也は少々反省していた。
足元に捨てられた子犬が、クンクン泣きながらすり寄ってきた。
「おまえも一人か?」
両手で子犬を抱きかかえた智也の顔を、子犬は嬉しそうに舐めまわした。
智也は思った。
この子犬のように、愛情を素直に喜んで受け入れる気持ちが、自分には足りないのではないか…と。
お互いの気持を知り過ぎたことが招いた別離ではあるが、それと同時に、お互いの心情を深く知っているからこそ、相手の行動を理解できるのだ。
智也はバスに乗り電車に乗って遠い街を訪れていた。
あれから三年…。
街並みも行き交う人も新しく変化に富んでいるが、ここが自分の生きる場所ではないと感じている。
遠く離れてみると無性に悟志の友情が骨身に染みた。
身近に居ると分からないことが多い…。
いや、身近な存在だからこそ、なれあいで分かろうとしないのかもしれない。
智也は元の街へ帰ることにした。
大切な忘れ物を引き取りに行かなければならない。
それは三年越しに気付いた宝物であった。
友情という心の宝物であった。
【画像は『えすけっとくらぶ』イラスト・カット素材集より】
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