仮想旅へ

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野倉の道祖神から峠を下って、別所温泉に行きました。
愛染かつらの北向き観音から、安楽寺に向かいます。
現在は曹洞禅宗のお寺ですが、佇まいは臨済禅宗のそれです。
曹洞と臨済と佇まいがどう違うのか?
それは、門をくぐったとき直ぐに感じます。
武家の屋敷のような印象が臨済禅、農家の民家のような空気が曹洞禅に感じます。
本堂前に大きな高野槇が垂直に伸びています。
どうやったら、こんなに幾何学的に刈り込めるのかしら?
感心します。
庭木の刈り込みを見れば、もう臨済禅のお寺です。
 
イメージ 1
     安楽寺、本堂手前に見事な高野槇の刈り込みがあります。その手前のお堂は16羅漢堂です。
 
目指す八角三重塔は本堂の裏の高台にあります。
翌檜の林の向こうに建っています。
翌檜は檜ほどは大樹になりません。
でも、真っ直ぐに伸びます。
真っ直ぐな樹林の中に、垂直に立つ塔を見るのが好きです。
始めて見た時の感動は、何度来ても変わりません。
 
イメージ 2
      翌檜の樹林の向こうに八角塔が見えます。この感動は昔も今も変わりません。
      以前は塔の横に朴の大木があったのですが、伐採されました。お蔭で垂直線を遮るものが無く       なり、美しさが際立って見えます。昨年修理を終えたのでした。
 
長野県の国宝第一号がこの三重塔でした。(同時指定松本城)
善光寺の本堂を差し置いて、この三重塔が指定されました。
でも、昔は鎌倉時代後半の作であろう…、言われてきました。
それは、禅宗様(唐様)の複雑に入り込んだ「組み物」が、
”こんなに複雑なのは後半だろう”思わせたからでしょう。
でも、平成16年、解体修理に先立って調査をしました。
用材を調べたところ、木材の切り出しは1289年(正応2年)と判明しました。
唐様建築としては最も古い部類に入る事になります。
 
宋から蘭渓道隆(建長寺開基)が来日します。
同じ船に留学していた樵谷惟仙が乗っていたそうです。
樵谷惟仙は故郷に戻って、安楽寺に入ります。
若しかしたら、宋から大工さんを連れて帰ったのではないか?
思います。
だから、複雑で、全体として良く統一された、唐様建築が出来たのではないでしょうか?
 
鎌倉にも、京都にもない、八角三重塔が塩田平に出来た・・・、
日本中が話題であったことでしょう。
中国に行けば塔は多くが八角ですが、それは煉瓦を積んでいるから。
木造で八角の塔を作るのは大変です。
四角形を一つ作って、45度回してもう一つ四角形を作らなければなりません。
塔ではありませんが、日本では法隆寺の夢殿がある程度でした。
 
時代の文化「禅」の最高の建物が塩田平にある・・・、誰もが一度は見てみたい…、思ったことでしょう。
今、私達が東京スカイツリーを見る様なものです。
法隆寺五重塔も、東京タワーも、塔は時代や文化の先駆けとして建てられました。
 
イメージ 4
 
良く禅画に「まる」が描かれます。
円は始まりも終わりも無い永遠の図形です。
”円”は禅の究極の境地を表し・・・・、最高なのです。
円を木材を素材にした建物で表そうとすると・・・、自ずと八角形になります。
八角形の塔を立てて、お釈迦様の遺骨を祀ろう…、としたのでしょう。
三重塔を設計し、その初層には雨風を防ぐため裳階をつけました。
その結果、四重の塔に見えます。
 
塔を見上げた時、先ず目を奪われるのが、垂木の美しさです。
一般に重垂木、扇垂木と呼ばれる唐様の特長の一つです。
垂木とは屋根を支える細い材です。
その垂木が塔の中心から放射状に出ている様に…、扇状になっているのです。
扇の骨が、一層、二層、三層と重なって見えます。
椎茸の傘を下から見たようです。
 
イメージ 3
  扇垂木が重なって見えるアングル。今回の修理に際して新材を使ったもの(白っぽい)、旧材をそのまま  使ったものが混じっていることが判ります。材を大切に扱う姿勢が素晴らしいと思います。
 
 
今回の修理は屋根のこけらを全面的に葺き替えたようです。
真新しい屋根は白く見えます。
反り返った姿、波打った姿は美しい女性のフレアのスカートのように見えます。
 
フレアスカートを支えるために、扇垂木も二段に作ってあるのでしょう。
各層の屋根の下にはぎっしりと木が組まれていて、屋根の重みを支えています。
庇を思い切って外に張り出させるため、木組は何段にもなっています。
良く見ると初層は2段(二手組と言います)、二層以上は三手組になっています。
木組を受ける四角い部分を斗(ます)と呼びます。
斗は屋根の重みを受ける部材ですから、負荷がかかります。
その上に雨露に濡れますので、傷みやすいのです。
 
