昨日は今昔物語の巻26の本朝奇談の中から蕪に淫行した結果蕪を食べた娘が孕んでしまった話を照会しました。今昔物語には人間が、蛇に犯され て蛇の子を生む女性の話(巻第二十四 第9)や、その他、蛇と人とが交わる話や死んだ女に憑りつかれて死ぬ男があり後世の雨月物語や怪談に影響したと思われます。多くが妖怪の仕業で偉いお坊さんが登場して妖怪を治める事でエンディングを迎えます。人間が植物と交わって子をなす話は前記だけです。一方死者と生者との交流も数多くあり、大半が死者が現世に残した想いや怨みを晴らす構成にになっています。死者の怨念が消えないで生者に災いを為す、と考えられていたのです。
これは骸骨小町の図です。骸骨は小野小町のそれで茅が出て眼が痛い痛いと泣くのでした。
今日紹介する話(今昔物語巻454話)はこの逆です。男の、「死者への愛情」が消えなかった話です。
都の下級武士義輔は学問はイマイチでしたが武芸には秀でていました。そこを見込まれ貴族の警護役を仕事にしていました。貴族が出かけるときの警護が仕事でしたから定職とはいえず、好きな女性と交際しても結婚までは話は進展出来ませんでした。でもマスクは良いし体躯も立派でしたからモテる青年武士でありました。気立てのよい美しい姫君(珠依姫)が山科の村に住んでいました。義輔は馬を繰って夜毎通っていました。
義輔は貴族の護衛をする武士でした。(絵は源氏物語絵巻匂い宮)
義輔は遊び人を自称していましたが、本心は「私の妻はこの女しかない」思っていました。
ある年の弥生、義輔の友人が東国の国司に任じられました。
国司に任じられた男は義輔を誘いました。
珠依姫(よりたまひめ)は中級貴族の気立ての良い娘でした(絵は伊勢物語日本の古典を複写)
「今まで警護役を務めて戴いて感謝している。この春に相模の国の国司に任じられた。そこで一緒に来てほしい。これからは定職と思っていただいて結構だ。ついては単身では心配だろうから・・・・女性を紹介したい。家柄も器量も申し分なしだ・・・・。」
義輔は瞬間珠依姫の事が頭をよぎったのでしたが、結婚を約束した訳でもないし生来お気楽な性格なので、総てを友人に任せました。そして友人の紹介してくれた姫と結婚しました。相模への旅支度の品々は姫の家で用意してくれました。
卯月になって卯の花も咲き出す頃国司の一団が相模の国に向かって旅立って行きました。
行列の先頭にはを馬に乗った義輔の雄姿がありました。
山科の国に差しかかると、珠依姫の家が見渡せました。
義輔は家に向かって呟きました。
義輔は珠依姫の館の前を素通りして任地の「相模の国」国司に向かいました。
「さようなら珠依姫。お元気でいてください。私は相模の国に向かいます。貴方に交える事はもう二度とないでしょうが、貴方は幸福を掴んで下さい・・・。」
それから10年は経ったでしょうか。相模国の国司の一団が西に向かっていました逢坂山も越えたのでもう一つ峠を越えれば都の家並みが見えるのです。行列の足並みは殊更に元気になって先を急いでいるように見えました。義輔は再び珠依姫の屋敷の屋根を遠目に見ながら進みました。
「姫は如何しておいでだろう、私は出世も出来て都にも帰れたが姫が気がかりだ」
その日の夕刻でした。義輔は都から馬を馳せて珠依姫の館に向かいました。
でも館の庭は八重葎が茫々と生い茂っていて昔日の面影はありませんでした。でも館の奥に灯りが認められました。義輔は灯りに誘われて奥に進みました。見覚えのある姫の寝所には薄絹を着た珠依姫がポツンと座っていました。珠依姫に向かって義輔は言いました。
「私は相模の国の国司の警護役として10年間勤めて来ました、これからしばらくは都に住みます。貴方を屋敷に迎えたいと思っています。」
義輔が都に戻ると珠依姫の館は見る影もなく荒れてしまっていました。(絵は一遍上人絵巻神奈川県立美術館図禄)
「嬉しい!」聞こえたでしょうか。突然に義輔の首が重たいと感じました。珠依姫の両の腕が義輔の首に巻かれたのでした。義輔は姫の薄絹の袖に手を通して珠依姫の体を強く抱きました。珠依姫の体は思いのほか華奢に思えました屹度苦労が重なって痩せ細ったのだろう・・・・」思いました。
逢坂山の方角(東」から暁烏の鳴き声が響いてきました。明けカラスの啼き声で義輔は目を覚ましたのでした。朝陽が蔀戸越しに射してきました。義輔は抱いている珠依姫を見て驚愕の声をあげました。
首に巻かれている両腕も自分の胸に凭れてきている頭も絡んでいる両脚も骸骨なのでした。
義輔は庭に飛んで出てお隣の家に駆け込みました。
隣家から話を聞かされて義輔は珠依姫が2年前に亡くなった事を知りました。
「お隣の珠依姫には通ってくる都人も居たようなのでしたが縁が遠く、5年前に両親が亡くなりました。すると家人も一人減り二人減って誰も珠依姫を面倒見なくなりました。姫は痩せ細って一昨年の神無月の23夜に亡くなりました。」
餓死した珠依姫のイメージ餓鬼草子
翌朝義輔が目覚めると骸骨を抱いていたのでした。
義介は寝所に戻って昨夜抱いた骸骨を拾って、庭の築山に埋めました。
他所の日の午後。峠の向こうの清水寺のお坊さんの風呪するお経がきこえました。
原作ではお坊さんがお経をあげたので義輔は珠依姫の亡霊に憑り殺されないで済んだ…、となっていますが、寂聴さんの口語訳ではお坊さんの段は省略されています。寂聴さんは仏教説話にしてしまっては面白くないと思われたのでしょう青年武士の愛情を浮き彫りさせた方が良いと判断されました。私も同感です。
私がこの話を見つけたのは「日本人の死生観」を調べた時に、「生きている人と死んだ人」の交流として記憶に留めたものでした。
今昔物語には純情な青年の想いが良く登場します。現代にも通じる話が目立ちます。
プレーボーイの貴族の話です。美しい姫にアプローチするのですが姫は難題を取り付けて相手にしてくれません。そこで青年は姫への想いを断ち切ろうとして「姫のオマル/排泄物の受け箱」を奪い去り、ウンコを嗅いでみるのですが想いは断ち難く、恋心を処理できずに結局死んでしまいます。佐藤義清も永福門院のオマルを奪えば出家しないで済んだだろう・・・・。なんて想像します。
今昔物語世俗説話は物語り宝庫です。人間性は時代によって変わらない普遍性があるからです。
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