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東京で会合があり、久しぶりで目黒のホテルに泊まった。
近くに自然公園や聖心女学院のキャンバスなどもあり、あたりは緑の森がひろがる閑静な一郭を形づくっている。ゆっくりとラウンジに座って、目を移せば、しっとりと濡れた庭園に木漏れ陽が落ちて、軽井沢あたりの別荘にくつろいでいる心地さえする。乱立する高層ビルの谷間のオアシスにふさわしいたたずまいである。
今年も、いろいろなことがあったけれども、すでに半年が夢のように過ぎていった。あれほど盛んだった皐月も躑躅も散り果てて、若葉が、あたりいっぱい緑の賛歌を奏でている。主役を引き継いだ庭先の桔梗の群落が、降るとも見えぬ煙るような小雨を背景にして、紫色の花弁を滲ませている。
ふと思い出して、ヒルティの「眠られぬ夜のために」を読んだ。高校時代に国語の女教師が勧めてくれた日のことを反芻している。クリスチャンで28歳の未亡人だった。晩秋の教室で、藤村の「若菜集」の一節を透き通るような声で朗読してくれた。
彼女は、眠られぬ夜に、ひとり目覚めて、キリスト教信仰者としてのあり方や、神への揺るぎない信頼と愛による忍耐を、ヒルティの日々の思索に重ね合わせていたのだろう。白いブラウスに包まれた端正な立ち姿と真紅のルージュが哀しい。
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