白い斗が沢山見えます。
今回の修理に際して差し替えられた新しい斗なのでしょう。
垂木に木組・・・、”建築工芸の美”です。
 
イメージ 5
  二層の木組を見る。三手先の組み物が見えます。尾垂木の根元「斗」には新材が目立ちます。
  また連子窓も新材に差し替えられています。もう一年もすれば見分けがつかないようになるでしょう。
 
木組が複雑だからでしょう。各層に縁や手摺はありません。扉もありません。
窓(連子窓)があるだけです。
八角ですから各層8ッつの窓があります。
連子の隙間は僅かです。
この隙間から暗いお堂の中に光が差し込んでいる事でしょう。
塔の中に入るとどうなるのだろうか?
見て見たいものです。
 
イメージ 6
   初層内部。中央に大日如来。心柱が無く8本の丸柱が支えている構造です。
   裳階の連子から光が差し込んで、荘厳で静謐な空間が構成されているようです。
   (上田市文化財HPから転載)
 
あれも書きたい、これも書きたい…、思いつくままに書き連ねると冗長になってしまいました。
最後に、誰が安楽寺のスポンサーだったのか説明します。
 
塩田北条氏は北条義政に始まります。
北条義政は京都六波羅探題から、8代執権北条時宗の連署(幕府NO2)として名補佐官を務めます。
ところが、蒙古が臣従するように求めてきます。
若く血気盛んな北条時宗はこの要求を撥ね退け、蒙古使節を惨殺してしまいます。
一方、連署の北条義政は臣従することを見せれば良い・・・、意見が異なりました。
 
義政は時宗を見捨てて、この塩田平に引き込んでしまいます。
時宗が形だけでも蒙古に従っていれば…、鎌倉幕府はもうしばらく永続した事でしょう。
必死で戦った御家人たちに何ら褒賞を貰えませんでした。
幕府を支えた「御恩と奉公」の関係が断絶しました。
御家人たちは鎌倉幕府を見捨ててしまいます。
 
北条義政はインテリで剛直な性格だったのでしょう。
そんな人柄が塩田平を「信州鎌倉」と呼ばれる文化ゾーンを残してくれました。
江戸時代高々3万石の小さな地方都市でしたが・・・・、
薫り高い文化、真田幸村に代表される剛直な性格は・・・・、塩田北条氏から続くものでしょう。
 
見事に修理を終えた安楽寺三重塔、何時見ても美しい…、実感します。
 
イメージ 7
            安楽寺経蔵。日本最古の回転式八角経蔵です。本堂の裏紅葉の中に建っています。
 
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追掲「全体が解る写真」
イメージ 8
日本語のフレーズは7.5.3で構成されています。奇数が余韻を残し、美しいと思うからでしょう。
日本の塔も7,5,3で構成されます。同じ美意識からそうしたものでしょう。
4層に見えるのは裳階があるから。
裳階は風水害対策と採光を考えて作られたと思います。
 
 
 
 

閉じる コメント(6)

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もの凄く緻密な造りなのですね。塔の内部には大日如来?大日如来は真言密教の最高佛ですから禅宗のお寺というのは不思議な気がしますが、何度か宗派が変遷しているのですかね。

2012/11/14(水) 午前 8:20 [ 思案中 ]

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そういう素晴らしい歴史があるとは,しらずに,ただただ眺めていました.あんまり観光客も居なくて,静かな訪問でした.あらためて、
そういうところに黙っていた事自体に感激です.

2012/11/14(水) 午後 2:14 [ 初霜月 ]

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10年以上前に、趣のある和風旅館めぐりの一環として、別所温泉花屋に泊まり、塩田平、上田、松代を歩きました。安楽寺、前山寺、大法寺それぞれいい佇まいでした。一連の記事を拝見し、また行きたくなります。

2012/11/16(金) 午後 8:01 平賀山荘

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信州の鎌倉 塩田平 この塔の もこしも入れた4重の写真入れなかったのは確信犯なんでしょうね!!2番目の写真に少し映っていますし解説でも隠しているわけではないので隠しているわけではないとしても知らない人は判らないと思いました

三重塔に屋根が四つは違和感ありますか?

2012/11/26(月) 午後 10:15 [ にゃんこ ]

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塔は3・5・7・9・11と奇数です。これは日本語と同じ日本人の感覚で、美しいと感じるからだと思います。三重塔に裳階を加えて一見4重にしたのは、風水害対策であったと思います。薬師寺でも思いますが、裳階がどっしりしているので塔全体が優雅に見えると思います。4層の写真を追掲しておきます。

2012/11/27(火) 午前 9:40 [ yun**ake200* ]

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はじめまして 地元の私より詳しく勉強になります
去年改修工事の際何回か見学に行きました。芯柱が塔には触れておらず揺れているのを目の当たりにしてきました。
柱には手摺りを付けようとしたものかほぞ穴があり埋め木されていました。 近くにいても分からないこと、そして素晴らしさを伝えていただきありがとうございました。
お気に入りに登録させていただきまた覗きにきます。よろしくお願いします。

2012/11/28(水) 午前 1:40 [ さん太 ]


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