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「おや、君は日本人ですか?」
やっと目を挙げた支那人はやはり驚いたようにこう言った。ダウン モンクレール年とったもう一人の支那人も帳簿へ何か書きかけたまま、 茫然 ( ぼうぜん ) と半三郎を眺めている。
「どうしましょう? 人違いですが。」
「困る。実に困る。第一 革命 ( かくめい ) 以来一度もないことだ。」
年とった支那人は 怒 ( おこ ) ったと見え、ぶるぶる手のペンを 震 ( ふる ) わせている。
「とにかく早く返してやり給え。」
「君は――ええ、忍野君ですね。ちょっと待って下さいよ。」
僕の目を覚ました時にはもう 軒先 ( のきさき ) の 葭簾 ( よしず ) の 日除 ( ひよ ) けは薄日の光を 透 ( す ) かしていた。僕は洗面器を持って庭へ下り、裏の 井戸 ( いど ) ばたへ顔を洗いに行った。しかし顔を洗った 後 ( あと ) でも、今しがた見た夢の記憶は妙に僕にこびりついていた。「つまりあの夢の中の鮒は 識域下 ( しきいきか ) の 我 ( われ ) と言うやつなんだ。」――そんな気も多少はしたのだった。
……一時間ばかりたった 後 ( のち ) 、 手拭 ( てぬぐい ) を頭に巻きつけた僕等は海水帽に 貸下駄 ( かしげた ) を突っかけ、半町ほどある海へ 泳 ( およ ) ぎに行った。ダウン モンクレール道は庭先をだらだら下りると、すぐに浜へつづいていた。
「泳げるかな?」
「きょうは少し寒いかも知れない。」

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