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おだやかな日曜日。 いつもの空き地で、いつものようにマコトくんは遊んでいます。
この空き地にはチョウチョやバッタやテントウムシなどの、いろんな虫たちがいて、おさないマコトくんのキョーミを引くものばかり…。 マコトくんは、そのなかでも、とくにアリさんがお気に入りです。 右へ左へ、マエヘウシロへ、チョロチョロうごきまわるアリさんたちを、マコトくんは日がくれるまで、おいかけているのでした。
マコトくんはアリさんたちに、テキト―に名前をつけています。
「イチロー、どこいくんだよー、そっちは何もないよー。 サブロー、ウロチョロすんなー、 お家の穴は、こっちだよー。うわー、ゴロー、そこはボクの足だよ〜」
とりとめのないマコトくんの一人あそびは、今日もつづくのでした。
「マコちゃん、そろそろお家へかえるわよ」
マコトくんのママが、おむかえにきました。
「も〜、マコトはいつも一人で何やってんのー。 でもまあマコちゃんは、いつも、この空き地にいるから安心だけどね。 さあ、帰ろう…」
ママはマコトくんの手をひいて帰っていきました。
その次の日のアサ…。
いつものように、マコトくんが空き地にやってくると、大きなトラックや、へんなかたちのキカイが、空き地で大あばれしていました。 そして空き地の入り口には、中に入れないようにサクが立てられていました。 マコトくんは、おどろいて空き地の中へ、とびこんでいきました。 するとクマのような大きなオジさんが、マコトくんをつかまえて、大きな声で どなりました。
「こぉら〜ボウズ。 ケガするでね〜か。 とっとと出て行け〜」
「うわ〜ん、オジさーん。 ボクの空き地はどうなるの〜」
「ボウズ、ここにはなぁ、病気になった人やケガをした人を、たくさん助ける立派な病院が建つんだぞ〜」
「やだやだやだやだ〜、そんなのヤダ〜い」
クマのようなオジさんは、でっかい手でマコトくんをムンズとつかんで、空き地の外へ、つれだしました。
その後マコトくんは、アリさんたちを思いだすたびに、まいにち泣きつづけました。
やがてマコトくんが泣きつかれたころ、その空き地には立派な病院が完成して、多くの人が出入りするようになりました。
それから30年…
あの空き地に建った病院では、多くの病人が命を救われ、病院の中では、たくさんの ドクターやナースが走りまわっています。 この病院では今年の春から、若いドクターを育てる学校が始まりました。 そして今日は週に一度の課外授業の日なのです。 生徒たちは、ヒソヒソ話しをしています。
「オィオィ、週に一度の課外授業って何のためにするんだ〜」
「そんなのオレにもわかんねーよ」
「しかし新庄先生も変わってんな〜」
「そうよ、この課外授業だって新庄先生が、ぜひともやりたいって言うことで、始まったんだってね」
「シっ…、先生が来たぞ」
「おはよーございまーす」
生徒たちは元気に挨拶をしました。
「ハイ、オハヨー。 みんな元気か」
新庄先生は今日も笑顔です。 そして生徒たちを、大きな木の下に連れて行きました。
「みんな、ちょっと見てくれ。 この木の下には大きなアリの巣がある。 アリにはアリの社会があり、自然の一部として立派な働きを担っている。 小さくても、一つに一つづつ大切な命が宿っているんだ。
いいか諸君! 命は小さくても尊い。 命の尊さに大小や優劣は無いんだ。 小さな命を守れないものが、多くの病人を救えると思うか…。 小さな命でも、心を込めて治療する気持ちが無ければ、多くの病人を救いえないぞ。 小さなアリの中にも大切な命がある。人間ではないからといって、この命を踏みにじるような心を持つな。 きみたちが本当に、心やさしいドクターになることを、私は信じているー」
新庄先生は、ここまで生徒たちに語った時、一瞬、声を詰まらせて目頭をぬぐいました。
この新庄先生こそ、30年前に、空き地で無邪気にアリを追い掛けた、マコトくんその人だったのです。
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