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浅田次郎さんの『きんぴか』は笑えてちょっぴり泣かせる悪漢小説です。
元やくざの鉄砲玉、通称ピスケン、湾岸派兵に断固反対し、単身クーデターを起こして自殺未遂した軍曹、収賄事件の罪を被り大物議員に捨てられた元政治家秘書のヒデさんなど、個性的で価値観もバラバラな3人組が大活躍します。
シリーズ3作目の中にある一遍、『一杯のうどんかけ』はラストのオチもひねりが利いていて面白かったですね。
キャラクターが立っているのでドラマ化しやすいんじゃないかと思います。
こういう肩肘張らない、気軽に楽しめるエンターティメントもたまにはいいんじゃないかと思うのでおススメです。
で、やくざつながりということで。。
こちらは最初イタリアのマフィアのボスという設定で女の子を主人公とした一人称の小説を書いたんですけど、シナリオスクールの課題用に、設定を変えてクライマックスの所だけを抜粋してシナリオに書き下ろしました。
もしドラマ化されるとしたら(そんな予定はないですが)、怜志役は唐沢寿明さんにやってもらいたいな〜。
『怜志』
人 物
青木怜志(31)竜神会若頭
水沢ひな(19)看護大学の学生
原田雅人 (33)竜神会若頭補佐
緋堂カイ(26)怜志の異母弟。緋堂組若頭
コールガール(23)
○新宿・ホテルのスイートルーム
シャツの前をはだけ、ベルトを外した
青木怜志(31)がベッドに腰掛けている。
腕にはダイヤ入りのカルティエの時計。
スリップ姿のコールガール(23)が中腰で、
青木の腰の辺りに顔をうずめている。
汗をかき、激しい息遣いの女。突然、
醒めた表情で青木が立ち上がる。
青木「もういい、お前じゃダメだ。金はやる
から帰ってくれ」
女「何よ、そっちが呼んだくせに」
青木、札束を女に向かって放り投げる。
女、金を拾うと途端に媚びた笑顔で、
女「…まあ、またいつでも呼んでよ」
女、部屋を出て行く。
衣服を直し、ネクタイを締める青木。
窓際に立ち、黙って窓の外を眺める。
外は今にも雪が降りそうな灰色の空。
ノックの音がして、原田雅人 (33)が入っ
て来る。原田、恭しく青木に礼をする。
原田「今の女は気に入りませんでしたか?」
青木「原田、もう女は呼ばなくていい」
原田「…まだあの娘の事が忘れられないんで
すか?かしら若頭はいずれ竜神会七代目の跡目を
継がれる身、しょせん堅気の娘とは…」
青木「黙れ。俺は何も言っていない」
原田「はッ、申し訳ございません」
畏まって平伏する原田。
ピピピ、ピピピ、と青木の携帯が鳴る。
不機嫌そうに電話に出る青木。
青木「カイか。何の用だ」
緋堂の声「やあ、兄貴、調子はどうだい?
兄貴に見せたいものがあるんだ、これから
ちょっと来てくれないか。まあ、聞けよ、
兄貴の可愛い子猫ちゃんに替るから」
雑音が入り、緋堂カイ(26)がぼそぼそと
何か言う声が聞こえてくる。
青木「どーいうことだ、カイ」
少し遠くから水沢ひな(19)の声が聞こえ、
青木の顔がさっと緊張する。
ひなの声「…怜志さん。ごめんなさい、私…」
青木「ひな!奴と一緒か。何かされたのか?」
ひなの声「ううん、大丈夫…」
途中でひなの声が途切れ、緋堂に替る。
緋堂の声「今の所はな。だが、兄貴が来ない
と大変なことになるぜ。こっちは雪だ、氷
の張った川で泳いだら10分ともたないだろ」
青木「くそッ、ひなは関係ない」
緋堂の声「どうかな。さあ、お嬢さん、兄貴
に言ってくれ、早く助けに来てくれって」
青木「ひな、待ってろ、今すぐ…」
ひなの声「ダメよ。あなたみたいなシスコン
で女タラシのロクデナシなんて顔も見たく
ないわ。だから来ないで」
緋堂の声「こんなこと言ってるが、先刻兄貴
が重症だと言って誘い出したら血相変えて
たぜ、彼女。とにかく奥多摩の倉沢渓谷ま
で今すぐ一人で来い、武器は持たずに丸腰
でだ。妙な真似をすれば女の命は無い」
プツッと携帯が切れる。携帯を握りし
め、蒼白になる青木。
青木「…あの腐れ外道が。原田、今すぐ車を
回せ。奥多摩の倉沢渓谷だ」
原田「はい、ただ今」
さっと部屋を飛び出す原田。青木、白
いアルマーニのジャケットを羽織り、
グラサンをつけて、外に出て行く。
服の襟に光る、ダイヤ入の金バッチ。
○奥多摩・倉沢渓谷沿いの山荘内
窓の外はちらちらと雪が降っている。
粗末な木の椅子に手足を縛られたひな
がいる。緋堂は横で、ワイングラスを
片手に、面白そうにひなを眺めている。
緋堂「しかし、あの兄貴にあんなタンカを切
る女がいるとはな。男を来させないための
精一杯の虚勢って奴か。健気でいじらしく
て涙が出るね。君は実に可愛いよ、ひな」
ひなの髪を弄ぶ緋堂。顔を背けるひな。
緋堂「それに、いつもクールで何事も動じな
い兄貴の焦った声も初めて聞いたよ。どう
やら、あの女たらしが堅気の娘に入れあげ
