陸上応援日記

転勤して半年が過ぎました。とっても忙しく、休みのない日々。でも、毎日が楽しく、充実しているから頑張れます。

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多摩六都科学館館長 高柳 雄一
 
7月4日、欧州合同原子核研究機関(CERN)で発表されたヒッグス粒子とみられる新粒子発見の報告は、新聞テレビで大きく取り上げられ、興味を持たれた方もあると思います。
今日はそのヒッグス粒子についてお話いたします。
ヒッグス粒子は、現代素粒子論の根底をなす標準理論にとって必要不可欠な素粒子ですが、存在が予言されて40年以上も経って、ようやく実験による観測成果が出ました。標準理論が予言する他の粒子は次々に発見され、理論の正しさを検証して来たにも関わらず、ヒッグス粒子が発見出来なかったのは、ヒッグス粒子の存在を確認するのに十分な観測実験ができる加速器がなかったからです。
今回、観測実験に成功したのは、スイス・ジュネーブ郊外、フランスとの国境にまたがる地下およそ100m、周囲が27キロもある円形トンネル内に設けられた大型ハドロン衝突型加速器です。
この装置では、水素の原子核である陽子を光の速度近くにまで加速し互いに正面衝突させ、宇宙誕生直後の非常に高いネルギー状態を生み出し、そこで発生する様々な素粒子の現象を観測します。その中にヒッグス粒子が関与する現象も期待されるのです。
ヒッグス粒子探査は陽子・陽子衝突現場に独立した観測検出器を設けた欧米中心のCMSグループと日本を含む世界38カ国の174機関が参加したATLASグループが実施しました。
ヒッグス粒子は他の重い粒子によく結合するため、登場してもすぐ崩壊し、直接ヒッグス粒子を見ることは出来ません。そこで、予想されるヒッグス粒子の崩壊過程の中で、見つけやすい崩壊の仕方をしたヒッグス粒子の破片を観測し、その情報からヒッグス粒子の質量を探り出します。ATLASグループは、昨年から今年6月18日まで1100兆回の陽子・陽子衝突実験の観測結果から、ようやくヒッグス粒子と見られる新粒子を、科学的に発見したと言える結果として報告しています。ヒッグス粒子とみられる新粒子は、同時に発表されたCMSグループの実験からも、陽子の凡そ135倍の質量があると観測されています。
これほど大規模な実験で注目を集めるヒッグス粒子が標準理論で果たす役割をお話しましょう。標準理論に含まれる素粒子は三種類あります。
一つは物質を形作る粒子、クォークとレプトンと呼ばれます。二つ目は力を伝えるゲージ粒子です。三つ目が質量を生み出すヒッグス粒子です。このヒッグス粒子は、標準理論の中で、物質を形作る素粒子と力を伝える素粒子の中で弱い力を伝える素粒子のみに質量を生み出します。
力を伝える素粒子はゲージ粒子と呼ばれますが、中性子が崩壊し電子を放出して陽子に変わるベータ崩壊でよく知られる、弱い力のゲージ粒子は、他の力を伝えるゲージ粒子が質量を持たないのに対し、働く距離が非常に短く重い質量を持つことが知られ、ゲージ粒子の中では特異な存在でした。これを見事に解決したのがヒッグス粒子の存在です。
弱い力の相互作用は電気を持つ素粒子も関係することから電磁力による相互作用と似ていることに研究者は注目していました。もし弱い力を伝えるゲージ粒子の質量が無くなると弱い力と電磁力の統一理論が生まれます。そこで本来は質量を持たない粒子が、現在の宇宙で質量を持ったと考えるのです。宇宙誕生直後の高いエネルギー状態では電磁力と弱い力、いずれのゲージ粒子も質量ゼロでしたが、宇宙誕生後、温度が下がり、100億分の1秒経つと、宇宙の真空がヒッグス粒子で満たされ、弱い力のゲージ粒子が質量を持つようになると言う電弱統一理論はこうして完成しました。この理論では、弱い力を伝える粒子には、電気を帯びたW粒子と電気を帯びないZ粒子が存在し、それぞれの質量まで見事に予言し、それは加速器実験で確かめられました。これに関わった物理学者は何人もノーベル物理学賞を受賞しています。
ゲージ粒子と同じく、物質を形作るクォークやレプトンも宇宙誕生後、質量はゼロでしたが、ヒッグス粒子が宇宙の真空を満たした時、弱い力を伝えるゲージ粒子と同時に質量を獲得したと理論的にみなされています。物質を構成する粒子が質量を持つ上でヒッグス粒子との相互作用を考えるこの理論では、南部陽一郎博士の提唱したアイデアが活かされていると言われます。
最後に、ヒッグス粒子の役割を宇宙の歴史でまとめましょう。
宇宙誕生直後の高温高エネルギー状態では、光や粒子が全て質量を持たず光の速さで飛び交っていました。それが宇宙誕生後100億分の1秒で、宇宙の真空がヒッグス粒子で満たされた時、光の速さで飛び交っていた粒子が、宇宙に満たされたヒッグス粒子と相互作用をすると、もはや光の速さでは飛び回れず、質量をもつことになりました。宇宙に現れた質量を持った粒子はその後、集まって原子核を形成し、電子と結びついて原子が生まれ、星や銀河など多様な物質が存在する宇宙に至ったのです。
私は33年前、BBCが制作した電弱統一理論を描いた番組をNHKで放送する仕事をしたことがあります。番組名は「宇宙を解く鍵」でした。ヒッグス粒子の発見はその意味で、ようやく人間が「宇宙を解く鍵」を手にしたと言えるような気もします。現代の宇宙科学は、現在、驚くべき宇宙の謎を発見しています。宇宙にある物質やエネルギーのうち、現代科学が把握した物質は5%にも満たず、残りの4分の3は暗黒エネルギー、4分の1は暗黒物質と呼ばれる正体は不明の存在です。この中で、質量を持つ暗黒物質の謎をさぐるには、物質に質量をもたらすヒッグス粒子の研究が謎を解く鍵になるはずです。今回、発見されたと言われるヒッグス粒子が標準理論の粒子に質量を与えるヒッグス粒子なのか?さらにヒッグス粒子がいくつも存在するのか?解明すべき点もあり、宇宙の成り立ちに迫る科学の挑戦は今始まったばかりとも言えるのです。
宇宙の成り立ちや起源に迫る今回の研究成果は、国際協力による巨大加速器の建設、さらには、それを駆使した数千人という科学者による観測実験によってようやく実現しました。発表された資料をみると、この中で先端技術を発揮した日本企業の貢献は不可欠でした。この分野で、日本の物理学者が、これまで果たしてきた数々の貢献にも気づかされます。
宇宙の謎に迫る基礎研究の成果は、私たちの宇宙観や生命観を築き、知的好奇心を大いに満たしてくれます。それだけに基礎科学の話題にも関わらず、今回は広く一般社会の大きな話題となりました。基礎科学研究は益々巨大化し、国際協力無しには発展できなくなって来ています。今回の研究成果が、人間の文化にとって基礎科学研究が果たす役割、日本の社会とって意味のある基礎科学研究のあり方を、広く皆さんと考える貴重な機会のひとつになることを願っています。

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