てるって噂は本当だったようだ」
ひな、きっと顔を上げ、緋堂を睨む。
ひな「あなたは何故こんなことを…、どうし
て兄貴分のあの人を付け狙うの?」
緋堂「あいつがいると邪魔だからさ。奴を倒
して俺がナンバー1になる。強者が弱者を
支配し君臨する、それが極道の世界だ」
端正な顔に薄笑いを浮かべて冷たくひ
なを見下ろす緋堂。
○同・倉沢渓谷登山道入り口前
『倉沢渓谷登山道入口』という立看板。
黒のベンツが停まり、降り立つ青木。
ドア越しに運転席の原田に指示を出す。
青木「俺はここから一人でひなを迎えに行く。
後は指示通り頼む。いいな?」
青木「若頭、せめてチャカ拳銃は持ってって下さい。
緋堂組の連中が手ぐすね引いて待っている
に違いありません。若頭にもしもの事があっ
たら、親父さんに合わせる顔がありません」
青木「馬鹿野郎、あんな三下連中にこの俺の
タマをと殺る度胸があると思うか?良いから
てめえは云われた通りにしやがれッ」
青木を一喝し、肩を怒らせて去って行
く青木。その背中を消えるまで、じっ
と見つめている原田。
○同・倉沢渓谷沿いの遊歩道(夕)
しんしんと降り続く雪。
川にせり出した崖っぷちの岩に吊るさ
れているひな。緋堂、嘲るように。
緋堂「もうじきここに奴が現れる。そうした
ら二人一緒にあの世に送ってやるよ」
ひな、何か言おうとするが、唇が震え
て言葉にならない。
遠くから銃声が聞こえてくる。
緋堂、どこかに姿を消す。
ひな、祈るようにぎゅっと目をつむる。
閉じた瞳の端から、一筋涙が頬を伝っ
て流れ落ちる。
○同・倉沢渓谷沿いの遊歩道(夕)
茂みの影から遊歩道に姿を現す青木。
白いジャケットは所々破れ、血と泥に
まみれている。ひなの側に近づき、気
絶したように動かないひなを岩から抱
き下ろし、軽く頬を掌で叩く青木。
青木「ひな、おい、ひな、大丈夫か?」
ひな、身じろぎして瞼を開ける。
ひな「…怜志、さん?」
青木「良かった、間に合った」
青木、ぎゅっとひなを抱きしめる。
ひな「怜志さん、怪我してるの?」
青木「平気だ、こんなのはかすり傷だ。お前
こそ、ひどい格好だな」
笑う青木、その唇の端が少し引きつる。
ひな、青木の左肩にある銃創に気づく。
ひな「嘘よ、ひどい怪我だわ。罠と判ってて
来るなんて、あなたバカよ。大バカ」
青木、ひなの体からロープを外して、
青木「バカじゃない、それが男ってもんだ。
自分の大切な女一人守れなくてどうする。
俺は姉貴の命日にお前まで失ってたまるか」
緋堂の声「さすがは兄貴だな、こんな時にま
で女を口説いてるとは。だがそこまでだ、
今日が貴様の命日になるんだ」
遊歩道の少し先から、ぴったりと銃を
構えた緋堂が現れる。続いて左右をと
り囲むように、機関銃を手にした黒ず
くめの男たちが姿を現す。
緋堂「貴様の男意気に免じて、女の命だけは
助けてやろう。両手を上げて、ゆっくり女
から離れるんだ」
ひな、青木の腕にしがみついたまま、
ひな「嫌、行かないで、怜志さん」
青木、そっとひなの手を放して、両手
をゆっくり上げながら緋堂を見る。
青木「本当にひなは助けてくれるんだな?」
緋堂「約束しよう」
青木「その前に一つだけ、最後にひなにお別
れを言わせてくれ」
緋堂「良いだろう、一分だけだ」
緋堂、鷹揚に笑ってみせる。ひなを振
り返り、ニヒルな笑みを浮かべる青木。
青木「俺は世界で一番タフでクールなやくざ
のボスだ。俺に何か言いたい事はあるか?」
ひな「何言ってるのよ、こんな時に。私を残
して死んだりしたら絶対許さない。死ぬな
ら一緒よ」
青木「それを言うなら一緒に生きよう、だろ?
それじゃ二人で地獄に落ちよう。行くぞ、
ひな」
突然ひなを抱き寄せ、下を流れる川の
中へ身を躍らせる青木。
続いて響く轟音。飛び散る火花と砂礫。
崖が崩れ、緋堂たちの上にガレキの山
が落ちてくる。その向こうに、グレネー
ドランチャーを手にした原田がいる。
○同・遊歩道のあったガレキの山(夕)
大きな岩に足を挟まれ、身動きの取れ
ない緋堂。その頭に銃を突きつける、
全身ずぶ濡れの青木。横には、ひなを
毛布でくるみ、抱きかかえている原田。
青木「形勢逆転だな、カイ。観念しろ」
緋堂「…くそッ。早く殺せ」
青木「当然だ。お前の汚い裏切りは、血と絆
の掟に従って死で償わなければなるまい。
これでお前もお前の組も終わりだ、カイ」
冷酷非情に緋堂を見下ろし、引き金を
絞る青木。咄嗟に手で目を塞ぐひな。
轟と響く銃声。緋堂の右手が鮮血で染
まり、腕を押さえてうめく緋堂。
青木「お前の罪は確かに死に値する。だが、
人は死よりも、時にその罪を背負って生き
て行く方が辛いものだ。お前もこれからの
人生、良く考えて生きて行くんだな」
ひな、そっと目を開けて青木に微笑む。
青木、銃を懐にしまい、歩き出す。
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